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登進研バックアップセミナー57・講演内容
Q&A「進路への意欲をどう支えるか」
2007年2月4日に開催された登進研バックアップセミナー57の第2部「Q&A 進路への意欲をどう支えるか」の内容をおおまかにまとめた抄録です。
質問は、事前に参加者のみなさまから寄せられたものであり、プライバシー保護のため、地域名・学校名など、個人が特定できるような情報は一部削除したり、質問の内容等を一部変更している場合があります。
Q&Aの回答者は、以下の3人です。
小澤 美代子(千葉大学教育学部教授)
海野 千細(八王子市教育委員会学校教育部主幹)
荒井 裕司(登校拒否の子どもたちの進路を考える研究会代表)
人と接したがらず、次の一歩を踏み出せない子
Q1 フリースクールにも行きたがらないし、家にいて誰とも会おうとしません。次のステップとして、進路をどう考えたらいいのでしょうか?
Q2 進路に対する本人の気持ちが決まらなければ、親としては動くことができない。本人が次の一歩を踏み出すきっかけをつくる方法はないのでしょうか。
Q3 まったく他人と接したがらない状態ですが、どうしたら意欲が出てくるのでしょうか。外に出ることを含めて、進路については本人に任せたままでいいですか?
A 海野 千細
進路のことより、まず親子のよりよい関係づくりを
お子さんの年齢がわからないので細かいところまでお答えするのは難しいのですが、この3人のお子さんは、いずれも不登校の初期段階にあり、進路についてはなにも考えてない状態にあるようです。不登校の初期は、気持ちが混乱して不安定な時期であり、気力が落ちたり、人目を気にする、人と会おうとしないといった特徴があります。
こうしたお子さんの場合、進路のことを考える前に、まず、家族と一緒に食事ができるとか、テレビ番組やJリーグの話などでふつうに親子の会話が楽しめる……そういう関係をつくることを第一目標にしたらどうでしょうか。
お子さんが中2とか中3になると、どうしても進路のことが気になってくると思いますが、まわりがいくらやきもきしても、実際に動くのは本人です。本人が動く気がないうちは、やいのやいの言っても、かえってマイナスに作用してしまうことが多いんですね。
とくに、お子さんが家族以外の人と会おうとしない場合は、このままだと社会に出たときに困るんじゃないか、「集団」に入っていけなくなるんじゃないかと心配される親御さんも多いと思います。そういう心配や不安があると、親はその不安を解消するために、お子さんになにか言ったりやってあげたくなるものです。それでもお子さんが動けないと、「あなたのためにやってあげてるのよ!」と言いたくもなるでしょう。でも、そうなると子どもは石のようになってなにも言わなくなり、ますますコミュニケーションがとれなくなってしまいます。
よく考えてみると、家族というのも立派な「集団」です。家族という集団のなかでコミュニケーションがとれるようになることは、家族以外の人とのコミュニケーションをつくるうえでも大事なトレーニングになります。ですから、家にいることにも十分に意味があるんだと考えて、まず、お子さんとご両親が同じテーブルについて話し合いができるような関係をつくることを考えてみるといいかなと思います。
昼夜逆転の子、意欲のない子が高校受験を迎える場合
Q4 中3で、外にはほとんど出ないし、親がいろいろ誘っても断ります。今後の進路について聞いても、なんの返事もしません。昼夜逆転はなく、日中ひとりでいるときはパソコンゲームをして過ごしています。どう対応したらいいでしょうか?
Q5 まだ昼夜逆転で、意欲も自信もない子どもが、高校受験を迎えるときの対応は?
A 小澤 美代子
昼夜逆転は、なおそうと思ってもなおらない
まず、Q5のご質問に出てくる「昼夜逆転」についてお話ししたいと思います。私も、よく親御さんからのご相談で「昼夜逆転はなおりますか?」と聞かれることが多いんですが、「なおりませんよ」と言っています。実際、なおそうと思っても、なおらないんです。でも、本人が学校に行くと決めたら、あっというまになおりますよ。
不登校の初期のころは、よく、昼夜逆転しているからいけないんだ、それさえなおれば学校に行けると思われがちですが、そうではありません。朝起きても行けない、行く目的もない、行く希望もないから、起きる気持ちにもならない。これが現実です。ですから、学校に行くとか、なにか目的ができれば、すぐに改善されます。行こうと思ったら、子どもは寝ないでも行きますから、あまり昼夜逆転にこだわらないほうがいいですね。
このことにこだわると、ふとんから引きずり出したり、怒鳴り合いになったり、その結果、親御さんへの暴力がはじまることもあり、不登校から家庭内暴力というまったく違った問題にずれていってしまう可能性もあります。ただし、ディズニーランドに行くとか、楽しみにしていることがあっても起きられないとなると問題は別で、睡眠障害を疑う必要があるかもしれませんが、これは非常にまれなケースです。
希望がなければ、子どもは動き出せない
Q4とQ5に共通しているのが、意欲の低下です。意欲の低下というのは、車でいうとガソリンタンクに穴があいて、ガソリンが流れ出している状態ですから、まず、その穴をふさぐというステップと、少なくなったガソリンを注入するというステップが必要になります。
「親が誘っても断る」「進路の話に返事もしない」「意欲も自信もない」というのは、そういう手当てがまだ済んでいない状態と考えられます。
手当てというのを具体的にいうと、まず、不登校になったきっかけ、たとえば、いじめとか心の傷になっていることがあったら、その穴をふさいであげる。そして、その子が楽しいと思うことや好きなことを自由にやらせてガソリンをためる。これがオーソドックスな方法です。
しかし、受験が目の前で時間がないとか、穴をふさごうにも何年も前のことで難しいとしたら、穴をふさぐことをつねに頭におきつつも、先のことに目を向けなければいけません。
子どもたちが動き出すモチベーション(動機)となるのは、夢と希望です。とりわけ希望がなければ動けない。そして、進路に関する希望とは「あなたも高校を受験できるよ」ということです。この「受験できるよ」ということを、いろいろな機会に伝えてあげることが大切です。2~3年も不登校をしていると、ただ学校に行っていないというだけで、「受験できない」と思い込んでいる子どももいますし、親御さんもそうカン違いしていることがあります。
しかし、基本的に公立高校は「不登校」という理由だけで落とすことはしませんし、いまは通信制、定時制、サポート校など、不登校を積極的に受け入れる学校もかなり増えています。だから、どこにも行けないということはないよと、子どもを安心させて、希望をあたえてあげること。そうした情報もなしに、ただ「頑張れ」「意欲を出せ」と言っても、子どもは真っ暗なトンネルのなかに入ったままで、出口が見えない状態ですから、それは返事もしないでしょうし、無気力にもなるはずです。
可能性があるということを早く伝えてあげて、勉強も「大丈夫、追いつけるから!」と安心感をもたせてあげること。意欲のない段階では、なによりもこうした希望と安心をあたえてあげることが大切です。
不登校の子が入学できる高校の情報は?
Q6 子どもが在籍している中学校には、不登校の子どもが進学できる高校についての情報が少なくて困っています。どのように学校側にはたらきかけたらいいですか?
A 荒井 裕司
進路情報は学校に頼らず、自分の力で収集
進路情報については、最近は、学校の先生方もかなり積極的に進路情報を収集しているとは思いますが、先生が一校一校、見学に行くのは無理ですから、自分の目で見た確かな情報をもっている先生は少ないのではないでしょうか。
とくに私立の場合は、中高一貫校が大半ですから、もともと外部の高校に入学させる予定がないので、他の高校の情報はほとんどないでしょう。
ですから、学校にはたらきかけるというよりも、親御さんの力で情報を集めるしかないと思います。いまは、不登校の子どもを対象とした学校案内などもたくさん出ていますから、お子さんに合った学校の情報を集めて、実際に見学に行ってみることをおすすめします。
自分が足を運んで、自分の目で確かめるというのが、いちばん確実な情報収集になると思います。
「すべり止め」も受けさせたほうがいいか?
Q7 中3の子どもは1校にしぼって高校受験したいと言います。親としては「すべり止め」も受けさせたいのですが、どうしたらいいですか? 学力がないので、落ちたときのショックが心配です。
A 荒井 裕司
本人の意思を大切に
受験は、できれば併願というかたちで、すべり止めの学校も受けておくほうがいいでしょう。ただし、お子さんがどうしても「すべり止めはイヤだ」というのであれば、その子の受けたい学校だけ受けさせて、失敗したら、その時点であらためて、お子さんと一緒に次の進路を考えてあげればいいのではないでしょうか。
自分で決めないと、失敗したときも「お母さんが言ったから…」というように、人のせいにしがちで、失敗を糧にしていくことはできません。自分で希望して1校しか受けなかったのですから、たとえ結果が思いどおりにいかなくても、お子さんも納得するはずです。
いまは、たとえばサポート校の場合だと、4月半ばくらいまで入学できるようになっていますので、とにかくあきらめないで自分に合った学校を探して、一歩踏み出すことが大切だと思います。
進学後に気をつけることや、通えなくなったときの対応
Q8 不登校の子どもが高校に進学した後、どのようなことに気をつけたらいいですか?
Q9 今年の4月に普通科の私立高校に入学します。もし、通えなくなって、他の高校に変わるとしたら、何月くらいに編入すればいいですか?
A 小澤 美代子
入学先が決まったら事前の準備を
最初に、Q8の「進学後に気をつけることは?」というご質問については、まず、入学する高校が決まったら、事前の準備として、クラス分けや担任の配置について、お子さんの中学時代の状況を高校側に伝えて、入学後の配慮をお願いするといいでしょう。
お願いがすべてかなえられるかどうかはわかりませんが、たとえば、仲良しの友だちがいたら同じクラスにしてもらうとか、男性教師に拒否感があるなら女性の担任にしてもらうとか、事前にお願いしておくことが大切です。
入学後は友だちづくりがポイント
実際に入学してから注意すべきこととしては、友だちづくりの問題があります。不登校経験のあるお子さんは、友人関係で傷ついていることが多いために臆病になってしまい、自分から積極的にはたらきかけることができなくて、なかなか友だちができない傾向にあります。
私は、よく「入学してから3日間が勝負よ!」と冗談ぽくアドバイスするんですが、友だちというのはたくさんは必要ない。一人いれば十分なんです。だから、「入式が終わって教室で席についたら、まわりを見まわして、やさしそうで親切そうな人を見つけるんだよ!」「それで、その人に、あなたどこから来たの?と聞くんだよ」と言っています。
3日間が勝負というのは、2~3日のうちにクラス内がいくつかのグループに分かれてしまい、どのグループからもはずれてしまうということがよくあるからです。クラス内にだれも話す人がいなくて、それが3日、4日…と続くと、ほんとうに学校に行きにくくなってしまうんですね。
そもそも人間関係に臆病になっている子に、「自分から積極的にはたらきかけなさい」とか「友だちをつくりなさい」とか抽象的なアドバイスをしても動けません。だから、「どこから来たの?と聞くんだよ」というように具体的なやり方を教えることが効果的です。
それでも友だちづくりに慣れていない子は、どう見ても自分と合いそうにない派手な子とか気の強そうな子に声をかけてしまったりするんですが(笑)、そんなふうにして、なんとか1日、2日と乗り切っていければ、クラス内で居場所が見つけられて、安心して通えるようになる可能性も高いと思います。
帰宅後の様子に気をつける
もうひとつは、学校から帰ってきたときの様子に注意をはらうこと。
帰ってくるなり、ひと言もしゃべらず、自分の部屋に直行して寝てしまうようなら、あっぷあっぷの状態です。お子さんにそれ以上負担をかけないように勉強は二の次にして、とにかく家では休養をとったり、楽しく過ごすことだけを考えて、なんとか学校につなげるようにすべきでしょう。
逆に、毎日楽しそうに帰ってきて、ご両親に学校での出来事をあれこれ報告するような場合は、「あまり無理しないでね」とややブレーキをかけるような感じでサポートしてあげるといいと思います。
入学後に通えなくなったら
次に、Q9の「入学後に通えなくなったら」というご質問ですが、まず、うまく通えるようになることを願っています。そして、もし入学直後につまずいて、4月、5月と過ぎてしまった場合でも、いまは、とくに日にちの期限もなく、受け入れてくれる学校がいろいろあります。
ただし、転入できるのは学期ごとですから、学期の途中で転入することはできません。たとえば、公立の場合は夏休み中にまとめて転入試験を実施しますが、空きがなければ募集はしませんから、募集が必ずあるとはかぎりません。また、都内の私立高校の場合は、転入生募集の情報がまとめて新聞に掲載されますが、ほとんどの学校が若干名の募集になっているようです。
高校の場合、進級できなくなるボーダーラインは欠席日数が3分の1を超える場合ですから、年間60日くらい休むと進級が難しくなります。4月からずっと休んでいるとすると、6月末くらいに進級できるかできないかのボーダーラインがやってくることになりますが、このボーダーラインが切れてしまうと一般の高校への転入は非常に難しくなります。
ただし、この時点でも、通信制高校や定時制高校、サポート校に転入するとか、高校卒業程度認定試験(旧大検)を受けて高卒資格をとるとか、いくらでも道はあるわけですから、あまり早く結論を出さないで、進級できるかできないかギリギリのところまで頑張ってみたらいかがでしょうか。
勉強の大切さを理解させるには?
Q10 学校に行かなくても勉強することが、今後、生きていくうえで大事なことだと、本人が感じるようにするにはどうしたらいいですか?
A 海野 千細
勉強をさせようと思う前に、子どもの興味のあることにつきあってみる
「学校には行かなくても、勉強することの大切さを本人が自覚するようにするにはどうしたらいいか」というご質問ですが、この親御さんとしては、なんとか勉強をさせたいんでしょうね。だから、逆に子どもは勉強しないんだと思うんですが…。
不登校の子どもにとって勉強に取り組むことは、いろいろな意味で難しいんです。
とくに、勉強がわからなくなって学校に行きにくくなったとか、勉強にかかわることで心理的な傷を負ったとか、そういう体験のある子どもほど勉強することに抵抗感を覚えます。
たとえば、授業で先生の質問に答えられなくてクラスのみんなにバカにされたとか、宿題をうっかり忘れたら先生にこっぴどく叱られたとか…。勉強しようとすると、そのときのイヤな記憶が頭に浮かんできて、なにも手につかなくなるという子どももいます。
このお子さんは、不登校の初期の混乱期を過ぎて、少し元気になってきた状態なのかもしれませんね。だから、親御さんとしては「這えば立て、立てば歩め」という感じで、そろそろ勉強をやったほうがいいんじゃないかとイライラしはじめたころなのではないでしょうか。
ただ、子どもが少し元気になってきたときにやりはじめることは、だいたい「親が期待することとは、いちばんかけ離れたところ」から始まるんですね。
ゲーム、アニメ、マンガなどが多いんですが、そのとき子どもがやりはじめたことを、親も一緒になって楽しむことができると、子どもの気持ちもだいぶラクになったりします。
しかし、子どもの興味のあることに、親も興味をもてるとはかぎりませんから、そんなときは無理してつきあおうと頑張らなくても、子どもの興味関心のあることについて話を聞いてあげるだけでもかまいません。
そうして、子どもがさらに元気になれば、あまり興味がないことでも、必要ならやるというふうに変わってくるはずです。
学校に行かないでも社会参加はできるか
Q11 不登校から元気になっても、学校には行かないで社会参加することはできますか?
A 海野 千細
社会参加はできるけれど…
「学校に行かなくても社会参加することはできるか」というご質問ですが、たとえば、アルバイトをする、友だちと一緒に遊びに行くというのも一種の社会参加と考えれば、それは十分に可能だと思います。なにも正社員にならなくても、アルバイトで自分のこづかい程度はかせげる子がたくさんいます。もっとゆるく考えれば、家族以外の友だちや大人とつきあえるようになる、といったところから社会参加をスタートさせる子もいます。
ただ、そういう子ほど「学校を卒業していないこと」を気にしていて、自分のなかに足りないものがあると感じていることが多いように思います。そうすると、その欠けた部分をどこかで埋め合わせしようとして、年齢がだいぶいってから定時制高校に入学したりする子もいます。
私が知っているケースでも、25歳を過ぎてから定時制高校に入って、卒業したら大学にも行きたいという若者がいました。
学校というものをもっと広くとらえると、こんな足跡をたどった子もいます。
その子は中学校で不登校になって、卒業後も1年くらい家にいたんですが、そのあいだに「パンづくり教室」に通うようになりました。そのあと「スイミングスクール」に行ったんですが、昼間のスクールはおじさんおばさんばかりなのでずいぶん大事にしてもらったようで、自信がついたんでしょう。今度は「自動車学校」に行って免許をとりました。運転免許という資格を得たことが、この子にとってはかなり大きな埋め合わせになったようです。
考えてみると、この子はここに至るまで学校ではないけれど、「学校を思わせるような」教育機関をずっと選んでいるんですね。自分に無理のないところを選んで、少しずつ元気をつけていって、最終的にはNHK学園という通信制高校に入学しました。
このように、「学校」というものは、親だけでなく、実は子どものなかでも心のどこかに引っかかっている部分があるんですね。そして、それを埋め合わせるために、自分なりの準備を整えて、欠けた部分を補おうとみずから動き出すことがあります。
そういう心の準備期間をつくっていくことは、その子にとってとても大切なことだと思います。
知っておきたい転校や転入・編入に関する基礎知識
Q12 転校(転入・編入)したほうがいいのは、どんな場合ですか?
Q13 公立中学の2年生で転校を考えていますが、どのように事をはこんだらよいでしょうか? 本人は、背中を押してほしいようなそぶりをみせることがあります。
A 海野 千細
「本人の心の準備」が整っているかどうかがポイント
私は、相談の仕事を始めて30年くらいになりますが、昔にくらべて、転校についての学校や自治体の対応が非常に柔軟になったように思います。
転校には「新規まきなおし」の意味があります。いまのこの場所では、いろいろなしがらみがあるし、人の目も気になる。だから、自分のことをだれも知らない新しい場所でもう一度やり直したい。そういう意味で、転校を活用したり、検討するのは意義のある方法のひとつだと思います。
転校という選択が好ましいものになるのは、それによって状況が好転する(うまくいく)場合です。そう考えると、実際に転校して登校するのは本人ですから、本人の気持ちの準備がどの程度、整っているかが、いちばんのポイントになります。
心の準備のチェックポイント
転校という選択肢があることに気づいてないお子さんに、「転校という方法もあるよ」という情報を提供することはとても大事です。
ただし、それが情報提供にとどまらず、「転校しなさい」という押しつけになってしまい、本人の心の準備ができていない状態で、あれこれせっつかれて動いた場合は、転校したあとにガクッとくずれてしまうことも少なくありません。
理想的なのは、転校という方法があることを軽~く伝えおいて、あとで本人から「転校したい」と言ってきた場合です。こういう流れなら、まず大丈夫と考えていいかなと思います。
転校には、いろいろな手続きが必要です。転校するときは、教育委員会の担当者のところに行って手続きをする必要がありますが、このとき、できれば本人も一緒に行けるといいですね。そこで、担当者との簡単なやりとりにのれるようであれば、その子の気持ちの準備がかなり整っていると考えていいでしょう。
私たちの相談機関では、転校について相談されたとき、本人に「転校して同じようなことが起こるかもしれないという心配はない?」と聞きます。そのとき、「心配がある」と言ったときには、うまくいく可能性があると考えます。逆に、「平気だよ」と答えたときは危ないなと思います。
つまり、「転校しても、また行けなくなるかもしれない」という自分の状況や不安を認識しているほうが、新しい学校でなんとかやっていける力がついている、現実をよく見る力が育っているということなんです。そのへんが、転校が好ましい選択となるかどうかのひとつの目安になるかなと思います
転校は「ダメモト」の心がまえが大切
転校に関する手続きの流れとしては、まず、教育委員会のなかに「学事課」とか「学務課」とかいう部署があって、たいていはここが転学相談窓口になっています。そのとき、いじめが関係している場合は、学校に調査が入ることもあります。学校で適切な対応をしたかどうかを教育委員会が確かめるわけです。
さらに、転校することについて受け入れる側の学校との調整が必要になりますから、多少の時間がかかります。時間がかかるのは確かに面倒なんですが、逆にいえば、こうしたプロセスをその子がしっかり味わって受けとめることが大切だと思ってください。
自宅から近いと人の目が気になるということで、遠くの学校を選ぶ場合も多いようですが、最近は自由学区制をとっている自治体も増えてきたので、そのへんは昔より手続きがラクになったと思います。
ただ、遠くの学校に行きたいということで学区域を越えたり、他の自治体にある学校を選んだりすると、お金も手間もかかりますし、それがお子さんへのプレッシャーになることもあります。つまり、親御さんとしては、せっかくお金と時間をかけて転校させてあげたのに、通えなくなってしまったとなると、怒りに火がついてしまうこともあるんですね。
ですから、転校するときの親の心がまえとしては「ダメモト」くらいの気持ちでいたほうがいいと思います。ダメだったら、またそこで考えようという気持ちが大切です。
留年してやり直すか、ほかの高校に転入すべきか
Q14 半年間、不登校でした。本人は、元の学校に戻って高校1年をやり直したいと言っていますが、親としては、学力を含めて、もっと子どもに合った高校に転入させたほうがいいのか悩んでいます。
A 荒井 裕司
留年よりも転入をおすすめします
高校1年をもう一度やり直すというのは、できれば避けたほうがいいかもしれません。
かつての同級生が1年上の学年にいるということで劣等感にさいなまれて、また行けなくなってしまう可能性が高いように思います。もちろん、そんなことを気にせず、頑張っている子もいますが、それには本人の強い意志や友人関係に恵まれるなどの条件が必要になってくるような気がします。
不登校のきっかけは、学校の友人関係や勉強でのつまずきなど、学校内の問題が8割以上を占めているといわれています。学校内にきっかけがあると、また同じ学校に戻ってもうまくいかないケースが少なくありません。そういう場合には、心機一転、新たな学校で出直すということが立ち直りのきっかけになることも多いと思います。
ただし、一般の高校では、公立も私立も転入・編入の時期は学期単位になりますし、一家で転居して学校を変わらざるをえない生徒や、海外から帰国した生徒しか受けつけていない場合もあるので、不登校の生徒が転編入することは現実問題として非常に厳しい状況にあります。
なお、現在の学校を退学してから転入先を探すとなると、転入できなかった場合は、どこにも学籍がなくなってしまうので、いまの学校に籍をおいたまま転入先を探すことが大切です。
その点、通信制高校などは、学期にかかわらず、いつでも受け入れ体制をとっており、1~2年生の場合は12月31日まで、3年生の場合は9月末まで受け入れてくれます。単位についても、高校1年のときに取得した単位が2単位あれば、2年生に進級できます(高校卒業に必要なのは74単位以上なので、残りの72単位を2年と3年で36単位ずつとれば卒業できる)。
高校とひと口にいっても、いまはいろいろな選択肢が増えてきました。あきらめないで、自分に合った学校を探してみてはどうでしょうか。
よいサポート校の見分け方
Q15 サポート校といっても千差万別で、なかには「?」マークのつくところもあるようだ。よいサポート校の見分け方を教えてほしい。
A 荒井 裕司
6つのポイントをチェックする
サポート校の見分け方には、以下の6つのポイントがあります。学校を選ぶときは、必ず学校に足を運んで、この6つを自分の目でチェックすることが大切です。
①授業が成り立っているか。
単なる居場所、たまり場になっているだけで、学びの場として機能していない場合もある。
②生徒の出席状況や生活状況をつねに把握し、きめ細かなサポート体制ができているか。
③保護者と情報の共有ができているか。
学校の教育方針やカリキュラムなどについて、学校側と保護者との共通認識ができているか。
家庭や学校での状況について、情報の共有化ができているか。
④不安定になりがちな生徒の心の支援体制、カウンセリング体制が整っているか。
⑤進路実績や就職状況はどうか。
⑥地域との交流が行われ、地域に根ざした教育ができているか。
再登校をめぐる不安や対応
Q16 現在、別室登校をしていて、本人はそれでよいと思っているふしがある。学校に行っているだけでよいではないかと言う人もいるが、親としては普通のクラスに戻ってほしいのだが。
A 小澤美代子
無理に普通のクラスに戻そうとしても長続きしない
不登校の子どものなかには、このお子さんのように別室登校をしたり、適応指導教室に通っているお子さんも多いかと思います。じゃあ、そこでどんなことをやっているかというと、これが実にさまざまで、単なる居場所にすぎないところもあれば、きちんとカリキュラムを組んで学習指導を行っているところもあります。別室でも、適応指導教室でも、要は、どこにいようと、そこでどんな時間の過ごし方をしているかが大事になってきます。
また、このお子さんは、必ずしもクラスに戻りたくないわけではないのかもしれません。戻りたい気持ちはあるけど、「戻りたい」と言ってしまうと、「じゃあ朝はちゃんと起きなさい」とか「勉強をしなさい」というように、次々とやらなければならないことが出てくるので、まだそこまでの自信はないという状態なのではないでしょうか。
普通のクラスへ戻そうと親が無理に話を進めてしまうと、本人がその状態にない場合、結局は長続きせず、つぶれてしまいます。だからといって、このようなケースでは、本人が自分から「クラスに戻る」と言い出すことはほとんどありません。
ですから、気持ちの準備が整ったかどうかは、親が子どもの日常的な態度を観察しながら判断して、場合によっては少し背中を押してあげるといいでしょう。とくに、卒業や入学、学年の変わり目などの大きな“節目”をうまく利用できるといいですね。3年も5年も不登校をしていると、親のほうも過去をひきずりがちですが、そういう過去は捨ててしまって気分一新、節目を活かして仕切り直しをするという感覚が非常に重要です。
ただし、再登校や普通のクラスに戻るというときには、子どもはとても不安になりますから、ゆっくりとしたステップで進めることが大切です。そして、子どもが学校から帰ってきたときに、話をよく聞き、様子をチェックすることを忘れないでください。ただし、しつこくならない程度に、“さりげなく”がポイントです。
再登校は、3日間くらいが勝負の分かれ目です。たいてい3日目くらいでひとつの壁にぶつかりますから、そのあたりの様子に注意しましょう。また、3週間目あたりが疲労のピークになります。3週間くらいは、みんな頑張れるんですが、そのへんで疲れが出てガクッとくることが多いので気をつけましょう(ただし、1日も休んではいけないというのではなく、少し休むくらいのほうがちょうどいいペースです)。そして、そこを乗り越えて、試験も受けることができて、ひとつの学期をクリアできれば、ほぼ大丈夫かなと思います。
進路に展望が持てず、高校を卒業する意欲のない子
Q17 進路に展望がもてず、高校を卒業する意欲がないようだ。家以外で居場所がなく話し相手は母親だけだが、母親の話には耳を貸したくない様子。親以外に進路に関する情報を得たり、相談する気になるようなきっかけをつくってあげたい。
A 海野千細
もう一度、不登校の初期の対応に戻してみては?
このお子さんは、おそらく高校3年か2年くらいだと思いますが、現在、気力が低下して、進路をはじめ、さまざまなことに関心がもてなくなっているように見受けられます。そして、このお母さんは「このまま高校も卒業できなかったら、どうなってしまうんだろう」と不安な気持ちでいっぱいなのだろうと思います。
このような状況のときには、お子さんに対する働きかけを、もう一度、不登校になった初期の段階の働きかけに戻してみたらどうかなと思います。初期の段階の働きかけとは、お子さんの嫌がることや怒ることはしないで、不安定で混乱したお子さんの気持ちを安心させたり、ラクにさせたりするような対応のことです。
というのは、「進路をどうするのか」といった働きかけは、不登校の中期(安定期)もしくは後期(回復期)の対応なんですが、それがうまくいかない場合は、いったん初期の対応に戻して、お母さんとお子さんの関係をやわらげることも大切ではないかと思うからです。
ただし、高校生くらいになると、そうやって対応を変えたからといって、すぐに動きだすわけではありません。変化がみられるまで時間がかかりますから、お母さんのほうもけっこうつらいでしょう。そういう意味では、親御さん自身の精神衛生をどう保つかということも非常に大事です。お母さんが感じているストレスやグチなどを聞いてくれる人、それはカウンセラーに限らず、お友だちでも知り合いでもいいんですが、そういう人を一人でも二人でもつくれるといいなと思います。
まずは親子の関係づくりから
それと、進路とは少し話がそれるかもしれませんが、「こづかい」の問題も大切です。不登校のお子さんに対して、「どうせどこにも出かけないんだから、お金の使い道なんかないでしょう」といって、こづかいをあげないご家庭もけっこうあるんです。つまり、学校に行かないことの「罰」として、こづかいをあげないという仕打ちに出るわけです。
家にいて何もしていなくとも、年齢相応の金額は渡してあげてください。自分の自由になるお金があることで、お子さんがそれをもとにして動ける場合もあるわけですから。
結局、その子がいろいろな情報や人との関係を受け容れようとしたり、活かそうとするのは、その子の心の準備がどう整うか、それしだいなんです。そして、心の準備を整えるのにいちばん力になるのが、その子とご両親との関係です。お母さんとの関係が悪いと、お母さんが持ってきた情報を受け取らなかったり、無視したりする。料理だって、誰が作ったかによって味がちがう。同じ肉ジャガでも、憎たらしいお姑さんが作ったものだと美味しくないとか(笑)。それと同じで、相手との関係によって、その相手が提供してくれる情報を受け容れるかどうかが決まってくる部分があるんですね。
ですから、関係がよくなってくると、情報提供やご両親以外の人へのつなぎもプラスに働いていくはずです。まずは、親子の関係づくりからスタートさせてはいかがでしょうか。
高校中退し、アルバイトをくりかえしている子
Q18 高校中退後、アルバイトをくりかえしているが、就職に結びつけるにはどうしたらよいか。
A 荒井裕司
アルバイトもいい経験、勉強はいくつになってもできる
昨年4月、バスの運転手をしているという27歳と28歳の女性が私の学校を訪ねてきました。2人とも高校を2年で中退したそうですが、世の中に出て、はじめて高校を卒業することの大切さが身にしみたとのことで、今からでもなんとかなるでしょうかという相談でした。彼女たちは、これまでためたお金で学費を払い、働きながら学びたいといいます。
私が「高校を卒業しているのとしてないのでは、どこがちがうんだい?」と聞くと、まず、お給料がちがう、そして人の見る目がちがう。だから、「どんなときでも私は私なんだけど、高校を卒業してないと、私は私じゃなくなってしまう。それが一番つらい」と言いました。
その後、2人は本校の2年生に編入し、バスの運転手として働きながら勉強を続けています。来年3月には、晴れて高校卒業資格を取得することになるでしょう。
彼女たちのような人々がいることを考えると、この高校中退後、アルバイトをくりかえしているというお子さんも、アルバイトという社会経験を積み重ねることで、次のステップに進もうという意欲がわいてくるのではないかと思います。
アルバイトをしながら勉強をして高校卒業資格をとることも可能です。彼女たちを見てもわかるように、いくつになっても勉強はできます。そして、資格がとれれば、必ずまた次のステップにつながっていきますから、ぜひ応援してあげてください。学校に通わなくても高校卒業程度認定試験(大検)など、高卒資格をとる方法はありますから、挑戦してみてください。
高校卒業後、進学も就職もしない子
Q19 高校卒業後、進学も就職もせず、苦しさや孤独を抱えながら生活している様子。自分なりの幸せを見つけてほしいが、親としてどんな対応をすればよいか。
A 荒井裕司
小さなことでいい、自信をつかむきっかけづくりを
高校卒業後、進学も就職もしないというお子さんに関するご相談ですが、このような状態は本人もつらいし、まわりで見ている親御さんもさぞつらいでしょう。
高校を卒業したのに、どうしてその後の道につながらないのかという問題ですが、このような場合、自分なりに自信をもてるきっかけがつかめるとずいぶんちがってきます。
たとえば、私の知っている26歳のひきこもりぎみの女性は、あるとき自動車教習所に通いはじめました。すると急に生き生きして、先日は仮免がとれたとメールが来ました。「私にもとれる資格がある!」ということで、ものすごく嬉しそうでした。彼女は以前、漢字検定の5級をとったことがあるんですが、それだけでエネルギーのボルテージが驚くほど上がるんです。
ですから、このお子さんも、できればアルバイトをするとか、地域の行事やボランティアに参加するとか、どんなに小さなことでもいいから、なにか自信をつかむきっかけになるものを見つけてあげられればいいなと思います。