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登進研のチエブクロウ(6)なぜ理由を言わないのか?

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「登進研のチエブクロウ(知恵袋)」は、不登校について多くの親御さんが疑問に思っていること、悩んでいることを取り上げ、疑問解消や問題解決のヒントとなる情報をご紹介するページです。

 これらの情報は、これまで登進研が行ってきたセミナーの講演、体験談などから採録したものです。お子さんへの理解を深め、よりよいかかわり方を考えるうえで、お役立ていただければ幸いです。

 

◇ なぜ、子どもは理由を話さないのか?

今村泰洋(元・東京都教育相談センター主任教育相談員)

 

 子どもたちに「どうして学校に行かないの?」と聞いても、なかなか心のうちを話してくれないのはなぜでしょう。その理由は、以下の3つに分類できるように思います。

 

①話したあとどうなるか不安な子

 この子どもたちは、自分がなぜ学校に行きたくないのか、なぜ行けないのか、その具体的な理由やきっかけをわかっていることが多いような気がします。わかっているのに、どうして言わないのかというと、まわりの反応や評価をとても気にしているからです。つまり、学校に行けない理由を話したら、親から「なんだ、そんな理由か」とバカにされたり、弱虫と思われたりしないかと気にしているのです。
 また、理由を話したとたん、ご両親が学校に乗り込んでいって先生に抗議したり、担任に話したら、先生がクラス全員に話してしまった……ということもよくあります。
 このように、原因や理由をまわりの人に話したあとの対応が、自分が望むかたちになるかどうか不安を感じているからこそ、親にも話さないことが多いのです。


②行けない自分を認めたくない子

 このタイプの子どもたちは、理由やきっかけはなんとなくわかっているんだけど言えない、言いたくない、口に出したくないと思っているようです。なぜなら、学校に行きたくない理由を一度口に出したら、「学校に行けない自分」を認めることになり、学校に行けないことを自分から宣言するはめになるからです。クラスのみんなは学校に行けるのに、自分だけ行けない。自分はみんなに負けてしまったような気がする。それを認めたくない気持ちがはたらいていると思われます。
 この子たちは、①の子と同様、まわりの反応を非常に気にしていることが多く、不登校の自分がみんなにどう思われているか不安を感じているようです。また、不登校の理由だけでなく、自分自身のこと、自分の得意なことや苦手なことなどもよくわかっており、それだけに葛藤の多い子どもたちです。


③自分でも理由がわからない子

 こうした子どもたちは、自分でもなぜ学校に行けないのか理由がわかりません。だから聞かれても答えようがない。友人とケンカしたわけでも、先生が嫌いなわけでもなく、なんとなく行きたくないだけ。理由を聞かれて「なんとなく」なんて、親にはなかなか言えません。
 「なぜ自分は学校に行けないんだろう?」と悩んでいるときに、まわりから「真剣に考えてるの?」「どうして行けないの? 考えていることがあったら話してごらん」と言われたりすると、自分でもわけがわからないのですから、たいていは、「うるせー」「ほっといてくれ」になりがちです。一見、投げやりになっているようですが、実際は混乱して、どうしたらいいかわからないことが多いようです。

(セミナー55・講演「不登校―原因がわかれば解決するのか」より)

◇なぜ、原因がわからないことが多いのか?

小林正幸(東京学芸大学名誉教授)

 

 そもそも「原因を取り除けば、問題は解決する」という考え方が通用する現象のほうが、実は少ないのです。自然現象でも社会現象でも、それは同じです。
 たとえば火事が起こって、原因はタバコの火の不始末だとしましょう。では、消防士が火のなかに飛び込んで、原因であるタバコの吸いがらを撤去したら、火事は消えるか? 消えませんよね。つまり、大変な状況になっているときには、最初に問題が起きたときの状況とは全然違う事態へと発展してしまっているので、原因を追及したり、取り除いたりしても意味がないことのほうが多いのです。
 火事を予防するには、スプリンクラーや火災報知器を設置したり、家を耐火構造にして初期消火に備える、つまり早期に手を打つことが重要ですが、予防の段階でやることと、実際に問題が起こって大変な状況になってからやることは違うということです。


なぜ、いじめられていることを言わないのか

 たとえば、いじめられている場合など、子どもはなかなか自分からは言いません。なぜなら、いじめられているということは、友だちから「お前が悪い」というメッセージをさんざん与えられているわけで、となると、「自分が悪い」ことが原因で不登校になったことになりますから、まわりの人に聞かれても原因を言えない場合が多いのです。ただし、いじめられていることを話して、その結果、その人が問題を解決してくれるという見通しがあれば、話してくれるかもしれません。
 いじめは学校で起きているわけですから、先生が動いてくれればいちばん効果的ですが、そもそも、「○○さんがいじめるから学校に行くのがつらい」と言えないから不登校になるわけで、先生に言ってもダメだと子どもが思えば、先生には話しません。
 じゃあ親に言えばいいじゃないかと思うかもしれませんが、親にできるのは先生に連絡することくらいですから、それを受けて先生に何ができるかと考えたとき、効果がないと判断すれば、当然、親にも言いません。


子どものつらさに寄り添う

学年が変わってクラス替えがあり、いじめた子がよそのクラスになったり、「いまの学校が嫌なら、転校しようか?」といった状況になっても、原因を話してくれない子は少なくありません。思い出すのもつらいような場合、そのつらさを取り除いてくれる人でないと打ち明ける気になれないからです。
 そういう場合はどうしたらいいかというと、原因を過去にさかのぼって取り除くことはできないわけですから、心に突き刺さったトゲの痛みをわかってあげること、そのつらさに寄り添ってあげることが大切です。「ああ、そうだったの。つらい思いをしたのね」となだめてくれて、「大丈夫、人生にはいろいろあるからね」とゆったり受けとめてくれるような相手であれば、子どもはきっかけを打ち明けてくれるでしょう。

(セミナー72・講演「不登校―待っていれば自然に“治る”のか」より)

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