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「自己肯定感を高めないとダメ」は本当か?


2023年6月4日に開催されたセミナー115の第1部の内容をまとめました。

講師:小林正幸(東京学芸大学名誉教授)


「不登校×教育メタバース」という新たな試み

 コロナ禍は、不登校にも大きな影響を与えました。文科省の調査によれば、2021年度に「長期欠席(年間30日以上休むこと)」の状態にあった小中学生の数は、前年度から13万人増加して、41万人に上ることが明らかになっています。長期欠席も不登校数も9年連続で増加しつづけていますが、今回は類を見ない増加率であり、この傾向は当面続くと予測されます。

 その一方で、一斉休校時に行われたリモート授業の成果等により、新たな学び方の可能性も見えてきました。そうした状況の中、私が理事長を務めるNPO法人では東京都小金井市の協力を得て、バーチャル教育空間を活用した不登校対策の実証研究に取り組みはじめました。

 この事業は、文科省が立ち上げた「次世代の学校・教育現場を見据えた先端技術・教育データの利活用推進事業」の一環で、不登校の子どもたちがアバター(自分の分身となるキャラクター)としてバーチャル教育空間へ通学し、講師やカウンセラーによる支援を受けるというものです。
 同時にこの子どもたちを対象としてアンケート調査を行い、バーチャル空間への適応や自己肯定感の向上などの効果を検証し、今後の課題や可能性を探りました。実証研究の期間は、2022年12月5日〜2023年1月30日の約2カ月間。小金井市内の小中学生を対象に行われました。

 まずは、そのときに私が行った「不登校×教育メタバース」の意識調査について、お話ししたいと思います。

 メタバースとは「インターネット上に構築されたバーチャル空間」のことで、子どもたちは、上図のように自分の分身(アバター)というかたちでこの空間に参加します。
 この空間では、子どもたちは自分の顔や姿を出さなくていいし、本名を名のる必要もありません(管理者側は誰がどの子なのかを把握しています)。それぞれの子が自分の好きなハンドルネームを名のり、自由に受けたい授業を受けたり、好きな居場所で時間を過ごしたりできるようになっています。
 教室には、従来の学校にはない魅力的な授業をしてくれる先生方を配置しました。算数や数学の授業は人気の数学系ユーチューバーに担当してもらったり、英語の授業も小学校低学年〜中3を対象に週4日行いました。
 自宅でZoomを立ち上げれば、それぞれの教室に行けるし、相談室も用意されていて、相談を受けたい子はカウンセラーと2人だけでZoomで話ができるようになっています。子どもだけでなく、親御さんも相談を受けられます。

不登校の子どもたちの意識調査とは

 この子どもたちを対象にアンケート調査を行ったわけですが、今回は「このアンケートに答えてくれたらメタバースに参加できるよ」ということでお願いし、56名の子どもが応募してくれました。応募した子のうち、メタバースに1回も顔を出さなかった【非参加児童生徒】が25名、1回以上参加した【参加児童生徒】が31名いて(上図参照)、後者の子どもたちには同じ意識調査を2カ月後に再び行い、メタバース参加前後の意識の変化をみる作業も行いました。
 さらに、【一般登校群】として、小金井市内の中学2年生の1学年を対象に同様の意識調査を行いました。これは、不登校の子どもたちの意識が一般と比べてどうなのかを調べるためのものです。
 以上、3つのグループに対して調査したのは、下図の7項目についてです。

 ③教師のかかわりでは、「最近、先生に〇〇をどれくらいしてもらいましたか?」という質問をしました。「〇〇」とは、私たちNPOが運営する適応指導教室で不登校状態の改善に効果的だった5つのかかわりのことです(「不登校状態の改善に効果的な『特別なかかわり』」参照)。
 ④身体の健康と、⑤こころの健康は、WHO(世界保健機関)が推奨している調査で、世界的に標準化されている信頼性の高いものです。
 そして、⑥教育メタバース居心地感と、⑦支援者のかかわりについては、最初のアンケートの2カ月後、つまりメタバース参加後に質問して答えてもらいました。

「学校居心地感」が低いと、欠席日数が増える

 調査の結果、不登校の子どもたちのうち【参加児童生徒】と【非参加児童生徒】の意識に差はありませんでした。つまり、メタバースに参加してもしなくても、アンケート結果にはまったく差がなかったということです。
 一方、【一般登校群】つまり学校に行っている子どもたちと、不登校の子どもたちの意識を比べてみると、3つの項目に差が出てきました。それは、「自己肯定感」と「こころの健康」、そして「学校居心地感」です。

 実は、子どもの欠席日数ともっとも関係の深いのが「学校居心地感」です。たとえば、今年度は学校に行っているけれど「学校居心地感」が低い子は、来年度の欠席日数が増える可能性が高いと予測されます。
 そして、不登校の子と学校に行っている子の比較で、いちばん大きな差が出たのも「学校居心地感」でした。その次に差が大きいのが「こころの健康」、次いで「自己肯定感」。不登校の子どもたちは、これら3つがいずれも低いという結果が出たのです。

自己肯定感は、体験しだいでいくらでも変わる

 不登校の子どもたちの「自己肯定感」が低いのはやはり確かでした。だからといって、自己肯定感を高めれば不登校が改善するかというと、そうではありません。これから、その説明をしていきたいと思います。

 まず、下図に示したように、不登校の子どもは「学校居心地感」「こころの健康」「自己肯定感」などが、登校する子どもよりもともと低いわけではありません。もともとそうなのではなく、不登校になったことで、ますます「学校居心地感」が下がり、「こころの健康」が下がり、「自己肯定感」も下がってしまったのです。

 赤ちゃんを思い浮かべてください。「うちの子は生まれつき自己肯定感が低くて…」なんて赤ちゃんはいませんよね。「僕はダメな人間だ」とか「どうせ自分には無理だから、歩く練習はやめとこう」(笑)なんて赤ちゃんもいません。
 つまり、自己肯定感というものはその後の体験に左右されるものであり、体験しだいでいくらでも変わり得るものだということです。そして、不登校の子どもの場合、「学校に行けないこと」そのものが、本人の意識を傷つけてしまうことがあるのです。

教育メタバースの効果とは?

 では、果たして「教育メタバース」に効果があったかどうかですが、2カ月という短期間の試みではありましたが、「こころの健康」は増進していました。
 「こころの健康」は、最近の体験として、楽しさやたくさん笑った機会の多さと、不安や緊張した体験の少なさ、孤独な思いを感じた体験の少なさなどを、子どもたちに尋ねるものです。
 その結果、メタバースに参加した不登校の子どもたちは、以前に比べて、「こころの健康」がアップしました。ただし、「学校居心地感」には変化がみられず、「自己肯定感」のほうは逆に少し下がってしまったのです。

 なんだ、それじゃあ効果はないじゃないかと思うかもしれませんが、この話には続きがあります。小学2年生の女の子のエピソードです。
 彼女は、私のところの適応指導教室に通っていたのですが、とても「いい子」で、なんでも人一倍、真面目にやる子でした。
 たとえば、「名札係」になったときは、誰よりも朝早く教室に来て、一人ひとりに名札を手渡ししていました。他の子の場合は「みんな〜、名札取りに来て〜!」と呼びかけ、それぞれに取りに来てもらうのですが、彼女は「〇〇さん」「〇〇くん」と一人ひとりに声をかけて直接渡すのです。こんなふうに担任が何かちょっと頼むと、普通の何倍も気をまわして一生懸命やるものだから、先生は「この子は真面目すぎて、逆にちょっと心配だな」と感じていたようです。

 この子がとうとう学校に行けなくなり、うちの適応指導教室に来るようになったのですが、メタバースが始まったら、「私、今日から2日間、適応指導教室には行かない。メタバースをやる。だけど、私がメタバースをやっているときは、絶対に私の部屋を覗かないでね」とお母さんに宣言したそうです。

 そしていよいよ当日、彼女がメタバースのバーチャル空間に入って来ると、小学5年生の女の子が彼女に近づいてきました。しばらくふたりとも無言で突っ立っていたのですが、そのうち年長の女の子のほうがピューッと走って逃げていったと思ったら、彼女もその子を追いかけて走りはじめました。そして、それからまる2日間、ふたりでずっーっと鬼ごっこをやっていたのです。
 ふたりは、教室の壁をぶち破り、クラスメートがいても、机や椅子があってもおかまいなしに追いかけっこをし(バーチャル空間なので透明人間のように壁でもなんでもすり抜けられる)、そこらじゅうを走りまわっていました。いつもの「いい子」の顔を脱ぎ捨てた彼女は、自由にやりたい放題あばれまわり、生き生きと見えました。

 そして3日目、彼女はメタバースには参加しないで、再び適応指導教室にやってきたのですが、その変わりようにスタッフ全員が驚きました。それまではいつも消え入るような声で話していたのに、大きな声ではっきり話す。こちらが何か聞いても、以前は答えるまでにすごく時間がかかったり、答えなかったりしたのに、スパーンと返事が戻ってくる。まるで別人なんです。わずか2日のことですが、子どもが変わるときはほんとうにびっくりするほど変わります。

 これは現実世界ではなく、メタバースという仮想空間だからこそ可能になったことであり、小1から中3までいろんな年代の子が同じ空間にいたことも大きかったかもしれません。そして、鬼ごっこについては、この小金井市の例だけでなく、新宿区で行われた教育メタバースでも流行ったと聞いています。

 私の知り合いで、病気で足が不自由になり、車椅子を使っている女性がいるんですが、彼女は、この鬼ごっこの話を聞いて、「そりゃ流行るでしょう。楽しそうだもの。私だってそんな自由な空間で走りまわりたいわ」と言っていました。
 彼女は車椅子生活の中で日々不自由さを感じているわけですが、それと同じようにこの小2の女の子も学校生活になんらかの不自由さを感じていたのかもしれません。それがメタバースという空間を得て、そこで思いきり走りまわることにより、はじめて自由になれた、のびのびできた、ということなんだろうと思います。

 自分が変わるための2日間、おそらく彼女なりに覚悟を決めて臨んだことと思いますが、このように自ら「変わりたい」と思うとき、子どもは覚悟を決めてその道を選び、自分の力で実現していこうとします。そうしてはじめて、その子の中に「自己肯定感」が生まれ、「こころの健康」が高まっていくのでしょう。

不登校状態の改善に効果的な「特別なかかわり」

 もうひとつ、その子の中に変化が生じた要素を個々でみていくと、先生や支援者による「特別なかかわり」が影響していることがわかりました。
 「特別なかかわり」とは、次の5つのかかわりをいいます。

①自由に話をしやすい雰囲気にしてくれる
②何かが少しできるようになったり、わかるようになったら、喜んでほめてくれる
③何かをしようとするとき、いろいろなやり方を示して、選ばせてくれる
④自分の気持ちを伝えようとするとき、先生は自分の気持ちを確かめながら気持ちを聞いてくれる
⑤自分ではできないことを、「できない」と言っても、それを受けとめてくれるので、楽に言える


 「特別なかかわり」としてこの5つを選んだのは、これらのかかわりにより不登校状態が改善されたケースが非常に多かったからです。先生や支援者がこの5つのかかわりを行うと、子どもたちはその人がいる環境を居心地よく感じるようになります。先生や支援者だけでなく、親のかかわりとしても大いに参考になるでしょう。

 たとえば、子どもに対して、次のようなかかわりを行っているかどうか、ふりかえってみてください。

①自由に話をしやすい雰囲気にしているかどうか。
②何かが少しできるようになったり、わかるようになったりしたら、喜んでほめているかどうか。


 なお、あとで詳しく説明しますが、親のかかわり方として、②で大事なのは、「ほめる」よりも「喜ぶ」ことです。

③何かをしようとするとき、いろいろなやり方を示して、選ばせているかどうか。

 ちなみに、子どもが親の望むやり方とは別のやり方を選んでも、しかめっ面をしないこと。また、いろいろ選択肢を用意したのに子どもがどれもこれも「嫌だ」「やらない」と言った場合もがっかりしないこと。子どもは「やらない」ことを選んだわけですから、それも本人の選択です。

「こころの健康」がアップすれば、「学校居心地感」もアップする

 「こころの健康」と「学校居心地感」に関連があることもわかりました。すなわち「こころの健康」がアップした子どもは、「学校居心地感」もアップし、逆に「こころの健康」が下がった子どもは、「学校居心地感」も下がっていたのです。

 不登校回復のための基本は、「学校居心地感」を上げることです。学校の居心地がよければ、当然、学校に行きやすくなります。そして、学校の居心地がよくなるためには「こころの健康」がアップすることが大事だ、ということが、この調査によって明らかになったのです。
 そのほか、「学校居心地感」には、「教師のかかわり」も関係していることがわかりました。親がいろいろ努力して効果的なかかわりを心がけても、家の居心地はよくなりますが、学校の居心地がよくなるわけではありません。学校の居心地がよくなるためには、やはり学校の先生のかかわりが重要です。逆にいえば、先生のかかわり方がよくないと、学校の居心地はどんどん悪くなります。

 子どもたちが学校に行きたくないのは学校で嫌な体験があったからで、親の育て方はほとんど関係ありません。b>
 なぜ、そう言いきれるかというと、1993年度に不登校だった全国の中学3年生、2万6000人の5年後を追跡した文科省の調査結果がそれを示しているからです。13年後にも同様の追跡調査が行われましたが、ほぼ同じ結果が出ています。
 これらの調査結果によれば、学校を休みはじめたきっかけは、1位「友人との関係」5割、2位「勉強がわからない」3割、3位「先生との関係をめぐる問題」2割となっており、不登校のきっかけのほとんどは、学校環境の中での不快な体験によることが示されているのです。

 不登校の子どもたちは、これら学校で起こった嫌な出来事を思い出すたびに不快な気分になり、どんどん学校に行きにくくなるわけですから、その不快な感情を解除してあげる必要があります。それが学校の先生の「特別なかかわり」なのです。

なぜ「ほめる」より「喜ぶ」が大事なのか?

 これまでみてきたように、「自己肯定感」はそう簡単にはアップしません。
 では、そもそも「自己肯定感」とはなにか? それは、「自らのあり方を積極的に評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情などを意味する言葉」であり、「自分自身のあり方を肯定する気持ちのこと」です。
 そして、自己肯定感は人格形成や情緒の安定のためにも重要ですが、そのためにも「自尊心」が必要不可欠な感情とされています。(上図参照)

 「自尊心」は、自分が有能であるという「自信」と、自分には価値があるという「自尊」の2つの要素から成り立っています。
 先ほど、親御さんに「ほめる」よりも「喜ぶ」を大事にしてほしいと言ったのは、この「自尊」を意識してほしいという意味です。対して、「ほめる」という行為は、「自信」につながっています。

 たとえば、テストで「わあ、100点取ったの! すごいね〜!」とほめることの裏側には、「次も100点取れるように頑張ってね」という思いが隠れています。ほめることには、そういう意味合いが含まれているのです。
 これは子どもにとってはつらい状況です。〇〇ができるようになったら人はほめてくれる。できなかったらほめてくれない。それどころかけなされる。つまり、頑張りつづけないといけない世界だからです。

 一方、喜ぶというのは「あなたがうれしいなら、私はうれしい」ということです。子どもが赤ちゃんだったころは、みんなそうだったでしょう? お母さんが、いないいないばあ〜とやると、赤ちゃんがきゃっきゃっと喜ぶ。するとお母さんもうれしくなる。ふたりして笑っている。そんなイメージです。
 これは「あなたはあなたでいてよ」というメッセージです。赤ちゃんのころ、わが子が泣いても叱らなかったでしょう? どうしたの?とやさしく声をかけ、大丈夫だよと安心させる。そんなふうにかかわっていたはずです。

自分の人生は、自分で選ぶ

 自己肯定感とは何かをもう少しわかりやすくいうと、下図のような意識から構成されています。

 このうち「自尊(心)」はどこから生まれるかというと、赤ちゃんのときからです。大人から尊重され、価値を認められ、ほめられ励まされるという体験が多ければ多いほど、自尊心は高くなっていきます。
 そういわれると、「自分は子どもが小さいころ、そういうことをちゃんとやってこなかった…」と焦る親御さんもいるかもしれませんが、過去を悔やんでもしかたがありません。でも、未来は変えられます。

 「自尊心」の形成にもっとも重要な影響を与えるのは、「自分でこの道を選択した」ということです。「学校に行かない」ことは自分で選択したわけではないかもしれないけど、そうしてよかったと本人が思えれば、へこまないで済むのです。
 そして、本当に「不登校になってよかった」と思えるのは、その子が自分の意思で「再び学校に行くことを選択した」ときです。一度は学校に行けなくなったけれど、今度は自分で選んで「学校に行くこと」を決めた。親にも誰にも強制されたわけではなく、「自分で選んだ」ということが大事なのです。

 現在、うちの適応指導教室に通っている小6の子で、「中1から学校に行く」と言って勉強をやりだした子が何人かいます。実際に行けるかどうかはわかりませんが、そうやって「自分で決めた」ときの子どもたちのやる気は半端じゃありません。

 うちでは「OK!学習法」というちょっと変わった勉強の教え方をしているんですが、まず10分とか時間を区切って、各自できるところまで問題集をやったあと、答え合わせをするんですね。そして、スタッフは、その子が間違えたところに「OK!」とニコニコしながら印をつける。なぜなら、間違えたところはその子にとって「伸びしろ」であり、だから、「よく間違えたね! OK!」と言うわけです。
 こんなふうに間違いをポジティブに受けとめて勉強を進めていくと、自分の意思で「学校に行く」と決めた子どもたちはますますやる気を出し、小6なのにすでに中学校の勉強にも取り組んでいるほどです。

 自分の意思で人生の選択をしたとき、それがどんなに大変であろうと、「自分で選んだことだから」「自分で決めたことだから」と納得できる。そこまで行ってはじめて、本物の「自尊心」「自己肯定感」が育まれる。不登校というものは、そのことを学ぶ絶好の機会ではないかと思います。

不登校はなぜ長引きやすいのか

 当たり前のことですが、不登校とは「欠席が続く」という問題です。そして、欠席が続けば続くほど、子どもの「感情」「行動」「認知(思考やイメージ)」という3つの側面で、欠席を続けさせる、あるいは欠席を増やしていくような要因が新たに生まれてきます。これが、不登校を長引かせる主な原因です。

 そもそも学校に行けなくなった原因(きっかけ)は、学校で嫌なことがあったからです。でも、10日連続で休みが続いたりすると、「感情面」「行動面」「認知面」で互いに悪影響を及ぼしあうような悪循環が生まれ、単に「学校で嫌なことがあったから」だけでは説明のつかない状況におちいります。

 たとえばあなたがジャンケンをして10回連続で負けたとしたら、「自分はダメだ」「もうジャンケンはしたくない」という気分になってきませんか。たかがジャンケンですらそうなのですから、毎朝、学校に行くか行かないか悩みつづけて、それでもやっぱり行けないとなると、「自分はダメだ」と思っても不思議はありません。
 不登校になって休みが増えていく中、感情・行動・認知が三つ巴となって「学校が嫌だ」「行きたくない」「自分はダメだ」という思いを強めていくのです。

感情面の悪化のメカニズム

 「感情面」については、まず、学校に行けないことが続くと、学校がどんどん嫌になっていきます。学校への行きにくさもますます強まります。それなのに、実は子どもたちの8割以上が「学校に行かなきゃ」とか「学校に行ったほうがいい」と思っています。「行かなくてもいい」と思っている子は1割5分くらいしかいません。
 この時期の子どもは、「学校に行ったほうがいい」と思っているにもかかわらず、学校がどんどん嫌になり、行きにくくなるために、「行かなきゃ」と「行きたくない」の間で心が引き裂かれ、ひどく傷ついてしまうのです。

 上図のように、子どもたちは、毎朝、不登校のきっかけとなった嫌な体験を思い出します。思い出せば思い出すほど、嫌な体験によって引き起こされる不快感(不安)がつのっていきます。そして、しだいに嫌な体験だけでなく、それとは関係のない学校でのさまざまな場面や、親しい友だち、先生までもが嫌な感情と強く結びつき、不安をよびさます存在となってしまうのです。
 不登校になった当初は友だちと会えていたのに、休みが続くにつれて仲のよい友だちとも会わなくなってしまったという話をよく聞きますが、それはこうした感情面の悪化のメカニズムによって引き起こされるのです。

 それらの感情に加えて、いま感じている不快感と似通った感情を過去に味わった経験があると、その過去の不快感までもが頭に浮かんでしまい、現在の不快感がよけいに強まってしまうことがあります。
 たとえば、過去にいじめられた経験があり、いま起きた出来事は友だちとケンカをして一日無視されたという経験だとしましょう。でも、すぐに先生が間に入ってくれて仲直りし、「また明日ね!」と元気に家に帰ったのですが、過去にいじめで無視された経験と、いまの経験が結びついてしまい、ものすごく嫌なことのように感じられてしまう、ということがよくあります。

行動面・認知面の悪化のメカニズム

 「行動面」としては、学校に行かないとますます行きにくくなるというメカニズムがあるのですが、それはなぜでしょうか。
 そもそも嫌なことがあったから学校を休んだわけですが、するとその子は「学校を休むことによって嫌なことから逃れられた」「行かないでよかった」という安堵感を味わいます。この安堵感が、不登校という行動を強める働きをするのです。
 学校でものすごく嫌な思いをして、それでも我慢に我慢を重ねてギリギリまで頑張っていた子がついに行けなくなったという場合、その安堵感はとてつもなく大きく、そのぶん「学校への行きにくさ」は強まります。そのため、ギリギリまで我慢していた子ほど、回復までに相当の時間が必要になります。

 「認知面」でいえば、「学校に行かなくちゃいけない」という意思が強い子ほど、感情面や行動面の悪化が「自己概念」を悪化させるように働きます。「行かなくちゃ」と思うからこそ、「行けない自分はダメだ」「自分が悪い」「自分は弱い」と考えるようになり、この考えがその子の自己肯定感を下げるのです。

不登校を経て、新しい自分を獲得する

 不登校の子どもたちの自己肯定感が圧倒的に下がるのは、自信を失うからです。「みんなは普通に学校に行っているのに、自分はそんな普通のこともできないダメな人間だ」と子どもたちはよく言います。人と比べて、自分は人より劣っていると考え、自信を失ってしまうのです。
 しかし、本当の自信とは、「昨日に比べて自分は伸びている」「よくなっている」という感覚がもてることであり、そういう感覚を積み上げていく中で、その子の中に少しずつ自信が育まれていきます。

 その結果、学校に行けなかった子が行けるようになったとしたら、それはまさに不登校という道を選ばざるを得なかった子が、その経験をスプリングボードにして、これまでとは違う新しい自分として別世界に飛び立とうとしているのです。
 そんなとき、親は「やっと元気なころの息子も戻った」とか「元のあの子に戻ってくれた」と考えがちですが、そうではありません。その子は、これまでとは違う次元の新しい自分として歩いていくことを自分で選びとり、いまそこに向かって進んでいる最中なのです。
 親御さんはもちろん、その子自身がそんなふうに考えられるようなかかわりを心がけてほしいと思います。

「こころの健康」を高めるかかわり

 具体的なかかわり方としては、まず「こころの健康」が高まるような体験をできるだけ多く与えるようにしてください。
 「こころの健康」が高まるような体験とは、下図に示した4つの体験です。
 そして、この4つの状況をつくりだすためには、本人の好きなこと、得意なことを探し、その面でつきあうことが大事です。

 たとえば、お父さんの影響でゴルフに興味をもった子どもがいたら、一緒に打ちっぱなしに行こうと誘ったり、親子でコースを回るのもいいかもしれません。
 ある男の子は博物館が大好きで毎週のように通っていましたが、そのうちお母さんも同行するようになり、いまでは親子で博物館めぐりを楽しんでいるそうです。

 「平日の昼間にブラブラしている」ことに後ろめたさを感じる親御さんもいますが、せっかく学校に行ってないんだから、行ってないからこそできることを体験させてあげましょう。ウイークデーはどこも空いていておすすめですよ。

不快な感情の後ろには、その子の「要求」がある

 これまでの私たちの研究により、子どもの「対人不安」の改善が、不登校の改善に役立つことが明らかになっています。そしていま、コロナ禍により「人に対する怖さ」というものが非常に強まっています。小中学校における長期欠席者は、コロナ前に比べて16万人も増えています(厚労省調査)。コロナのせいで、私たちはみんな、以前よりずっと「人が怖くなった」のです。

 実は、「人が怖い」という気持ちをやわらげるのにいちばん役に立つのは親です。これは、私たちの適応指導教室に通っている子どもたちのデータを精密に分析した結果、浮かび上がってきたことです。
 そのために必要な親のかかわりは、次の4つです。

①わずかな改善を認め、喜び、ほめる
②不快な感情を言葉で表現するのを手伝う
③子どもと日常会話をする
④子どもの好きなこと、得意なことを共有する


 この②がなかなか難しいのですが、実は、親ならみんなやっていたことです。少なくとも子どもが赤ちゃんのころは絶対にやっています。ですから、ちょっと昔に戻って、そこを思い出してほしいと思います。
 「不快な感情を言葉で表現するのを手伝う」とは、まず、子どもの不快な感情を受け入れること。そして、「不快な感情」の後ろには必ず「要求」(願い)がありますから、その願いを受けとめるということです。

 たとえば、「恐怖」の後ろには「生き延びたい」という願いがあります。また、恐怖の正体が見えなくて漠然とした怖さを感じている状態を「不安」といい、その後ろには「よりよく生きたい」という願いがあります。
 いちばん生産的なのが「怒り」で、その願いは「お前が変われ、私が変われ、環境が変われ」です。だから私は、子どもから「怒り」が出てきたら「ずいぶん前に進んだね。よかったね」と思います。そして、上手に怒らせることが肝心です。
 「悲しみ」の後ろにあるのは「助けて!」という願いです。赤ちゃんが泣いたとき、お母さんはみんな助けに行ったはずです。よく「泣ける映画」と言いますが、みんな、なぜお金を払ってまで泣きに行くのか。つらい体験をした主人公が「助かってよかった」という感覚を味わうためです。そして、泣いてすっきりする。それは、「助けられてよかった」という感覚が自分の中にもあるからです。

子どもの不快な感情を受け入れるには?

 「不快な感情」を受け入れるために必要なかかわりは、下図に示した5つです。

①安心できる環境の中で心地よく過ごす

 子どもの心が回復に向かうためには、心が自由に解放されることが必要であり、安心して居心地よく過ごす時間が不可欠です。何も特別なことをする必要はありません。親子で、ただまったりと時間を過ごす。同じ夕日を見て、「きれいだね」と言い合う、その思いを共有する。一緒にごはんを食べて、「おいしいね」と笑顔をかわす。そういう時間が必要だということです。
 それになんの意味があるのか、そうすれば学校に行くようになるのか、という効率主義的な見方ではなく、親子でそういう時間をもつことこそが重要なのです。

②感情と身体の感覚に気づき、そこに言葉を与える

 たとえば、子どもが浮かない顔をしていたら、「なんだか浮かない顔をしているね」「心配ごとがあるみたいだね」とその子の様子を言葉にして投げかける。
 ほかにも、「イライラしてるみたいだね」「嫌になっちゃうね」「残念だね」「悔しいね」「悲しいね」「寂しいね」など、その子の不快な感情に言葉を与えてあげると、子どももその言葉を使って自分の感情や感覚を表現しやすくなります。
 感情は、それが不快なものやネガティブなものであっても、否定したり抑え込むべきものではありません。だからまず、親は「不快な感情をため込まず、抑え込まず、言葉で表現していいんだよ」というメッセージを出してほしい。そして、子どものネガティブな感情に言葉を与えてほしい。そうすれば、子どもは自分の気持ちを表現しやすくなるし、感情が表現できれば、その後ろにある要求(願い)も表現しやすくなるのです。

③感情をコントロールしたときを待ち、それを喜ぶ

 そうして不快な感情や背後にある要求を言葉にできたあとで、その子の機嫌が直り、落ち着きを取り戻せたことを、本人に印象づけることも大切です。

④自分で感情を調整しようとしたことを認める

 子どもが不快な感情の大波に飲み込まれないよう、大波が来る前にコントロールする方法はいろいろありますが、たいていは大波に負けてしまいます。ですから感情は抑え込むよりも吐き出して、その後ろにある要求(願い)を表現できるようになることのほうが大事です。

⑤不快な感情に支配されたときに、安定した感情になるまで、安定して、不安を抱かずに子どもにつきあう

 子どもが不快な感情の大波に飲み込まれたときも、親はその感情に圧倒されないよう、あわてず騒がずどっしりかまえてつきあってください。

子どもの要求を受けとめるには?

 親が、子どもの不快な感情の後ろにある「要求」を受けとめるためには、下図に示した7つのかかわりが大切です。

 まず、3番目にあげましたが、「受け入れ可能な要求(願い)は充足するが、無理な要求(願い)は許容しない」ということ。つまり、子どもの要求をぜんぶ「受け入れる」必要はなくて、ダメなものはダメと言ってかまわないということです。
 たとえば、「学校に行ってほしいなら100万円よこせ」なんて言われても無理ですから、「それはできない」と断っていい。ただ、受け入れはしないけど、その願いは受けとめること。「ああ、あなたは100万円ほしいのね」と受けとめ、「でも、ダメなの」と、にっこり笑ってばっさり切るのが大人の対応というものです。
 そして、子どもの願いが実現できないときは、4番目に示した「願いの実現に複数の対案を選択肢として考え、子どもに選択させ、その選択を承認する」というかかわりを心がけてください。

 なお、先にお話ししたように子どもの「感情」は受け入れてください。「悲しい」「寂しい」「残念だ」…そういう感情は受け入れてほしいのですが、でも、「要求」はなんでもかんでも受け入れる必要はないということです。そこのところを履き違えないようにしましょう。

人との出会いを応援する

 最後に、ちょっと付け足しです。これは、不登校状態が改善したとき、親のどのようなかかわりが効果的だったかという調査データにもとづいた結論ですが、不登校が本格化したあとの早い段階で、その子が友だち関係を広げることについて、親はできるだけ応援してください。
 具体的には、下図に示したように、「本人がつきあいたい友人がいれば、その関係を尊重し、友人関係の継続を後押しする」といったことがあげられます。別に学校の友だちでなくてもかまいません。公民館で出会った友だち、塾の友だちなど、その子がつきあいたい子がいれば応援してあげてください。

 その子が、早い段階で外の世界に出ることは重要です。外に出たら出たで傷つくこともあるかもしれません。でも、いいこともあるんです。
 先に紹介した2万6000人の不登校の子どもたちの追跡調査でも、不登校が回復したケースで、そのきっかけとなった出来事としてもっとも多かったのが「外で誰かと出会った」ことでした。同世代の友だちばかりではありません。「釣道具屋のおじさんに釣りを教えてもらった」のがきっかけになったという子もいます。とにかく外に出ないかぎり、変化は起こりません。ぜひ、仲間と出会う、人と出会うことをお手伝いしてほしいと思います。

 以上、お伝えしたいことがありすぎて駆け足になってしまいましたが、最後までご静聴ありがとうございました。

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