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不登校ー待っていれば自然に“治る”のか 第2部

 2010年6月13日に開催された登進研バックアップセミナー72の第1部「不登校―待っていれば自然に“治る”のか」の講演後、会場からの質問に答える時間を設けました。

 

回答者は、以下のとおりです。
小林正幸(東京学芸大学教職大学院教授)
霜村 麦(臨床心理士)

 

 

Q1 反論や反抗は回復のきざし?

 中3の息子です。約2年間、不登校です。最近、反論や反撃、反抗、意見を強く主張するようになりました。回復に向かっているのでしょうか?

 

A1 怒りを表現するのは大切なこと(回答:小林正幸)
 そうだと思います。怒りというものは、「願い」がないと出てこない。反抗とは、相手にこうしてほしいという願いがあるから出てくるものです。だから、「すごく腹が立つんだね」とその子の感情を受けとめるだけではなく、「あなたは私にこうしてほしいんだね」ということを理解し、受けとめてあげるといいでしょう。
 怒ることは、とても大切です。怒りがないと人類は進歩しません。こうしてほしいという要求を社会的に通用するかたちにしていくことが、人間に工夫をさせるのです。ですから、怒りを表現できるようになってきたのは素晴らしいことです。

 残る問題は、どうすれば自分の要求を相手にきちんと伝えられるか。ただ怒鳴ったり、ケンカ腰でものを言っても伝わらない。だったらどうすればいいか。そのための表現手段を自分なりに考えていくことだと思います。

 

 

 

Q2 子どもにやさしくするだけでいいのか?

 子どもを大きな気持ちで受けとめてあげたいという思いはあるのですが、親も人間なので弱いし、つらいんだよということもわかってほしいと思うことがあります。言葉に出したときもあります。それがよかったのか悪かったのか……。

 やさしくすることは簡単ですが、それだけでよいのでしょうか。親として厳しくしなければいけない線引きはどういう場面でしょうか?

 

A2 家庭内のルールは厳しく言ってもいい(回答:小林正幸)

 私は、親御さんに聖人君子になれというつもりはありません。自分のダメな部分を見せたり、「私だってつらいのよ」と泣いてもかまわない。子どもの感情を受けとめるということは、自分の感情も正直に出すということです。
 「本当は学校に行ってほしいと思っている」と正直に言ってもいい。子どもだって、お母さんが学校に行ってほしいと思っていることくらい顔を見ればわかります。そうして互いに正直な気持ちを出していくなかで、「でも、行けないんだよね」「私もつらいけど、あなただって行けなくてつらいんだよね」という感情は共有していいと思います。
 ただ、一緒に生活しているのだから、「食事は一緒に食べようよ」「自分の布団くらい上げてよ」「自分の部屋の掃除くらいやってよ」といった共同生活を営むうえでのルール的なことは、厳しく言ってもいい。つまり、「学校に行かないことと、家庭内のルールは別」と考えていいということです。

 

 

 

Q3 うつ状態で入院治療している子どもへの対応は?

 子どもがうつになり、5月の連休明けから入院治療しています。学校には4月末から行けなくなりました。子どもに対しては、今日の講演でお聞きした対応の仕方でいいのでしょうか?

 

A3 いまは、なにもせずのんびり休養を(回答:霜村麦)

 最近、精神疾患にかかっているお子さんが増えています。お医者さんの治療方針にもよると思いますが、まず第1にしっかり休養をとるようにいわれることが多いと思います。
 先ほどの講演で小林先生が「待つ」とか「見守る」というのは、なにもしないことではないとお話しされていましたが、このようなお子さんの場合、それは当てはまりません。
 このお子さんの場合、「待つ」というのは、本当になにもしないで休養に専念するということです。とりあえず感情的な働きかけは先延ばしにして、お医者さんの指示のもとで、なにもせずにのんびり休養する。そういう時期が必要なお子さんもいますので、その場合の「待つ」というのは、いわゆる「待つ」ということとは違ってくるかと思います。

 

A3 具体的に期間を決めて、しっかり休む(回答:小林正幸)

 霜村さんの回答にひとつ付け加えるならば、このような場合は、夏休みをとるつもりできっちり期間を決めて、しっかり休んだほうがいいと思います。
 お医者さんにも「少なくとも○カ月かは学校に行かないほうがいい」とはっきり言ってほしいんですが、そう言われなくても、「この薬を飲んでいるうちは学校には行かないように」といったことを医師から言われたら、どれくらい学校を休むかは親御さんのほうで決めるというふうに頭を切り替えたほうがいいです。たとえば3カ月は学校に行かないと決めたら、お子さんにも「これから3カ月は学校をお休みするからね」「そのあとどうするかは、またお医者さんと相談しようね」と伝えてください。

 私自身もこうしたケースでは、「○カ月は学校に行かないようにしましょう」とアドバイスすることがよくあります。行くか行かないかを曖昧にしておくと、親御さんのほうも精神的に苦しくなるので、こちらから具体的に休む期間を○カ月というように区切ってあげるほうが、お子さんのためにも親御さんのためにもいいからです。

 

 

 

Q4 失言したときはどうしたらいいか?

 気をつけているつもりでも失言してしまったときは、どうしたらいいでしょうか。先日、不登校をしている子どもが父親と旅行に行ったのですが、そのことを私が担任の先生に伝えてしまい、本人は先生に言ってほしくなったようで怒られてしまいました。

 

A4 いつまでも気に病まず、あっさり対応(回答:小林正幸)

 失言は誰にでもあることです。もし失言してしまったら、早めにあやまることと、お互いにいつまでも根にもたないことが大切。このお子さんは根にもっちゃったんでしょうね。こういう場合のポイントは、親が「ゴメン、ゴメン」とあっさり対応することです。
 失言ばかりするけど憎めない人というのは、失言したことを忘れちゃってることが多いんです。その失言に深い意味がないから忘れてしまうのでしょう。要するに、ついうっかり言ってしまったけれど悪意はないんだということが、子どもに伝わればいいんです。だから、「あっさり」と対応するほうがいい。いつまでも気に病んでオドオドしていると、逆にそのことで関係がギクシャクすることが多いように思います。

 

 

 

Q5 友だち関係でつらい体験があり、 「教室に入ることは考えられない」と言う子

 先日、友だち関係でつらかったことを過去にさかのぼって話し出しました。私は「つらかったね」と言葉をかけました。再び友だちづきあいをすることに不安を感じているようです。だいぶ回復してきたようにも思えますが、「教室に入ることは考えられない」と言っています。本人の気持ちを尊重していくしかないのでしょうか?

 

A5 そのつらさはいずれ消えていくと、親がどっしりかまえる (回答:小林正幸)

 失礼な言い方かもしれませんが、このお母さんはとてもいい線まで行っていると思います。「いい線」というのは、「つらかったね」と子どもの気持ちを共有することができているからです。気持ちを共有しているからこそ、逆に子どもが「教室に入ることは考えられない」と言うと、「この先、大丈夫かしら?」と不安になってしまうのでしょう。
 こういう場合は、「教室に入ることは考えられないくらいつらかったし、今もそのことが心配なんだね」と、お子さんの心配を受けとめてあげることが大事です。「そうか、そんなことがあったら、それは嫌だよね」「それなら教室に入るのは嫌かもね」「それを考えると教室に入るのが心配になっちゃうよね」等々……。
 ただし、そのときお母さんの心の中に「子どもと一緒になって心配しちゃって、こんなこと言って、学校に行くようになるのかしら?」という不安があると、ニッコリ笑って「心配になっちゃうよね」とは言えなくなってしまいます。
 そんなときは、「教室に入ることは考えられないくらいつらいことがあったし、今はそれを考えるとつらいんだー」と言ってあげるといい。「今は」というのがポイントで、いずれそれは消えていくと、親のほうがどっしりかまえていないとダメです。

 

 

 

Q6 気持ちを共有したくても、 子どもがあまり話してくれない

 気持ちを共有することは大切だと思いますが、子どもは自分の感情や気持ちをあまり話してくれません。話してくれるまで、待ってあげたほうがいいでしょうか?

 

A6 子どもの「行動」にあいづちを打つ(回答:小林正幸)

 先ほど、「感情面」の共有の話をしましたが、「行動面」についても同じことがいえます。たとえば、テレビを見ていたら、「ニュース見てるんだ〜」とか、「ちょっと外に行ってくる」と言われたら、「走ってくるのー?」とか、そういう会話で十分です。子どもがなにか行動していることに対して、「ふーん、ゲームやってるんだ〜」とか、あいづちを打つ程度で十分にコミュニケーションはとれるはずです。

 

 

 

Q7 このまま社会復帰できないのではと心配

 小林先生たちが行った不登校の追跡調査で、中3で不登校だった子どもが20歳になったとき、そのうちの75%が学生、社会人、アルバイトなどのかたちで社会に適応していたそうですが、逆にいえば25%、つまり4分の1の子どもが社会復帰できていないということになります。その4分の1に、わが子が入らないとは限らないので心配です。

 

A7 早めに上昇気流に乗せてあげる働きかけを(回答:小林正幸)

 この調査からわかったことのひとつは、「現在の状態から未来は予測できない」ということ。もうひとつは、こういうタイプの子は社会適応しにくいとか、こういうタイプは社会適応しやすいといった、タイプ別の傾向はみられなかったということです。
 では、社会適応ができるかできないかの違いはどこにあるのか。それは、いったん上昇気流に乗った子は上昇気流に乗り続け、反対に、いったん下降してしまった子はそこから再び上昇するにはものすごくエネルギーが必要になるということです。つまり、不登校によって社会にかかわらない状態が続いていると、翌年もその状態が続きやすいことがデータからわかったのです。しかし、その場合でも、ある時点で学校や会社に所属すると、翌年もその状態のままでいるケースが80〜90%というデータも出てきました。
 一度、不登校になると、またドロップアウトしやすいと思う方もいるかもしれませんが、そういう傾向は、調査データからは出ていません。要するに、社会適応できるかできないかは状況しだいで、いったん上昇気流に乗りさえすれば、子どもはそのまま乗り続けるという「状況依存型」であることがわかったのです。
 これまで不登校の子どもはひきこもりになる確率が高いといわれていましたが、最近、東京都が行った「ひきこもり実態調査」(平成19・20年度調査)の結果をみると、ひきこもり状態になった原因のトップは「職場不適応」。つまり、職場でつまずいてひきこもりになる人がいちばん多いということです。これに「就職活動の不調」を加えると4割を超え、就職・就労に関することが予想外に多いことが明らかになりました。これは、不登校からひきこもりに移行するケースよりもはるかに多いのです。

 以上のことからわかるのは、不登校になった子は社会適応しにくいとか、ひきこもりになりやすいということではなく、早めに上昇気流に戻してあげること。これができれば、ひきこもりやニート状態の人たちが減っていくだろうというのが、調査データから得られた結論です。そういう働きかけをやり続けることが大事だということです。

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