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コロナへの不安から進路問題まで、不登校の悩み110番

2021年6月24日からオンラインで配信開始された登進研バックアップセミナー108の 第2部の内容をまとめました。

司会&回答者 齊藤真沙美(東京女子体育大学・東京女子体育短期大学准教授)
回答者 後藤 弘美(家族・子育て相談室「ゆずり葉」代表、臨床心理士)
小栗 貴弘(跡見学園女子大学心理学部准教授)
荒井 裕司(登進研代表)

※講師の肩書きはセミナー開催時のものです。

Q1 HSCと思われる小3女子。学校の理解を得るには?

 小3の娘はHSC(Highly Sensitive Child=人一倍敏感な子ども)と思われます。
 完全な不登校ではありませんが、しばしば行きしぶりがあり、休みがちです。教頭先生や担任の先生にHSCに関する本を差し上げたり、面談で特質などについて説明していますが、理解が得られません。どうしたら先生方に理解してもらえるでしょうか。

A1 専門家に間に入ってもらう方法も(講師:齊藤真沙美)

 HSC(Highly Sensitive Child=人一倍敏感な子ども)については、最近、メディアで取り上げられたり、本もいろいろ出版されたりと注目されていますので、ご存じの方も多いかと思います。HSCは、病気や障害、診断名といった医学的な概念ではなく、生まれつき持っている「性質」や「特質」「特徴」を表す言葉です。

 その特徴は、以下のように大きく4つに分けられます。
①深く考える。
②過剰に刺激に反応する。
③共感性が高く、感情の反応が強い。
④ささいな刺激を察知する。

 このような特徴をもったお子さんのことをHSC(Highly Sensitive Child)とよび、成人になるとHSP(Highly Sensitive Person)とよばれます。現在、5人に1人くらいがこのような特質をもっているといわれており、日本の有名人では、「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さんがHSPであると公表しています。

 敏感で感受性が強く、深く考えてしまうので、何事にも慎重で、次にどうしたらいいか、何が起こるのかを考えすぎるくらい考えて、身動きがとれない状況になったりします。また、刺激に過敏という点では、大きな音が苦手だったり(聴覚過敏)、まぶしい光が苦手だったり(視覚過敏)という特徴もあります。

 共感力が高いという点では、まわりのいろいろな人の気持ちに共感して、その人と同じような気持ちになってしまう、すべてを自分のことのように感じてつらくなってしまう、ということも起こります。そのほか、気圧の変化を敏感に察知したり、人の表情の変化をすばやく察知します。先生や親御さんの表情の変化もすぐに察知する、気づくという特徴をもっています。

急かさない、否定しない

 このような特徴があるので、集団の中では、いろいろなことに過敏に反応して、アンテナを張りめぐらせているので、「とにかく疲れる」ということが起こりやすいのです。そのため、学校という集団生活の場にしんどさを感じて、エネルギーが低下し、学校に行きにくいということも起こってきます。

 私の関わったお子さんのなかにも、たとえば、大きな音や騒がしい場所が苦手で、そこにいられない、いるのがつらい、という子がいました。また、とにかく共感力が高いので、他の子が先生に怒られている場面で、自分もすごくしんどくなったり、つらくなったり、そのことが積み重なって、なかなか教室に入れないというケースもありました。
 ですから、そのような日常の積み重ねで教室に入るのが難しくなったり、登校しづらくなったり、不登校になったりということに結びつきやすいのです。

 具体的な対応については、それぞれに応じて、ということになりますが、本人は自分のペースでゆっくり考えながらやっているので、あまり急かさないほうがいいですね。また、大きな声で何かを伝えたり、感情的な言い方をすると、それだけで威圧されているように感じてしまうので、落ち着いてじっくり話すような関わり方が望ましいでしょう。そして、その子の特質を理解しつつ、「否定しない」ことが、基本的な対応として必要かと思います。

その子のつらさやしんどさを、具体的な場面に合わせて伝える

 さて、このような特質をなかなか学校の先生に理解してもらえないときは、どうしたらよいのでしょうか。ご質問の保護者の方も、いろいろ説明をしたり、本も差し上げたりされているようですが、理解を得られないということです。

 そんなときは、HSCに関する一般的な説明をするよりも、実際にその子がどんな場面でしんどさを感じているのかを、具体的な場面に合わせて伝えたほうが、より理解を深めてもらえると思います。たとえば、音楽の授業のときに、音楽室でクラスのみんなが一斉に楽器の練習をしているような場面はすごくしんどい、とか。すると、先生方にも「確かに、あのときはずいぶんつらそうな顔をしていたな」と実感してもらえたり、気づいてもらえるかもしれません。そんなかたちで、具体的な場面とその子の気持ちを合わせて伝えるのもひとつの方法かと思います。

 また、HSCに理解のある専門家に相談して、その先生を通じて学校の先生方に説明してもらう方法もあります。身近なところでいえば、スクールカウンセラーの先生に話をして、その先生から担任の先生などに説明してもらう。ほかにも、各自治体には教育相談センターとか教育相談室とよばれる公の相談機関がありますので、そこで相談員に話をして、学校との間を取り持っていただくというやり方もあります。
 そうして第三者の力も借りながら、お子さんが少しでも過ごしやすい環境が整うように工夫することができるといいなと思います。

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Q2 小4男子の不登校に口うるさく干渉してくる親戚

 10歳の息子の不登校について、口うるさくアドバイスしてきたり、情報を欲しがる夫の親戚がいて、私(母親)がまいってしまいます。モンスター親戚からの圧力に困っています。

A2 相手の心配してくれる気持ちには「ありがとう」と感謝しつつ、受け入れられない部分は「ごめんなさい」と断る(講師:後藤弘美)

 カウンセリングの際も、よくこういうお話を伺います。私も自分の娘が不登校だったときに、まわりの友だちとか、おばあちゃんとか、いろいろな人たちがよかれと思ってあれこれ言ってくれるんですよね。でも、「こうしたら」「ああしたら」といろいろ言われると、かえって混乱してしまって困った覚えがあります。

 このお母さんも、たぶんわかっていらっしゃると思いますが、アドバイスしてくれる人たちは心配して言ってくれているので、まずは導入として、「気にかけてくださってありがとうございます」という言葉は大切かなと思います。

 ただ、このお母さんはこうした状況に困っておられるので、現在どんな状況であるかを具体的に説明すると、相手の方も少し安心してくれるかなと思います。たとえば、「今、カウンセラーに相談中なんです。その先生と、うちの子に合った対応を一緒に考えているところなんですよ」とか、クリニック等に通院している場合には「今、病院に通っていて、そこのお医者さんからどんな対応をしたらいいか指示をもらっているんです」といった感じで、具体的に「対応ができています」「対応が進んでいます」という伝え方をするといいと思います。

NOと言って関係が悪くなるようなら、それだけの関係だったということ

 ただ、そんなふうに言っても、たとえば私の場合、新興宗教をすすめてくる人がいたりして、「このお守りを買うと治った人がいるんですって」「この数珠をいつも手首につけておくといいのよ」とか、いろいろ言ってくるんですね。ですから、宗教とか物を買わなければならないような場合には、やはりはっきりと、でも感情的にならずに「ごめんなさい。遠慮します」と断ることも大事かなと思います。

 NOと言って関係が悪くなったら嫌だという親御さんもいらっしゃいますが、もしNOと言って断った場合に、なんだか関係がギクシャクして疎遠になるとしたら、それだけの関係だったということです。逆に、信頼関係がしっかりできている人だったら、たとえNOと断っても、たぶん関係は続くと思います。

 また、ご質問に「夫の親戚が…」とありますから、お母さんがひとりで対応するのではなく、お父さんにも協力してもらって、「パパのほうの親戚だから、パパが対応してもらえないかしら」と頼んでみるのもいいと思います。

 ということで、相手のよかれと思って、という気持ちは「ありがとう」と感謝するけれども、それ以上の受け入れられないことに関しては「ごめんなさい」と断る。そういう態度をしっかりともつことが、ご自分を守ることにもなるし、ひいては、お子さんを守ることにもつながると思います。


齊藤 後藤先生、ありがとうございました。
自分に余裕があると、「心配してくれてありがとう」という言葉も出やすかったりするんですが、余裕がないとそれもできないところがあるので、その意味でも、やはり誰かのサポートを得ることが必要なのかなと思いました。また、自分の気持ちや意見もきちんと伝えつつ、上手な断り方ができるといいのかなと、お話を伺っていて感じました。

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Q3 コロナ禍のストレスで不登校になった小5男子

 11歳の息子がコロナ禍で外出を怖がり、何事もやる気が出なくなって登校できなくなりました。「生きていたくない」「すべてがどうでもいい」などと言い、イライラや悲しみの感情が強く、倦怠感、動悸、対人恐怖などの症状があらわれています。とくに学校に関連する人、物、建物への恐怖心が強く、腹痛、吐き気、冷や汗、めまい等の身体症状が強く出ています。
 子どもの精神状態がこのように不安定なときに、日中ひとりにしておいてよいのか、学校との接点をもちつづけたほうがよいのか、悩んでいます。 

A3 コロナ以外の要因はないか、別の視点から子どもを見てみる(講師:小栗貴弘)

 このご質問を読んで最初に気になったのが、症状の経過のところでしょうか。コロナ禍で外出を怖がるようになったとありますが、では、倦怠感、動悸、対人恐怖といった症状がどのあたりから出はじめたのか、コロナからか、それ以前からか、どのような症状の経過をたどってきているのかということが気になります。もうひとつ、不安や恐怖といった症状について、関わっている医療機関などがあるのかどうかも気になるところです。

 さらに、学校に関連する人、物、建物への恐怖心がとくに強いということですが、このお子さんの場合、コロナの問題にとらわれすぎると行き先を間違えそうだな、という感じもしています。コロナ禍だから、学校に関連する人、物、建物がとくに怖くなるということはないはずなので、もともと登校できなくなるような、なんらかのきっかけや出来事がおそらく学校の中であったのかもしれません。そこへ最後に後押しをするような感じでコロナがやってきたのかな、という印象を受けました。

 したがって、コロナが怖いということばかりにとらわれすぎると、根本的に何が原因だったのかというところを見逃してしまいそうな気がします。ですから、コロナ以外に考えられるほかの要因はないかどうか、ちょっと別の視点からお子さんを見てみることも大事だろうと感じます。

子どもが「生きていたくない」と口にしたとき

 この親御さんがいちばん聞きたいのは、最後の部分、「子どもの精神状態がこのように不安定なときに、日中ひとりにしておいてよいのか」ということでしょう。 確かに、症状としてはかなり強く出ているほうだと思います。長年、不登校のご相談を受けていても、ここまで症状がはっきりと出てくる子はそんなにはいません。

 ですので、ここまで症状が出てきていることに、親御さんは相当不安を感じておられると思います。だからこそ、この子を「日中ひとりにしておいてよいのか」という葛藤があり、その根本にあるいちばんの不安は、おそらく自死の可能性でしょう。実際に「生きていたくない」といった「希死念慮」を口にしているわけですから。

 そんな言葉を使われると、親御さんとしてはびっくりするし、心が揺らいでしまいますよね。ただ、実際にそれが子どもの中でどれくらい現実味のある言葉なのかというところを見定めないと、その後の対応は難しいだろうと思います。その意味でも、一度、医療機関を受診し、医師の所見を求める必要があるかと思います。

「仕事を辞めたほうがいいのかな」と迷ったら

 それを踏まえて、日中ひとりにしておいてよいかを判断するわけですが、その際、仕事をもっているお母さんは「やはり仕事を辞めて家にいてあげたほうがいいのかな」と悩むことが多いと思います。不登校のお子さんをもつお母さんなら、この「仕事を辞めたほうがいいのかな」という悩みには、ほとんどの方がぶち当たっていると思います。

 お母さんとしては、やはりわが子のために時間をとってあげたくなるんですよね。子どもが不登校になると、とくにお母さんは「親の関わりが少ないからだ」とか「子どものことをよく見ていないからだ」みたいな批判を世間から受けたり、親戚からそういう目で見られることが少なからずあるだろうと思います。

 そういうときに、親としては、「自分が仕事を辞めてでも、この子といられる時間を増やしたほうがいいのではないか」「そのほうがもっと愛情を感じてもらえるのではないか」と思いがちです。けれども、果たしてそれが功を奏するかというと、実はそうでもないんです。ですから、「仕事を辞めたからといって、子どもが学校に行くようになるとは限らない」ということを、まず、お母さんが理解しておくことが大切です。

 さらに、「仕事を辞めても、学校に行けない」だけならまだいいのですが、親子関係がより悪くなる可能性もあります。というのは、お母さんのほうに「せっかく仕事まで辞めて時間をつくってあげているのに…」という思いが強くなると、それはどうしてもお子さんに伝わりますから、お子さんのメンタルヘルスはよけいに悪化してしまいます。

 ですから、自分が仕事を辞めたときに、「子どものために自分を犠牲にしている」という気持ちが出てしまいそうだと予測されるのであれば、おそらく辞めないほうがいいのではないかと思います。一方、むしろ辞めたほうが自分の気持ちに折り合いがつく、つまり、自分の気持ちのために辞めるのであれば、それはひとつの選択肢としてありかなという気はします。

 したがって、「日中ひとりにしておいてよいのか」という問題については、基本的には死に対する可能性の高さを見定めると同時に、それが可能性としてあまり高くなさそうであれば、仕事を辞めるかどうかは、ご自分の気持ちの折り合いとの相談になってくるだろうと思います。

 最後に「学校との接点をもちつづけたほうがよいのか」については、保てる接点があるのなら保っていたほうがベターかなと思います。たとえば、それがお子さんに負荷をかけないようなつながりであるなら、ぜひ接点はもっていたほうがいい。学校とのつながりといっても、先生と必ず話さなければいけないといったつながりだけではないわけで、たとえば友だちとのつながり。直接会えなくても、友だちとオンラインゲームでつながる方法もあります。学校に関する一切のことが、いわゆる「登校刺激」となる可能性がありますから、そういった負荷をかけないつながりが保てるのであれば、よりベターかなと思います。


齊藤 小栗先生、ありがとうございました。
保護者の方自身が、どんな心持ちで、どんなところで折り合いがつけられるかを見つけていくことが大事なんだろうなと感じました。
また、コロナ禍が子どもたちに与える影響については、小栗先生からもお話があったように、コロナがメインの理由ではなく、もともとしんどさを抱えていたり、過敏さや感受性の強さをもっているお子さんが、コロナが最後のひと押しになっているケースが昨年度から増えているという実感がありますので、「コロナ以外の要因はないか、別の視点から子どもを見てみる」ということも大切になるかと思います。

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Q4 父親を拒否する小5女子にどう接したらよいか

 16歳の息子と11歳の娘が不登校です。コロナ禍で在宅勤務が増えたため、上の息子とよく話をするようになり、子どものことが前よりわかるようになった気がします。しかし、下の娘にはゴキブリのように嫌われ、避けられ、口をきいてくれません。どうしたらしゃべってくれるのか、心が痛みます。

A4 健全に育ったからこその反応(講師:齊藤真沙美)

 不登校かどうかにかかわらず、思春期の娘さんがいるお父さんは、程度の差こそあれ、ご質問のような思いを抱いていらっしゃることと思います。後になってみれば、おそらく娘さん自身もなんでそんなに嫌だったのか、自分でもよくわからないのではないでしょうか。

 それくらい「お父さんが嫌」という感情は、思春期に入った女の子のほとんどが抱く感情だといえます。ですから、むしろすごく健全な娘さんだと感じますし、それはこれまでご両親が健康的に育つよう関わってこられた証拠だと思います。かつて「パパ大好き!」とか言っていた娘さんが、こんなふうに変わってしまうとショックを受けるのは当然ですが、「よく育ったな〜」と思って、この時期を過ごしていただけるといいのかなと思います。

 思春期に入ると、女の子は潔癖というか、臭いがすごく気になって、とくに男性の臭いに不快感を抱いたり、他の人が触ったものを「汚い」「不潔」と感じるようになったりします。思春期におけるこのような感情は、健康的な成長の範囲で出てくる反応ですから、決してお父さんが悪いわけでも、不登校だからどうこうという問題でもありません。

距離のとり方を工夫する

 今、娘さんがあまり関わりたくないと思っているところにしつこく関わろうとすると、よけいに拒否的になるという側面がありますので、今までよりも距離のとり方を工夫されたほうがいいかもしれません。また、娘さんから返事がなくても、「おはよう」「ただいま」「おやすみ」といった日常のあいさつは欠かさずに。「返事がなくてもいいや」という心持ちで、気持ちよく声をかけてあげてください。そして、お父さんが感じたこと、たとえば「今日は元気そうだね」とか「何かいいことあったのかな」とか、これも返事を期待せずに、ひとり言のような感じで投げかけてみるのもいいと思います。

 あとは、お父さんならではの出番というのがありまして、よくあるのが車での送り迎え。この娘さんは外出されるのかわかりませんが、ふだんは口もきいてくれないのに、習い事や塾へ行くときに雨が降っていたりすると「送ってってよ」とか(笑)。そんなふうにお父さんに頼りたい場面というのがやはりありますから、そういうときに力を発揮するとよいでしょう。

 そして、お母さんの後方支援、サポートですね。お子さん2人が不登校ということですから、日頃メインでお子さんに関わっておられるお母さんはいろいろご苦労があったり、悩んでいることも多いかと思います。そういうお母さんの話をきちんと聞いてあげることはとても大事です。また、進路を決めるとき、新しい習い事などを始めるときなども、お父さんの出番かもしれません。「やってみればいいんじゃないか」とか「ここはどうかな?」とアドバイスしたり、お母さんと相談しながら決断したり。そういうお父さんだからこそできる役割があると思いますので、適度に距離を保ちつつ、関わり方を探っていくといいのかなと思います。

 娘さんがお父さんにこういう反応をとれるということは、「とっても大丈夫」という信頼感があるからなのかな、と感じます。そういう意味でも、お父さんと娘さんの関係は、いいかたちでここまで来ているのだと思います。きっと数年後には一緒にお買い物に行ったりする関係性に変わっていくはずですから、今の時期は、「よく育ったからこそだ」と思って過ごしていただければと思います。

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Q5 対人関係が苦手で完璧主義の中3女子

 15歳の娘は、人と関わることが怖くて、人前では自分を作って頑張って接しているけれど、そんな自分が嫌い。勉強もちゃんとやって当たり前、テストは80点ではダメという頑張り屋さん。そんな日々に疲れてしまい、学校生活ができなくなりました。現在は適応指導教室に少しずつ通っていますが、このような状態で高校生活ができるのか心配です。

A5 あわてず焦らず、その子に合った高校を本人と一緒に探す(講師:荒井裕司)

 不登校の子どもたちには、このような真面目で完璧主義のお子さんが多いと、これまでの経験から感じています。また、正義感が強くて間違ったことが大嫌い、純粋でプライドが高いお子さんも多いですね。クラスにちゃらんぽらんな生活を送っている子がいると、その子たちとは馴染めない。暴力行為やいじめなどがあると許せない。そのためにクラスで浮いてしまって、学校に行きにくくなることも少なくありません。

 この娘さんは、人と関わることがあまり得意ではない、怖い、ということですが、娘さんが好きなこと、趣味などがあったら、そういう教室に通わせてあげたらどうかなと思います。たとえば、ピアノやギター、料理やお菓子づくり、マンガやアニメ、水泳など、いろいろな習い事のできる教室がたくさんあります。

 習い事に通いはじめると、学校での人間関係とは違った人との関わりが生まれてきます。そういう関わりを積み重ねていくうちに、少しずつ自信や達成感が生まれてきたり、人に対する「怖さ」がやわらいだり、人と関わる楽しさや喜びを感じたりと、さまざまな波及効果が生まれてくるような気がします。

適応指導教室やフリースクールは、その子に合わせた柔軟な対応が可能

 現在の状況でいきなり学校生活に向き合わせて混乱させるよりも、適応指導教室に通いはじめたというのは非常にいいなと思います。適応指導教室は、その子の状態に合わせて柔軟に対応してくれますし、勉強でもなんでも無理やり何かを強いるということもありませんから。

 また、民間のフリースクールなどに通うのもいいかもしれません。一人ひとりの進度に合わせて個別指導で勉強を教えてくれますから、人に合わせるのではなく、自分のペースをつくるという意味でもいいのかなと思います。人との関わりも学校とは違って、いろいろな年齢の子どもたちがいますし、ゆるい関わりがこのお子さんには向いているかもしれません。

学校選びは「自分のペースで勉強できる」を第一に考える

 進路に関して、「高校生活ができるのか心配です」とおっしゃっていますが、本人の興味のあることや楽しいと思えることができるようになってくると前向きになってきますし、高校進学についても、お子さんに合った学校というものが見えてくるような気がします。そうなると、本人もしだいに元気が出てきて、高校生活に自信をもって臨めるような状態に近づいてくるでしょう。

 親御さんとしては、決してあわてたり焦ったりすることなく、「本人のペースで勉強できる」を第一に考えて、この子に合った高校はどこにあるのか、それを本人と一緒に探していこうという気持ちで、学校選びを進めていただければと思います。


齊藤 荒井先生、ありがとうございました。
中3の時点で不登校ということになると、高校進学に向けてさまざまな不安を感じることと思いますが、今はいろいろな選択肢がありますので、お子さんの意向、お子さんの状態に合った学校を見つけていけるといいなと思います。

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Q6 不登校の子のきょうだいへの接し方

 中1の娘が不登校になりました。本人はもちろんつらいと思いますが、下の弟(小5)も、その姉にどう接してよいか悩んでいるようです。
 不登校のきょうだいがいることでつらい思いをしている子どもに対して、親としてどのような声かけや説明をしたらよいでしょうか。

A6 それぞれの子と一対一で向き合う「スペシャルタイム」をつくる(講師:後藤弘美)

 きょうだいの問題で悩んでいる親御さんは、たくさんいらっしゃることと思います。
 不登校の子どもが家庭にいる場合、登校しているほかの子どもがストレスを抱えているケースは、ほんとうによくあるんですね。私が「家族心理療法」でカウンセリングを行っている理由のひとつは、この問題があるからです。不登校の子どもだけにスポットを当てるのではなく、家族という面で見て、きょうだいとの関係や、きょうだいはどんな思いでいるのだろうとか、そういうところも含めて、“面”で見ていきたいのです。ですから、学校に行っている子どものケアも、実はとても大事なことなんです。

 学校に行っているきょうだいで下の子、つまり弟や妹は、たいがい「学校に行ってないお兄ちゃん(お姉ちゃん)はずるい」「僕(私)も休みたい」と言います。一方、その逆のパターン、お兄ちゃんやお姉ちゃんが学校に行っていて、下の子が不登校の場合は、「お父さんやお母さんが甘やかすから、あいつは学校に行かないんだよ」というような言い方をする子が多いですね。

 登校しているか、してないかに関係なく、それぞれの子がなんらかの不満やストレスを抱えているのだと思います。ですから、学校に行っている子も行ってない子も、きょうだい一人一人に向き合うことがとても重要になってきます。

不登校のお姉ちゃんのことをどう説明するか

 親としては、学校に行ってない子のことがすごく気になるし心配だから、いつも目が向くし、気持ちも向くわけです。一方、元気に登校していて、部活もバリバリやって、友だちともよく遊んでいるような子には、いわば「ほっといても大丈夫かな?」みたいな思いもあって、ついほったらかしになりがちです。

 そこで、私がみなさんにおすすめしているのは、名づけて「スペシャルタイム」と言うんですが、どの子とも一対一のスペシャルタイムをつくってほしいと、よく申し上げています。たった5分でいいから、「ママはきみと一対一で向き合うよ」という時間をつくっていただきたい。

 そのときは、「調子はどう?」とか「今、何か困ってることない?」といった言葉を投げかけながら、話を聞いてあげます。その際、この不登校のお姉ちゃんのことをどう説明するかですが、「お姉ちゃんは、今ね(「今」という限定で話をするとよい)、学校に行きたいと思っても行けない状態なんだよね。元気になるといいね」。小5の弟さんに話すなら、こんな説明でいいと思います。

 もうひとつ、話し方のポイントとしては、「学校に行っていても行かなくても、あなたのお姉ちゃんには、いいところや素敵なところがたくさんあるんだよね」ということを伝えます。そのあとに続けて、「そして、きみにもいいところがたくさんあるんだよね」と。
 こんな感じのスペシャルタイムができたらいいんじゃないかと思います。

「学校に行けない」のは、その子のほんの一部分の行動にすぎない

 また、弟くんがお姉ちゃんに接するときに、特別な注文をつける必要はありません。たとえば「お姉ちゃんの前で学校の話はしないのよ!」とか「お友だちの話はしちゃダメよ!」とか、そういう特別なことは、私はしないでいいと思っています。家庭内のきょうだい関係は、自然なままでいいんじゃないでしょうか。

 ただし、学校に行っていないことで、「お姉ちゃんはダメな人間だ」とか相手の人格を否定するようなことを弟くんが口にしたときは、すかさず、「そういうことを言ってはダメだよ」としっかり注意してほしいと思います。学校に行かないというのは、その子のほんの一部分の行動にすぎません。そのほかの部分でいいところは山ほどあるはずなので、そちらもちゃんと見てほしいですよね。
 ということで、学校に行っている子どもたちとも、こんなふうに一対一で向き合うスペシャルタイムを設けていただいたらどうかなと思います。


齊藤 後藤先生、ありがとうございました。
私もスペシャルタイム、よく使うんです。これを嫌いな子はいないですよね。それぞれの子に特別感をかもしだして向き合うことがとても重要なんだなと感じました。

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Q7 体力低下や健康面が心配

・小4男子。不登校になってからひきこもりがちでしたが、最近は、コロナが怖いといって、今まで以上に外に出るのを嫌がり、近所でも車で行きたいと言います。運動不足で肥満ぎみです。成長に影響はないでしょうか。

・高2の息子が不登校になり、部屋にひきこもるようになって1年半。一日中ベッドの上にいるか、ゲームをしているため、体力がなく、かなり痩せてきて、心配です。生活も不規則で1日1食になってしまうことも…。健康な体を維持するためにはどうしたらよいでしょうか。

A7 その子にできることは何かを探してあげる(講師:小栗貴弘)

外出できる機会をどう確保するか

 事例の毛色がちょっと違うので、それぞれ別々にお話ししたいと思います。
 まず、ひとつ目の小4のお子さんは「近所でも車で行きたいと言います」とありますが、逆にいうと、「近所なら車で行ける」わけです。ですから、この子の不安の程度がどれくらいなのかを具体的に考えていく必要があると思います。

 「コロナが怖い」「外に出るのが怖い」という、その怖さがどれくらいのレベルなのか。あるいは、どこまでなら外出できるのか、どういうかたちなら外出できるのかを細かく見ていく必要があるでしょう。たとえば、遠くに行くのは無理だけど、家のまわりの人気(ひとけ)のないところなら散歩できるとか、家の前でお父さんと軽くサッカーをするくらいならできるとか。

 逆に、これは不登校のお子さんに多いのですが、車で遠くに行くのはOKだけれど、むしろ家の近くのほうが外出できないとか。近所だと、同級生や知り合いに会う可能性があるからです。このような場合は、車で遠くに連れて行ってもらえば、そこで体を動かしたりできるかもしれません。知り合いの子に絶対会わない遠くのショッピングモールだったら、車を降りて店内を自由に歩きまわることができるという子もいます。

 ですから、外に出たがらないというのもコロナがどの程度影響しているのかは、慎重に判断する必要があるでしょう。先ほどのQ3のご質問でもそうでしたが、「コロナが…」と言われると大人はびっくりして、つい過敏に反応してしまいます。しかし、そこで「すべてが怖いんだ」「すべてがダメなんだ」ではなく、その怖さや不安の部分のどこかに突破口はあるはずなので、親が落ち着いて、そこを見極めてあげることが大事になってきます。

 運動不足について「成長に影響はないでしょうか」とありますが、まあ多少はあるかもしれません。でも、ほとんど影響はないといってよいでしょう。僕は、大学で発達心理学の教鞭もとっていますが、たとえば身長は、運動しようがしまいがほとんど関係がなくて、8〜9割は遺伝で決まることがわかっています。仮に影響があるとしても非常に限定的だと思いますし、このお子さんはまだ小4ですから、今後ものすごく肥満になるということもおそらくないでしょう。

 それよりもむしろ、外出できる機会をどう確保するかを考えるほうが大事です。先ほどもお話ししたように、昼間は無理だけど、夕方以降ならパパとキャッチボールができる、暗くなってからなら散歩ができる、ということであれば、ぜひやったほうがいいですし、何かできることを探してあげることが大事かなと思います。

ひきこもり支援には第三者の介入が効果的

 ふたつ目の高2の息子さんに関するご質問は、不登校というよりも、ひきこもり相談に近い感じがしますが、現在高校2年生で1年半ひきこもっているということは、おそらく通信制高校等に在籍しているのでしょうか。

 こうしたケースで家族だけでは対応が難しい場合、自治体の「ひきこもり地域支援センター」など、ひきこもりの専門的な相談窓口に相談してみるといいかもしれません。このくらいの年齢のお子さんだと、第三者の介入があるほうが対応しやすくなるかと思います。もちろん家族の関わりも大事ですが、家族だけとなるとけっこう限界がありますから。

 第三者の介入には、たとえば高校生なら、大学生のお兄さんお姉さんがボランティアで定期的に家庭訪問をしてくれたり、話を聞いてくれる、といった介入の仕方もあります。こうした介入は、ひきこもり支援をするにあたって最も効果が高いといわれていますので、そういった第三者の介入につなげることができるかどうかは非常に大事なポイントだと思います。

不登校の“副作用”が広がらないように意識する

 ご質問者が心配されているのは、「1日1食」になったりする食生活のことで、かなり痩せてきた、とあります。親御さんが心配されるお気持ちはよくわかりますが、実はこのような状態は不登校にはよくあることで、食事の問題だけで済んでいるのであれば、まだ「御の字」かなという感じはします。

 不登校になると、人と会わなくなるし、外出も減ってくるので、私たちが普通にやっているような生活をする必要がなくなってきます。そのため、昼夜逆転が起こりがちだし、場合によっては歯も磨かなくなったり、お風呂も入らなくなる。人と会わないので、誰に何を言われることもないわけですから。このように、私たちが普通にやっている生活をしなくなってしまうということが、不登校の“副作用”として出てきます。ですから、食事だけで済んでいるならそれほど問題はないですが、それが歯磨き、入浴等々、他のところに広がらないように意識していただけるといいかなと思います。

 食事に関しても、「決まった時間に三食きちんと食べさせよう」というよりは、先ほどと同じように第三者の力を借りながら働きかけていき、改善してくると、起床時間も早くなったりしますから自然に三食食べるようになります。ですから、食事の問題というよりも、不登校やひきこもりの改善が先になってくるだろうと感じますし、それに付随して食事の問題も改善していくだろうと思います。


齊藤 小栗先生、ありがとうございました。
体力や健康面も非常に心配ではありますが、体を動かそう思ってもなかなか動けないものです。私は体育大の教員ですがインドア派なので、何か目的がなければ外に出たくないんですね。このマンガがほしいとか、○○したいというなんらかの目的があってはじめて、そのために動くわけです。ですから、動くこと、運動することの“付加価値”が見えてきたときに、「歩いてみよう」「外に出てみよう」という気持ちが生まれてくるという側面もあるのかな、とお話を伺っていて感じました。

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Q8 発達に問題を抱える中2男子。学校再開後に不登校に

 昨年、中学校に入学したとたん休校になり、家にひきこもって昼夜逆転の生活が始まりました。それでも分散登校のうちは通えましたが、本格的に授業が再開すると完全に行けなくなりました。入学したばかりで友だちもいないし、慣れない電車通学もつらかったようです。
 発達に問題があるせいか、人とうまく関われません。大人とは平気で話すのに、同世代の子は苦手。小学校の頃は友だちもいたのですが…。今後、大丈夫なのか、信頼できる友人はできるのか気がかりです。友だちはいらないと言いつつ、「友だちがほしい」と本音をもらすときもあります。

A8 本人のしんどさを受けとめることから(講師:齊藤真沙実)

 このお子さんの発達の問題について、このご質問だけでははっきりわからないところはありますが、発達障がいやそれに類する特徴をもったお子さんなのかなと推察します。
 発達障がいについてここでは詳しくお話ししませんが、自閉スペクトラム症、学習障がい、注意欠陥・多動性障がいといわれるような特徴をもつお子さんのなかには、対人関係に苦手さをもつ子が少なくありません。そんなお子さんにとって、集団生活を求められる学校は、多くの場面で過ごしにくさ、やりにくさ、しんどさを感じることが多く、それらが重なると、学校に行きにくくなるケースも少なくないように思います。

 また、環境の変化や新しい場面での対応が苦手なことも多いため、中学進学という環境の変化も大きかったはずです。さらにこの時期は、新しい人間関係をつくることにも難しさが伴います。「慣れない電車通学」とありますので、私立中学に入られたのかなと思いますが、となると、それまで地元の小学校に通っていたのが、急に遠方の中学校に電車で通うことになり、それもキツかっただろうと思います。

 さらに、昨年度(2020年度)のコロナ禍による入学当初からの休校は、イレギュラーな事態への対処に苦手さを抱えるこのお子さんにとって、戸惑いが大きかったのではないでしょうか。このように中学入学と同時にさまざまな変化がいっぺんにやってきて、それにうまく適応できず、不登校というかたちになったのだと思います。

 「分散登校のときは通えた」というお話は、昨年よく耳にしました。コロナ禍で心に負荷のかかった子どもたちにとって、登校する人数の少ない分散登校は、いつもより刺激が少ないため、不安もあまり高くならずに通えたようです。ところがその後、通常どおりの授業が再開すると、対人関係も授業も含めてうまくやっていくのがしんどくなり、再び通えなくなったというケースも少なからず見受けられました。

 本来ならこのようなお子さんは、少しずつ時間をかけて新しい環境に慣れていくための期間が必要で、その期間に自分なりの対処法を身につけていくのが望ましのですが、コロナ禍による休校がその機会を奪ってしまいました。これもかなりの負荷になったのではないかと思います。

 対人関係に関して「大人とは平気で話す」とありますが、発達の課題があって対人関係が苦手なお子さんは、同世代の関係性が苦手なケースが多いように思います。年上や年下の人と関わる場合は、お互いの役割が比較的はっきりしているので、自分の関わり方のポジションを確立しやすいところがありますが、同世代となると同等なので、場面によって立場がめまぐるしく入れ替わったり、より臨機応変さが求められるので、難易度が高いのかもしれません。

自己理解を深め、対処方法を考える

 親御さんとして、まずは、「大変だよね」「しんどいよね」と、本人の感じている不快感を受けとめることが重要になってくるでしょう。
 このお子さんは、「友だちはいらない」と強がってはいますが、「友だちがほしい」と本音をもらすこともできています。そこがすごくいいなと思いますし、親御さんとの関係がきちんと築けている証しです。そのうえで、中学校に入学して、どんなところが大変だったか、しんどかったかを、お子さんと共有することが必要になってきます。

 今後の対人関係についていえば、新しい中学校での関係性だけにこだわる必要はないのではないかと思います。たとえば小学校のときの友だちと連絡をとり合ってみるとか、好きなこと、得意なこと、興味関心のあることを共有できる人と関係を築いてくことも可能でしょう。

 私が関わったケースでも、その子はクラスメートと関係を深めていくことがなかなかできなかったのですが、将棋が大好きだったので中学校の将棋部に入って、部の友だち数人と安定した関係を築くことができるようになりました。何よりもまず不快感の少ない、心地よい人間関係をもてることが重要です。それが、その後の人間関係を広げることにつながるのです。

 お子さんとそんな話をしていくなかで、併せて、どんな状況なら安心して過ごせるか、どんな状況が苦手か、どんなことに苦痛を感じるのかを確認し、どこで、誰となら関わりやすいのかを整理し、共有していけるといいなと思います。そうすることで、その子なりの自己理解が深まり、苦手な状況への対処方法を考えることもできるようになっていきます。

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Q9 留年するに決まっていると言う高1男子

 今年4月から私立の進学校に入学したものの、5月前半から休みがちになり、後半から完全に行かなくなりました。本人は「数学がわからない。やりたくない。やる意味がわからない。もう留年するに決まっている」と言い、課題もまったく提出していません。その一方で、「大学に行って好きなことを勉強したい」と言います(どちらかというと文科系が好き)。
 親としては、このまま在籍するのは厳しいかと思いはじめていますが、では、どのようなタイミングで転校すべきか、どのような進路の選択肢があるのか、アドバイスをお願いします。

A9 できるだけ早く転校の手続きを(講師:荒井裕司)

 今年4月から私立の進学校に入学したと聞いただけで、ああ、大変だろうなと感じます。少子化が進むなか、私立の進学校は生き残りをかけて大学進学率を競い、非常にハードなカリキュラムを組んでいます。志望校に入学して、少しのんびりしようとか青春を謳歌しようなどと考えていたら、そんな甘い考えはまったく通用せず、勉強に追われる日々が続きます。

 しかも、まわりは同じような偏差値の子どもたちばかりですから、いくら勉強してもなかなか成績が上がらず、ちょっと手を抜くとガクンと下がります。そんななかで精神的に耐えられなくなる子も少なくありません。学校を休みがちになり、ついに行けなくなったとしたら、まず追いつくことは難しいと思います。授業の進度がかなり速いですから。

 ですから、親御さんとしては、お子さんと話し合って、できるだけ早く転校の手続きを進めるとともに、転校先の情報収集をして別の進路を探してあげるとよいでしょう。

 転校のタイミングとしては、一般の公立・私立の高校の場合は、空きがあれば学期の終わり等に募集がありますが、こういうケースは非常に少ないです。また、通信制高校は、随時転入ができる場合が多いので、学校に直接問い合わせるとよいでしょう。そのほかにも、さまざまな学びの場がありますので、ぜひ、お子さんに合った高校を探していただければと思います。自分に合った学びの場が見つかれば、お子さんの気持ちもきっと上向きになるはずです。

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Q10 母親として子離れできていないのでは? と不安

 高校1年の息子は、中3の夏から不登校になり、高校進学後しばらくは通えましたが、ゴールデンウイーク明けから再び行けなくなりました。現在、学校のことはなんとかなると思えるようになりましたが、ひきこもりにだけはしたくなくて、どうにか外に連れ出そうと実家に一緒に行ったり、車で出かけた際に遠回りしてドライブしたり、友人との約束を聞いて異常に喜んでしまい、余分なおこづかいをあげたり…。お膳立てばかりして、かえって自立できなくなるのでは? 親離れできないのでは? と考えてしまいます。私が子離れできていないのでしょうか。

A10 「今、できていること」に目を向ける(講師:後藤弘美)

 ひきこもりになったらどうしよう、というお母さんの不安は、本当によくわかります。私も娘が不登校になったときに「これからどうなるんだろう…」という、先の見えない漠然とした不安におそわれました。そういう不安がどんどん押し寄せてくるんです。先のことばかり考えていると、不安から逃れられなくなってしまうような気がします。

 ですから、先のことではなく、「今、息子さんができていること」に目を向けるように、頭を切り替えてほしいんです。たとえば、お母さんと一緒に実家に行ったり、車で出かけることはできるわけです。また、友人と約束して外出することもできる。こういう「今、できていること」を積極的にとらえていく視点が大事だと思います。

興味関心のあるところから、外の世界とのつながりが生まれる

 「お膳立てばかりして」とありますが、お膳立てというのは、だいたい親が勝手に提案することが多いのではないでしょうか。そうではなく、今、息子さんが興味のあること、関心のあることは何か、それをうまく聞き出せたらいいですね。もし息子さんが話してくれなくても、日頃から様子を見ていれば、何に関心があるのかわかりますよね。同じお膳立てをするなら、そういった息子さんの興味関心に関連した外出を提案するとか話題にしてみてはどうでしょうか。

 私が関わったケースでも、サッカー好きの男の子がお父さんとものすごく関係が悪くて、ひと言もしゃべらないという感じだったのですが、お父さんが一緒にサッカーの試合を見に行こうと言い出して、チケットを買ったりしながら何回か誘っているうちに、一緒に行くようになったケースがあります。相変わらず会話は一切ないんですけどね(笑)。

 マンガやアニメが好きな子は、SNSでつながった同じ趣味の仲間と一緒にコミケ(コミックマーケット)に行ったりすることもあります。アイドルが好きな子は、ファンサイトでつながった友だちと「今度、グッズ販売があるから一緒に行こうよ」と出かけたりします。こんなふうに好きなこと、興味をもっていることがあれば、そこでつながった人たちと仲良くなったり、一緒に外出したり、というケースをいくつも見てきました。ですから、お母さんもそういう話題を提供するといいのではないでしょうか。

「今、できていること」を少しずつふくらませていく

 このお母さんは、息子さんが「自立できなくなるのでは?」と心配されていますが、まずは、「今、息子さんができていること」を少しずつ日頃の生活のなかで広げたり、ふくらませていったらいいかなと思います。たとえば、お母さんが外出するときに「洗濯物とりこんでおいてね」と頼んだり、「明日は燃やすゴミの日だから、お部屋のゴミをポリ袋に入れて玄関に出しておいてね」とか、「食べたあとの食器は流しに片付けといてね」とか、そんなちょっとした、息子さんにもできそうな「スモールステップ」を設けてみる。

 そして、「これやっといてね」と頼めば、やってくれたときに「ありがとう。助かったよ」という言葉かけができるわけです。逆にいえば、その言葉を息子さんに投げかけるために、ちょっとしたお手伝いなどを頼んだらどうかなと思います。「ありがとう。助かったよ」という言葉を受けていれば、子どもは気持ちが安定したり、上向きになったり、エネルギーがたまってきたり、少しずつ自信がついたりして、それをだんだんふくらませて積み上げていくと、自立につながるという心理的な変化は子どもたちによくみられますから、ぜひ試していただきたいと思います。

 それから、「親離れできないのでは? と考えてしまいます。私が子離れできていないのでしょうか」とありますが、親離れと子離れは、いわゆる相互的な関係といえるのではないでしょうか。そして、子どもは遅かれ早かれ親から自立しようと本能的に思うものですが、親は自分で意識的に子離れをしようと考えないとなかなか難しいところがあります。お母さん自身が、自分の人生をどう生きるか、今日この日を自分はどう過ごそうか、そういうところをちょっと考えてみてほしいと思います。子どもが心配だから、ついつい子どものことばかり考えてしまいますが、でも、母親としてだけではなく、ひとりの女性、ひとりの人間として、自分の仕事や趣味、楽しみを大切にしながら、どう自分らしく生きるかにトライしていただきたいと思います。

 お母さんにも「自分のための時間」があるといいなと思いますし、その時間は「子どもの気になるところを見ないで済む時間」でもあるわけです。そんなふうに、お母さんが自分らしく生き生きとしている姿を見て、お子さん自身も何か温かいものを感じるかもしれません。そんなふうにお子さんと向き合ってみたらどうかなと思いました。


齊藤 後藤先生、ありがとうございました。
お子さんが不登校になると、お母さんは不安で不安でどうしても視野が狭くなり、「できていないこと」や「問題」ばかりに目が行ってしまいがちです。だからこそ、「今、できていることを」見つけていくことがとても大事なんだなと感じました。
 後藤先生のお話を聞いていて思い出したのですが、私が関わったケースでジャニーズが大好きな不登校の娘さんがいて、よくお母さんと一緒にコンサートに行ったりしていたのですが、そのうちお母さんのほうがハマってしまって、娘さんが行かなくてもお母さんは行くという(笑)。でも、そちらに気が行くようになったら、おのずといい距離がとれるようになったり…。そんなケースもあったなと、思い出しました。

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Q11 高2女子。単位不足で進級できなくなりそう

 現在、高校2年の娘は、中2の3学期から不登校になり、それでも頑張って希望した公立高校に入学できたのですが、高2になってから再び行けなくなりました(理由はわかりません)。このままでは単位不足の教科が出てきて進級できなくなると言われ、転学をすすめられています。このような状況で、娘とどのように向き合えばよいかわかりません。

A11 お母さんは「わが子の応援団長」(講師:荒井裕司)

 この娘さんは、中2の3学期から不登校になったとのことですが、その子が希望する高校に入学できたのですから、これはもう万々歳ですよね。ここから自分の新しい学校生活が始まるんだということで、お子さんはもちろん、ご家族もとても喜んだことと思います。ところが、その1年半後、また行けなくなってしまった。いちばんショックを受け、悔しい思いをしているのは娘さんだと思います。私は、この娘さんに「この1年半、よく頑張ったね」と伝えたいです。

 親御さんとしても、まずは「よく頑張ったね」とねぎらってあげて、「また行けなくなってしまったけど、この先どうするかはまた考えればいいじゃない」と、本人と一緒に先のことを考えてあげることが大切です。

学校を変わることは、自分の未来を開拓すること

 娘さんにしてみれば、せっかく入学できた高校をやめなければならないわけで、 “負け犬”のような気持ちになってしまうかもしれません。でも、私の関わったお子さんのなかには、この学校もダメだった、ここも通えなくなった…と、次々学校を変わり、8校目でうちの高校に来た生徒がいます。3年間で8つも学校を変わるというのは、とてつもないエネルギーが必要になります。それは前向きな気持ちのあらわれだと、私は思います。

 この娘さんも学校を変わることについて落ち込むことがあるかもしれませんが、「自分の未来探しをするんだから、悲観しなくていいんだよ」「ぜひ、次の新しい学びの場を探そうよ」「自分の未来を開拓するために、新たなステージに行くんだよ」「きっと面白いことが待っているよ」と伝えてあげてほしいと思います。

再び行けなくなっても「大丈夫」と腹を据える

 今はさまざまな学びの場、学び方の選択肢がたくさんあります。学校に行かなくても、高卒認定試験(高等学校卒業程度認定試験)だってあるわけですし、もし新しい学校で再び行けなくなったとしても、通信制高校やサポート校など、出席日数にとらわれない学校もあります。そうした学校で「休むこと」に対するプレッシャーを取り除き、気を楽にして、新たなステップに踏み出せるような気持ちを醸成していくことが大事かなと思います。

 親御さんは、「せっかく高校にちゃんと通えるようになったのに…」と思いがちですが、不登校の子どもたちの思いはいろいろ揺れていますし、転校先でもまた不登校の要因となるような負荷がかかってきて、再び行けなくなるかもしれません。不登校という状態には多くの場合、波があって、何度も不登校をくりかえすケースもあったりします。でも、そうなったら、そのときに考えればいい。何度不登校になっても、親御さんは「ぜんぜん大丈夫だよ」「私は一生あなたの応援団長だからね」と言って、お子さんを励ましてあげることが、今いちばん大事なことではないかと思います。

 親御さんは腹を据えて、「トンネルを抜けたらまたトンネルがあってもいいじゃないか」という心持ちでいてほしい。最初から「そういうこともあるかも…」と覚悟を決めて、お子さんと関わっていただくことが、この娘さんにもいい結果をもたらすのではないかと思います。

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Q12 不登校だった自分を許せない19歳男子

 現在19歳の息子は、中学と高校で不登校でした。当時、私(母親)は、学校に行けない息子を学校に戻す(=普通に戻す)ことばかり考えていましたが、今ではまったくそう思わなくなりました。このセミナーのおかげでもあります。
 ただ、本人が不登校だった自分をいまだに許せずにいます。自分自身の理想があり、常にその自分でないことがダメだと思ってしまうのです。まわりが「それでいい」と受け入れても、本人が自分を肯定できない場合、どうしたら自己肯定感を高められるのか。「自分はダメだ(理想の自分ではない)という思い込み」から抜け出させるにはどうしたらよいのでしょうか。

A12 今の自分を受け入れられるような関わりを(講師:小栗貴弘)

 このお母さんが「当時、私は、学校に行けない息子を学校に戻す(=普通に戻す)ことばかり考えていましたが、今ではまったくそう思わなくなりました」と書かれていますが、それまでの間にものすごく葛藤があっただろうし、よくここまで息子さんのことを理解されるようになったなあ、と。その途中経過というか、いろいろあっただろうなと思いを馳せるところがあります。

 ただし、私のとらえ方はお母さんとはちょっと違っていて、この19歳の息子さんは、不登校だった自分を許せないというよりは、おそらく今現在の自分を許せていないんだろうなと感じます。このセミナーでも、不登校経験者の方にご登壇いただいてお話を聞かせてもらうことがよくありますが、そのときに、それらの経験を乗り越えている人は、自分が不登校だったことをかなり肯定的にとらえていることが多いんです。ネガティブなものとしてとらえているお話は、あまり聞いたことがありません。なので、この息子さんは、たぶん今の自分を許せていない、今の自分が自分で受け入れられないので、不登校だった自分はダメだ、あるいは不登校だったから今のような自分になってしまった、といった考え方をしているのではないかと思います。

本当の意味での「受け入れる」とは?

 では、この息子さんが今の自分をどうしたら受け入れられるようになるか、というところが、ひとつのポイントになるだろうと思います。そして、そういう関わりを得意とするのがカウンセリングです。カウンセリングとは、「受容」と「共感」をベースにして、その人を受け入れながら、その人が現在の自分自身を受け入れられるように関わっていくものです。

 しかし、たとえばこの息子さんが「不登校だった自分が許せない」と言ったときに、それをまわりの人、とくに家族が受容したり共感するのはけっこう難しいのです。本人が「許せないんだ」と言ったことに対して、家族は「それでいいんだよ」と返しているけれど、それが本人の心になかなか入っていかない、とありますが、じつは、ありのままの本人を受け入れることと、「ありのままでいいんだよ」と言うことは、必ずしもイコールではないんですね。つまり、この息子さんのありのままを受け入れるとは、「不登校だった自分が許せないと嘆いている」ことを親御さんが受け入れることですよね。それが「ありのままのこの子」になるわけです。

 ちょっと厳しい言い方になるかもしれませんが、本人が「過去の自分が許せない」と言っているのに対して、「ありのままでいいんだよ(許せないなんて思わなくていいんだよ)」と返してしまうと、それは、現在の息子さんを受け入れていない、現在の息子さんを否定するメッセージとして伝わってしまいます。もちろん家族の言葉かけとしては理解できますが、過去の自分を受け入れられない息子さんに対して、どんな受容と共感の返しをしていけばいいかは、やはり家族では難しくて、第三者であるカウンセラーのほうがやりやすいわけです。

 具体的には、「過去のことってどうしても気になっちゃうよね」とか「不登校だった自分のことって許せないよね」といった関わりが、受け入れる=受容になるわけで、そういう関わりがこの息子さんには絶対的に不足しているだろうなと思います。そういう関わりで現在の自分を相手に受け入れてもらうことで、少しずつ自分自身を受け入れられるようになり、前を向いて考えられるようになっていくのだと思います。

カウンセリングにつなぐことも大事

 そういった関わりの時間をどうとってあげるか。もちろんご家族に、本当の意味で「受け入れる」ことを意識した関わりをやっていただくことも大事ですが、この息子さんの抱えている問題は、とてもカウンセリングに向いているケースだと思いますので、カウンセラーにつないでいくことも大事だろうと思います。

 そうして少しずつ前向きな気持ちになってくると、進学や就労という方向に一歩を踏み出すことができるかもしれません。そうした現実の一歩があって、今の自分をだんだんと受け入れられるようになり、「今の自分があるのは、過去の不登校経験があるからだ」と思えるようになってくると、過去の自分も受け入れられるようになっていくと思います。

 ですから、最初から、過去の自分も含めた現在の自分を受け入れようとする必要はなくて、まずは、現在の自分を少しずつ受け入れていって、次の一歩を踏み出せるような関わりを、ご家族やカウンセラーなどまわりの人たちが意識してやっていくことが大切です。

 そうした関わりのなかで、本人が目指す方向での成功体験を積み重ねていくことがさらに大事になってきます。本人の望む方向とは関係のない成功体験ではなく、本人がこうしたい、こうなりたいと思う方向で成功体験を積んでいけると、きっと自己肯定感も高まってくるのではないかと思います。


齊藤 ありがとうございました。
小栗先生がおっしゃった「カウンセリングに向いている」ということについて、このお子さんはすごく自分自身と向き合う力があるというか、内省のできるお子さんなんだろうなと思います。そして、今ちょうど次のステップを踏み出すべき時期に来ているのかなとも感じますので、そのタイミングを上手に生かしていただければと思います。
以上で、第2部のQ&Aを終了させていただきます。
今回はオンラインセミナーということで、私たちの回答が参加者のみなさまにどのように受けとめられたのか、反応が見えないところが残念ではありますが、みなさまの明日からの生活に少しでも生かしていただけるものがあればうれしいです。
ご視聴、ありがとうございました。

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