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サポート校における支援の実際

小林和貴

講師:小林和貴(東京国際学園高等部教諭)

 

講師および聞き手は、以下のとおりです。
講師  小林和貴(東京国際学園高等部教諭)

聞き手 霜村 麦(臨床心理士)

 

生徒だけでなく、親御さんの不安もサポート

霜村  今日は、長年サポート校で教師として不登校の子どもたちに寄り添ってきた小林先生に、いろいろお話を聞かせていただきたいと思っています。
 まず、サポート校では、中学時代に不登校だった生徒や、入学後も不登校ぎみの生徒に対して、どのような支援を行っているのか教えてください。
小林  サポート校とひとことで言っても、形態や特徴はさまざまです。生徒が行きたいときに行って、帰りたいときに帰れるフリースクールのような形態のところもあれば、週に1〜2回の登校をすすめているところもあります。
 本校の場合は、全日制高校と変わらないような学校生活を送るシステムになっており、全日制高校以上のものを用意している部分もあるかと思います。
 中学時代に不登校だった生徒の多くは、最初からフルに出席することは困難ですから、通常の授業以外にコンピュータやマンガ・アニメ、声優・タレントなど好きなジャンルを自分で選べるコース授業、部活動、選択授業など、その子らしさが発揮できる居場所をいろいろ用意して、少しずつ学校生活に慣れていき行動範囲を広げていけるようなしくみをつくっています。生徒一人ひとりの学力レベルに合わせた学習指導や進路指導も行っています。
霜村

 親御さんへのサポートも熱心になさっているとお聞きしましたが。

小林  親御さんへのはたらきかけとしては、保護者会や三者面談を通して、お子さんの学園内での様子をきめ細かに知らせることが中心になります。また、親御さんの不安や心配を解消するために、PTA活動を通して親同士のコミュニケーションを深めたり、情報交換をすることで、安心感を得てもらうような配慮もしています。
 PTA活動の一環として、本校が連携している長野県上田市の広域通信制「さくら国際高等学校」へのバスツアーを企画し、学校見学を兼ねて交流を深めたり、気分転換を図る試みなども行っています(注:サポート校は、通信制高校と連携して高校卒業資格を取得する教育システムであり、サポート校に入学した生徒は、同時に連携する通信制高校にも入学する)。
 不登校ぎみのお子さんを四六時中心配して、精神的にクタクタになっているお母さんも少なくありません。そんなお母さん方がPTA活動を通してリフレッシュできたり、元気を取り戻せるようにと行っているものです。そのことが、お子さんの元気にもつながると考えています。

サポート校の入学試験、どんなことをするの?

霜村   以前、このセミナーのアンケートで、次のような質問が寄せられました。

 「不登校の子どもたちは、中学校を卒業できたとしても、学力的には小学校レベルで止まっているケースが少なくありません。そういう生徒に対して、サポート校ではどんな支援をしているのでしょうか」という質問です。
 これについて、小林先生にお答えいただきたいと思います。

小林

 小学校レベルの学力しかないままサポート校に入学しても、授業についていけるのかといった不安は、お子さんにも保護者の方にもあることでしょう。
 こうした基礎学力面で自信のない生徒への支援にふれる前に、本校の入学試験について説明しておきたいと思います。
 本校に入学する生徒の7〜8割は、かつて不登校だった子どもたちです。そのため、入学試験でも中学校の出席日数や成績などは重要視していません。学力は合否の決め手ではなく、中学校からの内申書もその生徒を総合的に評価するための資料のひとつにすぎないと考えています。
 つまり、「あなたは今のままでいいよ」というメッセージが入学試験を通して生徒や保護者の方に伝わればいいかなと思っています。なによりもまず自分のペースで通学し、自分のペースで学ぶことを最優先する学校ですので、逆に、まわりの生徒のペースも尊重してあげられる寛容さを見せてほしいというのが、入学の最低条件になります。
 入学試験は、英語・数学・国語の3科目合わせて30分で行います。30分という短い時間設定は、試験に対して強い拒絶反応を示す生徒もいるため、そうしたプレッシャーを少しでも緩和したいという配慮からです。ちなみに、転入・編入試験に関しては、3教科を各30分で行っています。

 

学力不足はどうフォローしているのか?

霜村  そうして入学してきた子どもたちに、その後、どのようなフォローを行っているのでしょうか?
小林

 合格が決定したあと、一度、3月頃に登校日を設けて、中学3年生までの基礎学力試験を行い、その結果を入学後の学習支援の参考資料にしています。また、この基礎学力試験の結果にもとづいてクラス編成を行います。
 ただし、単純に試験の点数だけでクラス編成を行うわけではなく、その前に「プレセミナー」というものを行い、一人ひとりの趣味領域を探ったり、この生徒とこの生徒は友だちになれそうだ、といったことを教員サイドが観察しつつ、そうした情報も加味して行っています。

霜村  クラス編成ひとつにも、そんな配慮があるんですね。
小林

 大まかなクラス編成は「習熟度別」になっていますが、さらに、英語と数学については、習熟度別クラス編成とは別に再度編成し直して授業を行っています。
 不登校だった子どもたちの学習面での特徴のひとつとして、どうしても好きな教科にかたよる傾向があり、数学の実力は高いけれど、英語は基礎から学習し直さないといけないといったケースが少なくありません。そのため、英語と数学については、クラス編成とは別の習熟度別に分けて授業を行っているわけです。たとえば、英語の基礎学習重視のクラスでは、be動詞から復習する授業になります。
それでは高校で学ぶべきカリキュラムを消化できないのではないかと思われるかもしれませんが、これまでの経験から、学習面で抜け落ちている部分や苦手な領域を早めに見つけて埋めていくことが、その後の大きな成長や自信につながっていく例をたくさん見てきました。

霜村  せっかくサポート校に入学したのに、また通えなくなってしまったというケースもあるかと思いますが、その場合の対応は?
小林

 サポート校は、出席を前提としている学校ではないということが、まず重要なポイントになると思います。ですから、休みがちな生徒に対しても「行かなくちゃいけない」というプレッシャーを和らげるために、「無理しなくても大丈夫だよ」というアドバイスができるわけです。
 一般の全日制高校では、基本的に8割以上の出席がないと単位を取得できませんから、欠席が続くと「なにがなんでも登校させよう」とやっきになるわけですが、サポート校は、「自分のペースでいいんだよ」というところからスタートしているので、生徒も少し肩の力を抜いて学校生活を送れると思います。

家庭訪問で一対一のコミュニケーションを深める

霜村  とはいえ、登校しない日が続くと、ますます学校が遠のくという側面もあるかと思います。学習面でもいろいろ支障が出てきそうですが……。
小林

 まず、家庭訪問、電話連絡をかなりこまめに行っています。「学校に行けなくても、学校とつながっている」という感覚を、本人にも親御さんにももっていてもらうことが大事だと思っています。
 もうひとつ大事なのが、通信制高校の単位取得に必要なレポート提出へのサポートですね。レポート作成は自宅でやってもいいし、他の生徒がいる日中は登校しにくいなら放課後登校して教員と一緒に作成するなど、その子の状況に応じた対応をしています。
 登校できない生徒には、レポート作成の参考になる「ヒントプリント」や授業で配付したプリントなど教科書以外の補助教材を郵送したり、届けたり、自宅を訪問して一緒に学習することもあります。そのなかで、自力でレポート作成ができるように支援していきます。

霜村  そこまできめ細かな学習支援を行っているんですね。
小林

 家庭訪問や電話連絡は、学習支援という目的のためだけに行っているのではありません。日常的なクラスにおける生徒と教員とのかかわりとは別に、一対一のコミュニケーションを深める意味合いがあります。
 そのなかで、本人が気になっていること、将来やりたいことなどに耳を傾け、「うちの学校には、こんな部活や選択科目がある」「こんなことをやっている友だちもいる」といった情報を提供しながら、登校のきっかけにつながるようなかかわり方を心がけています。
 状況によっては、本校が併設している代々木カウンセリングセンターのカウンセラーに橋渡しをして、専門的なサポートをお願いする場合もあります。

霜村  以前、私がサポート校の生徒たちを対象に行った調査研究でも、学習面とは異なった、情緒的なサポートや電話連絡、家庭訪問など、学校以外での先生との接点が多ければ多いほど、登校の回数が増えるという結果が得られました。それを裏づけるような実践をされているわけですね。

AO入試や公募推薦入試で大学へ

霜村  アンケートには、高校卒業後の進路に関する質問もありました。
 「不登校だった子がやっとの思いで高校を卒業できたとしても、その後のことを考えると不安でたまりません。大学や専門学校に行けるのか、就職できるのか、進学や就職ができたとしても、ちゃんとやっていけるのか」
 こうした不安に対して具体的にどのような支援をされているのでしょう。
小林

 近年、大学入試では一般入試のほかに、「AO入試」や「公募推薦入試」という形態の入試も増えています。有名大学といわれるところも含めて、ほぼすべての大学が実施していると思います。本校からも、慶應大学、上智大学、明治大学、青山学院大学などに推薦入試で入学した生徒がいます。
 本校における大学合格者の約6割が、学力だけで判断される一般入試ではなく、面接などを通して人柄や個性、特技なども含めて総合的に判断する入試形態で入学しています。AO入試や公募推薦入試では、面接によって意欲や目的意識、人柄などを確認して合否を判定します。

霜村  繊細で緊張しがちな子どもたちにとって、面接というのも、なかなかハードルが高そうですが。
小林

 少し横道に逸れますが、本校の生徒たちは、「ラオスに学校をつくろう!」というボランティア活動に積極的に取り組んでいます。これは、東南アジアにあるラオスという国に、募金活動やフリーマーケットで得た収益によって学校を建てる活動ですが、2012年現在で7校の小学校をプレゼントしてきました。私自身、学校の竣工式や開校式に出席するために、生徒たちと一緒に6回もラオスを訪問しています。
 面接の際、生徒たちはこのボランティア活動に取り組んだ経験をはじめ、部活動での実績、英検や漢検など各種検定への取り組みなどを、積極的に自己アピールします。自分の不登校経験を「自己申告アピール書」に記入し、かつ面接でも経験談を語り、それが評価されるケースもめずらしくありません。不登校体験をプラスに変えたよい例だと思います。
 当然、そのための面接練習もくり返し行います。担任はもちろん、学年主任や副校長、場合によっては校長まで面接の練習相手になり、自信をもって本番に臨めるようにしています。

霜村  推薦入試では、高校での成績も評価基準になりますよね。
小林

 はい、高校での成績も評価基準のひとつになります。そのため、通信制高校で行われたテストの結果だけで成績をつけるのではなく、レポートに対する取り組みの姿勢、授業態度やスクーリングなどのプロセスも含めて評価するようにしています。こうした総合的な評価により、たとえテストが50点だったとしても、5段階評価で4をつける場合もあります。
 推薦入試では、小論文を課題として提出しなければならない大学もあるため、担任と国語科の教員が二人三脚で指導に当たります。本人が気づいていない長所などについて話し合いながら、小論文作成上のアドバイスを行い、ともに書き上げていく感じになりますから、かなり時間を要します。
 なかには提出期限ギリギリまで動き出せない生徒もいて、3日間で小論文と必要な書類をすべて仕上げて郵便局に駆け込み、滑り込みセーフ!といったこともありました。生徒の数だけ、そうしたドラマがあると言えるかもしれません。

基本は生徒との信頼関係の確立

霜村  具体的な生徒とのかかわりのなかで、その子がどのように不登校を克服していったのか、ご紹介いただけますか。
小林

 最初に紹介するのは、本校を卒業し、4年制大学に進んだ男子生徒です。  この生徒の中学校時代の欠席日数は、中1で5〜6日、中2で120日、中3で180日と年々増えていきました。そのため本校に入学した当初も、なかなか登校できませんでした。個性的なクラスメートにもなじめず、定時制高校に友だちがいる関係で、そちらに転校したいと相談を受けたこともあります。結局、転校はしませんでしたが、そのとき自分の悩みに親身に相談にのってくれたことがとてもうれしかったと、あとで聞きました。
 2年生になってからも五月雨登校が続きましたが、少しずつ登校する日が増えてきました。彼はサッカー部に所属していて、2年生の新しいクラスにはサッカー部の仲間が何人かいたことも好影響を与えたのかもしれません。ただし、精神的にはまだ回復にはほど遠く、サッカーの全国大会当日の朝、手足が震えて、とても外に出られる状態ではなく、出場を断念したということもありました。
 その後、彼のお兄さんが所属している社会人サッカーチームに、彼もときどき顔を出していることがわかりました。そこでサッカー部の顧問が「私もそのチームに入って練習させてもらっていいかな?」と打診し了解を得て、彼と一緒に練習することになったのです。そうやって彼との人間関係を築いていき、やがて学校のサッカー部の練習にも出てくるようになって……。
 学校に来られないなら、こちらから出かけて行く。一緒に活動する場面をつくる。それが大事だと思います。

霜村  顧問の先生との信頼関係が大きかったのでしょうね。
小林

 それまでの彼は、自分がイメージしていた部活の雰囲気と違っていたこともあり、サッカー部の先輩たちとうまくコミュニケーションがとれず、部に溶け込めなかったようです。ところが顧問との交流が生まれてから、彼の口から「やっぱり自分が変わらなければダメかな」という言葉が出てきました。そこから部活にも参加するようになり、まわりともうまく歯車がかみ合うようになってきました。
 その後、お母さんの影響もあったのか、2年生の夏にホームヘルパー2級の資格を取得したのですが、それが「自分でもやればできるんだ」という自信につながったようです。
 3年生ではサッカー部のキャプテンに立候補し、部員全員の投票により、見事キャプテンに選ばれました。そのとき彼は、「自分はどちらかというと個人主義的なところがあり、人とコミュニケーションをとることがうまくできない。だけど、そのカラを破って自分の可能性を試したいので、敢えてキャプテンに立候補した」と言っていました。いろいろな意味で余裕が出てきて、エネルギーがたまってきて、その次その次という意欲的な気持ちになってきたのでしょう。
 その後、修学旅行で台湾を訪れたときも、姉妹校である現地の学校との交流会で、生徒を代表してスピーチができるまでに成長していきました。その彼の姿を見て、どこへ行っても自信をもって行動できるし、もう大丈夫だと確信しました。

カナダ留学を経て国立大学に編入

霜村  眠っていたエネルギーが、一気にあふれ出てきた感じですね。
小林

 ところが、3年生の秋口になったところで、また五月雨登校が始まりました。原因は進路への不安でした。漠然とした希望はあるけど、どの大学を受けたらいいのか絞り込めない。模試の結果では、聞いたこともない大学名が安全圏として上がってくるということで悩んでいたようです。
 このときは、まず担任が必要な情報を集めて、彼のやりたいことと擦り合わせながらアドバイスをしていきました。その結果、4年制大学の推薦入試を受けることになり、その準備として、私も小論文や面接指導の手伝いをしています。とくに小論文は、試行錯誤をくり返しながら何度も書き直しただけに、いい仕上がりになりました。
 最終的に4年制大学の英文科に入学したのですが、その後、彼はカナダへの留学を決意します。本校でまわりの人とのコミュニケーションがうまくとれずに悩んだ結果、まわりの人を尊重することができるようになってきた。その経験が、カナダに留学して新しい価値観や習慣、文化と直面した際にも大いに役立ったと言っています。留学を経て知識欲に火がついたようで、さらなる英語の勉強をするため、現在は国立大学に編入しています。
 彼のお母さんは、当時をふりかえってこんなふうに話してくれました。
「子どもの不登校を経験して、ああしてほしい、こうあってほしいという親のエゴを捨てることができたからよかった。最後は生きていてくれるだけでいいんだと思えるようになりました。おかげで自分も精神的に楽になったし、子どもも楽になったんじゃないかと思います」

ラオスでのボランティア活動は、新しい自分を発見するチャンス

霜村  もうひとりは、在学中の生徒さんだとか。
小林

 はい、現在2年生の男子生徒です。彼も中学校時代はほとんど登校できなかったようで、本校に入学してからもなかなか登校できず、1年次は家庭訪問で対応していました。
 1年の後半に、お母さんと一緒に何回か登校して、別室でレポート作成に取り組みましたが、その際も休み時間にクラスメートと「おはよう」とあいさつができる程度でした。ホームルームのときにも何回か教室に入ることができましたが、緊張度は高いままだったように思います。
 1年の3学期に、ボランティア活動「ラオスに学校をつくろう!」の一環で、教員や生徒たち数十人がラオスに訪問することになり、彼も誘ったのですが、なかなか首をタテに振りませんでした。そこで担任が、「自分とオセロをやって負けたらラオスに行く勝負をしよう」と提案し、案の定、彼が負けてラオスに行くことになりました。オセロ勝負というと不謹慎のように思われるかもしれませんが、本人がラオスに行くという決断をしやすいように、背中を押す意味があったのです。
 ラオスまでは6時間も飛行機に乗っていなければいけませんし、日本とはかなり気温差もあり、たとえば12月にラオスに行くと向こうは30度を超える暑さです。その意味では、かなり苛酷な環境のなかでの訪問になります。
 そのラオス訪問でいちばん印象的だったのは、彼が現地の子どもたちとの交流会で紙を筒状にしてチャンバラごっこを教えたり、切られ役になって倒れたりと、笑顔で実に楽しそうにしていたことです。ラオスには彼が不登校だったことを知っている人は誰もいませんから、さまざまなしがらみに縛られている日本での生活とは違って、素の自分に戻れるのでしょう。
 そして、何よりも言葉は通じなくても現地の人々が「よく来てくれたね」と心を開いて歓迎してくれていることが実感として伝わってくることがうれしいのです。そうした対応に接して、生徒たちも日本では考えられないほど素直に自分の気持ちを伝えようとする。そうした経験が、新たな自分を発見するチャンスになり、帰国してからも前向きに生きていこうとする大きなきっかけになるのです。
 その後、彼は2年生になってからお母さん同伴ですが、学校に登校する日が多くなっています。帽子をかぶっていないと人と会えないため、室内でも帽子をとることができないのですが、ワープロ検定があったとき、検定なんだから帽子をとって受けないとダメなんだと判断したのか、帽子なしで試験を受けていました。帽子のことを考えても、彼がステップアップしていることは明らかで、信頼しながら見守ってあげることが大切だと思っています。

霜村  貴重なお話をありがとうございました。(拍手)

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