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登進研バックアップセミナー89・講演内容

リレー講演 ④中高一貫校で進路変更を迫られたとき

*本講演では、事例を糸口に「中高一貫校で進路変更を迫られたとき」に起こりがちな問題について考えます。

荒井裕司

講師:荒井裕司(登進研代表)

 

【事例】

 中高一貫校に通う中学3年生の女の子です。中2の春から、朝になると頭痛や腹痛、吐き気におそわれ、学校に行けなくなりました。
 中3になってからは、月に何日か授業に出たり、中間試験も相談室で受けられるようになるなど、回復の兆しが見えてきました。この調子で出席できる日が増え、いまの学校で高校への内部進学ができればいいのですが、いまだに夜よく眠れないため、朝起きられないことが多く、どうしても学校に行きたい日は徹夜で登校している状態です。
 本人もいまの学校への進学を強く望んでいるので、なんとか叶えてやりたいとは思いますが、万一、いまの学校に進学できないときのためにどのような準備が必要か、どんな選択肢があるのかを教えてください。

 

中高一貫校で子どもたちに起りがちなこと

 中高一貫校には、不登校になる環境的な要素が少なくありません。それをまず6つに分けて簡単にまとめてみましたので、参考にしてください。

①学習面で継続的にプレッシャーがかかりやすい
 猛勉強をしてやっと合格し楽になるかと思ったら、ほとんどのクラスメートは毎日塾に通っているし、学校でもハードな授業が続いていくわけで、ヘトヘト状態になることが多いのです。

②成績不振になった場合、自信を喪失しやすい
 中高一貫校には成績が優秀な子どもたちが集まりますから、ちょっと油断しただけで成績不振に陥り、自信を喪失しやすくなります。

③病気やケガなどで欠席が続くと、「取り戻せない」「もう追いつけない」と諦めやすくなる
 たまたま病気やケガなどで欠席日数が多くなると、授業に追いつけなくなり、取り残されてしまい、学習面で諦めやすくなってしまいます。

④ナイーブな生徒、真面目な生徒、気弱な生徒、コミュニケーションの苦手な生徒は孤立しやすい
 ナイーブで真面目な生徒は、いきなり新しい環境に投げ込まれ、入学式と同時に勉強のプレッシャーをはじめいろいろなことが次々と起こると、うまくコミュニケーションがとれなかったり、自分をうまく表現できなかったりしがちで、孤立しやすくなります。

⑤成績至上主義の学校や教師に対しての不信感が生まれやすい
 中高一貫校は偏差値教育の象徴のような学校ですから、成績至上主義の学校の方針や教師の姿勢に対して納得がいかず、不信感が生じやすくなります。

⑥中学受験に対する親子のズレが生まれやすい
 本人の希望する学校だったのかどうか、中学受験をして入学することは本人の意思だったのかどうかなど、親子間の考え方のズレが顕在化してきます。入学すれば楽に上の高校に進めると思ったのに、まったく話が違うじゃないかということで、学校が嫌になり、不登校につながるケースも多くなります。

 こうした状況をふまえて、事例について考えてみたいと思います。

 まず、「頭痛や腹痛、吐き気におそわれ、学校に行けなくなりました」とありますが、思春期の子どもは、学校のこと、友だちのこと、家族のこと、自分の体のことなど、さまざまな不安や葛藤を抱えています。そうした不安や葛藤が心のなかにたまりすぎると、ときに、たまった感情をぶつけてくることもあります。また、心のなかの悩みが大きくなると、さまざまな身体的な症状が出てくることもあります。事例の女の子が中2のときの感じも同じかなと思います。
 中3になって回復の兆しが見えてきたとありますが、私にはあまりそんな感じはしないんです。また、「いまの学校で高校への内部進学ができればいいのですが」とありますが、これはご本人ではなく、親御さんの気持ちのほうが強く出ているような気がします。

 「どうしても学校に行きたい日は徹夜で登校している状態です」というのは、ちょっとつらいですね。この状態を続けていたら、このお子さんは心身ともにボロボロになってしまうのではないかと思います。「本人もいまの学校への進学を強く望んでいるので」と言っている親御さんの対応にちょっと疑問を感じてしまいます。

 このお子さんが本当に元気になるにはどうしたらいいのかを考えたとき、いまの学校にこだわるのではなく、いまの学校という選択肢は捨てて、新規まき直しの意味で、まったく別の進路を考えてあげたほうが自分らしさを取り戻せるような気がします。そのためには、お母さんがお子さんの不安を受けとめ、心をほぐしてあげてから、次のステップとして進路を考えていければいいのかなと思います。

なぜ、中高一貫校で不登校が深刻化しやすいのか

 ここで、中高一貫校では、なぜ不登校が深刻化しやすいのかを考えてみましょう。

①不登校を認めたくない
 不登校を認めたくないのは、子どもだけでなく親も同じ。
 中高一貫校に入学するまでの一般的な経緯としては、中学受験に強い塾に通い、合格したときは小学校のクラスメートから大いに祝福されたと思います。おじいちゃんおばあちゃんなど親戚からもお祝いをもらったりして入学した学校でしょうから、世間的なプレッシャーも感じるなかで、本人もできれば内部進学できるように頑張りたいと思っているはずです。
 その結果、自分は不登校であることを認めたくない状況が生まれてしまいます。そのことが、さらに本人を苦しめてしまうことになりがちです。

②「休むこと」を受け入れにくい
 中高一貫校には成績が優秀な子どもたちが集まりますから、激しい競争意識も生まれ、少し休むだけで学習面の遅れが気になってしまいます。そのため、「休むこと」はどうしても避けたいし、自分でも受け入れることができなくなってしまうわけです。

③再登校に向けた居場所がない
 中高一貫校で不登校になった場合、心理的なケア面での十分なサポートは期待できません。そのため、再登校に向けたリハビリ期間に受け入れてくれる場所をどうするかで悩むことが多いのです。
 たとえば、適応指導教室に通うこともできますが、地元の公立中学校の子どもたちが通っているため、できれば避けたいと思っている子がほとんどです。自宅から離れたフリースクールに通う場合もありますが、なかなか居場所が見つからないのが実情です。

④欠席日数に対するプレッシャー
 高校の場合、年間30日もしくは40日、学校によっては60日というケースもありますが、それだけ欠席したら「留年です」とか「ほかの学校に移ってください」と言われますから、欠席日数に対するプレッシャーも大きく、不登校に対する具体的な対応が行われる前に深刻化しがちです。

その子の将来にとってどんな進路が望ましいのか

 中高一貫校では、不登校になっても中学校の3年間は進級できるケースが多いのですが、高校に内部進学した場合、果たして通えるのかどうか、クラスメートとのコミュニケーションはうまくとれるのかなどを検討しながら、本人の気持ちを尊重し、進路を再検討する必要があるかと思います。

 私が家庭訪問でかかわった不登校のケースで、中高一貫校の中学3年生のときにトイレにひきこもり、なかなか出てこなかったお子さんがいました。その後、なんとか内部進学を許されて進学できたのですが、高校1年生のゴールデンウィーク後に再び行けなくなり、その後に学校を移りたいと連絡があり、サポート校に転入してきました。
 転入後、その生徒は「この学校は自分に合っている」とボランティア活動などにも積極的に取り組むなかで、発展途上国の子どもたちを助けるために医者になりたいと、現在は大学の医学部をめざして予備校に通っています。

 このように子どもたちは環境を整えてあげることで、どんどんやりたいことを見つけて変わっていきます。それにともなって新しい進路が拓けていきますから、リセットし直すことが奏功することもあるということです。

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