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最新・不登校問題へのアプローチ
2018年10月13日に開催された登進研バックアップセミナー103の第2部の内容をまとめた抄録です。
講師 霜村 麦 (臨床心理士)
海野 千細(八王子市教育委員会
教育支援課心理相談員)
齊藤真沙美(東京女子体育大学・
東京女子体育短期大学講師)
荒井 裕司(登進研代表)
※講師の肩書きはセミナー開催時のものです。
Q1 起立性調節障害と診断されたとき
・起立性調節障害という「病気」をどう考えればよいのか。
・一般的な不登校と起立性調節障害による不登校は別のものと考えるべきか。
・家庭での対応としては、起立性調節障害による不登校という視点が必要なのか。
A1 身体疾患であることを理解し、環境調整をはかる(講師:齊藤真沙美)
起立性調節障害という言葉を、最近よく耳にするようになりました。たちくらみ、失神、朝の起床困難、倦怠感、動悸、頭痛などの症状を伴い、思春期によくみられる自律神経機能不全のひとつです。つまり、身体的な疾患であり、本人の頑張りでどうにかなるものではありません。
起立性調節障害の症状を聞くと、不登校の場合、程度の差はありますが、多くのお子さんが該当すると思われるかもしれません。実際に不登校の約3~4割にみられるというデータもあります。そもそも「不登校」とは、学校に行けない状態をあらわす言葉ですから、その原因や症状はさまざまです。心と体は密接に関連しているので、起立性調節障害と不登校の関係も単純な因果関係でとらえることはできません。そして、たとえどちらが原因でどちらが結果かを明らかにできたとしても、支援にはそれほど役に立たないことも多いです。
起立性調節障害の症状は、自律神経系のバランスが崩れ、立った状態で上方に十分な血液を送ることができない、つまり血圧が低下した状態になることで生じます。ストレスもこれに影響を及ぼします。該当する症状がある場合には、医療機関を受診し、症状に合った対応をすることが望まれます。起立性調節障害には、症状によって主に4つのサブタイプがあるとされており、それを調べるための検査を行う場合もあります。症状に応じて薬物療法も行われますが、これだけでは十分な効果が得られないといわれています。
日常生活上の工夫としては、起き上がるときはゆっくり起き上がる、静止して立った状態を1~2分以上続けない、水分と塩分を多めに摂る、1日30分程度歩くなどがあげられます。
そして、重要なのは、疾患や症状の理解と環境調整です。これは一般的な不登校への対応で重視されることと同じです。怠けや根性のなさとみるのではなく、身体疾患であることを子ども本人と周囲の人々がきちんと理解する必要があります。学校に行かないことを責められることで症状が悪化する場合もあります。本人も「自分が悪い」と自分を責めていることも少なくないため、診断名がつくことで少しホッとするケースもあります。
朝、血圧を測定して、その状態によって登校するか否かも含めその日の予定を立てることで、親子ともに葛藤や衝突に苦しまなくなった事例もあります。加えて、ストレスが軽減される安心した環境を整えることが求められます。自分のことを理解してくれる人がいる安心できる環境で、エネルギーを溜めることが、症状の改善にもつながるのです。
Q2 きょうだいへの影響
・不登校の兄を見て、弟が「僕だって学校なんか行きたくないよ」「なんで僕だけ学校行かなきゃいけないの?」「お兄ちゃんはズルい」などと言う。
・親の関心が不登校の子ばかりに向いてしまい、きょうだいが愛情に飢える。
・「お姉ちゃんが学校に行っていないからクラスメートにからかわれた」と学校から泣いて帰ってきた。
A2 不登校への不平・不満の背後に何があるのか(講師:海野千細)
きょうだいのなかで学校を休んでいる子がいるという状況は、「学校は行けなくても仕方がない」という認識をきょうだいで共有する結果になる場合もあります。その一方で、「不登校は休ませたほうがいい」といった予備知識があると、不登校の子には「休んでいいのよ」と言いながら、他のきょうだいには「あなた(だけ)は学校に行くのよ」と、反対の対応を取らざるを得なくなり、親として苦しくなってしまう場合も少なくありません。
きょうだいとは、支え合う存在である一方で、本来、親の愛情を奪い合うライバル同士でもあります。同じきょうだいであるにもかかわらず、不登校の子を特別扱いする親の対応に納得がいかないのは当然です。ただ、小学校低学年くらいの幼い子は別として、きょうだいの多くは、親に「お兄ちゃんはずるい」といった不平や不満をすぐに訴えるわけではありません。子どもなりにお兄ちゃんの事情を薄々感じて、「不平や不満を感じてしまう僕は悪い子」という罪悪感から、いい子を演じたりしている場合も多いからです。
しかし、しだいに「お母さんが甘やかすからだ!」といった親の接し方への非難や批判が噴き出してくることがあります。受けとめるのはなかなか難しいことですが、その背景に、「実は、自分も登校するのが苦しい」という事情が潜んでいる場合が少なくありません。親に対して不平、不満を言えること自体は、その子が精神的に健康に育っている現れであり、風通しのよい親子関係の証でもあるのです。
「僕だって我慢して学校に行ってるんだ」という苦しい胸の内をのぞかせるだけで気持ち的に落ち着くこともあります。少し余裕があればという話ですが、そのやりとりのなかで、「そうか、いろいろ大変だったんだ。気がついてやれなくてごめんね。ちょっとお疲れ休みしようか?」といった対応も考えられます。しかし、その子までずっと学校を休んでしまうんじゃないかと思うと気が気ではないでしょう。
そういう心配も正直に話してみてはどうでしょうか。「でも、あなたまで学校を休むようになったら…と思っちゃうんだよね」とか。その対応が呼び水になって、その子まで休むようになったら、精神的にかなり無理をしていたんだと思ったほうがいいと思います。
Q3 きょうだいで不登校になったとき
・2人の子どもにどう対応したらよいか。
・親の精神衛生をどう保つか。
A3 お母さん自身が「許された」という体験をするために(講師:海野千細)
きょうだいのうちひとりが不登校になり、もうひとりは頑張って学校に通っているという場合、親御さんにとっては登校している子の存在が心の支えになっていることがあります。だから、登校している子に対して「あなただけは頑張ってね」という気持ちが強くなりやすいのです。ところが、その後、もうひとりの子も不登校になってしまったときには、心の支えにしていただけに、お母さんのそれまでの子育てが全否定された気持ちになったり、すごく落ち込んで自分を責めてしまうことも起こりがちです。ときには、お父さんまでメンタル面の疾患で会社に行けなくなってしまい、家族全体が社会から取り残されたように感じることさえあります。
きょうだいで不登校になった場合には、とくにお母さんのメンタル面をどう支えていくかが非常に大きなテーマになります。そのとき、第1部の講演内容とも関連しますが、お母さん自身が「許された」と感じられる体験をすることが重要になってくるので、できれば信頼できる相談機関を見つけて、まずは自分を受けとめてもらうことが必要です。ときには眠れなくなってしまうケースもあるので、病院で睡眠導入剤を処方してもらうなど、自分の心の健康回復を優先することも必要になってくるでしょう。
相談機関については、東京都の場合は各市区町村に教育相談室(所)があります。地方になると相談機関の数が限られてきますが、教育学部や文学部など心理関係の学部を設置している大学では、一般向けの相談室を開設しているところがあります。また、親の会に参加してみるとか、保健所などでも不登校やひきこもりのお子さんの家族を支えるグループ面談などを行っているところもあります。親の会やグループ活動の場合は、その会の趣旨や雰囲気がそれぞれ異なり、自分と合う合わないの問題があると思います。とりあえず行ってみて、「ちょっと違うかな」と思ったら別の会に行ってみるとか、自分と相性のよいところを探してみるとよいでしょう。
きょうだいが2人とも不登校である場合、ご家族と学校との距離がすごく遠くなった感じがしたり、親子とも世の中から孤立したような感覚に陥りやすくなります。お子さんたちの状態が少し落ち着いてきたら、担任の先生と連携をとりながら定期的にプリント等を渡してもらうなど、学校と家庭がつながりを保つような配慮も必要かと思います。
不登校が長期化してくると、生活のメリハリがなくなりがちです。家族全体が「毎日が日曜日」のような状態になってきますから、お母さんも家事をする気が起こらないといったことがあるでしょう。当初は、子どもたちの生活が乱れても仕方がないというスタンスでもいいと思いますが、だんだん現状を受けとめることができるようになり、少し余裕が出てきたら、家族みんなで生活のメリハリをどうつくっていくかを話し合えると、生活全体が少しずつ整ってくるかと思います。
Q4 ゲーム依存は“病気”なのか
・2018年6月、WHO(世界保健機関)が、スマホなどのゲームのやりすぎで日常生活に支障をきたす
ゲーム依存症が「ゲーム障害」という病気であると認定。
・ゲーム障害が原因で不登校になったのか、不登校だからゲームに依存するのか。
・一日中ゲームにはまっているわが子にどう対応したらよいか。
A4 対応、見通し、治療の方針とセットになってはじめて診断名は意味をもつ(講師:霜村 麦)
不登校のお子さんがゲームやネット、スマホにのめり込んだり、一日中、動画を観たり、ゲームをしているケースはすごく多いです。逆にいえば、規律正しい生活を送っている子どもほうがめずらしいくらいです。「ゲーム障害」の診断基準がネット上でも見られますから、「うちの子もゲーム障害では?」と心配している親御さんも多いことでしょう。
診断名というものは、対応や見通し、治療の方針がセットになってはじめて意味をもつと個人的には思っています。たとえば、不登校の子にどう対応したらよいかという場合、不登校は病気ではありませんから、あれこれ悩んでしまいますが、「ゲーム障害」という診断名がつけば、依存の状態に有効な認知行動療法や作業療法、人間関係で自信をもたせるグループワークなど、医療機関で提供される治療方法がいくつかあります。そういうものとセットになっているのであれば、診断名は有効になってくると思います。入院してゲームを断つことで生活リズムを整える治療法もあり、それはそれで意義のあることだと思います。
とはいえ、こうした診断名が登場する前から、不登校のお子さんはゲームやネットに依存してきた状況があります。そういうお子さんに対しても、診断名はつかなくても医療機関には治療のオプションがたくさんありました。たとえば、ゲームにものすごく愛着をもっている子からゲームを取り上げようとして、お父さんと取っ組み合いのケンカになったり、食事も水分もまったく摂らず一日中ゲームの前から離れられない子とか、お風呂に入るのもトイレに行くのも面倒になり、ゲームをやりながらその場で用を足してしまう子もいます。
このような状況になると、やはり医療機関でなければ依存から抜け出すことは難しいかなと思います。ただ、ゲーム依存か否かに関係なく、通常の医療機関でも治療の選択肢があることを知っておいてほしいと思います。
ゲーム依存が先か不登校が先か結論を出さなければいけない場合、見極めのポイントとして私がよく確認するのは、「不登校になってからゲームに依存するようになったのか、不登校になる前からかなりゲームに依存していたか」ということです。
不登校になる前からゲームに依存していて、現在もかなり深刻な状況であれば、「ゲーム障害」の可能性もあるので、まずは医療機関を受診して治療の相談をすることが必要になると思います。その診断は医師でないとできないので相談してみてはいかがでしょうか。
なぜゲームにのめり込むのか
私がよく親御さんにお話しするのは、なぜ不登校になるとゲームにのめり込むのか、そこを考えていただくと対応の仕方が少し見えてきますよ、ということです。ゲームにのめり込むいちばん大きな目的は、不安を回避することです。自分の不安を紛らわすために、一日中ゲームやネットにはまってしまうわけです。大人でも嫌なことがあるとゲームに打ち込んだりすることは別にめずらしいことではありません。不登校の子どもたちも、面白いからやっているというよりも、とにかく時間をつぶすためにやっていることが多いのです。
もうひとつゲームにはまる要因として、不登校の子どもたちには頑張れる場がなく、自分の力を発揮する場を奪われてしまっている、ということがあります。学校に行っていれば、テストでいい点を取ったりスポーツで活躍すると先生に認められたり、友だちから声をかけられて楽しい思いをしたり、自分は自分のままでいいんだという思いを味わったり、そんな経験ができます。でも、不登校になると一転、怒られたり、まわりからヘンな目で見られたり、マイナスの経験ばかりが積み重なっていきます。そこで、なんとか自尊心や自己効用感、自己肯定感を保とうと、ゲームで目標をクリアして達成感を味わう。それが状態として依存しやすい要因になっているわけです。そして、ゲームにはまっている本人にとっては、心理的な安定につながる“メリット”になっていると思います。
ゲームに代わる「頑張れる場」の提供
基本的には親御さんも不安なので、ゲームに夢中になっている姿を見るにつけ、不安は大きくなるばかりで、当然ゲームはやめてほしいと思っているでしょう。しかし、ゲームを取り上げたりしてゲームから遠ざけても、心の安定にはつながりません。
お子さんは、ゲームに没頭するなかで心理的にしだいに安定していくことが多く、元気が回復してくると自然とゲームをやらなくても大丈夫になり、だんだんゲームから遠ざかっていくケースがほとんどです。ですから、ゲームを取り上げてたりして、子どもをよけいに不安定にすることだけは避けていただきたいと思います。
もうひとつ、不登校の子どもは頑張れる場を失っている状態ですから、できそうな家事を頼んでみて、やってくれたときはすごく嬉しそうな表情をしてください。自分がやったことでお母さんが喜んでいる、お父さんが嬉しそうな顔をしている、と子どもにわかるようにすることがポイントです。そうすることで、ゲーム以外にもその子の自己評価が高まる場をつくってあげてほしいと思います。
Q5 学校(担任)とのつきあい方
・毎日、担任に欠席の連絡をしなくてはならず疲れる。
・担任がたびたび家庭訪問に来てくれるが、子どもが会おうとせず、気づまりだ。
・その他、保護者会への出欠、学習プリント等の受け取りなど。
A5 誰のための家庭訪問なのか(講師:齊藤真沙美)
この頃、学校の先生が家庭訪問に来たり、連絡をとってくる頻度が増えたなと感じている方も多いのではないでしょうか。最近、目黒区の女の子が虐待で死亡した事件が大きく報道されました。2015年にも川崎の中1の男の子が亡くなっています。転居後に学校に行きにくくなった後に起きた事件だったと思います。
こうした流れを受けて、学校に行っていない子ども(本人)の存在を確認するようにとの厳しい通達が出されているようで、ちゃんと本人に会って話をしなければいけないと思っている先生も多いと聞きます。また、先生自身は無理に会おうとして子どもにプレッシャーをかけるようなことはしたくないと思っていても、上から確認してくるように言われると家庭訪問をせざるを得ないところがあるのだろうと思います。
先生が家庭訪問に来ても、子どもが会いたくないと言えば、親御さんは先生に「申し訳ありません」と謝らなければいけなくなったり、「せっかく先生が来てくれたんだから、顔を見せてあげなさい」と無理に会わせて、先生が帰ったあとに子どもが荒れる場合もあります。こうした家庭訪問は本当に本人のためになっているのだろうか、と悩んでいる親御さんもいらっしゃると思います。
欠席の連絡については、私も先生方にアドバイスをすることがありますが、毎日、「今日は休みます」と連絡を入れるのではなく、学校に行けるときに連絡するというかたちでよいのではないかと思っています。遅刻、早退については、小学校の場合、保護者が付き添わないと安全管理上できないことになっているので、午後から行ける状態になっても保護者がついて行けないとなると、結局、休まざるを得ないという話もよく耳にします。
プリントとかクラスメートからの励ましやお誘いの手紙などは、その子の状態によって、見たくない、読みたくない、クラスメートの声も聞きたくないということもあるでしょう。それなのに、毎日、お友だちが寄ってくれたり、宿題を渡されたりすると、ものすごく負担になるだろうと思います。
子どもの状態を説明し、どんな対応をしてほしいかを学校に伝える
ただし、お子さんの状態が安定してきたら、学校から距離をとり過ぎて気持ちが離れないようにするためにも、たまに学級通信などを目にすることは効果的です。それを見ても荒れないし、気持ちが乱れない状態になったら、その程度の刺激は必要になってきます。
お子さんの状態に応じて、必要な学校情報の提供の仕方や担任とのコンタクトのとり方は異なってきますので、お子さんの状態について学校側が的確に把握していないと、干渉しすぎたり、逆にまったく関わらなかったりと、適度な関わり方ができなくなってしまう可能性もあります。
ですから、親御さんと担任の先生とのやりとりが難しくないのであれば、お子さんの状況を踏まえて「現状としてはこんな関わりをしていただきたいのですが…」と先生に伝えたほうがよいでしょう。学校側も現在の子どもの状況が明らかになり、また、親御さんの望んでいる関わり方がわかれば、無理に会おうとはせず、子どもが安心できる必要な関わりをしてくれると思います。一方、学校や担任とコミュニケーションをとることが難しい場合は、スクールカウンセラーに話をして間に入ってもらい、専門的な知見も含めて、お子さんの状況などについて伝えてもらうことも可能です。
同じ先生という立場でも、学校教育相談担当の先生なら話しやすいとか、部活の顧問の先生のほうが状況をよく把握しているということなら、担任の先生でなくてもかまいません。また、教育センターなど外部の相談機関でも学校と連携を図ることはできるので、私も親御さんと学校側がうまくコミュニケーションがとれずにもめているときは、相談機関の相談員として学校に連絡を入れ、学校に出向いて調整を図ったりすることがあります。
大切なのはお子さんの状態を正確に伝え、それに適した対応について要望をしっかり伝えることです。親御さん自身が、全部ひとりで背負って調整を図るのではなく、間に入って支援してくれそうな先生や専門家を見つけ、お子さんにとって望ましい関わり方に向けて協力してもらうこともポイントになります。
Q6 父親にできるサポートとは
・仕事が忙しく夜遅く帰宅する毎日。子どもとずいぶん顔を合わせていない。
子どものほうも、父親と顔を合わせるのを避けている様子がある。
妻からは「あなたは仕事という逃げ道があっていいわね」と嫌みを言われる。
何かサポートをしたいが、どうすればいいかわからない。
A6 上手な感情表現やコミュニケーションのとり方のモデルに(講師:霜村 麦)
この文面を見るかぎり、お子さんに何をしてあげるかというよりは、お母さん対策をどうするかで悩んでいらっしゃるようにお見受けします。親にできるサポートは、お父さんだから、お母さんだから、という役割分担のようなものは、あまり考える必要はないのではないかというのが、私の考え方です。
今はお父さんもお母さんも同じように仕事をしている場合が多いですし、オヤジの背中を見せるといった昭和的なやり方でお子さんと接しても、子どもの抱いている父親像は昔とかなり違いますからズレてしまって、お子さんの気持ちがよけい離れてしまいがちです。それより親御さんとして、ご夫婦として、お子さんにしてほしいことがたくさんあります。
不登校の子どもたちは、他人とコミュニケーションをとるのが苦手だったり、人に気をつかいすぎて自分の気持ちをうまく表現できず、自己主張ができないためにいろんなストレスを抱えている場合が多いのです。また、そういう子は、「うまく感情表現をすることがストレスをためないコツなんだよ」と教えてくれる大人のモデルを見失いがちです。お父さんやお母さんには、ぜひそのモデルになっていただきたい。
身近なお父さんやお母さんが、上手に気持ちを表現しながらコミュニケーションをとっていく姿を子どもに見せることは、とても意味のあることです。あらたまってコミュニケーションのとり方を教えなくても、毎日、お父さんやお母さんのコミュニケーションのとり方を見ていれば自然に学習ができるはずです。
家族は、互いの距離が近いために感情がぶつかってしまうこともしばしばですが、ぶつかった後の関係の修復も家族だからこそできることがたくさんあります。たとえば、お父さんお母さんがお子さんに向かって感情的にワーッと言ってしまったりすると、お子さんは不快な気分のまま部屋に閉じこもったりします。そんなときは少し冷静になった後で「ちょっと不安なことがあって心配でワーッと言ってしまったんだよ」と言葉でちゃんと説明してほしいのです。これは謝罪とか関係の修復作業に当たりますが、お子さんを少しでも安心させ、プラスの感情が残るようなかたちでトラブルを処理していただきたいのです。
ご両親が同じ方向を向いているというメッセージを伝える
ご夫婦の関係がぎくしゃくした状況が続いていて、お子さんもそれを見て、緊張感や葛藤のなかで成長してきたのであれば、気持ちは不安定になりがちです。そんな場合には、まずご夫婦のわだかまりが解けるように密にコミュニケーションをとり、その姿をお子さんに見せることが必要になってきます。
もちろんご夫婦の折り合いが悪いときもあるでしょう。お子さんへの対応の仕方について、お父さんとお母さんの意見が一致しないときもあります。お父さんが「俺はこうしたほうがいいと思っているのに、お母さんはちっとも言うことを聞かない。本当にムカつくよ」とお子さんに言ったとします。するとお子さんは「俺の言うことに従わないお母さんは、本当にムカつく」というメッセージとして受け取ります。お子さんは、どうしても感情的な部分を受け取りやすく、それに合わせてしまうことが起きやすいのです。
反対に、お父さんがいないときにお母さんがお父さんの悪口を言ったりすると、お子さんはお父さんに対してネガティブな反応をするようになりがちです。
大切なのは、お父さんとお母さんが同じ方向を向いていることがお子さんに伝わるようなコミュニケーションをとることです。たとえば、進路についてお子さんが「留学したい」と言い出したとき、「それはちょっと経済的に難しいし、それより不登校の子どもが通いやすい学校に進んだほうがいいんじゃないか」とお父さんから伝えてもらい、そのとき、「お母さんも同じように思っているんだよ」とひと言つけ加えると、お母さんも安心するし、お子さんも安心するのではないでしょうか。つまり、感情的にぶつけるのではなく、冷静に言葉で補うようなコミュニケーションを心がけていただければと思います。
Q7 新たな居場所、通信制高校とは
・近年、不登校の子どもたちの新たな居場所として注目されている「通信制高校」。
そこでは、不登校の子どもを支える、どんな取り組みが行われているのか。
・旧来の通信制高校、通学型の通信制高校、サポート校の違いについて。
A7 通信制高校の3つの社会的役割(講師:荒井裕司)
はじめに通信制高校とはどんな学校なのかについてお話ししたいと思います。現在、高校への進学率は約97%。ほとんどの子どもたちが高校に進学しています。高校には、全日制、定時制、通信制があり、2016年のデータでは350万6000人が高校で学んでいます。このうち通信制高校に在籍する生徒は18万1000人に上っており、少子化にもかかわらず、通信制高校で学ぶ生徒たちは増加傾向にあります。
通常、全日制高校などの場合は、ほとんどの生徒が4月に入学するわけですが、通信制高校の場合は、年度の途中に転入・編入というかたちで入学してくるケースも多く、入学時よりも卒業時のほうが生徒数がかなり多くなるのが特徴です。
通信制高校の歴史を見てみると、通信制高校の制度がスタートしたのが1950年代。1960年代には、高度経済成長期に「働きながら学べる高校」としての位置づけで、日立学園や東電学園をはじめとする企業内学園も誕生。企業内に通信制高校を設立し、働きながら高校卒業資格を取得しようという動きが活発化しました。1990年代に入ると、校内暴力、いじめ、不登校が社会問題としてクローズアップされ、不登校の子どもたちに向けた多様な学びの場が必要ではないかということで、通信制高校が脚光を浴びるようになってきました。
このような歴史を通して、通信制高校には3つの大きな社会的な役割があると思っています。①不登校の子どもたちに対応した高校であること。②発達障害の子どもたちの学びの場としての高校。③高校卒業資格が取得しやすい高校(芸能活動をしている生徒やスポーツ選手として活躍する生徒も高卒資格が取りやすい)。この3つのなかで、不登校の子どもたちに対応した通信制高校の側面を、これからお話ししたいと思います。
「行かなければ」というプレッシャーをやわらげる
不登校を経験した子どもたち、あるいは現在、不登校である子どもたちにとって、通信制高校は最良の学びの場だろうと思います。なぜなら最近増えてきた通学型の通信制高校は、通学型でありながら、出席することが前提になっていない点が大きな特徴だからです。全日制高校や定時制高校は、年間の出席日数の3分の2以上の出席がなければ単位が取得できず、進級や卒業ができないシステムになっています。その点、通信制高校は出席を前提としないため、「学校に行かなければいけない」というプレッシャーをやわらげ、自分のペースで通学や勉強ができるというメリットがあります。
不登校の要因は、学校が合わない、人間関係づくりが苦手、いじめ、教師との関係、学力不振などさまざまですが、そうした子どもたちが元気を取り戻し、自分の生活リズムを整えていくためには、出席日数にしばられることなく、自分のペースで通えることがとても重要な要素になります。また、授業などの評価は相対評価ではなく、ここまで到達できたら「5」をあげますよという絶対評価であることも大きな特徴です。これは大学への推薦入試などで有効に機能することになります。
次に、通信制高校と連携したサポート校について説明をしますと、もともとフリースクールや塾、高校再受験の予備校などに不登校の子どもたちが多く在籍していた時代に、その子どもたちが抵抗感なく環境を変えないかたちで高校教育を受けられるようにとの配慮から、通信制高校と連携して高校卒業資格を取得できる教育機関として生まれた経緯があります。そのため、通信制高校のテストを受けさせたり、定期的に提出するレポート作成の指導をしたり、スクーリングに帯同したり、きめ細かな対応や学習指導がポイントになっていました。ただし、サポート校と通信制高校の両方に授業料を支払う必要がありますので、この点は注意が必要です。
増えている「通学型」の通信制高校
ひと口に通信制高校といってもさまざまな学校があります。通信制高校というと、自宅で教科書や補助教材を使って学習するというイメージがありますが、最近は、従来のように家庭での学習を基本にして定期的にレポートを提出し、月2回程度登校(スクーリング)するスタイルの通信制高校だけでなく、全日制のように週5日通学したり、週1〜4回通うなど、さまざまな通学スタイルの学校があります。
また、公立・私立、広域校・狭域校、学年制・単位制などさまざまなタイプがあり、それぞれ独自の特色をもっています。最近人気の高い通学型の通信制高校でも、個性あふれるカリキュラムや多様なコースを用意しているところが少なくありません。各校の特徴を見比べながら、自分に合った学校を探すとよいでしょう。また、特別活動に参加することによって単位を修得できるなど、通信制ならではのメリットもあります。
しかし、その一方で通学型ではない通信制高校の場合、自学自習の生活が基本になるため、定期的なレポート提出に向けた計画性・継続性のある学習習慣や自己管理能力が大切になってきます。他人の目がないだけに、規律ある生活に慣れていない人の場合は、入学後すぐにやめてしまうことも少なくありません。
したがって、通信制高校を選ぶときには、どんなスタイルがその子に合っているか、どんなカリキュラムやコースが用意されているか、通えなくなったときや勉強につまずいたとき、具体的にどんな対応をしてくれるかをポイントにしていただきたいと思います。
私は、不登校を経験した子どもたちには、通学型の通信制高校がもっとも望ましいと考えています。社会参加の練習も兼ねて、できれば週5日くらい通学するかたちがよいのではないかと思います。学校行事や部活動など、クラスメートや学年を超えて活動する場がたくさんあることも重要です。あるいは地域の祭りや運動会などにも参加する機会があり、地域住民とのふれあいや社会参加ができるメニューが用意されていれば、子どもたちとって貴重な体験になるでしょう。
登校できない生徒にはどう対応しているか
私の学校では、どうしても登校できない生徒に対しては、その生徒の情報を教職員全員で共有し、その生徒といちばんコミュニケーションがとりやすい先生を担任にして、もちろん家庭訪問にも出向きます。家庭訪問では、「どうして学校を休んだの?」「どうして学校に来ないの?」「みんなが待ってるよ」といった話は一切しません。ただ、その子の興味のある話題や関心のある事柄について話したり、一緒にテレビを見たり、ゲームをするだけで帰ってきます。それを繰り返すなかで信頼関係を築き、担任や学校に対する安心感を醸成し、安心して通える状況をつくるように配慮しています。
卒業後の不安にどう応えるか
文科省の最新調査により、通信制高校の卒業生の37%が未就学、未就職という実態が明らかになりました。このような状況を考えると、卒業後のフォローも非常に重要です。
私たちの学校では、卒業後の顔合わせも兼ねて、20歳になった卒業生を対象に学校内で成人式を行っています。その際、参加した卒業生一人ひとりの現況を確認し、自立できているかどうかなどの情報を集めます。うまくいっていない場合は、どのようなサポートが必要か、可能かを検討します。その後のフォローについても、同窓会というかたちで引き続き、卒業生一人ひとりの歩みや活動を見守るようにしています。
卒業してからもずっと見守っているからねというメッセージを送ることによって、社会に出てからも「ひとりじゃないんだ」という意識をもってほしいと思っています。
玉石混淆の通信制高校、学校選びのポイントは?(補足:霜村 麦)
現在、通信制高校は玉石混交の状況になっています。最近、増えている通学型の通信制高校にしても、手厚いサポートをしてくれる学校がある一方で、入学したらあとのことは自分でやってといった放任型の学校までいろいろです。そのため中途退学の多い学校もあれば、卒業後に何のフォローもないために就職も就学もしていないケースがかなり多い学校もあると思います。
学校選びをするうえで大事なのは、お子さんが好きなアニメのコースがあるとか、ネールアートの授業があるといった理由も大切かもしれませんが、もうひとつ親御さんの視点で、入学後のフォローが充実しているか、通えなくなった場合にどんなフォローをしてくれるのか、卒業までしっかり導いてもらえるか、卒業後に動けなくなったら相談したり、サポートをしてもらえるかなどの見極めもとても重要なポイントになります。
さらに、人間関係でつまずいたり傷ついた経験をもっている子どもたちが、いろんな人とかかわったり、ふれあうなかでコミュニケーション能力が身につくような場をたくさん提供してくれる学校であるかどうかも重要だと思います。いずれ社会に出て活躍していくためには、そのシミュレーションは欠かせない要素です。