第26回 第34回 第39回 第40回
第44回 第53回 第54回
第55回(第1部)
第55回(第2部)
第57回 第58回 第59回 第61回
第62回 第63回(第1部) 第63回(第2部)
2023年度 2022年度 2021年度 2020年度 2019年度 2018年度 2017年度 2016年度 2015年度 2014年度 2013年度 2012年度 2011年度 2010年度 2009年度 2008年度 2007年度 2006年度 2005年度 2004年度 2003年度 2002年度 2001年度 2000年度 1999年度 1998年度 1997年度 1996年度 1995年度 2019年度 2018年度 2017年度 2016年度 2015年度 2014年度 2013年度 2012年度 2011年度 2010年度 2009年度 2008年度 2007年度 2006年度 2005年度 2004年度 2003年度 2002年度 2001年度 2000年度 1999年度 1998年度 1997年度 1996年度 1995年度
※本稿は、登進研セミナー48の第2部で行われた「父親のための不登校理解講座」をおおまかにまとめた抄録です。
本講座は、事前に参加者のみなさまから募集した疑問・質問に
2人の講師がディスカッション形式で答えるという構成になっています。
講師: 小澤美代子(千葉大学教育学部教授)
海野 千細(八王子市教育委員会学校教育部主幹)
質問1: 息子(中1)の不登校に理解のない父親
上手に協力を頼むコツは?
現在、中学1年の息子が不登校になってから3年がたちます。私(母親)からみると、息子はとてもゆっくりですが成長しているし、自分なりにがんばっているので、この調子なら大丈夫かなと思っています。ただ、夫が息子のことを理解しようとしないのが不満というか、悲しいです。私自身、何度かこのセミナーに出席し、夫にも2回ほど一緒に行ってと頼んだのですが拒否されてしまいました。今回の父親講座のことも夫には何も言わず、自分一人で出席するつもりですが、家ではいつも孤独な気持ちを感じています。私が子どものことでいろいろ言っても、イヤな顔をされるだけなのですが、何か私の言い方が悪いのかなとも思います。夫に上手に協力を頼むコツのようなものがあったら教えてください。
【回答】海野千細
家庭内で起こったことを夫婦で一緒に受けとめたり、考えたり、そこで感じたことを分かち合えたらいいな……という思いは、とくにお母さんのほうに強いように思います。
実際に私たちのところへ相談にみえる方々も、お父さんは非常に少なくて、たいていはお母さんが来られます。そこでお母さんがお子さんの心配事について話をなさって、ついでに、ご主人に対する不満やグチなども聞くことが多いですね。
一般的に父親というか男性というのは、「相談する」ということが苦手なのかなという気がします。お父さんが相談に来ると、不安とか、苦しい、つらいといった自分の気持ちを話すのではなく、非常に事務的な言葉で質問されることが多い。
たとえば、「うちの息子は○月○日から学校に行けなくなりました。それに対して私は○○のことをやりましたが、状態がよくなりません。どうしたらいいでしょうか」というような感じです。つまり、仕事の報告書とかマニュアルみたいなんです。効率的・理論的といえばそうなんですが、もうちょっと泣き言とかグチを言ってもいいのに、父親というのは、そういうことになじみにくい、人に相談することに抵抗感があるのかなと思うときがあります。
そういうお父さんに対して、お母さんがどんなアプローチをすれば一緒に子どものことを考えてくれるようになるのか。それには、いくつか方法があるような気がします。
①父親を変えようとしない
お父さんを変えようとするよりも、お母さんが感じたことを、お父さんに伝えるというやり方のほうが、お父さんは受けとめやすいかもしれません。
たとえば、「不登校のセミナーがあるから、あなたも一緒に行ってよ」と言うと押しつけがましい感じがして、本当はお父さんも心配しているんだけれど、「なんかイヤだな」と思ってしまうことがあります。そんなときは、お母さんが独り言のような感じで、「私一人でいろいろ考えているとつらいのよね……」とつぶやくと、お父さんも「そうか」と納得することがあるように思います。
②父親のことは脇に置いておき、とりあえず子どもとの関係を大事にする
①のような働きかけが難しい場合は、お父さんのことは脇に置いておいて、とりあえずご自分とお子さんとの関係を大事にするのも、ひとつの手かもしれません。
お子さんが、お母さんとの関係のなかで元気になったり、外に出られるようになったというような変化が出てくると、お父さんも、お子さんとお母さんの関係を見るなかで、だんだんと「こんなふうに接すればいいのかな」と関心をもつようになったりします。
だから、直接お父さんに何かしてもらおうと思うより、まずは、お子さんとのいい関係をつくることに焦点を合わせる。そうすると結果的に、お父さんもあいだに入ってくれたり、お子さんもお父さんに話しかけたりといった変化が出てきたりするものです。
【回答】小澤美代子
①子どもの不登校に対して、父親は怒りの感情をもちやすい
人間は、物事が順調に進まなくなってイライラしたときは、たいてい怒ります。お子さんが学校に行かなくなったということは、家族全体にとって大きな心配事です。本当なら親のほうが冷静になって子どもを守ってあげなければいけないのに、子どもを「何をやってるんだ!」「どうしてなんだ!」と怒ってしまうことが多いんです。あるいは嘆き悲しむ、涙が出てしかたがないという場合もあります。
一般的に、お父さんのほうは怒りの感情をもちやすく、お母さんのほうは悲しくなってしまうことが多いようです。
つまり、お子さんが不登校になって、思うようにならない状況が続くと、お父さんの心のなかには「怒りがたまりやすい」ということを、お母さんとしては理解しておく必要があるかと思います。
②相談の持ちかけ方にもコツがいる
もうひとつは、お父さんに相談にのってくれるように頼むにしても、それなりにコツがいるということ。よくあるのが、お父さんが仕事から帰ってきて、お母さんが相談しようと思っても、まったく取り合ってくれないというケースです。
お母さんとしては、お父さんが帰ってくるのを待ちかまえていて、今日一日つらかった思いを聞いてほしい。一方、お父さんのほうは、一日中仕事のことで大変だったから、家に帰ったら晩酌でもやりながらのんびりしたい。そんなとき、子どもの深刻な話を持ちかけられてもタイミングが悪すぎます。
つまり、相手の状況を考えずに、自分の思いつきで相談や頼みごとをしても、相手は心の準備ができていませんから、拒否されたり、ぶつかったりしがちなんです。
そんなときは、「お父さん、仕事で疲れていると思うけど、ちょっと話を聞いてもらえるかしら?」というように前置きをして、心の準備をしてもらい、お父さんを「話を聞くモード」に持ち込まないとダメ。そういう“前置き”が大事なように思います。
相談しようとするとイヤな顔をされるという場合には、このような工夫をしてみると、かなり改善されるのではないでしょうか。
③まず、母さんの話をきちんと聴くことから
一方、お父さんのほうも、「疲れて帰ってきて難しい話はうんざり」という気持ちはわかりますが、お母さんがたびたび相談をもちかけるようなら、かなりせっぱ詰まっている状態だと考えてください。そして、できるだけお母さんのモードに合わせてあげて、少しでも話を聴いてあげる姿勢をみせることが必要です。
男の人は「話を聞いたら何か結論を出さないといけない」と考えがちですが、お母さんが言ってほしいのは、「へぇー、そうだったの。大変だったね」といういたわりの言葉、お母さんのつらさに対する共感の言葉です。
だから、お母さんは、お父さんに自分の気持ちを受けとめてもらえれば、言いたいことの半分は解決したも同じ。お父さんは、何も特別な解決策をひねり出さなくてもいい。ただ、お母さんのグチをしっかり聴いてあげるだけでも、夫婦の話し合いにつながっていくと思います。
質問2:娘(高2)が何を考えているか、何をしてほしいのかもわからない
娘が高校に入学してすぐに不登校になったとき、私は仕事のことで頭がいっぱいできちんと対応できていなかったと反省しています。娘との関係はとくに悪いわけではありませんが、母親と娘の結びつきが強すぎて入っていけない部分があります。また、私の帰宅時間が遅くて娘と接する時間が少ないので、娘が何を考えているのかもわからず、何をどうしてあげたらよいのかもよくわかりません。
私自身は、父親の役割は母親の気持ちをラクにして、肩の力を抜かせることだと思っていますが、母親にはできないこと、父親にしかできないことというのはあるのでしょうか。また、子ども自身は、父親にどのような態度で接してほしいと思っているのでしょうか。
【回答】小澤美代子
本当に転びそうになったときに支えてあげればいい
このお父さんは、娘さんのことやお母さんのこともいろいろ考えていて、理解あるいいお父さんだと思います。「きちんと対応できていなかったと反省しています」とあって、そんな気持ちをもってもらうだけで、お母さんは気持ちがラクになると思います。
たいていはこの逆で、「子どもの教育はお前に任せただろう! どうしてこんなことになったんだ!」とお母さんを責めるお父さんが多いですから。
このお父さんが言っておられるように「父親の役割は母親の気持ちをラクにして、肩の力を抜かせること」、まさにそのとおりです。お父さんにそうした配慮があれば、それだけで十分だと思います。
父親の役割ということであえていうなら、お母さんが専業主婦であれば、日常のこまごましたことはお母さんに任せる。そして、お父さんは、進級、卒業、入学などの節目に学校にお願いに行くといった場合に、ご両親がそろって一緒に行ったほうがいいと思いますので、そういうときがお父さんの出番になります。学校側に、そうした家庭の姿勢を見せるためにも、このことは大切です。
また、お子さんがお父さんにどう接してほしいかということですが、一般的にいえば、「見守ってほしい」ということだと思います。ひとつひとつ、ああだこうだと干渉するのではなく、よく見ていてほしい。そして、本当に転びそうになったときは、しっかり支えてほしい。そう思っていると思います。
【回答】海野千細
実は「父親にしかできないこと」はあまりない
「お父さんにしかできないこと」とは、ちょっとニュアンスが違うんですが、「お父さんが得意なこと」というのがあるような気がします。とくに対外折衝や情報収集などは、お父さんの得意分野ではないでしょうか。
対外折衝ということでは、今、小澤先生の話にもありましたが、学校との関係。学校に出向かなければならないときなどは、お母さん一人では心細いでしょうし、ご両親がそろって出向けば、学校側も家庭の構えの違いを感じて、お父さんお母さんの意図が伝わりやすいということもあるかと思います。
ただ私は、子どもに対して「お父さんしかできないこと」というのは、ほとんどないような気がします。私自身も2児の父親ですが、自分のことも含めて、子どもは父親をあまり必要としていないんじゃないかと思ったりします。
子育てに関していうと、「父親というのは割が合わないなあ」とも思います。父親だって子どものことをいろいろ心配しているのに、それが子どもになかなか伝わらない。そして、いざというときには母親に頼る。子どもって、だいたいそんなものです。
父親として何かをするときの3つの判断基準
そういう意味では、お父さんとしては「お母さんの気持ちをどう受けとめるか」ということが、いちばん大きな役割かなと思います。ところが、お父さんというのは他人の気持ちを受けとめることが苦手な人が多いので、そこに問題が起きやすい。
そこで、お父さんには、次のことを覚えておいてほしいと思います。
まず、お母さんを支えようと思ったら、お母さんが「安心すること」「喜ぶこと」「元気になること」をしてあげてください。この3つが、何かをやってあげるときの判断基準になります。してあげようかどうしようか迷ったときは、やめておいたほうがいい。
その反対に、しないほうがいいのは、お母さんが「怒ること」「嫌がること」「悲しむこと」です。こうしたことを頭に入れておくだけでも、お母さんとどう接したらいいかが少し見えてくるのではないでしょうか。
実は、この「安心すること」「喜ぶこと」「元気になること」をしてあげて、「怒ること」「嫌がること」「悲しむこと」はしないほうがいいというのは、子どもへの接し方の原則でもあります。このお父さんの最後の質問「子ども自身は、父親にどのような態度で接してほしいと思っているのか」の答えにもなったかなと思います。
質問3: 妻から「逃げている」「父親として息子と向き合って」といわれるが、 具体的にどうしたらいいのか…
息子は中学1年から不登校になり、今は通信制高校の1年生です。
現在、高校を続けるための最低限のことはこなしていますが、ときどきかなり苦痛を感じているようで、たまにいらだってうなったり、壁に穴をあけたりします。用事があるとき以外は、朝方寝て、昼過ぎに起き、ほとんど自室でテレビ、ゲーム、マンガなどを見て過ごしています。外出は、ときどきゲームセンター、病院の外来(2、3週間に一度)、スクーリングに行く程度です。最近は、私立中学に通っている妹に羨望とも嫉妬ともとれる感情をもっている様子です。
よく医師やカウンセラーから、今こそ父親の出番、父性を発揮する時と言われますが、命令・指示・正論・反論をしないように、押しつけにならないようにと心がけると、あたりさわりのない対応になってしまいます。
現在のこうちゃく状態のなかで、具体的にどのように息子とかかわれば父性を発揮したことになるのでしょうか。今の状態で、将来のことや現状からの変化などを、どのようなタイミングで話していけばよいでしょうか。また、母親(妻)や娘に対しても、どのようにかかわっていけばよいのでしょうか。
なお、妻からは、「逃げている」とか「父親として息子と向きあってほしい」とか言われます。
【回答】小澤美代子
エネルギーがたまっていなければ動き出せない
このお子さんは、不登校になってからかなり時間が経過していると同時に、病院の外来にも通っており、少し医療的なケアが必要なのかなということが読みとれます。通信制高校に在籍しているようですが、かなり苦痛を感じているようですので、この状態からもう一歩先に進むには、少し時間がかかるのではないでしょうか。
この段階では、「さあ、がんばれ!」と励まして、父性を発揮する状態ではないような気がします。このお父さんは「押しつけにならないようにと心がけると、あたりさわりのない対応になってしまう」と言っておられますが、現状では、このかかわり方がベストかなと思います。このお子さんのように、自分から動き出せるほどエネルギーがたまっておらず、低空飛行のような状態にあるときは、まわりがいくら働きかけても急激な変化はのぞめません。そんなときは、長い目で経過をみることが大切です。
あるお父さんから、「母親が子どもに勉強や進路についてちょっと先の話題をふると、すごく不機嫌になったり、険悪な雰囲気になるため、私にどうにかしてほしいと言われます。どんな対応をしたらよいでしょうか」という相談をされたことがあります。こんなときの対応として、まず大切なのは次の2点です。
①まず、普通の生活をすること
お子さんが昼夜逆転の生活をしていても、起きてきたら必ず「おはよう」とあいさつをしましょう。そのほか、「今日は暑いね」「ごはんだよ」「いってらっしゃい」「おやすみ」といった日常のあいさつもちゃんと交わします。そして、ほかの家族の生活のペースはなるべく変えないようにして、普通に生活することが大切です。なぜなら、それがいずれその子が戻ってくる生活のベースになるわけですから。
はれものにさわるようにハラハラドキドキしながら接して、過度に気づかいをするのはよくありません。日常会話なども普通にして、お天気やテレビ番組の話、新聞のニュースとか、スポーツや芸能人の話題などを何げなく投げかけてみましょう。返事が返ってくることは期待しないで、一方通行でもかまいません。それでも親御さんの気持ちは、子どもに十分に通じるはずです。
②進級・卒業などの節目にさぐりを入れて、反応をみる
次にポイントとなるのは、卒業・入学・進級・学期の変わり目などの「節目」を迎えたときです。いちばん大きな節目は中学卒業ですが、たとえば、中3の2学期頃になったら「高校のこと、気になる?」と聞いてみて、反応をみてみます。
イヤな顔をしたり、立ち去ろうとしたら、すぐ話題を変えたほうがいいと思いますが、「別に……」とか言って平気な顔をしていたら、「高校のことが心配だったら、いろいろ調こうした役割は、お父さんに限定しなくてもいいと思いますが、ふだん、あまりお子さんと接する機会のないお父さんが、ふとそんなことを口にすると、子どもが反応することがありますので、トライしてみてもいいかなと思います。
【回答】海野千細
まずは子どもと普通に話ができることを目標に
私は、「今こそ父親の出番」とか「父性を発揮する時」というアドバイスは、ほとんど“公害”のような気がしています。日頃、お子さんとほとんどかかわりのないお父さんが突如、父親としての立場でお子さんに向かっていくと、「なんなんだ! いまさら父親づらしやがって」といった反感を買うことにもなりかねません。
こんなときは、まず、お子さんと「普通に話ができる関係」をつくることを目標にしたらどうでしょう。そして、それができたら進路や進学の話題を出してみる。つまり、2段階のアプローチが必要になると考えてみてください。
同じテーブルについて食事をしたり、テレビを見たり、話ができるようになるまでは、「あたりさわりのない話」にならざるを得ませんが、そのなかで、お父さんが「お前のことを怒っているわけではない」「とがめようと思っているわけではない」ということが伝わらないと、お子さんとコミュニケーションをとるのは難しいと思います。
だからといって、今までガンガン言っていたお父さんが、手のひらをかえすように優しくなったりすると、子どもは「ヘンだな」「何か下心があるに違いない」とあやしみます。そんなときは、なぜ急に対応を変えるのか、その理由をお子さんにきちんと説明するようにしましょう。たとえば、「あるセミナーで話を聞いて気づいたんだけど、今まで言いすぎてたと思うから、もう少し冷静に話し合おうかなと思って」というような説明があれば、お子さんも安心するでしょう。
あとは、子どもに関心をもつこと。これは子どもに迎合することではなく、子どもが興味をもっていることに、親御さんも関心をもってほしいということです。
たとえば、子どもがゲームをやっているときに、「これはどうやってやるんだ?」と聞いてみたり、一緒にやってみるといいかもしれません。そして、子どもがゲームのどんなところに興味をもっているか、面白いと感じているかをわかろうとすることが大切です。そのことによって、お子さんとお父さんとの距離が縮まってくることがあります。
質問4: 娘(中2)にまったく関心のない父親と父に反感をもつ娘のあいだで悩むお母さん
小学校6年の冬から不登校になり、現在、中学2年の女の子です。
私自身は、ようやく今の状況を受け入れられるようになり、また、娘も私を信頼してくれていろいろ相談もしてくれます。それでも勉強のことや高校進学のこと、将来のことなどを考えると不安でたまらないらしく、その不安やいらだちを私にぶつけてきます。ときには大声で泣いたりわめいたりして、それを私一人で受けとめるのが苦しくなってきました。
主人はまったく娘に関心がなく、私が何か相談しようと思っても、「行く気がないんだからしょうがないよ」と言うだけです。娘も父親に対する反感が強くて、いつも私に父親の文句ばかり言います。
主人が娘に関心をもってくれ、娘も父親にもう少し親しみをもってくれるようにするためには、どうしたらよいでしょうか。
【回答】海野千細
娘さんが直接お父さんに不満を言えるようにサポートしてみては?
お父さんが子どものことに関心がなく、お母さんがいろいろ働きかけても冷たくはね返されてしまうという状況は、お母さんにとって寂しいだろうし、つらいでしょう。まず、そういうお母さんの気持ちを、お父さんに伝えてもいいんじゃないかと思います。
それから、娘さんがお父さんに対して不満を言ったときに、お母さんが間に入って、「お父さん、あの娘がこんなこと言ってるからこうしてよ!」と調整をとろうとしても、ほとんどの場合うまくいきません。
人の話というのは、本人から直接聞くよりも、誰かから「○○さんがこう言っていたよ」と伝聞で聞くほうが、いい話でも悪い話でもより強く響くようになっています。ですから、娘さんの不満をお母さんがお父さんに伝えると事態はますます悪化する可能性が高い。
こんなときは、娘さんが感じるお父さんへの不満は、お母さんの心にとどめておいて、その気持ちをお父さんにどう伝えたらいいか、娘さんと一緒に考えてみたらどうでしょう。
そして、娘さんが直接お父さんに不満を言えるように、お母さんがサポートしてあげる。そのほうが、解決が早いかもしれませんね。
【回答】小澤美代子
お母さん自身のグチを聞いてくれる人も必要
人間関係をこわすのは簡単です。Aさんの悪口をBさんに言って、Bさんの悪口をAさんに言えば、AさんとBさんの関係は簡単にこじれてしまいます。
そう考えると、このご家族のなかでは、お母さんがいい意味での「通訳」になることが必要になるかと思います。娘さんがお父さんの文句を言ったとしても、それをストレートにお父さんに伝えてしまったら、「いい通訳」にはなれません。
具体的には、娘さんの悪口をお父さんに伝えないで、自分の胸の内にしまいこんでおくとか、伝えるとしても少し脚色して、お父さんが「聞いて、いい気分になるような」伝え方をしたほうが関係はよくなっていくと思います。
しかし現実問題として、娘さんが長い間、不登校になっていると、お母さんにも精神的な余裕がなくなります。そうなると、娘さんから聞いたお父さんへの不満を、実際の倍くらいのスケールにしてお父さんに伝えてしまうこともあるかもしれません。その結果、お父さんと娘さんの関係がグチャグチャになってしまうこともあります。
ですから、お母さん自身の精神のバランスをはかるためにも、娘さんからの不満を友人や第三者に聞いてもらう。そういう話ができる人を見つけておく。そうやって、つらい状況を切り抜ける方法を考えておいたほうがいいかなと思います。
質問5: 離婚して、ずっと「父親役」をやってきたお母さん最近、娘(小6)が反抗的で悩んでいる
父親とは離婚し、私と祖母、中2の息子、不登校をしている小6の娘の4人暮らしです。経済的には私の収入がすべてなので、家事一切を祖母がやってくれており、どうしても私が父親役、祖母が母親役のような感じになってしまいします。
子ども2人が祖母になついているのはよいのですが、最近、小6の娘が私に反抗的で、ここ2カ月ほど私とまったく口をきいてくれません。ただの反抗期かとも思うのですが、祖母にはべったり甘えていますし、中2の兄とも普通に話をしています。
私自身、子どもが小さい頃は仕事が休みの日にはできるだけ子どもと一緒に過ごすように心がけてきたつもりですが、最近はそういう時間がもてなくなってきたと感じています。この頃、中2の息子が私のことを「オヤジ」と呼ぶようになり、それは冗談として受け流していたのですが、先日、何かの拍子に「うちには母親いないから」と言われたときには非常にショックを受けました。そこへ娘が口をきかなくなるという事態が起こり、その理由さえわからないことに二重のショックを受けています。
父親講座ということで、筋違いの質問かもしれませんが、母親でありながら、ずっと父親役をやってきたことで、子どもの気持ちが見えなくなっているのかもしれません。このような場合、親としてどのような働きかけをしたらよいのでしょうか。
【回答】海野千細
いくら父親役をやっていても、子どもにとっては「お母さん」
このお母さんは離婚されて、お父さんがいなくなったというハンディを少しでも埋めようという気持ちが強く働いていると思います。その結果、どうしても父親的な部分を前面に出して生活してきたのでしょうね。そして、おばあちゃんがいることによって家族が安定しているように思います。逆にいえば、お母さんが父親的な役割だけを果たせばいいような状況が続いてきたのかもしれません。
ところが、子どもにとっては、お母さんはお母さんなんです。おばあちゃんはどんなにお母さん的な役割をやってくれたとしても、やっぱりおばあちゃんなんです。そういう意味では、お母さんのなかにある父親的な部分だけではなく、母親的な部分についても大切にして、そういう部分をもっと出してつきあってもいいのではないかと思います。
きっとお母さんのなかには、父親は厳しく、キリッとした役割をしなければいけない。そうしないと子どもがだらしなくなったり、わがままになってしまうという不安があるのかもしれません。しかし、息子さんがお母さんを「オヤジ」と呼んだり、「うちには母親いないから」と言うことは、子どもたちのほうがお母さんという存在を求めていると思ったほうがいいでしょう。
私は、父親の役割、母親の役割というように、分けて考える必要はないと思います。それよりは、お母さんが人間として自分の気持ちに正直になって、「父親の役割としては、こう言わなくてはいけない」という意識を少し脇に置いておけば、もう少し子どもたちが求めているものにフィットした対応ができるようになるような気がします。
【回答】小澤美代子
それなりにベターな対応だったと思う
もし、おばあちゃんもお母さんも母親役をやっていたとしたら、もっとバランスの悪い家庭になっていたのではないでしょうか。子どもたちも「オヤジ」とか言いながら、お母さんの苦労はわかっているように感じられます。
いずれ子どもたちが思春期を通り越していけば、このお母さんも、あまり父親役をイメージしてがんばらなくてもよくなります。これまではこれまでとして、ベストではないかもしれませんが、ベターな対応をしてきたのではないかと思います。
お母さんもそのように納得したうえで、これからは父親役を少し下りてもいいのではないでしょうか。