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登進研バックアップセミナー89・講演内容
リレー講演 ⑤小中学校で転校するときの準備と手続き
*本講演では、事例を糸口に「小中学校で転校するとき」の注意点について考えます。
講師:齊藤真沙美(臨床心理士)
【事例】
小学校4年生の男の子です。小3の2学期から学校に行けなくなりました。
もともと明るく活発な子で、仲のよい友だちもおり、成績も中の上くらい。本人も「なんだかわからないけど行きたくなくなった」と言います。いまの学校に戻りたくない気持ちははっきりしているようなので、「ほかの学校を探そうか?」と聞いても、「まだいい」と言って黙り込んでしまいます。
このごろはずいぶん落ち着いてきて、ひとりで買い物にも行き、両親ともよく話をします。ただ、不登校以来友だちづきあいがまったくないことと、学習面での遅れが心配です。
親が先走って決めるのはよくないと思いながらも、そろそろ転校を考えたほうがいいのか、学校以外のフリースクールなどに通うのはどうか、それとも、もう少し休ませたほうがいいのかなど、判断がつかず悩んでいます。
私は、現在、公立の教育相談室で主に小中学校の子どもたちと親御さんのご相談を受ける立場にありますので、その経験をふまえて、大きく分けて2つの視点からお話しさせていただきます。
①現在、不登校の状態で、今後、学校への復帰を考える場合、転校を含めて、どんな段階で、
どんな環境を選んでいけばいいのか
②転校という選択をした場合、具体的な手続きなどについて
環境を変えるか否かを決める前にやるべきこと
子どもが学校に行けなくなったとき、環境を変えると行けるようになるのではないかと、相談に来られる親御さんは多いです。
ただ、実際のところは、子どもがどんなところでつまずき、どんなことに不安を感じているかなど現在の状態や、心のエネルギーがどのくらいたまっているか、どのくらい動ける状態にあるかなどについて、きちんと把握したうえで対応していかないと、ただ単に転校というかたちで環境を変えても、なかなか継続的な登校を期待することは難しいのではないかと思います。
むしろ、子どもの状態を確認していくなかで、時期をみて、その子に合った環境を選んでいくのが一般的な流れになるかと思います。
転校に関するご相談が多いのは、いじめが原因で不登校になった場合や、学級崩壊などでクラスが荒れ、そのなかで感受性の敏感な子がすごく傷ついてしまった場合などです。また、発達障害の疑いがあったり、発達にかたよりのある子どもで、落ち着かない環境には適応しづらかったりすると、転校の話が出てくることがあります。
とくに、いじめが原因の場合、いじめられた学校やクラスに戻るのは難しいわけで、どこかの時点で環境を変えることが必要になってくると思いますが、どの時点でどの学校を選ぶかは、とても重要なポイントです。
たとえば、頭痛や腹痛などの身体症状が激しく出ていて、学校の話をちょっとするだけで逃げ出すような状態にあり、情緒的にもとても不安定な不登校の初期のような段階で、転校の話をしても、子どもには次の学校のことを考える余裕も準備もありません。そのため、その時点で親御さんが焦って次のステップのことを決めたりすると、たとえ環境を変えることが決まったとしても、その後、うまくいかなくなることがあります。
転校以外にもさまざまな選択肢がある
次に事例のケースについて考えてみたいと思います。原因やきっかけは定かでないようですが、お子さん自身、いまは学校に行きたくないと明言しています。はっきりしないけれども、学校で嫌な思いをしていたかもしれないし、休みが長く続くとクラスメートにも不登校であることを知られてしまうので、そうした環境にもう一度戻ることに抵抗感を示すのもよくあることです。
現在の状況としては、ひとりで買い物に行ったり、両親ともよく話をするなど、かなり落ち着いてきた感じがします。ただ、ほかの学校を探すことについては、「まだいい」と意思表示をしているので、転校については十分には心の準備が整っていない状況なんだろうと思います。
こうした状況ではありますが、親御さんとしては、転校に向けた情報収集などは始めておいたほうがいいでしょう。転校については、住む自治体によってシステムが違いますので、実際に必要な手続きについて調べておく必要も出てきます。また、選択肢として、転校以外にもいろいろな方法があることを頭に入れておいてほしいと思います。
転校するということは、まったく新しい環境の学校に所属が移り、そこで生活していくわけですから、さまざまなストレスがかかります。子どもは、普通に健康な状態でもかなり疲弊してしまうような体験をすることになるので、当然、転校のデメリットもあることを考慮すべきです。
そういう意味でも、心のエネルギーがたまってきて、本人がどんな環境ならやっていけそうかということに目が向くようになってきたところで、転校以外の選択肢についても検討できればいいなと思います。
たとえば、同じ学校でも別室登校ならできそうということであれば、保健室や相談室への登校も考えられます。あるいは、やはり同じ学校に登校するのは難しいということなら、各自治体に適応指導教室があるので、そちらに通えば不登校の子どもでも出席日数に換算してもらえるシステムになっています。そうした選択肢もあるわけです。
東京都の場合、中学校では通級指導教室といった位置づけで「相談学級」というものもありますので、見学してみるといいかもしれません。
民間の機関では、不登校の子どもが通えて、在籍校への出席日数としてカウントしてもらえるフリースクールを選択するのもひとつの手です。とにかく状況が整ったところで、親御さんが情報を集めて、子どもに合った居場所を検討してみたらいかがでしょうか。
この事例のお子さんの状態でひとつ気になるのは、「もともと明るく活発な子で、仲のよい友だちもおり、成績も中の上くらい」と、あまり学校を嫌がる要素が見当たらない点です。これは想像になりますが、学校で嫌なことがあってもあまり表情に出さないタイプのお子さんで、そのまま頑張ってきてしまい、ここにきて息切れを起こしたという側面があるのかもしれません。
こうしたお子さんの場合、新しい環境の居場所に行っても、自分が不快に思ったことや不安に感じていることをあまり表情に出さずに、我慢して頑張り続けてしまいがちです。そして、いつの間にか、また通うのが難しくなってしまうというパターンになりやすいとも考えられます。
新しい環境でうまくやっていくには、むしろ自分が「嫌だ」と思う気持ちを自覚し、その気持ちをまわりに伝えながら発散して、不安などを自分でコントロールできる力を身につけることが必要かもしれません。
学区制と学校選択制、転校の手続き
最後に、本人の心の準備が整い、やはり転校することが最善の道となった場合に、どんな手続きが必要かについてふれたいと思います。
公立小中学校では、決められた通学区域のなかで指定校を決定する「学区制」をとっている地域と、自由に学校を選べる「学校選択制」をとっている地域との2つがあります。「学校選択制」をとっている地域については、ある程度、自由に学校を選べる状況がありますが、各校に定員がありますので、詳しい情報を確認してください。
「学区制」をとっている地域については、指定校変更の手続きが必要になります。変更理由によっては、指定校変更が適当か否かということで、保護者や本人、関係機関への聴き取りや別の書類を提出する必要が出てくるかもしれません。友人関係のトラブルなどによって指定校を変更したいときには、隣り合った学区にしか転校が認められない場合もありますので、各自治体の教育委員会の学務課もしくは学事課に問い合わせをしていただければと思います。
いざ転校が決まったときに、子どもにかかるプレッシャーはかなり大きいものがあります。そんなとき、「そこでダメだったら、もう選択肢がないんだよ」と追い込まれてしまうと、ただでさえ緊張しているところへ、さらなる緊張を強いることになりかねません。
「ダメもと」「お試し」くらいの気持ちでやってみて、転校後に問題が起ったら、またその時点で考えようといった心がまえが大切かなと思います。