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Q&A こんなとき、こんな対応

2021年10月17日に開催された登進研バックアップセミナー110 in 仙台の第2部の内容をまとめた抄録です。


講師 芹澤 健二(特別支援教育士スーパーバイザー、公認心理師)
   齊藤真沙美(東京女子体育大学・東京女子体育短期大学准教授)
   荒井 裕司(登進研代表)
   ※講師の肩書きはセミナー開催時のものです。

Q1 高校に通えるかどうか心配な中高一貫校の中3男子

 中1の2学期から遅刻が増え、3学期から休みがちに。原因ははっきりしませんが、「他の学校に進学していてもこうなっていたと思う」と本人は言っています。
 中2からは平均週1日くらい登校する状態が続き、今に至っています。昼夜逆転の生活ですが、週末には小学校時代の友人と遊んだり、買い物で外出することも。一時期より元気になったものの、学校に行けないことに罪悪感を持ち、朝になると元気がなくなる姿を見るのはつらいです。
 他の高校へ進学する選択肢もあると伝えてはいますが、本人にはその気持ちはない様子。このまま内部進学することになると思いますが、高校では欠席が多いと留年になってしまいます。今後どのように本人を支えていけばよいのでしょうか。

A1 親子で何をどう話し合うべきか(講師:荒井裕司)

 厳しい中学受験を経て中高一貫校に入学したお子さんが不登校になると、どうしても挫折感が強くなったり、自信を喪失してしまうケースが多く見られます。学習面でもついていけなくなり、ますます劣等感や自己否定感が強くなってしまいます。そのようなお子さんと話し合いを持つのはなかなか難しいことですから、まずは親子で話し合える環境を整えることが大切です。

 話し合いといっても、「大事な話があるから、ちょっとここへ来なさい!」と呼びつけたりするのではなく、もっとさりげなく、本人を緊張させないやり方を工夫してください。
 たとえば、ハンバーガーを買ってきて一緒に食べながら、「ところでさあ、高校どうする?」と聞いてみるとか、ドライブに連れ出して助手席のお子さんと話をしてみるのはどうでしょう。実は、ドライブや散歩をしながら話をするのはけっこうおすすめなんです。相手と真正面から向き合うのではなく、横並びですから緊張しにくいんです。

 そのほか、料理をしながらとか、お皿を洗いながら、背中越しに「そういえば、学校どうする?」と声をかけるとか…。そんなふうにフランクな感じで話しかけると、お子さんも気がゆるんで本音が出てくるかもしれません。

【話し合いができる場合】
 今の学校を続けていきたいかどうかを聞き、「続けたい」というのであれば、以下のように、そのための条件や環境を整えてあげることが大切です。

●学習面での不安を取り除くために、家庭教師や塾の手配をしてあげる。
●学校内外のカウンセリングなどで、心の元気を支えてあげる。
●部活や行事など、興味のあることに参加する道をつけてあげる。

 一方、「別の学校に変わりたい」というのであれば、進路情報を集めて教えてあげたり、一緒に学校説明会などに参加して、本人の意向を大切にしながら学校選びをするとよいでしょう。

【話し合いができない場合】
 ひきこもって誰とも話をしないとか、本人の状況があまりよくない場合は、無理をしないことです。本人の不安や自信喪失感がやわらいでくるまで、焦らず安心できる環境づくりを心がけましょう。少しずつ動く気配が見え出したら、若者サポートセンターのようなNPO団体やカウンセラーなどと連携して、動き出すエネルギーを蓄えていくことが大切です。

 このお子さんは、他の学校に行くのではなく、このまま内部進学をしたいようですから、本人の希望どおり今の高校に進むのがいいのかなと思います。そして、もし通えなくなったり、欠席が増えて「このままでは留年する」という状態になったら、そこであらためて話し合いをして、他の学校への転入を一緒に考えればよいでしょう。

 お母さんお父さんがお子さんの「応援団長」になって、何があってもどーんと構えて、いざ困ったことが起こったら、きちんと対応してあげる。それがいちばん大事です。

 なお、週末には小学校時代の友だちと遊んだりしているとのことですが、これはとても大事なつながりです。学校に行けてないことから、中学校の友だちとは会いにくいでしょうが、小学校時代の友だちなら会える。その友だちと一緒にいると、心が安らいだり、解放された気分になるのではないでしょうか。このような関係、このような時間をもっと増やしていくことによって、この子のなかにエネルギーがたまり、少しずつ元気を取り戻していくはずです。

 親があまり先まわりをせず、本人の意思を十分に尊重しながら、一緒にこれからのことを考えていけるといいなと思います。

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Q2 発達の問題を指摘される小3男子

 現在、小3の息子は、小1の2学期、運動会の練習の頃から学校での問題行動(座っていられない、友だちとのトラブル)を指摘されるようになりました。2年生になると学校でのトラブルはなくなりましたが、逆に家で不安定になりました(かんしゃく、暴言)。ときどき登校をしぶり、それ以降は半分くらい登校しています。登校してしまえば問題なく過ごせることもある一方、イライラが抑えられないときもあるようです。
 3年生になって学校側の配慮もあり、登校日数が少し増えました。友だちとのコミュニケーションは問題ありませんが、学習(特に書字とくりかえしの学習)や行事、授業が苦手のようです。やりたくないことをやること、ゲームなど好きなことをやめること、気持ちの切り替えが苦手で、暴力的になることもあります。
 私は、学校は行かなくても…と考えていますが、将来のことを考えると苦手なことにも取り組めるようになればいいとは思います。本人のよいところを伸ばし、苦手なことを乗り越えられるようなアドバイスをお願いします。

A2 学校にもっと「合理的配慮」を求めてかまわない(講師:芹澤健二)

 このお子さんは、小1の頃は友だちとトラブルが多かったのに、小3になった今はコミュニケーションに問題はないとあって、ちょっとめずらしいケースだなと感じました。一般的にはこの逆、つまり年齢が上がるにつれてコミュニケーション上の問題が出てくることがほとんどです。

 小学校3〜4年あたりは「ギャングエイジ」といわれ、このギャングとはグループをつくるといった意味ですが、それまでは男の子も女の子も一緒になって遊んでいたのが、この年代になると男女別々に遊ぶようになります。
 また、趣味が合うとか好きなものが同じといった「同質性」を求めるようになり、一方で、自分たちと違う子を排除するようになります。そのためトラブルが起こったりするんですが、このお子さんはこれとは逆のパターンです。つまり一般的にいうと、コミュニケーション上の問題が生じることが多いのは小学校中学年からだと思ってください。

 また、「問題行動」とありますが、小学校1〜2年くらいで「座っていられない」というのは当たり前ですから、これだけで障害があるとは考えなくていいと思います。私たち特別支援教育の立場からすると、これは「問題行動」ではなく、「不適切行動」という捉え方をします。適切ではないかもしれないけれど、よりよい方向にみちびくことのできる行動ということです。

 では、こういうお子さんにどう対応したらいいのかというと、どこに問題を抱えているかを探っていけばいいわけです。まず、普段の様子から学習(書字やくりかえしの学習)や授業が苦手なこと、また、気持ちの切り替えも苦手であることがわかります。ゲームがなかなかやめられないとか、次の行動に移れないといったことですね。

 これらのことから、LD(学習障害)とADHD(注意欠陥/多動性障害)の傾向があるのだろうと推測できます。発達障害の診断は医師しかできませんから、断定はできませんが、おそらくそういう方向性だろうと考えられます。

 そこでどうすればいいかというと、「学校側の配慮もあり、登校日数が少し増えました」とあるように、この配慮をもっとやってもらうとよいでしょう。
 書字が苦手なら代替手段を考えてもらえばいいんです。たとえば、授業中に必ずノートをとる必要はないわけで、要は授業でやった内容を覚えられればいいわけですから、授業が終わってからノートに書き写すとか、黒板の内容を写メで撮るとか(スマホの持ち込みは禁止かもしれませんが)、内容を記したプリントをもらうとか、代わりの手段はいろいろあります。これを「合理的配慮」といいます。

 公立の学校は、この「合理的配慮」を必ず提供しなければいけないと法律で定められていますので、お子さんの苦手なこと、困っていることがあったら、合理的配慮をどんどん要求してかまいません。
 配慮を要求して代替手段が提供されれば、この子が書字が苦手で勉強が嫌いになったのなら、ノートをとらずに済めばもっと集中できるし、勉強が好きになるかもしれません。書字は書字で、別の時間に練習すればいいわけです。「通級指導教室」があるなら、そこに通ってできない部分を補うとか、もっともっと配慮を要求していいんです。

 ゲームもそうです。「やめろ」と言って簡単にやめられるものではありませんし、取り上げるのは逆効果です。そこでよくやるのが、「1時間だけ」とか「夜の8時まで」といった時間制限をすることですが、いちばんいいのはゲームに代わるものを見つけてあげることです。

 私たちがよくやるのは、別のゲームを提供することです。認知機能の強化トレーニングやワーキングメモリをきたえるトレーニングができるゲームがあるので、「これやってみない?」と勧めて、「これが終わったら、いつものゲームを1時間やってもいいよ」という感じで対応したりしています。ゲームへの依存が、趣味など別の方向に向けばもっといいわけですが、いきなり取り上げるのは難しいでしょうから、こんなふうに代替手段を提供して、徐々にゲーム依存から抜け出せるようにしてあげるわけです。

 こんなふうに訓練を積み重ねていけば上手に切り替えができるようになっていきますし、年齢とともにできることも増えていきます。この子はまだ小3なので焦らなくても大丈夫です。

 お母さんは「学校は行かなくても…」とおっしゃっていますが、子どもにとって、「どこかに所属している」という意識はとても大事です。このお子さんは友だちもいるし、コミュニケーションも問題ないということですから、学校に行けるかぎりは行かせてあげて、いいところを探して伸ばし、苦手なことを乗り越えられるようなスキルを身につけさせてあげましょう。

 発達のデコボコについては、小学生ならたぶん検査も嫌がらないと思うので、できればWISC(ウィスク)という発達検査を受けるとよいでしょう。検査でその子の強いところと弱いところがわかってくると、強いところを活用して弱いところを補えるようになっていきます。
 今はとりあえず学校に通えているようですから、学校にさらに配慮を求めながら、できるだけ学校に通わせるという方向で頑張ってほしいと思います。

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Q3 ゲーム漬けの毎日を送る中3男子

 私立中2年の1学期から行きしぶりがあり、今年1月から完全に不登校になりました。いじめや校風が合わなかったこともあり、本人の希望で、中3に進級する今年4月から公立中に転校。しかし、一度も通えていません。親の対応が悪かった面も多く、対応の仕方について学んでいるところですが、息子の様子を見ていると不安で仕方ありません。
 不登校になって以来、家から一歩も出ず、食事とトイレのとき以外はずーっとゲームをしています。体を壊してしまうのではないかと心配です。高校に行きたいと言いながら、まったく勉強をしません。通信制がよいのではないかと勧めてみても、「普通の学校がいい」と譲らず、プライドが高いです。息子が何を考えているのかわからず、困っています。

A3 なぜゲーム漬けになるのか(講師:齊藤真沙美)

 ゲーム依存については、2019年にWHO(世界保健機関)が「ゲーム障害」という診断名をつけたこともあって、ずーっとゲームをやりつづけているわが子を見るにつけ、親御さんは不安になることと思います。

 不登校のご相談を受けていて、第1部でもお話があった「昼夜逆転」と同じくらい多いのが、ゲームとネットに関する心配ごとですが、昼夜逆転が必然的に意味があって起きているように、ゲーム漬けになるのもそうなる理由がある、ということを踏まえておく必要があるでしょう。

 このお子さんは私立中を受験しているので、おそらく大変な思いをして中学校に入学し、実際に入ってみたら校風が合わなかったり、いじめもあったわけですから、相当な傷つき体験をして学校に行けない状況になり、頑張って入学した私立中をやめて公立に転校したということは、本人も保護者の方もすごく傷ついてここに至っていると言えると思います。

子どもたちはどんな気持ちでゲームをしているのか
 そうした状況のなかでゲームをしつづけるということについて、「参考資料」の内容をご紹介しながらお話ししたいと思います。これは不登校を経験した若者たちが当時のことを語ってくれた内容をまとめたものです。たとえば……

  • ●ゲームが一種の精神安定剤のようになっていて、ゲームをやることで、ようやく考えられる状態になる。
  • ●ゲームをやめなさいと言われると、逃げ道を奪われてしまうようで不安だった。
  • ●ゲームをしている時間だけは、不登校であることを忘れられる。何もしてないと、マイナスの感情や嫌な出来事が次々と浮かんでくるので、仕方なくゲームをしていた。
  • ●おやじには酒があって、なんで僕のゲームはダメなんだ。

 私の相談経験から言っても、やりたくてやりたくてたまらずやっていたという子はまれだな、という実感があります。とりあえずほかにやることがない、もしくは、やっていないととても自分が保てないという状況の中で、やむを得ずゲームを続けているというのが多くの子どもたちの現状ではないかと思います。

 また、その子が不登校になる前からゲームにはまってコントロールができない状態だったのか、それとも不登校になってからゲーム漬けになったのかも考える必要があるでしょう。

 不登校になる前から「セルフコントロール」(頑張る力や耐える力)が身についていないとしたら、今後その力をつけていく必要がありますが、もともとがまんをしたり頑張る力はあったけれど、不登校になったことでコントロールが難しくなっているのなら、エネルギーがたまってくれば、またその力を発揮できるようになると考えてよいでしょう。

 このお子さんは、食事とトイレのときはゲームをしないでいられます。わずかな時間かもしれませんが、生物として生きていくうえで必要な活動をする際はゲームをやめられているわけです。ここは大事なポイントで、食べる、寝るといった行為がまったくできなくなるくらいゲームをやりつづけている状況であれば、やはり医療的なケアが必要になってくると思われますので、この点をきちっと見ていっていただきたいと思います。

 ゲームをやりつづけるなかでエネルギーがたまってくると、ゲームの内容が変わってくることがあります。最初は戦ったり殺しあったりするゲームだったのが、何かを育てる育成系のゲームやなごみ系のゲームに変わってきたり。あるいはゲームをする時間がちょっと減って、そのぶん他の趣味や好きなことに時間を使うようになったり。
 エネルギーがたまってくると、そうした小さな変化が起きてきますので、そのあたりもしっかり見ていただけるといいと思います。

いろいろな学校の選択肢があることを教えてあげる
 現在、このお子さんは充電期間というか、休養をしっかりとるべき期間のように思いますので、今は登校刺激を前面に出していくというよりも、体を気づかいながら、安心して過ごせるような環境を整えることを第一に考えていくほうがよいでしょう。

 とはいえ、中3という進路選択の節目に来ているのが心配なところです。高校生の年齢になってどこにも所属していないという状況は心の不安定さを助長することになりますので、このあたりでぜひ学校の先生に進路指導ということで話をしてもらうとよいでしょう。
 親御さんが話をすると、心配のあまりどうしても「この先どうするの!?」といった方向に向かいがちで、親子関係がこじれてしまう場合もありますので、こういうときこそ先生に登場してもらいましょう。

 そして先生に、通信制も含めていろいろな選択肢を示してもらうとよいでしょう。不登校のお子さんは、よく「普通の学校がいい」と言いますが、それは自分に自信がないことの裏返しだったりしますし、実際にどんな学校があるかについてもよく知らなかったりします。ですから、こんな学校もあるよ、行けるところがいろいろあるよ、という情報を示してあげてください。

 それと、なぜ普通の学校がいいのかを確認してみましょう。「大学に行きたいから」「将来こういう仕事につきたいから」「こんな勉強がしたいから」という希望があるのなら、「それは、普通の学校じゃなくてもできるよ」ということを伝えてあげる必要があると思います。

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Q4 高等部への進学は難しい発達障害のある中2女子

 中2の娘は、医療機関で広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)と診断されました。
 中1の10月から不登校になり、中2の現在は週1~3回、相談室登校を短時間ながら行っていますが、在籍している中高一貫校の高等部に進学するのは難しいと言われました。
 本人は中学卒業までは今の学校に籍を置くことを希望していますが、今後どうしたらよいのか、卒業後の進路も含めてアドバイスをお願いします。

A4 不登校の背景要因を探ることが大事(講師:芹澤健二)

 このお子さんは、発達障害からの二次的症状としての不登校という状態ですが、発達障害のない子の不登校と、発達障害をもっている子の不登校は、ちょっと違います。
 どう違うかというと、発達障害のない子の不登校は要因がさまざまで、きっかけすらない場合もあります。なぜ不登校になったかわからない。本人もわかってないケースがたくさんあります。

 たとえば、お姉ちゃんが不登校になって、その流れで弟くんも不登校になってしまったというケースがあります。お姉ちゃんの不登校には理由があって、お父さんが転勤族だったので何度も何度も転校をくりかえした結果、そのストレスで糸がプツンと切れたように学校に行けなくなったんです。

 一方、弟くんは毎日楽しく学校に行っていたのですが、お姉ちゃんが学校に行かずに家でゲームをやっているのを見て、「じゃあ、僕もゲームやろう!」と一緒に遊んでいるうちに不登校になってしまった。学校にはなんの不満もないそうですから理由がわからない。ところが、いったん不登校になったら、その弟くんは中1から8年間、家にひきこもりました。20歳になって成人式の案内が来たときにはじめて、「このままじゃまずい」と思って高校に通うようになった。そんな子もいます。

 一方、発達障害のある子の二次的症状としての不登校は、だいたい要因があります。いちばんめは「背景要因」、次が不登校になったきっかけである「誘発要因」です。

 発達障害の例で説明するとわかりにくいので一般例でいうと、私がかかわったケースで過活動膀胱(頻尿)の男の子がいました。授業中もしょっちゅうトイレに行くので、クラスメートから「おまえ、また行くのかよ?」とからかわれたりして、だんだん言い出しにくくなっていきます。そのうえ先生が「手を挙げて言いなさい」と言うので、ますます言いにくい。

 そしてある日、どうしても言い出せずに教室でおもらしをしてしまい、クラス全員に笑われ馬鹿にされて、それがきっかけ(誘発要因)で学校に行けなくなりました。背景要因としては過活動膀胱があるわけです。

 発達障害の場合も同様で、先ほどQ2で書字が苦手なお子さんがいましたが、そういうことが「背景要因」になるわけです。そして、それがなんらかのきっかけ(誘発要因)で爆発して不登校になってしまう。発達障害の場合はそういうケースが多いんです。

まず不登校の要因を特定し、その改善をはかる
 ご質問のケースでは、なぜ不登校になったのかがわかりません。まずは、その要因を探ってあげる必要があります。不登校になった背景やきっかけはもちろんですが、現状は現状でそれとは別に見なければいけません。

 そもそもの背景やきっかけが、今、学校に行っていない理由(不登校の継続要因)ではなくなっている可能性もあるからです。そして、今、本人が何を望んでいるのか、どうしたいのか、何がいけないのかを探っていくことが大切です。

 子どもが不登校になったとき、学校の先生はだいたいみんな「誘発要因」しか見ないんです。だから、「○○くんをからかうのはやめましょう」といった対応になってしまう。そうやって「受け入れ態勢を整えました」と言うけれど、受け入れ態勢を整えたら登校できるかというと、だいたいはできないんですね。その前の背景要因をなんとかしてあげないといけない。

 たとえば、なぜわざわざ手を挙げて、「先生、トイレに行きたいです」と言わなければいけないのか。すぐトイレに行けるように、教室の後ろのドアにいちばん近い席にすればいいじゃないですか。行くときは机の上に何か目印になるものを置いておくようにすれば、先生も「あ、トイレだな」とわかる。

 これも先ほどQ2で説明した「合理的配慮」です。そういう配慮をすれば済むことなのに、毎回トイレに行くたびに手を挙げさせられ、クラス全員から注目されなければならない。こんなストレスフルなことはないですよ。

 そういう背景要因をちゃんと特定して、そこを改善していかないかぎり、発達障害のお子さんの苦労はなくならず、問題の解消にはつながりません。学校側は、往々にして直接のきっかけばかりを気にしがちですが、その前の背景要因をちゃんと探ってあげてほしいと思います。

 このお子さんの場合、現在、相談室登校はできているので、そのまま行かせればいいし、本人が中学卒業まで今の学校に籍を置いておきたいというのであれば、転校させる必要もありません。ただし、どこかの時点で本人に発達障害のことを話さなければなりません。主治医がいるのであればその方と相談して、告知のタイミングを探りながら、そのタイミングで将来の進路を考えていくことが必要になってくると思います。

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Q5 起立性調節障害で朝起きられない高1女子

 中学1年の頃から体調が悪く、ずっと五月雨登校が続いていました。起立性調節障害と診断されています。学校に行く気持ちはあるのですが、朝起きられずに休む、体調が悪くて早退するといった状態が続き、休むことが多くなっています。
 中高一貫校の高校に進学したものの、学年の途中で単位不足により留年になる可能性が高いようです。その後の転入のことや、留年を避けるためのアドバイスや情報を聞きたいです。

A5 症状をきちんと理解することが出発点に(講師:齊藤真沙美)

 この事例を理解するにあたって、まず「起立性調節障害」とはどのような病気かということと、留年を避けるためにどうすればいいかという視点からお話したいと思います。

 起立性調節障害とは、立ちくらみや失神、朝起きられない、倦怠感、動悸、頭痛、腹痛などの症状をともなう自律神経系の機能不全のひとつで、不登校のお子さんの3〜4割にこのような症状がみられるというデータもあります。横になった姿勢から起き上がったときに血圧が上がらないことで生じる症状で、思春期のお子さんによくみられるのが特徴です。

 そもそも不登校になったから→起立性調節障害になったのか、先に起立性調節障害の症状があって→それで不登校になったのかというと、これはニワトリが先か卵が先かの話になってしまうので、ここで原因と結果を追及してもあまりいいことはありません。重要なのは、症状をきちんと理解して、その症状に合わせて環境調整をしていくことです。

 体がだるくてしんどいのに「学校に行け」と言っても、本人は本当にだるくて体が動かないという状況ですから、まず、その症状は「怠け」や「根性のなさ」から来ているものではないということを、本人も含めて理解することが出発点になります。

 実は、その子自身が「自分が弱いから」「自分がダメだから」こんなふうになっていると考えて、自分を責めていることが少なくありません。ぜひ、その誤解を解いてあげて、これはあくまで病気の症状であり、この症状とうまくつきあっていく方法を一緒に考えていこうね、と話してあげてください。

血圧を可視化することで予定を調整する
 私のかかわったケースでは、家庭用の血圧計を購入して、毎朝、血圧を測り、すごく血圧の低い日は、無理せず午後から登校するとか、放課後に行って先生に勉強をみてもらうといった工夫をしていました。
 血圧を可視化することで、「この数値だから、今日は無理しないほうがいいね」というように、ご家族も本人も納得したうえでその日の予定を調整できるようになると、精神的にもだいぶ楽になりますので、ひとつの方法としてお考えいただけるといいかなと思います。

単位不足を補う方法はいろいろある
 次に進路の問題ですが、このお子さんは中高一貫校で内部進学をしたけれど、このままだと留年になってしまうかも…ということで心配されています。高校の場合、ちょっと登校するのが難しかったりすると、だいたい10月くらいに学校から「進級は厳しそうですよ」という話があると思います。そうなると、じゃあこの先どうするかという話をせざるを得ない状況になりますので、お子さん自身も進路について考えるようになることが多いかと思います。

 たとえば、通信制高校などへの転入を考えている場合は、現在、在籍校で取得している単位があれば、その単位をもって、今の学年のまま年度途中に転入することができますので、そんな選択肢もあるかと思います。

 また、取得した単位はないけれど、留年せずに今の学年で転入したいという場合、転入したあとでも、「高認(高等学校卒業程度認定試験)」を受けて単位を取得すれば、不足した単位を補うことができたりしますので、ぜひ転入先として検討している高校と事前に話し合って確認してみてください。

 ほかにもいろいろな方法で単位不足を補える可能性があります。本人ができるだけ負担なく気持ちよく転入できるよう、そのあたりを丁寧に確認し、その先の学校生活にスムーズに移行できるよう進めていただければと思います。

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Q6 留年の可能性もある高1女子

 公立の進学校に入学し、人間関係や成績の悩みが原因で、高1の9月から学校に行けなくなり、昼夜逆転の生活を送っています。学校や将来のことには一切触れないようにしています。
 先日、担任から電話があり、2学期いっぱい休んでも単位はギリギリ足りるが、3学期も欠席が続くようだと単位不足になると言われました。そのことを、どのタイミングで娘に話せばよいか悩んでいます。通信制高校への転入も勧めてみたことはありますが、娘がどうしたいのかはわかりません。大学へは進学したいと言うものの、まだ勉強する気にはなれないようで、毎日好きなことだけして過ごしています。

A6 厳しい成績競争のなかで大変な思いをしている子どもたち(講師:荒井裕司)

 進学校というのは、同レベルの成績優秀な生徒たちがぎゅっと詰まっている感じですから、ちょっと気を抜くとすぐに成績が下がるし、一生懸命勉強してもなかなか成績が上がらない。入ってみたら思った以上に大変だった、という話をよく耳にします。

 生徒が300人いたら1番から300番まで成績の順列がつきますから、成績が下位になったらものすごく居心地が悪い。そのうえ人間関係がうまくいかなくなったら、不登校になっても不思議はないという状況だと思います。

 私は、かつてある進学校の生徒から相談を受けたことがあります。東大進学率がトップレベルの高校で、1学年400人いるうち、彼はいつも400番しか取れない。いくら勉強しても400番。それでも必死に頑張ったら、順位が3〜4番上がったそうです。
 ところがその子は、自分の順位が上がったら、自分の代わりに400番になった生徒がいるはずだ。その生徒は、自分みたいに先生に叱られる。可哀想だと、そっちの心配をしているような子でした。

 私はその子に言いました。1番から400番まで総合成績で順位がつけられるわけですが、「それになんの意味があるのか」と。「きみは確かに総合的には400番だったかもしれない。でも、きみの得意な教科、たとえば美術の成績はものすごくいいじゃないか。それがきみの強みであり、個性なんだから、きみはこの得意分野を生かして、もっと伸ばして、この分野で世の中に出ていけばいい。

 そういうことを教えてくれるのが学校というものだよ。順位が低いからと叱ってばかりいるようなのは学校じゃないよ」。そんな話をしました。そして後日、彼はとても明るい顔をして、「美術系の大学に進んだ」と報告に来てくれました。

できるだけ早いタイミングで転校に向けて動き出す
 ご質問のお子さんは、休みはじめて間もないようですが、この2学期に登校しないと期末試験を受けさせてもらえないといったことも起こります。そうなると単位不足になりかねません。
 先生は「2学期いっぱい休んでも大丈夫」と言っているようですが、この先、転校を考えるのであれば、やはり12月の始め頃には学校側と転校についてきちんと話をして、準備を整えたほうがよいでしょう。

 もしこのまま手をこまねいていて留年ということになれば、その後の転校も不利になりますし、精神衛生上もよくありません。これまで留年のご相談はずいぶん受けてきましたが、留年になって、その後の学校生活がうまくいったお子さんはほとんどいないのが現実です。先のことを考えるなら、とにかく留年にならないように上手に転校することが大切です。

 転校先の学校は、全日制の公立高校や通信制などいろいろあります。そこで心機一転、新たなスタートを切り、自分らしい学び方、自分らしい学校生活を送るなかで、学力面も含めて自分に自信がもてるようになっていきます。
 そして、大学という次のステップへの希望もわいてくるでしょう。このお子さんの心の回復、学力の回復のためにも、できるだけ早いタイミングで転校に向けて動き出してください。

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Q7 「もう学校は嫌だ」と言うアスペルガー傾向のある中2男子

 息子は小さい頃から友だちと接することが苦手でしたが、小5から友だちと遊びたがるようになり、必死に仲間に入ろうとしていました。ただ、友だちに何気ないウソや皮肉を言われると大変落ち込み、トラブルも少なくありませんでした。
 入学した私立中は宿題も多く、規則も厳しく、プレッシャーだったようで、昨年9月に「学校に行くのが嫌」と言い出しました。その後、教師と級友から授業態度を注意され、それ以来、教室に入れなくなり、12月から完全不登校に。
 今年4月に公立中へ転校したものの一度も登校せず、フリースクールにも4回ほど通いましたが、「みんな優しいけど、もう学校とか勉強とか人とか嫌だ」と行かなくなりました。フラッシュバックがひどく(友人とのトラブルや母親に注意されたことなど)、小物を投げたり、部屋に3時間ほど閉じこもったりしました。現在は昼夜逆転でゲームの日々です。WISCの結果、IQ128で、アスペルガー傾向が強いとのことです。

A7 学校の枠に収まりきれない子をどう支援するか(講師:芹澤健二)

 ご質問の最後にある「アスペルガー(アスペルガー症候群)」という診断名は現在は使われておらず、「自閉スペクトラム症」のなかに分類されています。自閉症の一種ですが、このお子さんはIQ128と非常に高い能力をもっていて、このようなケースを「高機能自閉症」と呼びます。

 極端なことを言うと、このお子さんは学校に行かなくてもいいかもしれません。
 IQ128というのはおそらく全体の能力の平均を言っているのだと思いますが、これは100人いたら上から3番目までに入るレベルです。IQ130以上のお子さんが全人口の2.2%といわれていますから。

 しかも、全体の平均値が128で、アスペルガー傾向があるので、能力にデコボコがあるはずです。「言語理解」とか「ワーキングメモリ」とか能力を測る指標がいろいろありますが、そこにデコボコがある。平均で128ですから、高いほうの能力は135とか140、もしかしたら150くらいあるかもしれない。その代わり低いほうは、たぶん全人口の平均くらいだったりします。

 ですから、このお子さんは得意な部分では、とんでもない能力があるかもしれません。こういうお子さんを「ギフテッド」(生まれつき突出した才能を授かった人)と呼びますが、日本では、このような子どもに対する教育があまり進んでいません。海外では、こういう子だけを集めて教育をしている学校があります。台湾にも韓国にもあります。

 こうした子どもたちは「学校の枠」に収まりきれない可能性が高いですから、その特別な能力をさらに伸ばして、その子が活躍できる場を提供してあげることが必要になってくるわけです。

学校にこだわらず、その子に合った居場所を探す
 このような子どもたちはアスペルガー傾向がありますから、婉曲表現がものすごく苦手です。まわりくどい言い方をされても理解できません。皮肉も通用しません。だからコミュニケーションがうまくできないんです。そこは治そうとしても治りません。小さい頃ならまだソーシャルスキルトレーニングなどで緩和する可能性もありますが、大人になったら厳しいですね。

 でも、そのままで生きていっていいんです。一応、ソーシャルストーリーズなど、「こういうときには、こうするといいよ」といった訓練もありますが、このお子さんの場合は、やりたいことをやらせてあげて、得意なものを伸ばし、自分の能力を十分に発揮できるような人生を送ってほしいと思います。

 ですから、この子は学校にこだわる必要はないのでは、という気がします。ただし、学校にもフリースクールにも塾にも、どこにも所属していないのはけっこうつらいものですから、そういう所属欲求や承認欲求を満たすような場所をどこかに見つけてあげる必要があるでしょう。

 日本でも、東大でこのような子どもたちばかりを集めて、「異才発掘プロジェクト ROCKET」という試みをやっています。こういう特別な能力をもった子どもたちの教育支援について相談をする場所もいろいろありますので、学校にこだわらず、その子に合った居場所を見つけてあげるのがいちばんかなと思います。

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Q8 コロナの影響で不登校ぎみの中2男子

 私立中学2年の男子です。コロナ禍で分散登校が始まり、その後、頭痛・嘔吐で休みがちになり、期末テストの最中に登校できなくなりました。夏休みのサッカー部の練習も行けず、9月からは寝込むことが多くなり、食欲も落ちて、日に日に悪化しています。
 今年始めに子どものよき理解者である夫が地方へ単身赴任し、コロナ禍でWebでの課題に追われ、運動することもなかなかできず、部活が再開したときは思うように体が動かないと言っていました。本人は9月の連休明けから学校に行きたいと言っていますが、すべての学びを体が拒絶している状況です。どうすればよいでしょうか。

A8 頑張りすぎてしまう子には、ちょっと後ろにひっぱるくらいの対応を(講師:齊藤真沙美)

 ここにいるみなさまも感じていらっしゃるように、コロナの影響は世界のすべてを一転させ、人々はこれまで経験したことのない生活を強いられています。
 私たち大人も子どもたちも、知らず知らずのうちにどうしようもないストレスが積み重なり、学校のあり方、学習の仕方も急激に変わっていきました。先日、文科省が発表した2020年度における小中学校の不登校は過去最多の19万超となっています。

まずはきちんと休養をとり、体のケアを最優先する
 ご質問について、コロナの影響は当然ありますが、それをどうするかという話をしても先には進んでいけないので、このお子さんの現状をどう支えていくかについて考えていきたいと思います。

 このお子さんは、とにかく短期間にいろいろありすぎましたね。コロナによる急激な変化に加え、よき理解者として、おそらくもっとも話がしやすかったであろうお父さんが単身赴任をしてしまったことも重なって、お子さんにかかる負担はさぞかし大きかったことと思います。

 現在、お子さんにあらわれている身体症状、すなわち頭痛、嘔吐、食欲も落ちて、日に日に悪化しているように見えるというのは神経症的な症状にあたり、不登校の初期段階で多くの子どもたちにみられる症状ですから、何よりもまず体調を整えることを最優先に考えるべきかと思います。

 この段階では、衣食住にかかわることをご家庭で十分にケアしていただいて、お子さんが安心して家にいられる心地よい家庭環境をつくり、少しずつエネルギーを蓄えていけるように配慮することが必要になるでしょう。

無理せず、上手に息抜きし、弱音を吐けるスキルを身につける
 加えて、ここからは推測になりますが、このお子さんはもともととても頑張り屋さんで、要領よく息抜きをしたり、グチをこぼしたり、弱音を吐いたりすることがあまり得意でない印象を受けました。不登校のお子さんにはとても多いタイプです。
 そこに一気にストレスがかかると、上手に手抜きや息抜きをしたり、発散する方法を身につけていないので、つい頑張りすぎて苦しくなってしまうということが、このお子さんにもあったのかなと思います。

 ですからこれを機会に、十分に休養をとって、体のケアをして、自分のペースに合わせた過ごし方やストレス解消法、誰かにグチをこぼしてスッキリするといった知恵を身につけていくようにすると、だいぶ楽になるのではないでしょうか。
 まず第一にきちんと休養をとってエネルギーを回復すること、次に無理をしすぎず、たまには休みながら、人に頼りながら、自分のペースでやっていく力をつけていってほしいと思います。

 ご家族としては、まず、「無理しすぎなくていい」とくりかえし伝えること、そして、お子さんの気持ちに寄り添いながら、「しんどいよね」「不安になっちゃうよね」といった言葉かけをして、お子さん自身がそういう負の感情を口にしやすい雰囲気をつくることが大切です。
 「9月の連休明けから学校に行きたい」と言い出したりしたときも、「そんなに頑張らなくていいんじゃないの?」とちょっと後ろにひっぱるくらいの対応がいいのではないでしょうか。

 もちろん中学校在籍中に少しでも学校に行けるようなら行ってみる、というのもひとつの選択肢ですが、そこは焦ることなく、ちょっとずつ学校とコンタクトをとりながら、高校進学に向けてお子さんに合った選択肢を見つけていくという方向が望ましいのではないかと思います。

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