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Q&A 「入れる」より「通える」を大切にした進路選択

2020年9月27日に開催されたセミナー106の第2部の内容をまとめました。


回答者 齊藤真沙美(東京女子体育大学・東京女子体育短期大学准教授)
小栗 貴弘(跡見学園女子大学心理学部准教授)
荒井 裕司(登進研代表)
※講師の肩書きはセミナー開催時のものです。

Q1 放課後登校をしている小2の女の子

 現在小2の娘は、小1の4月末から理由もわからずに行きたくないと休みはじめました。校長先生から「好きな時に来ていい」と言われ、私(母)と娘で相談して今年6月から放課後に登校しています。その間、担任と図書室に行ったり、絵を描いたり、宿題をしたりして30分ほど学校にいます。
 今は日中に学校に行くことはできないと言い、クラスの子には会いたくないようです。家では元気です。このまま見守るだけでいいのか、何かきっかけをつくってあげたほうがいいのでしょうか。

A1 担任を起点にして支援する人を増やす(講師:小栗貴弘)

 ご質問の最後に「このまま見守るだけでいいのか、何かきっかけをつくってあげたほうがいいのでしょうか」とありますが、このお母さんは、決して「見守っているだけ」ではありません。たとえば、放課後登校ができるように学校と話し合いもされたでしょうし、放課後の過ごし方について担任の先生とも相談されたはずです。そして、実際に放課後登校ができるまでに至っていますから、かなり順調に進んでいるほうだと思います。ただし、ここで欲を出しすぎると裏目に出ることがありますので、焦りは禁物です。

 小学校低学年くらいで不登校になると理由がわからないことが多いのですが、それは、本人が幼いために「私は○○の理由で学校に行きたくない」と言葉で説明するのが難しいからです。しかし、原因がわからないからといって対応できないわけではなく、逆に、原因がわかっているのに解決できないことも多々あります。ですから、原因にあまりこだわらないほうがいいですね。

 この女の子が、学校に行くことについて実際にどれくらいの困難さを抱えているかはわかりませんが、私が不登校の子どもたちが抱えている困難さをアセスメント(評価)する際は、次の3つをポイントにしています。

 ①学習(学習能力も含めて、学業がどの程度追いついているか)
 ②対人関係(友だちとどの程度かかわれるか、友だちをつくる力が育っているか)
 ③セルフコントロール(自分を律する力が育っているか)


 しかし、小学校低学年の子が不登校になった場合、学習やセルフコントロールの面が問題になることはほとんどありません。となると対人関係、つまり友だちとどれくらいかかわれるか、かかわる人の範囲をどれだけ広げてあげられるかが重要になってきます。
 ですから現在、放課後登校をするなかで、担任の先生とかかわれることはとても大事なポイントです。今後は、この担任の先生を起点にして、学校の中でこの子がかかわれる人間を増やしていくことを考えてみたらどうでしょう。

 私の経験からいえば、小学生の子どもたちにはゲーム感覚のかかわり方を取り入れるとうまくいくことがけっこうありました。たとえば、「スタンプラリー」と遊びでは、担任の先生と一緒に校内をめぐって、まず図工の先生にあいさつしてサインをもらう、次は図書室に行って司書の方にサインをもらう、音楽室に行ってサインをもらう…という具合です。
 そうした遊びを通して、行ける場所やかかわる人の範囲を少しずつ広げていくと、校内でこの子を支援する人が増えていくし、支援のやり方にも広がりが出てきます。
 このように放課後登校における担任とのかかわりを起点にして、人とかかわる力を育てていくことが、親御さんを含めた周りの人たちが支援していく方向性なのかなと思います。

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Q2 音や光に敏感な小5の男の子

 小5の息子は小さい頃から音や光に敏感で、騒がしい場所が苦手です。小1から行きしぶりがあり、それでも小3の1学期まで普通に通っていましたが、秋の運動会後にパタリと行かなくなりました。その後、私(母)が同伴登校して徐々に行けるようになり、安定してきたので私が仕事を始めたところ、また行けなくなりました。
 小5の今は私と一緒に放課後登校をして、担任の先生に宿題等を見てもらっています。勉強する意欲はあり、自宅で宿題もします。朝に登校できるよう先生が迎えに来てくれるとたまに行くこともありますが、私が促してもまったく動きません。
 ひとり親家庭なので不登校の対応は私一人でやっており、息子は担任の先生以外は拒否するので、相談したり頼れる人がいない状態です。このような状況で、親としてできることは何かを教えてください。

A2 過敏な特性に配慮した環境を整える(講師:齊藤真沙美)

 この男の子は小学5年生なので、今後の中学進学を見越して、この子に合った環境をどう整えていくかがポイントになると思います。そのためには、「音や光に敏感で、騒がしい場所が苦手」という特徴、つまり、「感覚過敏」というこの子の特性に配慮する必要があるでしょう。

 「感覚過敏」という言葉はご存じの方も多いと思いますが、この子のように音に敏感な「聴覚過敏」や光に敏感な「視覚過敏」のほか、においに強く反応する「嗅覚過敏」、衣服などに肌が触れたときに痛みに近いものを感じるといった「触覚過敏」などがあります。
 このように敏感な感覚は、周囲の人たちになかなか理解してもらえません。また、本人は生まれてからずっと過敏な状態でいるため、「ほかの人たちもみんな同じ状態なんだ」と思い込んでいて、みんなは普通に暮らしているのに、なぜ自分だけ我慢ができないのかと自分を責めるなど、その特性ゆえに苦しんでいることがたくさんあります。まず、そのことを理解してあげることが重要になってきます。

 感覚過敏のある子どもたちは、大きく2つのパターンに分けられます。
 ひとつは、「自閉スペクトラム症」とよばれる発達障害の特性からくるもの。もうひとつは、HSC(Highly Sensitive Child=ひといちばい敏感な子)によるものです(発達障害とHSCが重なっている場合もあります)。
 感覚過敏があることから、この2つは混同されることがありますが、自閉スペクトラム症の場合はコミュニケーションの難しさがあり、相手の感情を読みとりづらいのが特徴です。一方、HSCの場合は、むしろ相手の感情がわかりすぎて、相手の感情を自分の感情のように感じてしまい、不安になったり、身動きがとれなくなることもあります。

その子が過ごしやすい環境を把握する

 この男の子はHSCのような過敏さが特徴的で、共感性が高いために周囲に気をつかいすぎてつらくなることが多いように思います。それでも頑張って必死の思いで3年生の1学期まで登校していたのではないしょうか。運動会後にパタリと行かなくなったそうですが、運動会などの行事はふだんより神経をつかうので疲れ果ててしまったのでしょう。

 その後、お母さんの同伴というサポートがあり、なんとかギリギリのところで登校できていたのだと思いますが、結局、その疲れがたまってきて、お母さんの同伴がなくなったところで、再び行けなくなったと見ることができそうです。ですから、そういう敏感さに配慮して、登校に向けた環境整備を考えることが第一です。

 まずは、「どんな環境なら過ごしやすいのか、過ごしにくいのか」を本人に確認すること。音に敏感ですから、音楽の授業やクラス全体で話し合う時間、班活動などはかなり疲れるはずです。その中で本人が登校しやすい時間や活動を選んで短時間の登校からスタートし、実際に行ってみて、「疲れの度合いはどうか」「どの活動ならできそうか」「何分いたら無理になりそうか」を確認し整理します。

 この子の場合、同級生が30〜40人もいる教室で過ごすのは負担が大きすぎるので、保健室や相談室などに「別室登校」するか、各自治体にある「教育支援センター」(適応指導教室)も少人数でこぢんまりしたところが多く、中学生になっても利用できるので、選択肢として検討してみてください。

 中学校進学にあたっては、この子の特性を学校側に十分に理解してもらい、どんな登校の仕方ができるのかを話し合うことが大切です。学習意欲があることは大事な要素です。この意欲がそがれることのないように、家庭学習も含めてどんな環境なら学習できるのかを確認し、学習できていることについてはプラスの評価を伝えながら進めていきます。
 そろそろ思春期に入るので、本人が自分の特性を理解することも重要になってきます。自分が苦手なこと、苦手な環境をもう一度整理し、自分が過ごしやすい環境を自分で選べるように、さまざまな情報提供を行うことも大切です。

 最近はサポートツールなどもかなり普及してきました。
 たとえば、ヘッドホン型の「防音イヤーマフ」は聴覚過敏の人向けで、不快な音を遮断する機能があります。視覚過敏の人は、光の加減を調整できるサングラスをかけると光の刺激が軽減される場合があります。これらのツールも上手に利用しながら、安心して過ごせて、疲れをためこまない環境を整えていくことが大切です。

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Q3 実力以上の進学校に進んだ中2の男の子

 私立中高一貫校で中2の息子は、中1の6月から五月雨登校になりました。実力以上の進学校だったので、同級生と比べて劣等感をつのらせていたようです。小学校時代に監督が厳しくてやめてしまった野球部に「今度こそ」と入部し、ここでも上手な生徒や厳しい練習にプレッシャーを感じていたようです。
 中2になり、担任の先生やスクールカウンセラーと相談しながら、「まずは保健室登校から始めて、学校で過ごす時間をできるだけ増やし、少しずつ教室に戻す」という方針で進めていますが、このような進め方でよいでしょうか。環境を変えたほうがよいかとも思い、本人に聞いてみたこともありますが、本人は「まだやれる」と思っているのか、転校する気は今はないようです。

A3 内部進学ができないことも想定しながら進路情報の収集を(講師:荒井裕司)

 ご存じの方も多いかと思いますが、中高一貫校の進学校に入学すると、息つく暇もなく、勉強やテストに追いまくられ、ずっと戦闘状態が続いているような状況になります。のんびり青春を満喫しようと思っていたら、日々クラスメートとしのぎを削る生活に投げ込まれ、しんどさを感じる子も少なくありません。小学生の頃から受験塾に通いつめ、合格はしたもののすでに燃え尽きてしまい、登校できなくなってしまう子もいます。

 この男の子は、現在、別室登校(保健室登校)を始めて、少しずつ学校で過ごす時間を増やしながら教室に復帰することを目指しているとのことですが、まだ中2ですし、本人も「まだやれる」と思っているようですから、その方向でサポートしていけば大丈夫でしょう。
 ただし、私立中高一貫の進学校は授業の進度が非常に速いため、勉強面でついていけるかどうかがネックになってきます。この点については、もう少し元気が回復してからでいいと思いますが、個別指導の学習塾に通ったり、家庭教師をつけるなどして、勉強面のサポートをする必要があるかもしれません。

 この子は今は転校する気はないようですから、このまま現在の学校に籍を置いて、中3になった段階で学校側と内部進学ができるかどうか相談することになると思います。その時点で、この子がまだ教室への復帰ができていなければ、「内部進学はできません」「ただし、留年はできますよ」と言われることもあります。
 そのとき、せっかく猛勉強して入学した学校だから、できれば転校したくない。1年留年してでも、もう一度、内部進学に挑戦してみようかと思うかもしれません。しかし、私がかかわってきた子どもたちを見ても、中学生の段階で1学年下の生徒と同級生になることは、メンタル的に厳しく、再び不登校になってしまうなど、うまくいかないケースが非常に多いので、できれば留年は避けたほうがいいと思っています。

 では、どうすればよいかですが、「内部進学ができない」という厳しい現実をしっかり受けとめ、親子でじっくり話し合い、その子に合った学びの場を一緒に探していこうという方向で話を進めたらどうかと思います。
 できれば親御さんが事前に候補となる学校をいくつかピックアップして下見に行き、本人の希望を確認しながら候補をしぼり、一緒に学校見学に行ってみようと背中を押してあげたらどうでしょう。現時点でできることとして、親御さんには、内部進学ができない場合も踏まえて情報を集めていただければと思います。

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Q4 ADHDと診断された中2男子

 中2の息子は、小6のときにADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されました。中学校入学後すぐにクラスの一部の女子から「キモい」と言われ、小学校時代からの友だちの男の子が怒って抗議をしようとしたらしいのですが、本人は「大丈夫」と言っていたそうです(親はこのことを先日知った)。
 その頃からお腹が痛いと学校を休むようになり、中2の今は1日も登校していません。朝起こしても布団をかぶって返事もせず、昼過ぎに起きて夜中までゲームをする毎日です。定期試験も受けず、家庭教師も塾も自分で勉強するからとやめてしまいました。どうしたらこの状況から抜け出せるのでしょうか。

A4 キーパーソンの力を借りて人とかかわる機会をつくる(講師:小栗貴弘)

 ADHDの子どもは、落ち着きなく動きまわる、注意力が散漫、人の話をよく聞かない、忘れ物が多いなど、さまざまな特徴的な症状があります。そのため、不真面目、いいかげんなどと思われがちですが、実は本人は、授業中は静かにしよう、忘れ物に気をつけよう、先生の話をよく聞かなくちゃ…と思っています。しかし、思っていてもできない。本人の努力ではどうにもならないのです。

 発達障害は、下の表のように大きく3つに分類されます。身体の障害のように一見してわかる障害ではないので、そのハンディをまわりの人に理解してもらえないことが多く、それが本人の生きづらさ、しんどさをますます複雑にしています。


発達障害の特性
自閉スペクトラム症
(ASD)
・社会的なコミュニケーションや対人関係の困難さ
・行動・興味のかたより、反復行動
・感覚に関する過敏さ、または鈍感さ
注意欠如・多動症
(ADHD)
・不注意(集中できない)
・多動性(じっとしていられない)
・衝動性(思いつくと行動してしまう)
学習障害(LD) ・読字障害(ディスレクシア)
・書字障害(ディスグラフィア)
・算数障害(ディスカリキュリア)など

二次障害って何?

 この男の子は不登校状態にあります。もちろん発達障害の子どもがすべて不登校になるわけではありませんが、①発達障害と診断された時期、②診断後、適切な対応をされてきたかどうかが、その子の自己肯定感に大きく影響します。自己肯定感が極度に低下すると二次障害につながりやすいのです。

 「二次障害」とは、発達障害による日常生活の困難さに加え、周囲の無理解によって、小さいころから「困った子」「問題児」として叱責されたり否定的な評価をされつづけ、その結果、自尊心が低下したり、集団から孤立し、人とかかわれない、学校に行けないといった問題が二次的に起こることをいいます。

 この男の子は小6で診断を受けていますが、逆にいえば、小6まで適切な対応をされてこなかったわけで、おそらく多くの傷つき体験をしてきたと思います。そのうえ中学校入学直後に女子から「キモい」と言われ、それまでなんとか頑張ってきた心のつっかえ棒がポキッと折れてしまったのでしょう。

自己肯定感を高めるには

 解決のカギは「自己肯定感」にあります。自己肯定感がひどく低下した状態では、どんな支援の手も本人には届きません。この子は、もうこれ以上自分のカッコ悪い姿を見られたくないし、だから外出もできない。家庭教師や塾にもかかわりたくない。ダメな自分に向き合いたくないからゲームに逃げ込む。なんとかして自己肯定感を上げてあげなければ、この子は身動きがとれません。

 小中学校にはスクールカウンセラーがいますし、校内に相談員を配置している自治体もあります。家から出られない場合は、スクールカウンセラーや相談員が家庭訪問をしてくれるので相談してみるといいかもしれません。
 塾も家庭教師もやめてしまったので、現在、この子と外の世界をつなげてくれるキーパーソンがいません。家庭訪問で劇的に何かが変わるわけではありませんが、そこで関係がつくれると、別室登校(相談室登校や保健室登校など)や教育支援センター(適応指導教室)などにつながる可能性もあります。

 相談室や教育支援センターに週に何回かでも通えるようになって、人と話す機会が増えてくれば、対人関係や学校生活への抵抗感も少しずつやわらいできますし、高校に進学した際の適応の度合いが大きく変わってきます。高校進学を考えるにあたっては、できれば「ここなら進学できる」「合格できる」ということだけでなく、この子のADHDという特性をきちんと理解し、そこに配慮した対応をしてくれるかどうかを重視して学校選びをすることが大事です。つまり、「入れる」より「その子らしく通える」学校選びということです。

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Q5 いい人を演じて疲れてしまった中2女子

 私立中高一貫校で中2の娘は、中1のときのクラスが、嫌な女子、合わない女子がほとんどだったため、クラスで嫌われないように「やさしい人」「いい人」を演じて、「嫌と言わない」「反発しない」ようにしていたらしいのですが、ストレスがたまって家で爆発するようになり、不安定になると学校に行けなくなってしまいました。
 人との関係や他人にどう思われるかを非常に気にする性格で、そのため学校や地域のカウンセリング、相談機関等には行けません。家族はどう接していけばよいでしょうか。

A5 グチれる場所があることはガス抜きにつながる(講師:齊藤真沙美)

 この女の子は、人の気持ちがよくわかって、人の立場になって配慮のできる子なんだろうと思います。具体的にはわかりませんが、中1のときに少なからず傷つき体験があり、クラス内でハブられることのないように必死にクラスメートの顔色を見ながら頑張ってきたのではないでしょうか。それで気をつかいすぎ、頑張りすぎてしまった結果、たまりにたまったストレスが爆発してしまったのが現状だろうと思います。

 ただ、お家で爆発できたことはよかったのではないでしょうか。これ以上、無理を重ねると、精神的な負担がより大きくなって体調が悪くなったり、ますます学校に足が向きにくくなってしまいます。家族にストレスをぶつけることができたのは大きな一歩です。

 こんなふうに外で周囲に気をつかう子が、家庭内で自分の気持ちを表現できるのはとてもいいことです。学校であった嫌なことやつらかったことを家族にグチれるようになると、だいぶガス抜きができます。グチも言わず、お家のなかでも「いい子」でいつづけると必ずどこかで爆発しますので、グチというかたちで小刻みにガス抜きができることは重要です。
 親としては、そんな子どものグチを、「嫌な思いをしたんだね」「大変だったね」と共感的に聞いてあげること、そして、「よく頑張っているよね」とわが子の頑張りを評価してあげることが大切です。

カウンセリングに合わないタイプの子もいる

 こういうタイプのお子さんは、カウンセリングに来ても「いい子」を演じてしまうことがよくあります。カウンセラーに気に入られないといけないとか、カウンセラーが期待しているような答え方をしないといけないと考えてしまうので、家に帰るとどっと疲れてしまったり、家に帰ってから荒れるといったことが起こりがちです。

 この子の場合は、家で爆発できているので、無理にカウンセラーにつなぐ必要はないかと思いますし、ご家族が折にふれて、「ありのままの自分でいていいんだよ」と伝えるなかで、本人も「それでいいんだ。大丈夫なんだ」という安心感が得られれば、自分が安心できる人、信頼できる人に対してはだんだんと気持ちを出せるようになってくるでしょう。まずは、家庭内で安心できる時間を過ごすことが大切です。

 また、親御さんがまず相談機関に行って、「行ってよかった」という顔で帰ってくると、お子さんも行ってみようかなと思うことがあります。カウンセリングに行くと、いろいろ聞かれるんじゃないかなどと思って嫌がる子もいますが、地域(自治体)の相談機関などでは、主に低年齢の子を対象に「プレイセラピー」といって遊びを通じてセラピーを行うこともあります。中学生の場合でも、たとえば、まわりにすごく気をつかって自分の気持ちを言葉でうまく表現できない子がいましたが、その子とはほとんど会話をせず、2年半くらい毎週、私とひたすら「モノポリー」というボードゲームをやり続けたことがあります。正直、それをやることにどんな意味があるのかと思ったこともありましたが、その子が高校に進学後、「何も聞かずにいつも同じようにモノポリーをしてくれたことに支えられた」と話してくれたことがあります。そのように、好きなこと、やりたいことを共有できる場で人と交流することも、セラピーのひとつのあり方なのかもしれません。

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Q6 中高一貫校で内部進学できない場合の選択肢は?

 息子は中高一貫校の中3で、中2の春から登校できなくなりました。行きたい気持ちはあるのですが、行こうとすると頭痛、腹痛、じんましんが出て、月1回行くのが精一杯。中3になって以前より元気が出てきましたが、まだまだ毎日行けるところまではいきません。夜うまく眠れず、朝起きられないことが多いので、どうしても行きたい日は徹夜して行っています。
 復学できなければ別の高校を受験しなければなりません。そのためにどんな準備が必要か、どんな選択肢があるのかを教えてほしいです。

A6 自由度の高い学びの場や学びのかたちも選択肢として(講師:荒井裕司)

 中2の頃から学校に行こうとすると頭痛、腹痛、じんましんが出る、夜もあまり眠れないということから考えても、この子の心は学校に行ける状態ではありません。それでも行こうとするから体が拒絶反応を起こし、身体的な症状があらわれているのです。
 もし、この子が「学校は行かなければいけないもの」と思い込んでいるなら、その“常識”から彼を解放してあげるべきですし、大人側の価値観で「学校は行かなければいけない」ということを強いてきたとしたら、それを見直す必要があるでしょう。その思い込みによって、この子の体が変調をきたすことになったと考えられるからです。頭痛や腹痛、じんましんという症状は、「私を助けて!」というメッセージそのものだと思います。

 学校に行かない生き方もあるんですよ。たとえば、勉強は自宅でアプリを使ってやってもいいわけです。友だちが必要だったら、SNSを活用すれば同じ趣味の人たちが集まるのも簡単な時代です。これまで夜あまり眠れなかったなら、学校にとらわれず、ゆっくり眠る時間を確保して、体に負担のかからない生活リズムをつくったり、ちゃんと食事をとることも大事だとアドバイスをしてあげるべきでしょう。「大丈夫、学校なんか気にする必要ないよ」と言ってあげればいい。今は、学校にとらわれない新しい学びの場も、学びのかたちもありますから。

 たとえば、不登校中に海外に留学し、たくましくなって帰ってきた若者、自由度の高いインターナショナルスクールで自分の居場所を見つけた若者もいます。そして通信制高校も、今、新しい学びの場として注目をあびています。出席日数にとらわれないために自由度が高く、自分のリズムやペースに合わせて、やりたいことを見据えながら、自分の希望する学びのかたちを見つけることができるはずです。このように、日本の教育制度に規制されないさまざまな学びの場があるということです。

 さらに、このコロナ禍によって「不登校」という概念自体がなくなるかもしれません。学校に行かないで、家庭学習をした結果が単位として認められる、あるいはフリースクールで学んだことが単位として認められるなど、学ぶ場所が学校でなくてもいい時代に移行しつつあるように思います。
 そんな時代になりつつある現在、この子を体に変調をきたすまで「学校で学ぶ」という価値観で苦しめないでほしいのです。最終的には本人が決めることですが、そうした選択肢もあるという情報をこの子に伝えて、「学校を休んでいることぐらいで、そんなに苦しまなくてもいいんだよ」と言ってあげてほしいと思います。

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Q7 留年が危ぶまれる高1女子

 現在、高1の娘は、中2の終わり頃に塾に行けなくなり、中3の3学期から学校にも行けなくなってしまいました。高校には合格しましたが、コロナで休校になって意欲がそがれたのか、学校が再開しても登校できません。9月から週1回、相談室登校をしていますが、出席扱いにはならないので、このままでは留年になってしまいます。
 担任の先生がメール、電話、家庭訪問など熱心に働きかけてくれますが、朝になると頭痛がしたり、登校途中で気分が悪くなったりして、今のところ週1回が精一杯の様子です。本人も学校に戻りたいと思っているのですが、どうにもならず悩んでいます。

A7 週1回の登校ペースに合わせた進路選択(講師:小栗貴弘)

 A6のご相談と同様、この女の子にも身体症状がみられます。ここまで身体症状が出ていると、これ以上の無理はきかないでしょうし、これ以上頑張らせるのは酷だと思います。現状、週1回の相談室登校を続けているそうですが、週1回がこの子のギリギリの登校ペースなんだろうと思います。
 留年の可能性があるということですが、全日制高校の場合、留年になるかどうかの欠席日数の目安は、年間出席日数の3分の1。これを超えると留年になるといわれています。したがって、入学直後から学校に行けなくなり、その後もずっと休んでいるとなると、だいたい7月中に留年のデッドラインがやってきます。

 この子は、中2の終わり頃から塾に行けなくなり、中3の3学期からは学校にも行けなくなったわりには、高校に合格しています。つまり、自学自習する力や高校受験に合格するための学力は最低限身についていることがわかります。自学自習できるということは、自分を律する力がそれなりに育っていると考えられます。

 対人関係については何も書かれていないのでわかりませんが、たとえば、Highly Sensitive Child(人一倍敏感な子)のように、人と接することに疲れを感じるお子さんだとしたら、その子のペースとしては週1回が限度なのかもしれません。
 仮にそうだとして、無理をして週3〜4回くらい登校したとしても、おそらく長くは続かないでしょう。そうなると、この子の精一杯のペースである週1回をキープしながら、少しずつどのように登校日を増やしていくかがポイントになってきます。

 留年はこの子にとってさらに大きな傷つき体験になると思いますので、あまりおすすめできません。それよりは、コロナ禍の影響で留年のリミットが延びていることもあり、このまま週1回のペースで頑張ってみて、いよいよ留年となったら、週1回の登校ペースでも進級・卒業ができる高校に転校するのもひとつの選択肢かなと思います。そのためにも親御さんは、今から転入先の高校の情報収集などを始めておいたほうがよいでしょう。

 転入先としては、たとえば通信制高校やサポート校が考えられます。通信制といっても、最近は通学型の学校もたくさんできていて、週1日コース、週3日コースなど、自分のペースで通うことができます。転入先の高校で週1回でも登校が続けられ、卒業につながれば、この子の自信になるはずです。出席日数にしばられず、自分のペースに合った進路を選択する。この子が学校に合わせるのではなく、この子に合った学校を選ぶという方向で、進路を考えてほしいと思います。

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Q8 きょうだいで不登校になったとき

 現在、中2の息子は、小5から不登校ぎみになり、私立中高一貫校に進んだものの入学後すぐに行けなくなり、現在まで1日も登校できていません。下の小4の妹は小2から不登校です。兄が不登校ぎみになってから妹も行きしぶるようになり、結局完全に行かなくなりました。平日は両親が仕事に出かけると、ふたりでゲームやYouTubeで時間をつぶしているようです。
 兄の不登校のときはかなり厳しく登校を促したのですが、妹のときはすぐに行けないことを認めたせいか、兄は妹にきつく当たることが多く、きょうだいゲンカが絶えません。夫は子どものことにほとんどかかわってくれず、今後どうしたらいいか途方に暮れています

A8 2番目に不登校になった子へのかかわりから(講師:齊藤真沙美)

 きょうだいで不登校になると、はたから「家庭に問題があるのでは?」という目で見られたり、「私がきちんと対応しなかったから」と自分を責める親御さんも多いのではないでしょうか。また、不登校の子がひとりいると、学校に通っている他のきょうだいに負担がかかったり、我慢をしなければならなくなり、それが「きょうだいで不登校」の一因となることもあります。

 でも、この妹さんにとって、学校がとても居心地がよく、楽しいところであれば、家庭内にどんな状況があっても登校はするはずです。そう考えると、きょうだいで2番目以降に不登校になる子も、学校でなんらかの過ごしにくさや傷つき体験をもっているのではないかと考える必要があるでしょう。

 このケースのように、お兄ちゃんのときは厳しく登校を促したのに、妹さんのときは行けないことをすぐに認めたため、きょうだい間の葛藤が大きくなるのはよくあることです。また、お兄ちゃんが不登校で、妹さんが登校している場合、「なんでお兄ちゃんだけ学校を休んでいいの? ズルいよ。私だって休みたいのに」という不満も生じやすいのです。

きょうだいの不平不満を受けとめる

 そんなとき、登校しているお子さんが、お母さんに不平不満を言えるような関係になっているかどうかは、非常に大事なポイントです。
 このケースについていえば、お母さんはお兄ちゃんの気持ちをよく把握しています。このお兄ちゃんは、お母さんに対して、「自分のときは厳しく登校するように言われたのに、妹はズルい」とか、「どうして学校に行かないことを認めてくれなかったのか」など、率直に気持ちを伝えているのかもしれません。これはとても重要なことです。
 つまり、自分の不平不満を含めた正直な気持ちを言葉で表現すること。そして、それを親にしっかり受けとめてもらうこと。これらの作業をくりかえすことによって、本人のなかでネガティブな気持ちがしだいに昇華されていくのです。

 お母さんにしてみれば、はじめてお兄ちゃんの不登校問題に直面したとき、それを簡単に認めていいとは思えない状況があったわけですし、一方、お兄ちゃんにしてみれば、「妹はすぐに不登校を認めてもらった」「なんで僕だけあんなに厳しくされたのか」と理不尽な気持ちになるのも当然です。
 まずはお母さんが、自分の思いをお兄ちゃんに正直に伝え、お兄ちゃんの思いもよく聞いて、互いの思いを共有することが第一です。具体的には、お兄ちゃんが妹さんのどんな点にズルさを感じたり怒りを感じているのか、そういう思いをきちんと受けとめて、認めていくことが大切になります。

お母さんの負担を軽減するために

 きょうだいで不登校になると、学校への欠席連絡だけでも親の負担は2倍、3倍になります。下が小学生、上が中学生なら、小中それぞれに連絡しなければならない。もし同じ学区内の小学校と中学校なら、学校側に小中で連携してほしいと頼み、どちらか一方の担任を窓口にしてもらったり、スクールカウンセラーがキーパーソンになって両校に情報を伝えてもらう方法もあります。
 このお兄ちゃんは私立中高一貫校に在籍しているため、小学校との連携は難しいと思いますが、地域の教育相談機関を利用すれば、相談員が私立の学校と連携をとることもできます。
 すべて自分でしなければ、と抱えこまず、学校や相談機関に頼めるものは頼んで、できるだけ自分の負担を軽くするように心がけてください。

比較的ダメージの少ない子から取り組んでみる

 きょうだいで不登校になったとき、最初に不登校になった子のほうが、ギリギリまで我慢に我慢を重ね、行くか行かないかで葛藤した末に、倒れるように不登校になるケースが比較的多いように感じます。
 一方、2番目以降に不登校になった子は、もちろんしんどい状況に変わりはないけれど、すでにきょうだいの不登校を見ていることから、いざとなったら「学校に行かない」という選択肢があることを知っています。ですから、やはり最初に不登校になった子のほうが傷つき体験が大きいと考えるのが自然でしょう。
 したがって親のかかわり方としては、比較的ダメージの少ない2番目以降の子どもの不登校から取り組んだほうが、やりやすい面はあるかもしれません。

 ただし、日々の生活に追われるなかで、親御さんがそうした判断を下すことはなかなか難しい面がありますので、そのあたりの問題も含めて、ぜひ学校や地域のカウンセラーに相談していただきたいと思います。子どものことはお母さん任せなお父さんも、そうした相談の場でカウンセラーから言われると、案外素直に話を聞いてくれることが多いように感じています。

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