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登進研バックアップセミナー39・講演内容
不登校-早期解決のカギ
講師:若島孔文(東北大学大学院准教授)
私は現在、大学の教員をやりながら、不登校やひきこもりの子どもたちに対する援助活動を行っています。そのほかにも、児童相談所で非行相談を担当したり、国立療養所の結核病棟や重度心身障害児病棟などで、「短期療法」(ブリーフセラピー)という心理療法を活用したカウンセリングを行ってきました。
「短期療法」といわれても、みなさんにとっては耳なれない言葉だと思いますので、まず、短期療法の基本的な考え方や、相談者(クライアント)がかかえる問題に対して、どのように支援していくのかについてお話ししたいと思います
◆なぜ問題が長引くのか?
まず、ある夫婦が飼っているチワワの話を例にとってみましょう。 このチワワは、奥さんが出産するときによそのお宅に預けられて、出産後、もとの夫婦の家に戻ってきました。ところが、それ以降、ご主人に向かって吠えたり噛みつこうとしたり、攻撃的になって困っているというのです。
この状態を心理学用語で説明すると、まず、チワワには奥さんとの「分離体験」がありました。つまり、自分が大好きな人と離ればなれにされたということです。
さらに、奥さんに子どもが生まれたことで、「きょうだい葛藤」を体験しています。人間の子どもでも、次男が生まれると、長男がお母さんにベタベタとまとわりついたり、次男をちょっといじめたりすることがありますが、あれと同じです。今まで奥さんの愛情をひとり占めしていたのに、その愛情が子どものほうにも向くようになって、チワワのなかで葛藤が生じているのです。
奥さんは、このような視点からチワワにやさしくしてあげれば解決するのではないかと考えて、チワワがご主人を攻撃するたびに、やさしい笑顔で「こっちにおいで」と言うようにしました。
しかし、実はこういう対応をしているかぎりご主人への攻撃は続き、問題はどんどん悪いほうへとエスカレートしていきます。なぜなら、奥さんがチワワにやさしくすることで、チワワと奥さんとの結びつきがますます強まり、チワワの葛藤は続くからです。つまり、チワワのためによかれと思ってご夫婦がやっていることが、かえって問題を長引かせているのです。
こんなとき、短期療法ではどうするか。短期療法では、ある問題を解決しようとするときに、その人の心にはたらきかけて、心を変えようとするようなやり方はしません。そうではなく、問題を長引かせている周囲の人たちのコミュニケーションのパターンを変えるという方法をとります。
つまり、チワワがご主人を攻撃する→ご主人がたじろいで引く→奥さんがチワワに向かって笑顔で「こっちにおいで」と言う、という一連の対処パターンを変えればいいのです。ちなみに、対処パターンを変えるときは、できるだけ「小さく」変えるのがポイントです。大きな変化は必要ありません。小さくて簡単にできる変化ほど、うまくいく可能性が高いことがわかっています。
具体的には、奥さんが笑顔で「こっちにおいで」と言うときに、視線をチワワではなく、ご主人に向ける。そして、「こっちにおいで」と言われたご主人は、チワワみたいに奥さんのほうにとんでいく(笑)。この問題は、これ一発で解決します。
これはどういうことかというと、奥さんが視線をご主人に向けて呼びかけ、ご主人が奥さんの元にとんでいくことによって、チワワに奥さんとご主人が協力関係にあることを示しているのです。
協力関係とは、「正義」や「力関係」を示すことでもあります。これによってチワワは「こいつ(ご主人)を攻撃すると自分が不利だな」とか「ママ(奥さん)と仲良しなら悪いヤツじゃないのかも」ということを理解するわけです。
これは、子どもへの対応でも同じことがいえます。犬のしつけと子どもの問題を一緒にするのかと怒られそうですが、子どもの問題行動をなおそうとして小言を百回くりかえすよりも、夫婦が一緒になって、同じ方向を向いて、この問題に対処するという姿勢を示す。しかも、小さい変化で示す。それが問題解決にはもっとも効果的にはたらくと思います。
◆問題がすみやかに解決される構造とは?
次に、お父さん、お母さん、子どもという3人家族の関係で考えてみましょう。
その話をする前に、ひとつ申し上げておきたいことがあります。私は、子どもに問題が生じるのは当たり前だと思っています。問題が生じないような生き方はありません。まず、これを前提として話を進めていきたいと思います。
さて、この3人家族において、子どもに問題が生じたとき、問題がすみやかに解消される構造と、問題がエスカレートしていく構造があります。
まず、問題がすみやかに解消されやすい構造とはどういうものか。ひとつは、両親が連携して問題に対処していること、協力関係にあることです。もうひとつは、たとえば不登校の問題なら、学校と両親とのあいだの信頼関係。これも重要です。これがなければ、まず学校には戻れません。
不登校の子どもにはいろいろな道があると思いますが、学校に戻るという道を選んだ場合は、学校の先生との関係がよくなければ戻れません。私はスクールカウンセラーの仕事もしていますが、担任の先生には、必ずその子の家に定期的に行ってください、たとえ本人と会えなくてもドリルやお知らせなどを持って訪ねてくださいとお願いしています。
ただし、このときに先生と親御さんとの信頼関係ができていないと、せっかく訪ねていっても「よけいなことをしないでください」と言われてしまいます。そのときは、私が親御さんに「学校の先生との関係がよくなければ戻れない」ということを説明します。
そうして家庭訪問を続けていると、やがて本人が部屋から出てきて話をするようになったり、勉強を教えてもらったりということも出てきます。ですから、たとえ本人は先生と会えなくても、先生と親とがつながっていることが大事だと私は思っています。
このように、問題解決にあたっては、同世代の人間(お父さん、お母さん、学校の先生)が連合をつくること、同世代のヨコの連合を強化することが非常に重要になります。 これは、両親と学校が結託して無理やり子どもを学校に行かせるという意味ではありません。そうではなく、お父さんとお母さんと先生は、同じ方向を向いているよ、信頼し合っているよという情報が、子どもに伝わるようにするということです。
◆問題がエスカレートしやすい構造とは?
では、反対に、子どもに問題が生じたときに問題がエスカレートしやすい構造とはどういうものか。
これは日本によくある構造ですが、お母さんと子どもの結びつき(タテの連合)が大変強くて、お母さんとお父さんの結びつき(ヨコの連合)が弱いという場合です。こういう構造は、問題が解決されにくいといえます。
誤解しないでほしいのですが、私は、この構造が悪いとか、この構造が問題を生み出していると言っているわけではありません。ただ、子どもに問題が起きたときに、解消されにくい構造であるということです。
こういう構造だとどんなことが起こるかというと、たとえば学校に行きしぶる子どもに対して、お母さんが「早く起きなさい!」と言ったとき、それを聞いたお父さんが「いいじゃないか、しばらく学校に行かなくても」と言ってしまう。つまり、夫婦の言うことが一致していないんです。
その後、お母さんは本を読んだり、こういうセミナーに参加したりして、不登校の子どもへの対応を勉強し、頭ごなしに「学校に行け!」と言うのはやめようと思うようになります。そんなとき、夜中にお父さんが酔っぱらって帰ってきて、「お前はなんで学校に行かないんだ!」と子どもを怒鳴る。これも、夫婦の対応の不一致という点では同じです。
こういう構造では、子どもは動きようがありません。100パーセント動かないと言い切れます。
◆子どもを置いて、夫婦で外出することのすすめ
では、どうすればいいのか。ひとつは、お父さんとお母さんの結びつきを強めること。実際には夫婦仲が悪くてもいいですから(笑)、少なくとも子どもの目にはそう見えるように、ヨコの連合を強めてください。
たとえば、夫婦ふたりで子どもを家に置いて外出するのもいい方法です。お母さんと結びつきの強い子どもは、そのことが気になるはずです。それで、その子が「お母さん、どこ行ってきたの?」と聞いてきたら、「ないしょ」と言いましょう(笑)。
これは、ヨコのつながりで秘密をつくることによって、子どもとのあいだに境界線を引くということです。それによって、お父さんとお母さんの結びつきを強く見せようという作戦です。
正直なお母さんは、「いや~、お父さんと出かけるくらいなら、ひとりで行ったほうがよっぽどいいわ」(笑)とか言ってしまいがちですが、それではいけません。心でそう思うのは自由ですが(笑)、子どもの前ではグッとこらえてください。
私が相談を受けたケースでは、「ご夫婦で出かけてください」と頼んだら、お父さんが「それだけは死んでもいやだ」(爆笑)。しかし、私もプロですから、そんなことではへこたれません。
「いや、一緒に外出しなくてもいいんです。ふたりで外出する“ふり”をするだけでかまいません。お子さんに行ってくるよと言って玄関を出て、路地を曲がったら、お父さんは右へ、お母さんは左へ行ってください(笑)。帰りは、また家の近くで待ち合わせをして、いや~楽しかったと言って一緒に玄関を入ればいいんです」
これをやると、必ずお子さんになんらかの変化があらわれます。もともと夫婦仲がいい場合でも、やってみるとなにか違いが出てきます。ぜひやってみてください。
◆お父さんの力をもっと引き出すには?
もうひとつ具体的なケースをお話ししましょう。
あるお母さんから「子どもの不登校のことで相談したい」と電話が入ったので、私は「お父さんにもぜひ一緒に来ていただきたい」と伝えました。
当日、両親に来てもらうと、子どもの不登校の相談のはずが、話がいつのまにか夫婦関係の問題にスライドしていきました。このご夫婦は、相談室に置かれた三人掛けのソファの右の端っこと左の端っこに離れて座るんです(笑)。これだけで、ふだんどれくらい仲が悪いか想像がつきます。
それで、いろいろ質問をしていると、とにかくお母さんが一方的にしゃべる。お父さんが少し話すと、お母さんがそれをさえぎってしゃべる。あるいは、お父さんの言ったことをお母さんが解説する(笑)。お母さんは、お父さんの評論家になっているわけです。
評論家というものは、上下関係でいえば“上”の立場になります。実際は上でなくても、そう見えてしまう。そういうことをくりかえしているうちに、夫婦の上下関係というパターンが出来上がってしまうんです。
このパターンをなんとか変えたいと思いました。
ここだけの話ですが、私は相談にみえるクライアントによくあだ名をつけます。このお母さんのあだ名は「マシンガン」(笑)でしたが、このマシンガンの連続射撃をなんとかくいとめたい。
それは、お父さんの力をもっと引き出したいからです。お母さんのほうは、これまでお子さんのことで十分に頑張ってこられました。でも、そのパターンではうまくいかないわけですから、お父さんの力を発揮してもらって、違うパターンをつくっていかなければなりません。
そこで、お母さんに聞いてみました。
「お母さんがたくさんしゃべるのは、ひとつは、お子さんのことをたくさん考えている証拠です。もうひとつは、しゃべることで、お父さんに対して“自分は寂しいんだ”というメッセージを出しているようにみえるんですが、違いますか?」
するとお母さんは「……そうかもしれません」
そのあとお父さんが話しはじめると、お母さんはじっと黙って聞いていました。
そこで私は、お父さんにお願いをしました。
「お母さんが話したいときは、とにかく話を聞いてあげてください。そのときは、お母さんの正面に座って聞くのではなく、後ろにまわって、お母さんの肩をもみながら聞いてください。それから……たまには首を締めてみてもいいです」(爆笑)
いまみなさんは、私の話を聞いて笑ってくれましたが、実は「笑い」というのは、短期療法においても非常に重要な要素です。先にコミュニケーションのパターンを変えるときは、「小さな」ことを変えるのがいいと言いましたが、さらにいえば、「小さくて」「簡単にできて」「ユーモアのある」変化をつくり出すことが成功のヒケツです
◆言葉以外の方法でメッセージを伝える
ここでもうひとつのケースをご紹介しましょう。不登校で家にひきこもっている男の子です。
相談にみえたお父さんは、こう言いました。
「今まで仕事のことで精一杯で、子どものことをあまり考えなかった。正直、子どもがどんな表情をしていたのか思い出せない。ダメな父親でした。だから、今回は自分が中心になってやっていきたい」
そして、こうつけ加えました。「でも、どうやって話せばいいかわからない」
父親によくあることですが、つまり、子どもとのコミュニケーションの橋がかかっていないのです。このお父さんはとても真面目で、子どもの読んでいるマンガを自分も読んだりしていろいろ勉強しているのですが、そうやって話す中身をつくっても、話し方がわからない。話しかけてそっぽを向かれたら、どうしたらいいかわからないと言います。
この問題を解決するための使える“資源”として、この家庭で重要だったのが「夕食」です。夕食のときは、この男の子も部屋から出てきて、みんなで一緒に食べるんです。
そのときの私のアドバイスはこうです。
「息子さんの好物はなんですか?」
「ステーキです」
「だったら、今日の夕食はステーキにして、お父さんは自分のステーキを食べる前に3分の1を切って、黙って息子さんの皿に入れてあげてください。いいですか、何もしゃべっちゃいけませんよ」
これは犬みたいにエサで釣ってしつけるとか(笑)、そういう手法ではありません。お父さんのメッセージを子どもに伝えるのが目的です。
すると2週間後、面談のときにお父さんがこう報告してくれました。
「息子が、私が会社から帰ってくるのを待っていて、おかえりと言ってくれるようになりました」
言葉で伝えようとしても、思いはなかなか伝わりません。それどころか、よけいに関係が悪化する場合もあります。とくに、「ああしろ」「こうしろ」「こうしちゃダメ」などとくりかえし言い聞かせるような対応は、ほとんど効果がありません。
そんなとき、チワワへの視線の向きを変えるとか、ステーキを分けてあげるといった、言葉ではない「非言語的なメッセージ」が効果的にはたらく場合が多いのです。 ただし、「じゃあ、今日帰ったら、うちの子には松坂牛でやってみよう」(笑)とか、肉のランクを上げれば、効果がさらに上がるという問題ではありませんのでご注意ください。
◆短期療法の5つの考え方
これまで事例をあげながらお話ししてきた短期療法の代表的な手法や考え方について整理してみましょう。短期療法には、次の5つの重要な考え方があります。
1.すべての行動はコミュニケーションになりうる
先ほどお話ししたように、コミュニケーションは「言葉」だけではありません。
たとえば、家族で食卓につくときの席の位置を変えてみる。これだけで、なんらかのメッセージが伝わります。お母さんが、いつもは子どもの正面に座っているとしたら、子どもの隣の席に変えてみる。こうした小さな違いをつくり出すことで、思いのほか大きな変化が起こる場合があります。
先ほどのマシンガントークのお母さんの例も同様です。いつもお父さんは、お母さんの話を正面に座って聞いていたけれど、後ろに回って肩をもみながら聞いてみる。これによって夫婦の関係だけでなく、それを見ているお子さんのなかにも、なんらかの変化が起こるのです。
2.情報の開示と隠すこと
先ほどの例でいうと、夫婦ふたりで子どもを置いて出かけ、子どもに「どこ行ってきたの?」と聞かれたとき、「ないしょ」と答える。これは、お母さんがお父さんに対しては情報を「開示」し、お子さんには「隠すこと」によって、これまでの家族の構造(母子が強く結びつき、夫婦の結びつきは弱い)に変化をつくり出そうというものです。
秘密を共有するという手法は、互いの結びつき(関係)を強めるはたらきがあります。これは夫婦だけでなく、親子のあいだでも使えます。たとえば、お父さんが子どもに「お母さんにはないしょだぞ」と言ってこづかいを渡す。こうした秘密の共有には、お父さんと子どもの結びつきを強める効果があります。
3.間接贈答法
私は、お子さんの問題で親御さんが相談にみえたとき、必ずお子さんの誕生日を聞きます。
誕生日は、誰にも必ず1年に1回来るし、私の経験からいえば、いまここで変化を起こしたいと思ったときに、ちょうどいいタイミングで来てくれるなあと思います。「お子さんの誕生日は?」と聞くと、「1週間後です」とか、運命を感じるようなときが何度もありました。
たとえば、ある女の子のケースで、この子はお父さんと数年間もまともに口をきいていません。ただし、お母さんとはいい関係にあり、お母さんとお父さんとの関係もそれほど悪くありません。
そこで、娘さんへの誕生日のプレゼントを用意してもらって、お父さんがプレゼントを渡そうとしても受け取らない可能性があるので、お母さんがお父さんからのメッセージを伝えて渡すようにしてもらいました。
こういうやり方を「間接贈答法」といいますが、これは物をあげてご機嫌をとろうとか、そういうものではありません。コミュニケーションのルート(やりとりの経路)によって、情報の伝わり方が違うということを利用した手法です。ですから、物を贈るときだけでなく、ほめ言葉を贈るときにも、この手法が使えます。
よく子どもをほめることが重要だといわれますが、たとえば、先の女の子に対してお父さんが面と向かってほめても、「見え透いたお世辞言って」と無視されるか、「なんで急にご機嫌とってるんだろう」と怪しまれるのが関の山でしょう。
そんなときは、お父さんが直接言うのではなく、お母さんの口から「お父さんが、あなたはとても頑張り屋だってほめてたわよ」と言ってもらうと、けっこうその子の胸に響いたりします。
その女の子は、お父さんとの関係性に対して反抗しているのであって、メッセージの中身(ほめ言葉)について反抗しているわけではありません。だから、コミュニケーションのルートを変えて、お母さんを通して、お父さんのメッセージが間接的に伝わるようにすると、案外素直に受け取ることができるのです。
このように、あまり関係のよくないときは、直接子どもと関係をもとうとするよりも、誰かを介して間接的にメッセージを伝えてもらうとうまくいくことが多いと思います。ほめ言葉にかぎらず、「お父さんはああ見えて、あなたのことをとても心配しているのよ」とお母さんが伝えたりするのもいい方法です。
4.スモールステップ
不登校の問題を解決しようと思ったとき、不登校そのものに焦点をあてたほうがいいケースと、そうでないケースがあります。そして、ほとんどは後者のケースではないかと思います。
なぜなら、いまの状況を変えたいと思ったとき、できるだけ小さい変化(スモールステップ)から始めることがもっとも有効なやり方だからです。
具体的なやり方としては、まず、いまなにが問題なのか、なにが変わればいいのかを考えてみてください。いきなり「学校に行けるようになればいい」という大きな変化を目標にするのではなく、もっと小さな目標を考えてみましょう。
たとえば、子どもがゲームをしているとき、お母さんが「ごはんよ」と言っても、なかなかゲームをやめないという状況があるとします。だから、「ごはんよ」と声をかけたら、すぐにやめてテーブルにつくようになるというのを目標にしてみる。あるいは、いつも夜中の2時、3時まで起きているので、12時までには寝るようにしてほしいとか、そういうスモールステップを考えてみてください。
スモールステップがなぜ重要かといえば、ひとつの小さな変化が起こると、それをきっかけに、まるでドミノ倒しのように次々と変化が起こってくることが多いのです。
このとき、親御さんが「学校に行く、行かない」という問題だけにこだわっていると、せっかく「12時に寝るようになった」という変化が起こっても、たいしたことじゃないという意識でとらえたり、その変化にさえ気づかないこともあります。ですから、「学校に行けない」ことばかりに目を向けず、日常の小さな変化に着目し、そのためにはどうすればいいかを考えてみることをおすすめします。
5.悪循環を断ち、良循環をもっと続ける
子どもの状態がいいとき、たとえば、いつもは深夜まで起きているのに、今日は12時に寝たとしたら、そのとき自分(親)は子どもにどう対応していたかを考えてみてください。
「いいときなんてないわよ」というお母さんもいるかもしれませんが、それは見えていないだけです。いつもは「おはよう」と声をかけてもブスッとして目も合わせないし、返事もしないのに、今日は「ああ…」と言ったとか。つまり、「いいとき」といってもベストな状態でなくてかまいません。いつもとくらべてちょっといいという程度でいいのです。
そういうときに、自分の対応はどうだったかを振り返ってみましょう。「そういえば、その日は忙しかったので、子どもがずっとゲームをやっていても文句をいわなかったな」とか、「子どもの好きなアニメ映画をテレビでやっていたので、家族みんなで見たな」とか、ほんの小さなことでもいいので、その日の自分の対応について考えてみましょう。
その反対に、子どもの状態がわるいとき、自分はどう対応していたかについても考えてみてください。
そして、子どもがよいときの自分の対応がわかったら、その対応をもっと続けます。また、子どもが悪いときの自分の対応がわかったら、その対応はやめます(下図を参照)。これが短期療法の基本的な考え方です。単純にみえますが、これだけで子どもはかなり変わります。
この図のなかでいちばん難しいのが、右下の「その対応はやめる」ということです。たとえば、いつも子どもに口うるさく言っているのを、言わないようにする。これは難しいことです。
ですから、やめるためには、必ず別の行動をするようにしてください。親のほうだって、ただ我慢をしているだけではストレスがたまる一方ですから、別のことをして気分転換をはかることが大切です。たとえば、子どもに小言を言いたくなったら、犬の散歩に出かけたり、買い物に行くなど、自分にできそうなことを、ぜひ考えてみてください。