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登進研バックアップセミナー89・講演内容
リレー講演 ①昼夜逆転がなおれば登校できるのか
*本講演では、事例を糸口に「昼夜逆転」の本質的な問題について考えます。
講師:小澤美代子(さくら教育研究所所長)
【事例】
中学2年生の女の子です。昨年の夏休み明けから学校に行かなくなり、それ以降ずっと昼夜逆転の生活が続いています。中間試験や期末試験のときは「テストだけは受ける」と言って登校しようとするのですが、結局、朝起きられなくてテストを受けることができません。このような状態ではいつまでたっても学校に行けないと思うのですが、いくら生活リズムを正すように言っても聞く耳を持ちません。どうしたら昼夜逆転をなおすことができるでしょうか。
"中1ギャップ"の危機と親の対応
事例のお子さんは、現在、中学2年ということですから、中1の夏休み明けから学校に行かなくなったことになりますが、中学1年というのは、いわゆる"中1ギャップ"という言葉で象徴されるように、不登校になることが多い時期です。学級担任の先生がほとんどの授業を受けもつ小学校のシステムとは異なり、中学校になると教科担任制になって、授業内容はそれぞれ専門に分かれて少しずつ難しくなり、かつ学習する量も多くなってきます。
加えて、いくつかの小学校が合流して新1年生になることが多く、小学校より学区も広くなり、通学距離も長くなります。また、部活動というかなりハードなグループ活動も始まり、その結果、持ち物も多くなります。体操着のほか、部活動のユニフォーム、重い辞書も加わり、肉体的な負担も大きくなってきます。さらに、勉強や友だち関係などの負担もかかってきます。このように、中1の1〜2学期は子どもにとってとても負担が大きくなる時期であることを、親御さんは理解しておく必要があるでしょう。
ところが、親としては期待もあるので、とにかく「頑張れ、頑張れ」と励ますだけで終わってしまいます。そうなると、すでに十分すぎるほどの負荷がかかっているところに、さらに負荷がかかってきて、子どもはヘロヘロになってしまうことがあります。とはいえ、子どもには体力があるので少しずつ慣れていくわけですが、なかにはどうしても中学校のリズムに慣れない子が出てきます。
そして、夏休みをはさんで2学期になると、多くの中学校では体育祭があります。厳しい残暑のさなかに体育祭のためのハードな練習が続いたりします。このあたりから、それまでずっと頑張ってきた緊張の糸がプツンと切れたり、あるいはガタガタと崩れてしまって不登校が始まるケースが非常に多いのです。まして、「頑張って部活のレギュラーになりなさい」とか「1学期は成績が悪かったから、2学期は猛勉強しないとね」といったプレッシャーをかけると、子どもは耐えられなくなってしまいます。
事例のお子さんにどんなことがあったかはわかりませんが、夏休み明けから行けなくなり、それ以降、昼夜逆転の生活が続いていて、中間試験や期末試験のときは「テストだけは受ける」と言って登校しようとするとありますが、この状態は「善し」としたほうがいいと思います。「結局、朝起きられなくてテストを受けることができません」とあり、そこに「行くと言ったのに!」という親の怒りを感じますが、こういうときの対応はとても大事なんです。
つまり、学校に行けない状態が続いているなかで、「テストだけは受ける」とはっきり言葉にできたことは、チャレンジしようという気持ちが高まったわけですから、結果はともなわなくても、そのことを評価してあげたいですね。行けないことで、いちばん落ち込んでいるのは本人であって、そこに親の怒りをぶつけると追い討ちをかけることになってしまいます。できれば、「テストを受けようという気持ちになっただけでも十分だよ。授業もあまり受けてないんだからしかたないよ」と親御さんのほうからフォローしてあげたいところです。そのことで、次のステップが変わってくるはずです。
昼夜逆転は、不登校の"原因"ではなく"結果"
また、「いくら生活リズムを正すように言っても、聞く耳をもちません。どうしたら昼夜逆転をなおすことができるでしょうか」とありますが、こういうご質問はよく受けます。とくにお父さんが「昼夜逆転をしているから、学校に行けないんだと思います」と言われることが多いです。そんなとき私は「昼夜逆転はなおりません。なおそうとするものでもないし、学校に行けるようになればなおります。学校に行こうと思えば、子どもは寝なくても行きますよ」とお答えしています。つまり、不登校という原因と、昼夜逆転という結果を、逆にとらえている親御さんが多いのです。
では、昼夜逆転はなぜ起こるかというと、なんらかの理由で学校に行けない、行きたくない状態が生じると、朝の気分は落ち込みます。イヤだなという気持ちは、起きようとする気持ちを押さえつけます。朝というのは、気持ちが晴れていたり、ある種の緊張感がないと起きられませんから、不登校の子どもで元気いっぱい「おはよう!」と起きるケースはめったにありません。ほとんどの子は、行けないことに後ろめたさを感じていますから、クラスメートたちが登校する時間帯や学校で授業を受けている時間帯は、布団をかぶって寝ていたい気持ちになるわけです。
逆に夜中は、他の人は寝ているという安心感もあり、静まりかえって自分だけの時間という感じがするようで、ゲームをしたり、ネットを見たり、深夜放送を聞きながら、ずっと起きているという子が多いです。朝になると、また学校に行く行かないで親御さんともめごとになるから、「できれば朝は来ないでほしい」と思っている子が多いはずです。その結果、昼過ぎまで寝ていて、夜中はずっと起きているサイクルになり、昼と夜の逆転現象が起こります。不登校になってから数カ月の間に昼夜逆転になるのが一般的な傾向といえるかと思います。
原因はいろいろ考えられますが、学校での人間関係や学習面でのつまずき、あるいは日常生活のなかでその子がエネルギーを費やさざるを得ないような家庭内不和などが断続的に起こっているとしたら、朝、「おはよう!」と明るい気持ちで起きるのは難しいでしょう。そう考えれば、昼夜逆転という"結果"だけをなおそうとしても無理なのはおわかりいただけると思います。その子の気持ちの不調をもたらしている根本的な原因を解消しないことには、昼夜逆転をなおそうとしても意味がないのです。
では、どうすればいいか。基本的にはゆるやかに放っておくしかありません。子ども自身に「学校に行こう」という気持ちが出てきたり、大事な高校の受験日だったり、あるいは大好きなディズニーランドに行くといった場合には、朝起きることができる、そういう子がほとんどです。子どもが本当に高校に行きたいと思ったら、寝ないで徹夜してでも行きます。「行こう」「行きたい」と思ったら、昼夜逆転なんてしていられないわけですから、あっという間になおります。あまり昼夜逆転にばかり焦点を当てると不登校の本質が見えなくなりがちで、親子関係が悪化したり、家庭内暴力につながっていくこともありますので、注意が必要です。
ただし、同じ状態が1〜2年も続くようなら、具体的な手当てを講じる必要があるかもしれません。せめて午前中に起きられれば、それほど問題視する必要はありませんので、たとえば、「せめてお昼頃には起きようよ。午後になってから起きると体内時計がくるってしまうから体にもよくないし……」といったアプローチをしたほうがいいかなと思います。午前中に起きる生活が保てるようになれば、何かのきっかけでガラッと好転する可能性は高いと思います。