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登進研バックアップセミナー63・講演内容
Q&A 不登校-みえない出口をひらく打開策
子どもの理解、親の対応、発達障害と不登校、進路…次の一歩をどう踏みだすか
2008年9月7日に開催された登進研バックアップセミナー63「不登校-みえない出口をひらく打開策30」では、参加者のみなさまから寄せられた質問を、以下の4つのテーマに分類し、カウンセラーなどの専門家がこれらの質問に答えるQ&A形式のセミナーを行いました。
講師:今村泰洋(東京都教育相談センター主任教育相談員)
4つのテーマ | |
1.不登校理解の基本 | 昼夜逆転、不登校の原因を探ることの意味、見守るだけでいいのか? ぜんぜん勉強しないので不安 など |
2.親の対応 | ひとりで外出できない子、死にたいと言う子、担任との関わり方、不登校の子どもの居場所は? 再登校後の対応 など |
3.発達障害と不登校 | 障害の見きわめ方、対応のしかた、二次障害や告知への不安 など |
4.不登校の進路 | 高校選びのポイント、将来への不安とどう向き合うか、高校受験に向けてやる気にさせるには? など |
Q&Aの回答者および司会者は、以下の方々です。
回答者 | 今村 泰洋(東京都教育相談センター主任教育相談員) 佐藤 有里(横浜市東部地域療育センター診療部? 臨床心理士) 池亀 良一(代々木カウンセリングセンター所長) 荒井 裕司(登進研代表) |
司 会 | 齊藤真沙美(世田谷区教育相談室心理教育相談員) |
テーマ1 不登校理解の基本
A 回答:池亀良一
目的や目標ができれば生活リズムもなおる
不登校になると、なぜ、昼夜逆転の生活になる子が多いのでしょうか。
昼夜逆転をなおす方法を考える前に、親御さんは、まず、このことを考えてみてほしいと思います。つまり、子どもの立場に立って考えてみるということです。
多くの子どもたちが口にするのは、ほかの子が学校に行って勉強している昼間の時間に、自分は家にいてゴロゴロしている。そういう自分の状況に対して、強い罪悪感をもっているということです。昼間起きていれば、嫌でもそのことを考えてしまう。だから、寝ているほうがいいというわけです。あるいは、日中家にいる自分の姿を近所の人に見られるのが嫌だという子もいます。世間の目を非常に気にしているのです。
こうした子どもの気持ちを、まず、理解することが大切です。
結論からいえば、昼夜逆転については、子どものなかにそういう生活をなおしたいという気持ちが芽生えてくるのを待つしかありません。本人のなかに何かをやろうという目的が生まれれば、自分から生活リズムをなおそうという意識が出てきます。
ある不登校の男の子は、長く昼夜逆転の生活を続けていましたが、小説家になりたいという夢をもっていました。そして、それを実現するために、たくさん本を読んだり、小説を書かなければならないと自分で目的を決めてからは、生活リズムがガラッと変わりました。
具体的な目標や目的が出てくると、子どものなかに自然と「生活を変えよう」という意欲が生まれてきます。それまで待ってあげたいものですね。
Q2.不登校の原因を探ることは無意味?
13歳の男の子。不登校の原因を探りあてることは無意味なのでしょうか。幼児期からの母親・父親の役割のバランスが悪かったのかと思っています。
A 回答:今村泰洋
過去にとどまるのではなく、これからを考えるヒントとして
お父さんお母さんが、「なぜ、うちの子は不登校になってしまったんだろう?」と原因を探ることは、決して無意味なことではありません。
ご質問のなかで「幼児期からの母親・父親の役割のバランスが悪かったのか」と反省されているようですが、たとえば、お父さんが「もう少し子どもと関わればよかったなぁ」とか、お母さんが「過保護・過干渉になりすぎたかしら」とか、いろいろ振り返ったりすることは、とても大きな意味があると思います。
それは、「これからの親としての関わり方のヒントを探す」という意味があるからです。
そうやって過去を振り返っていると、「もし幼児期に戻れるのなら、もう少し違った関わり方ができたかもしれない」と思ったりします。でも、目の前のお子さんは幼児ではなく、13歳なんです。問題はここにあります。
つまり、「小さい頃に、もう少し○○してあげたらよかったのに」と思いあたることがあったら、今、目の前にいるお子さんに対して、それをどんなかたちで示してあげられるか。それを考えるためにこそ、過去を振り返る意味があるのです。
今、わが子にどんなことをしてあげればいいか。それを考えるヒントは過去にしかありません。だから、過去を振り返って、いろいろ考えて、しかし、過去にとどまるのではなく、今どうするか、これからどうするかというところに焦点をあてて、これからの関わり方に役立ててほしいと思います。
Q3.パソコンやゲーム中心の毎日、見守るだけでいいのか?
14歳の男の子。中学1年から不登校です。高校には行きたいと言いつつも、具体的には何も行動できず、パソコンやゲーム中心の生活です。「高校に行きたい」という言葉は、親が言わせているだけなのかなと思うこともあります。見守っているだけでいいのでしょうか?
A 回答:荒井裕司
子どものエネルギーがたくわえられる環境づくりを
「パソコンやゲーム中心の生活」とのことですが、中1から不登校で現在14歳ともなれば、具体的に何かをしようという意欲も目的も見失っているでしょうし、毎日することもないわけですから、しかたなくパソコンやゲームでヒマをつぶしているという状況は当たり前というか、ごく自然なことだと思います。
ただし、このお子さんが「高校に行きたい」と言っているのは、親が言わせているだけというふうには、私は思いません。中学時代に不登校だった子どもたちの多くが、「高校からはちゃんと行く」「高校で心機一転やり直したい」と思っているからです。
あるいは、いつも心配ばかりかけている親を安心させたい一心で、「高校には行くよ」と言っている場合もあります。また、「もう少し時間がほしい」という意味で、「高校に行きたい」と言っているのかもしれません。つまり、今はまだ動けないけれど、もう少ししたら学校に行けるようになるから、それまで待って、というメッセージとも受けとれます。
いずれにしても親御さんとしては、ただ黙って見ているというよりは、お子さんのエネルギーがうまくたくわえられるように環境を整えてあげることを考えるといいと思います。
たとえば、その子のなかに「高校に行きたい」という気持ちが本当にあるのなら、フリースクールに通ってみるのもいい方法です。
フリースクールにもいろいろありますが、カウンセラーがいて心理面の不安にきちんと対応してくれ、学習面でも、その子の状況に合わせた個別のメニューを組んで指導してくれるところを選ぶといいでしょう。
通学するのがむずかしい場合は、家庭訪問をしてくれるところもありますので探してみてください。家庭訪問で気の合う先生とおしゃべりしたり、勉強を教えてもらうなかで、だんだん意欲が出てきて、再登校につながる場合もあります。こうした家庭訪問のサービスを親御さんが用意してあげることも、ひとつの方法といえるでしょう。
Q4.ぜんぜん勉強しないので不安
1 | 14歳の男の子。勉強だけはさせたいが、どうすればよいでしょうか。やる気がないということは、勉強もできないのでしょうか? |
2 | 10歳の息子が不登校になって1年(8歳の弟も不登校)。現在、週1回、保健室登校できるようになりましたが、勉強をまったくやろうとしないので、親として将来が不安です。こちらが言えば少しは勉強するものの、言わなければ全然しません。 塾に行かせたほうがよいのか、本人がやる気になるのを待つほうがよいのか、いつも悩んでいて、ついガミガミ怒ってしまいます。ガミガミ言うのはよくないとわかっているけれど、よその親御さんはどうしているんだろうといつも思います。 |
A 回答:池亀良一
無理に勉強させようとするよりも、子どもの変化をよく見ることが大事
学校に行っていないのだから、せめて家で勉強してほしいという親御さんの気持ちはよくわかります。でも、実際に不登校の子どもが家で勉強するのは非常に難しいと思います。
なぜできないのかと考えたとき、心のエネルギーについて考えてみるとわかりやすいかもしれません。つまり、家で勉強するにも心のエネルギーがないとできないということです。
1のご質問で「やる気がない」とありますが、それはイコール、心のエネルギーが低下している状態と考えられます。そんな状態のときに親がガミガミ言っても、ほとんど効果はないといってよいでしょう。
2のご質問では、保健室登校ができるようになったとのことですが、これまでできなかったことができるようになったときは、次のステップに進むことを考えるよりも、それを継続してできるようにすることが大事です。
親としては、Aができると、じゃあBも、その次はCも……と考えて、先へ先へと道をつけたくなりますが、子どもの気持ちを置き去りにして、親が話を進めてもいい結果は得られないでしょう。
次の対応や対策を考える前に、まず、今の子どもの気持ちや、子どもの状態をきちんと見てあげることが大切です。
塾に行かせることについても、本人はどう思っているのでしょうか。「勉強をまったくしないので将来が不安」というのは親御さんの気持ちであって、本人にその気がないのなら、無理に行かせることはやめたほうがいいでしょう。
それよりも、本人にやる気が出てきたか、心のエネルギーは回復してきたのかを、しっかり見守っていく必要があります。心のエネルギーは目に見えませんから、回復の程度も判断しにくいとは思いますが、今、子どもがどんなことをしているかをよく見ることでわかってくることがあります。
たとえば、最初の頃は家にいて何もせずにゴロゴロしていたのが、今はテレビやマンガを見たり、パソコンやゲームをやるなど、自分の好きなことならできるようになったということなら、少しエネルギーがたまってきたと判断してよいでしょう。
親御さんは、子どもが勉強をするとか真面目な本を読むとか、親の目から見て役に立つことや建設的なことをしてないと、「何もしていない」と見てしまいがちですが、そういう視点だけで見ていると、子どもの変化は見えてきません。
心のエネルギーを充電するためには、まず、好きなことができること、家の中で安心して過ごせること。この2つが必要です。そうしてエネルギーがたまってくれば、勉強のほうにも気持ちが向いてくる段階がやってくる、と考えてみたらいかがでしょうか。
テーマ2 親の対応
Q5.ひとりで外出できない子
13歳の女の子。学校に行けなくなって2年。最近は適応指導教室に通うなど頑張っていますが、まだ一人で外出できず、適応指導教室の送り迎えも買い物も、私(母親)と一緒でなければ出かけられません。
病院で抗不安薬を処方され、服用して4カ月たちますが、状態が変わらないので心配です。今、中学2年なので、高校(行ければ、の話ですが)へは一人で行ってほしいのですが。
A 回答:齊藤真沙美
安心できる体験を積み重ねれば、必ずひとりで歩き出す
まず、病院で抗不安薬を処方されているとのことですが、このことと、最近、適応指導教室に通えるようになったこととの関係はどうなのでしょうか。
精神面での薬の効果は、熱が下がったとか、痛みが消えたというようなわかりやすい症状の変化があるわけではないので、表面的には「状態が変わらない」ように思えて、親御さんとしては不安な部分もあると思います。
ただし、お子さんにとっては、薬によって不安感が軽減されて、お母さんに送り迎えをしてもらえば適応指導教室に行けるようになったとか、ぐっすり眠れるようになったとか、なんらかの変化があるとすれば、薬に助けられている部分があるのかもしれません。
お子さんの行動だけにとらわれず、お子さん自身が感じている効果があるのなら、それを確認しつつ、主治医と相談し、服用量の調整なども含めて考えていけたらいいなと思います。
もうひとつ、お母さんの送り迎えが必要とのことですが、このお子さんは、適応指導教室に通う前はあまり外出することもなかったのではないでしょうか。ですから、適応指導教室に行けるようになったことは、お子さんにとって非常に大きな変化だったのだと思います。
先ほど、池亀先生から心のエネルギーのお話がありましたが、心のエネルギーをためるには、その子にとって安心できる居場所が必要です。居場所とは、たんなる物理的な場所ではなく、安心できる人の存在であり、安心できる場所(環境)が確保されていることです。
そして、このお子さんにとっての居場所とは、おそらく「家で、お母さんがいる環境」であり、つまり、人と場所がしっかり確保されていたということです。そこでエネルギーをためることができたからこそ、適応指導教室に一歩踏み出すことができたのでしょう。
不登校の子どもたちは、人や外の世界に対する強い不安や緊張をかかえています。
このお子さんが、これからさらに心のエネルギーをためていくには、そうした不安や緊張をいかに軽減するかが大きなポイントになります。
今はまだ外に出るときに不安が強いので、安心できる人(お母さん)と一緒にいることで、なんとか不安をなだめているのでしょう。でも、そうやって一緒にいることで安心できる人や場所を少しずつ増やしていけば、活動の幅もさらに広がっていくはずです。
高校に進学すれば、おそらくまた不安になることがあるはずです。そんなとき、お子さんが「お母さん、一緒にいて」と頼んだら、それは「不安なので助けてほしい」というサインですから、突き放さずに安心感を与えてあげてほしいと思います。
そうして安心できる体験を積み重ねていけば、いずれ必ずひとりで歩き出します。
Q6.「死にたい」という子にどう声をかけたらよいか?
中学3年の男の子。現在は週に2~3回学校に行けています。口ぐせのように「死にたい」と言います。たぶん満たされない毎日の連続で、そのような言葉が出てしまうのだろうと思うのですが、どのように声をかけたらよいでしょうか?
A 回答:荒井裕司
背中を押すよりも、後ろにひっぱってみる
親にとって、子どもが「死にたい」と言うことほどつらいことはありません。大事な宝物のような子どもが、なぜそんなことを言うんだろうと、どれほど胸が痛むことでしょう。
ただ、子どもたちが発する「死にたい」という言葉は、実は「死にたいほどつらいんだ」「誰か、このつらさをわかってほしい」というメッセージなのではないかと、私は思っています。自分の現在の状況や将来のことを考えたとき、わけのわからない不安が押し寄せてきて、その不安が極限状態になったとき、こういう言葉が出てくるのだろうと思います。
親としては、まず、「死にたい」という言葉の背後にある子どもの気持ちを理解してあげること、そして、その気持ちにどう対応すればいいのかを考える必要があるでしょう。
私自身、子どもたちから「死にたい」と相談されることがしばしばありますが、そういうとき、こんなふうに言ったりします。
「大人はいろんなことを経験しているから、つらいことがあっても、そこから抜け出すための出口をたくさん知っている。きみは若くて経験も少ないから、真っ暗なところに閉じ込められて、ひとつも出口がないような気持ちになっているかもしれないけど、本当は出口や逃げ道がいっぱいあるんだ。考え方ひとつで、出口が見つかることもあるしね」
ご質問の中3のお子さんは、週2~3回は学校に行っているとのことですが、このことと、お子さん自身の気持ちはどうつながっているのでしょうか。
たとえば、学校に行くとご両親がとても喜ぶので、無理をして登校しているのだとすれば、かなり苦しい状況にあると思います。そうではなく、自分自身が行きたくて行っているのなら問題はないのですが、それでも週2~3回となると、毎日行く子にくらべて、友だちとの関係もいまひとつうまくいかないでしょうし、それも含めて、つらいなぁ、面白くないなぁと感じているのかもしれません。
こんなときは、いっそのことお子さんに、「しばらく学校に行くのやめたら?」と言ってみたらどうでしょう。「学校に行くことがすべてではないし、ちょっと長めの夏休みだと思って休んじゃえば?」くらいのことを言ってあげる。
どうにも動けなくなっている子どもに対しては、頑張れと背中を押すのではなく、逆に、「頑張りすぎじゃないの? 無理しちゃダメだよ」と後ろにひっぱるのもひとつの手です。
お母さんが学校に行かないことを認めてくれたと思うと、子どもはとても気持ちがラクになって、意外なほど元気になったりするものです。安心して休むことができると、心のエネルギーもたまりやすいので、そのうち自分から「学校に行くよ」と言い出すかもしれません。
そうやって一進一退をくりかえしながら、徐々にエネルギーをためることで、本格的な登校につながっていくような気がします。
Q7.担任にどの程度関わってもらえばよいか?
14歳の男の子。学校の担任の先生に、どの程度関わっていただいたらよいのでしょうか。つい、「こんなことまでお願いするのは申し訳ない」と思ってしまいます。
また、友だちとの関わりをどのようにつくっていくべきかわかりません。親がでしゃばって、友だちと約束をするべきか迷います。
A 回答:池亀良一
まずは本人の気持ちを確かめてから
不登校の問題については、基本的に、できるだけ担任の先生に関わってもらったほうがいいと思います。ただし、まず、お子さんの気持ちを確認することが大切です。担任の家庭訪問や友だちからのアプローチ、プリント類を持ってきてもらうことなどについても、本人にどうしてほしいのかを確かめてから、担任と相談して決めていくようにしましょう。
友だちとの約束についても、本人の気持ちを無視して、親が勝手に動いてしまうと、うまくいかないことが多いような気がします。 つねにお子さん自身の気持ちを確かめて、「お母さんが手助けできることがあれば、やってあげようか?」といった姿勢でのぞむことが大切かなと思います。
Q8.不登校の中学生の居場所は?
13歳の男の子。不登校の子どもの居場所は、家以外にも数多くあるのでしょうか?
小学校のときは同じ校舎に別教室がありましたが、中学校にはなく、スクールカウンセラーの先生も週1回だけしか来ないので、本人も家での過ごし方に困っています。高校生の居場所は多いのですが、中学生には少ないように思います。
A 回答:齊藤真沙美
居場所もいろいろ。学校や相談所に問い合わせて情報を集めよう
不登校の子どもの居場所については、地域によっても、学校によってもかなり差がありますので、一般的なところでお答えします。
中学校の場合、校内では「相談室登校」や「保健室登校」など、別室に登校できるような態勢をとっている学校があります。その場合は学校との話し合いになりますので、まずは担任の先生に相談されてはいかがでしょうか。
校外の居場所については、たとえば東京都では、都が設置している「通級指導学級」(あるいは「相談学級」)があります。ここは発達障害のある子どもや不登校の子どもが通える学級で、各自治体によっても異なりますが、最大で週5日通うことができ、お子さんの状態によっては午後から来てもいいところもあります(自治体により、発達障害の子どもだけを対象とし、不登校の子どもは通えないところもあります)。
そのほか、自治体が設置しているものでは「適応指導教室」などもあります。
それぞれどんな特徴があるか、どんな指導が行われているかは、場所によってさまざまですから、直接問い合わせたほうがいいでしょう。
民間のフリースクールやフリースペースといった居場所もあります。
これらは主宰者によって方針もさまざまで、子どもたちが集まって遊んだり、おしゃべりしたり楽しく時間を過ごすのが目的のところもあれば、しっかり学習指導をするところ、カウンセラーがいて対応してくれるところなどもあります。できればお子さんと一緒に見学に行って、お子さんの状態に合った居場所を選ぶことをおすすめします。
なお、民間のフリースクールやフリースペースに通うことになった場合、在籍する中学校の校長がOKを出せば、そこに通った日数は在籍校の出席日数として換算されることになっています。そのことも含めて、学校側と相談するといいでしょう。
このように、自治体が設置する居場所も、民間のフリースクールなども、地域等によっていろいろですから、スクールカウンセラーと話ができるようなら、情報をもらったり、紹介してくれるよう頼んでみましょう。そのほか、地域の教育相談所や電話相談などでも、情報提供や紹介を行っていますので、問い合わせてみてください。
Q9.再登校後の親の対応は?
13歳の女の子。学校に行くことができたその後、子どもがエネルギーを維持するための、親側のいいスキルがあれば知りたい。
A 回答:佐藤有里
親はどーんとかまえて、子どもの頑張りすぎに注意する
不登校の子どもは、まわりの大人たちの反応に非常に敏感になっています。
お子さんが再び登校しはじめたときは、親御さんも毎日ドキドキハラハラで、「今日は行けた」とか「休んでしまった」とか「ちょっと元気がない」とか、心配事がたくさん出てくると思います。でも、そこはグッとこらえて、少なくとも子どもの前では大らかに、何があっても「大丈夫よ」という感じで余裕をみせてください。
親御さんが悩んで動揺すると、子どもは「自分のせいだ」「自分は迷惑な存在なんだ」「家族みんなを困らせている」「心配ばかりかけている」と、自分を責めます。
その結果、自分を嫌いになったり、自信をなくしたり……というように、どんどん負のスパイラルにはまってしまいますから、ぜひ親御さんには踏んばって、明るい笑顔をみせていただきたいと思います。
もうひとつ、再登校を始めた子どもたちに対して、私はよくこう言います。
「60%全力でやろう」
子どもたちは、「なんで60%なの? そんなの全力じゃないよ」とか「へんなの!」と笑ったりしますが、つまりこれは「頑張りすぎないように」という意味なんです。
ふつうに「頑張りすぎに注意」と言っても、子どもにはその意味がうまく伝わらないことも多いので、自分がめいっぱい頑張ったときの半分よりも、ちょこっとだけ頑張る。そんなイメージが伝わればいいなと思って、「60%全力で」と言うことにしています。
「全力」というと、100%の力を出し切って頑張ることと思われがちですが、ようやく学校に行きはじめた子どもにとって、100%はハードルが高すぎるんです。
不登校だった子どもが再び学校に行きはじめると、「完璧にやらなくちゃダメだ」「1日も休んではいけない」と思いつめてしまうことがよくあります。
親が心配して「無理しないでね」みたいなことを言うと、ますます頑張ったりする子もいますから、言い方にもちょっと工夫が必要かもしれません。
たとえば私は、再登校をはじめた中学生のお子さんに対して、「中学生は、小学生と違って大人になる準備をする時期だよね。大人になったら、いつもいつも全力投球するんじゃなくて、上手に力を抜くコツを覚えないとね。それが大人の余裕ってものだよ。その練習をしておこうね」といったアドバイスをすることがあります。
それぞれのお子さんに合わせて、うまく肩の力が抜けるようなアドバイスをしてあげられるといいなと思います。
テーマ3 発達障害と不登校
Q10.不登校の背後に発達障害があるかどうかの見きわめは?
私は、中学まで不登校だったお子さんが通える高等専修学校の教員をしていますが、発達障害をもつお子さんが年々増えています。アスペルガー症候群、LD、ADHD、高機能自閉症など、対応に困っているお母さん方もたくさんいます。子どもが不登校になったときに発達障害がバックにあるかどうかの見きわめ方、また、どう対応すればよいかについて教えていただけたらと思います。
A 回答:齊藤真沙美
大切なのは発達障害かどうかではなく、その子のやりにくさの背景に何があるかをよく見ること
最近、中学時代に不登校だった子どもたちを積極的に受け入れている学校だけでなく、一般の私立高校などにも発達障害をもつ子どもたちが多く入学してくるような状況が増えてきたと感じています。
そうした子どもたちが不登校になったときの支援は、基本的には一般の不登校の子どもへの支援と同じと考えてよいと思います。つまり、本人が何に困っていて、何に悩んでいるのかを見きわめ、それに対する的確なサポートを行うということです。
それを踏まえたうえで、発達障害の子どもたちに対しては、さらに本人がかかえている日常生活や学習面でのやりにくさが何からきているのかを見きわめていく必要があるでしょう。
発達障害の診断については、私たちカウンセラーではなく、医師が専門家ですから、医療機関に任せることになりますが、大切なのは、その子が本当に発達障害なのかどうかということではなく、その子が実際にどんなやりにくさを感じていて、その背景に何があるかをきちんと見ていくことだと思います。
その意味で、発達障害に関する基礎知識を身につけておくことも大切です。そうした知識は、目の前の子どもの言動がどんなことから起こっているかを知る手がかりになりますし、その子をどう支援していくかを考える手立てにもなるからです。
たとえば、その子たちに情報を伝達する場合に、文字や絵・図など視覚的な情報として伝えたほうが頭に入りやすい子と、言葉で伝えて耳から音声情報として入ってきたほうが理解しやすい子がいますので、その点に配慮することが重要です。
言葉だけで「○○をやりなさい」と言っても伝わりにくい子には、口で言ったあとに同じことを紙に書いて渡すといった工夫が欠かせません。そういう子に口伝えで指示を出して、指示したことをやらないと、「ちゃんと話を聞いてないからダメなのよ」「きちんと人の話を聞きなさい」と責めても状況は改善しません。
「何回言っても忘れる」「注意力が散漫」といった表面にあらわれた状況だけに着目するのではなく、なぜそうなるのかという背景を理解して、情報の伝え方を工夫すれば、改善することはたくさんあります。
なお、中学まで不登校だった子どもたちが中学を卒業すると、公の相談機関や専門機関などで利用できるところが少ないという現状があります
ただし最近は、地域の精神保健センターや民間の相談機関などで、高校生くらいの子どもたちでもグループセッションというかたちで参加できるところが増えてきていますので、役所に問い合わせたり情報を集めて、そういう機会を利用することも考えてみてください。
また、現在、主治医の先生がいたり、相談機関に通っているなら、担当の先生や相談員と話し合って対応を決めていくことも必要かもしれません。
最後に、発達障害をもつお子さんが小学校高学年以上になると、それまでうまくいかなかったことに対して自信をなくしていたり、抵抗感をもっていたり、人から責められたり仲間はずれにされたことで傷ついた体験をかかえているケースがあります。これを「二次障害」といい、本来の発達障害によるもの以上に問題が複雑化している場合が少なくありません。
このような場合、まわりの人たちが支援しようとしても、すぐには受け入れてくれないことがあります。そんなときは、まず、その子が十分に安心できる環境をつくってあげることを最優先してください。この人なら安心してやっていけるという環境が整わないと、次の段階に進めないので、とくに思春期以降のお子さんの場合は、まず情緒的な部分でのサポートを十分にしてあげることが必要になってくるでしょう。
Q11.発達障害のわが子が理解できない
17歳の男の子。14歳で不登校になり、16歳のときにカウンセラーから発達障害を指摘されました。育てづらさから「やっぱり」と思う気持ちと、やはり理解しきれない気持ちがあり、とまどっています。ひと口に発達障害といっても、それぞれの子どもでみんな状態が違うので、参考になるケースがなく困っています。
回答:佐藤有里
よい親子関係をたもつためにも専門家に相談を
ご質問の内容だけでは具体的にどのような発達障害なのかがわからないので、詳しいことは申し上げられないのですが、ご質問のなかに「育てづらさ」とあることから、たとえば、こだわりが強かったり、人間関係がうまくいかなくて小さい頃からトラブルが続いていたり、親御さんが学校の先生から呼び出されることが多かったとか、そんなことがひんぱんにあったのかなと思います。
そうだとすれば、先ほど講演(セミナー63・講演抄録「発達障害と不登校?何でつまずき、何で困っているかを理解する」参照)でお話ししたように、①社会性の観点、②コミュニケーションの観点、③想像力の観点という3つの特徴について、もう一度、整理してみることをおすすめします。そして、お子さんがどこにつまずき、どんなことに苦しさを感じているのか、わからなさを感じているのかを、じっくり見きわめてください。
なぜそれが大切かというと、お子さんがどこで苦労しているかがわかると、親御さんの対応や気持ちのもち方が変わるからです。子どもが何で困っているかがわからないと、つい頭ごなしに叱ったり、イライラしたり、腹が立ったりしがちですよね。そういうことが減るんです。すると、お子さんとおだやかな関係がつくりやすくなります。
このお子さんは不登校になって3年くらいたつわけですが、おそらく本人も、学校に行かないことが世間一般からみてあまりいいことではないかも……と感じているのではないでしょうか。そういう心の傷にも配慮したうえで、「これからあなたはどうしていきたいのか?」ということについて、ひとつひとつ決めていくべき時期に来たのかなと思います。
ただし、先のことを考えるにあたって、本人はまだそんなことを考えられる状態じゃないという場合もありますし、発達障害の特性のひとつとして、先のことを想像するのが苦手というところがあります。「自分がこれからどうしたいのか」というのも先のことですし、目に見えませんから、どこからどう考えたらいいのかわからないというのが、子どもたちの正直な気持ちかもしれません。
親としては、「自分の将来のことなんだから自分で考えなさい!」と言いたくなりますが、それができれば苦労はしないわけで、そもそも自分が何をやりたいのかわからない場合もあります。そんなことを、ひとつひとつ子どもとやりとりして詰めていかなければならないわけで、この作業を親と子だけでやっていくと煮詰まってしまいます。
とくに発達障害が疑われる場合は、相談できる専門家を見つけることがポイントになります。ただし、発達障害をきちんと診断できる児童精神科医はそれほど多くありません。どこも予約がいっぱいで待機状態ですが、そのほかにも、地域の教育相談所やクリニック、児童相談所などでも相談は受けつけてくれます。親御さんだけで考えているよりも、第三者と相談しながら、お子さんの将来を考えていけるといいなと思います。
Q12.ADHDの子どもの心をどう変化させてあげられるか?
11歳の男の子。発達障害(ADHD)があったことや、クラス替えで環境が変わったことなどで不登校になり、1年が過ぎました。ADHDの子どもの心をどう変化させてあげることができるのか悩んでいます。
A 回答:佐藤有里
まず、ほめること、そして、その子が何に困っているかを理解してあげることがポイント
ADHDにかぎりませんが、発達障害をもつ子どもは、失敗する機会、怒られる機会が非常に多いんです。まわりの人はそんなにひどく怒ったつもりはなくても、本人はすごく怒られたと感じていたり、ちょっと注意した程度のことでも、怒られたと受けとめていることも多いようです。まず、そのことを頭に入れておいてください。
こうした子どもへの関わり方として、いくつかのポイントをあげてみたいと思います。
ひとつは、意識的にほめてあげること。親からみればできて当たり前のことでも、日常生活のなかでできていることを、まず、ほめてあげる。これは発達障害のお子さんを育てていくうえで非常に大切なことです。
ふたつ目は、お子さんがどんなことで困っているかを理解してあげること。
たとえば、このお子さんはADHDということですから、不注意の問題をかかえていると思います。学校では、聞き漏らしが多いとか、指示の内容がわからない、何をすればいいのかわからないといったことも出てくるでしょう。
それから、これもADHDのお子さんによくみられますが、手先を使う動作(微細運動)が苦手で困っている子が多いんです。いわゆる「不器用」ということですが、はさみが上手に使えないとか、字を書くのが下手とか、図画や工作、家庭科が苦手だったりします。
その一方で、全身運動(粗大運動)がうまくできない子もいます。これは筋力やバランスの調整がうまくいかないために起こるもので、とくに自転車、なわとび、ボール投げなどが苦手な子が多いようです。そのせいで体育の授業が嫌いという子もいます。
ご質問のお子さんは、クラス替えがひきがねになって不登校になったということですが、おそらくクラス替えだけが理由ではなく、こういう苦手なことがいろいろあって、それで嫌な思いもして……そういうことが背景にあったのではないかと思われます。
もちろんクラス替えとそれに伴うさまざまな変化は、ADHDの子どもにとってかなりのストレスになります。今までと違う教室、今までと違うクラスメート、今までと違う担任の先生……ADHDの子には苦手なことばかりです。これらがストレスになって、学校に行くのが恐くなったということも当然考えられます。
そのほか、授業についていけたのか、対人関係はどうなっていたのか、トラブルはなかったのかといった視点も含めて、お子さんを見ていくと、お子さんが何に困っているのかが見えてくるでしょう。
そこから、本人が安心して過ごせる環境をどうつくっていくかという方向で考えていくと、対応のしかたも見えてくるはずです。そうすれば、お子さんの心も自然に変わってくると思います。
Q13.二次障害や告知のことが心配
17歳の男の子。友だちがつくりにくい子で、小学生のころは学童保育のように家をオープンにしてみんなと遊ばせていました。
中学2年で不登校になり、私だけ小児精神科に相談に通っていましたが、どうにか改善しようと自閉症に詳しい先生のところに行けば行くほど、「障害だから治らない」と言われてしまいます。今はせめて「うつ」などの二次障害が小さくなればと思って関わっていますが心配です。また、子どもへの告知をすすめられていますが、決心がつきません。
A 回答:佐藤有里
できるだけ自己評価を高めるような経験を
まず、「うつ」などの二次障害についてお話ししたいと思います。
先ほども少し説明しましたが、発達障害の子どもたちは、小さい頃から失敗したり叱られることが多くて、その結果、自信を失っている子がたくさんいます。
私は日頃から発達障害の子どもたちと教育指導というかたちで関わっていますが、そのときの主な目的は、いかに子どもたちの「自己評価」を上げるか、この一点にしぼって関わっているといっても過言ではありません。発達障害の子どもたちにとって、自信の回復はそれほど重要なポイントなのです。
ですから、親御さんとしては、できるだけ本人の自己評価を下げるような経験を避け、自己評価を高めるような経験をさせてあげることが必要です。そのためにも、本人の特性をしっかり見きわめることが基本になってきます。
障害のとらえ方を見直す
次に告知のことですが、これはなかなか難しい問題です。
たとえば現在、告知をするときに、「きみは、○○○の苦手なことがあるんだから、よく自覚して、気をつけて直すようにしないといけないから、頑張らないとダメだよ」といったメッセージとともに説明が行われることがあるようです。
私は、こういう告知は本人にとってマイナスにしかならず、むしろ告知による副作用を与えかねないものだと考えています。
告知は、相談機関によっては臨床心理士や言語聴覚士が行ったり、あるいは、ご両親が行う場合もありますが、基本的には医療行為ですから精神科の医師が行うべきものだと思っています。医療行為には、当然副作用がともないますので、そうした副作用の危険性も検討したうえで行うことが重要です。
このお子さんの場合は、すでに主治医がおられるようですから、その判断についても主治医の先生が考えてくれているのではないかと思います。
問題は、親御さんの迷いや不安をどうするかですが、ご質問から想像すると、親御さんとしては、告知の際に「障害は一生治らないものだから、きみがずっとつきあっていかなければならないものなんだよ」と告げることについて迷っているのではないかと思います。
私たちは、多かれ少なかれ気持ちのどこかで、「障害は忌み嫌うもの」「排除すべきもの」「邪魔なもの」と思っているのではないでしょうか。まず、親御さんがその意識から自由にならないかぎり、お子さんへの支援は始まらないと思ってください。
たしかに発達障害の子どもたちは苦手なことをたくさんもっているために、とても生きづらいと思います。でも、見方を変えれば、その苦手さは長所でもあるのです。
たとえば、好きなことに対するこだわりの強さは、ひとつのことに一所懸命になれるということであり、ほかのことに興味や注意を向けられないことは欠点かもしれないけれど、そのぶん、「これだ!」と思ったものには全身全霊を賭けて取り組めるということです。
世界の多くのことは、こうしたひとつのことに夢中になって打ち込める人々によって切り拓かれてきたのだといっても過言ではないでしょう。もちろん、そうした先駆者、研究者のすべてが発達障害をもっているということではありません。でも、発達障害をもっているということは、そうした人々のようにチャンスをつかむ可能性を秘めているということです。
そういうポジティブな面があることを、胸を張ってお子さんに伝えてほしい。
「きみは、○○の苦手をもっているけれど、生き方もやり方もいろいろある。それを、お父さんお母さんと一緒に考えていこう。そうすれば、うまくやっていけるよ」というメッセージをお子さんに送りつづけることが、いちばん大切なことかなと思います。
無理に友だちをつくらなくてもいいのでは?
それから、ご質問の最初に「友だちがつくりにくい子」とありますが、たしかに発達障害をもつ子は、対人関係が苦手な子が多いです。ただ、その子の状況にかかわらず、何がなんでも友だちをつくらなくてはいけないのだろうか……と感じることもあります。
友だちをつくるためには、自分の要求を通すだけでなく、相手の要求も聞き入れなくてはいけません。そういうギブ&テイクの関係を築くためには、そこそこ社会性(対人関係のスキル)が育たないと難しいところがあります。
ですから、私はその子の社会性の発達状況によっては、あえて、「ひとりで過ごすことも、とても大事なことなんだよ」と教えることがあります。なぜなら、まだギブ&テイクの関係をつくれない子に対して、「友だちをつくらないといけない」と教えると、頑張って友だちをつくろうとして失敗して傷ついたり、友だちがつくれない自分はダメな人間なんだと、ますます自己評価が下がってしまったり、いいことがないからです。
いずれ自分の興味・関心のあることが見つかれば、気の合う友だちと出会えるかもしれません。ですから、その段階に至るまでは、「今はきみのことをわかってくれる人はなかなかいないかもしれないね。でも、もう少し大きくなったら、わかってくれる人があらわれるんじゃないかな。それまでは、自分の好きなことや、ひとりで過ごす時間を大切にしたほうがいいよ」と教えてあげることも必要かなと思っています。
最後に、発達障害をもつ子どもたちは、助けを求めるのが苦手な子が多いんです。「わからない」と言うことが嫌だったり、「わからない」ということを伝える技術がない場合もあります。困ったときは助けを求める、わからないときはわからないと言って助けてもらってもいいんだということを、ぜひ教えてあげてほしいと思います。
Q14.発達障害の子どもが不登校になったときの対応は?
中学3年の男の子。発達障害(アスペルガー症候群)。
中1より通級指導学級を利用していましたが、中2の5月より不登校になり、通級と適応指導教室に通って不登校時を過ごしました。
ところが、今後、進級時には不登校状態では通級指導学級は利用できないといわれ、2学期より在学校への通学指導をされましたが失敗し、2月から再びひきこもるようになりました。中3の6月からフリースクールに週2回通っています。
発達障害をもつ子どもが不登校になったときの対応方法を教えてください。
A 回答:今村泰洋
いいところ探しをしながら、自己有用感を高める
私が、発達障害のお子さんの相談でよく親御さんにお願いするのは、「学校の先生にお子さんの特徴をよく伝えて協力してもらってください」ということです。
ところが、親御さんが学校に行って何を話すかというと、「うちの子はアスペルガーなので人づきあいが苦手なんです。よろしくお願いします」といった大ざっぱな説明で済ませてしまうことが多い。これでは、お子さんの特徴は何もわかりません。
学校の先生にわかってもらうためには、「うちの子は、○○の場面では××のようになってしまうので、よろしくお願いします」とか、「××になったら、△△のような対応をすると落ち着きます」「○○はできないけど、××はひとりでできるし、手伝ってあげれば△△もできます」という伝え方をする必要があります。その意味では、親御さん自身がその子の特徴をよく把握しておくことが何よりも大切です。
私たちの相談センターには、高校生になってから不登校になったというケースが多いんですが、そういう場合、背景に発達障害がからんでいるケースがほとんどです。そして、その子たちの多くが自己評価が低くて、「ぼくは何をやってもダメなんだ」と言ったりします。
ですから、まずはその自己評価を高めてあげること、もう一度、自信を取り戻してもらうことが必要になってきます。
たとえば、そのために「いいところ探し」をするんですが、アスペルガーのお子さんの場合は、何よりもこだわりと記憶力がすごい。そこをうまく生かしてあげると、うまくいくことが多いんですね。
実際にあった例で、子どもにお風呂の掃除を日課として頼んだお母さんがいました。その子もこだわりが強いので、きれいにしようと思ったら徹底的にやる。バスタブも床のタイルもピッカピカ。お母さんはもちろん、ほかの家族もみんな、毎日きれいなお風呂に入って気持ちがいいから、すごくほめるし、感謝する。
本人も、これまでは自分がいくら一所懸命やっても変な目でみられたり、否定されたりしたのに、今度は感謝されるものだから、「自己有用感」つまり自分も人の役に立つんだという思いを体験することができました。こういう体験を積み重ねることが大切だと思います。
ほかにも、音楽が大好きで、音に対するこだわりがとても強い子がいました。だれそれの歌は音がはずれているとか、私にはぜんぜん聴きとれない微妙な音のちがいを指摘したり、いろいろうるさいことを言うんです。その子にギターの調音を頼んだら、絶対音感をもっていて、音叉も何もなくても調音ができる。すごいなーと感心しました
こんなふうに、その子の特徴や特質に光をあてることによって、その能力を生かす方向で、自信を深める体験をさせてあげることが大事かなと思います。
テーマ4 不登校の進路
Q15.高校選びのポイントは?
中学2年の秋から不登校になりました。現在、中3になり、本人も進路について考えはじめたところです。不登校の子どもを受け入れる高校も増えていますが、高校を選ぶときのポイントとしてどんな点を考慮したらよいでしょうか。
A 回答:荒井裕司
高校で再び不登校にならないためにも学校選びは重要
不登校の子どもたちの進路を考えるとき、いちばん大事なことは、どこの高校に行くとか、どこの大学に行くとかいう目先のことではなく、その子が自分の足でしっかり歩いて、社会に参加し、かつ有意義で楽しい人生を送れる道を考えることだろうと思います。
ですから、高校を選ぶ際も、その子の個性や興味のあることを伸ばしていけるような進路を考えてあげられるといいかなと思います。
ここで、以下の図をご覧いただきたいと思います。これは、不登校の子どもたちが社会に出るまでの進路をフローチャートで示したものです。
●不登校の子どもたちが社会に出るまでの進路
義務教育 | → | 高校 | → | 大学 専門学校 |
→ | 社会参加 (最終目標) |
|
出 席 が 前 提 |
全日制 定時制 チャレンジスクール など |
||||||
小中学校 | 大学 専門学校 各種学校 など |
社会的自立 | |||||
出 席 が 前 提 で な い |
通信制 サポート校 フリースクール など |
・個性をみがく ・自分に合うもの、 興味のあるもの、 趣味等を見つける |
生きる喜びを感じながら自由に楽しく暮らす |
小中学校時代に不登校だった子どもたちにとって、いちばん身近な進路は高校です。この高校への進路を考える場合に、高校をどんな基準で考えたらいいかということですが、その前に高校の状況についておおまかに見てみましょう。
現在、高校における不登校の生徒数は約5万3000人、高校の中退率も全国平均で2.1%と高くなっています。なかでも定時制高校の中退率は非常に高く、1年次で25.0%の生徒が中退しています(以上、2007年度文部科学省調査より)。
また、不登校の子どもたちを受け入れている都立のチャレンジスクールの中退率も、以下のように全般的に高くなっています。
・チャレンジスクールの中退率(2007年度)
大江戸高校(江東区)8.3%、桐ヶ丘高校(北区)9.7%、世田谷泉高校(世田谷区)7.9%、稔ヶ丘高校(中野区)5.9%、六本木高校(港区)9.5%
こうした実態から考えると、どうにか高校に入ったけれども、高校でまた不登校になったり、中退する子どもたちが少なくないことがわかります。そうした子どもたちは往々にして、ひきこもりやニートにつながっていく可能性が高いこともわかっています(下図参照)。
●避けなければならない進路のパターン
小中学校 | → | 高校 | → | |
不登校 | 不登校 | フリーター | ||
中退 | ニート | |||
ひきこもり | ||||
全国150~200万人 |
したがって、高校での不登校・中退→ニートやひきこもりという状況を避けるためにも、学校選びは重要です。そのことも含めて、不登校の子どもたちのための高校選びのポイントをまとめると、以下のようになります。
●望ましい高校選択のポイント
①学習の遅れを取り戻せるきめ細かな指導が行われていること ②対人不安・集団不安を解消する柔軟な対応があること ③興味・関心をひきだす多彩なカリキュラムが組まれていること ④欠席日数へのプレッシャーを解消できるがあること (出席を前提としないシステムのほうがプレッシャーは少ない。 例:通信制高校、サポート校、フリースクールなど) ⑤自主・自立(自分で考える、行動する、感じる心)を育む指導が行われていること |
以上の点を考慮したうえで、できれば本人と一緒に実際に学校見学などに行って、本人に合う学校かどうかも確かめながら、総合的に判断するとよいでしょう。
Q16.中3で突然不登校になり、将来が不安
中学3年の男の子。今年の1月から急に不登校になりました(いじめなど原因となることはないようです)。
最初のうちは、友だちが迎えに来てくれたりして、週3日ほど通えていましたが、3年に進級してからはまったく通えなくなり、状況は悪くなるばかりです。大好きだった部活(バスケ)も「もう行かない」と言い、学校も「卒業式まで行けないと思う」と言っています。この先の彼の人生がどのようになるのか不安でたまりません。
A 回答:今村泰洋
親にできるのは、子どもと一緒に悩み、考えること
中学3年に進級してからまったく通えなくなったということですから、おそらくこの子の心のなかに、言葉ではあらわせないような不安が大きくなってきたのではないかと思います。それはきっと、今、親御さんが感じている不安と同じような不安、つまり、これから先、自分の人生はどうなるのかという不安なのではないでしょうか。
子どもたちは、どの子もたいてい中2くらいまでは、とりあえず友だちと一緒に勉強したり、部活をやったりしていれば、それでいいというか、とくに悩んだりしないのですが、中3のこの時期あたりから、いよいよ個別化が始まります。
この時期は、ついこの前まで一緒に遊んだり、ふざけていた仲間たちが、入試に向けて、急にライバルのようになったりします。そういうなかで、これからは一人ひとり違う道を歩き出さなくてはいけないという事実が目の前に突きつけられるわけです。
進路指導のなかでも、「きみは将来、文系か理系かどっちに進みたいんだ?」といった具体的な質問が投げかけられます。それが中2の3学期くらいから始まります。
現在、このお子さんのなかでは、将来への漠然とした不安や悩みがうずまいているのではないでしょうか。こんなとき、親御さんがいろいろ問いつめたところで何の意味もないことは、もうおわかりでしょう。
大好きなバスケにも「もう行かない」「学校も卒業式まで行けないと思う」と言っているわけですから、今、親御さんにできることは、たとえば、「あんなにバスケが好きだったのにねぇ?」というような感じで、お子さんの思いを聞いてあげるような声かけくらいしか、有効な手段はないのではないかという気がします。
これからの自分の人生をどうするかという悩みについては、学校のほうでも進路指導や、さまざまな情報が提供されています。そのなかで、学力や向き不向きなど、いろいろな条件を考えあわせて進路を決めていくわけですが、そのとき、親御さんにお願いしたいのは、お子さんが何に迷っているのか、どんなところで決断できないでいるのかについて、お子さんと一緒に悩みながら考えてあげてほしいということです。
Q17.高校受験に向けてやる気にさせるには?
14歳の女の子。高校受験に向けて、勉強をやる気にさせるにはどうすればよいのでしょうか?
A 回答:池亀良一
タイミングをはかりながら、少しずつ進路に関する情報を提供する
受験が目の前に迫っているのに子どもが勉強をやろうとしないという状況は、中2、中3の子どもをもつ親御さんにとっては、いちばん頭の痛い問題かもしれません。
こんなとき、親が子どもに投げかけたくなるのは、「これからどうするのよ?!」という言葉ではないでしょうか。でも、どうしたらいいかわからない子どもにとって、「どうするのよ?!」というひと言はいちばんキツいんです。
受験が迫ってくると、どうしても親は、自分のあせりや不安をそのまま子どもにぶつけてしまいがちですが、ぶつけてみても子どもはやる気を出すどころか、逆に、子どものなかにもあせりや不安が増して、やる気をなくしてしまうことにもなりかねません。
もしかすると、お子さん自身は、「私はもう学校には行けないんじゃないか」とあきらめているのかもしれません。
進路や将来に対する不安やあせりは、親だけでなく、子ども自身も感じています。そういう不安をもった子どもに関わっていくときは、まず、「今のままでも行ける学校があるんだよ」という情報を伝えて、安心させてあげることが大切です。
そのためには、親御さんがこのようなセミナーに参加したり、学校の先生に相談したり、インターネットや受験案内の本などで情報を収集し、子どもに伝えてあげるといいでしょう。
ただし、情報を伝えるときはタイミングが大事です。子ども自身がまだ進路について何も考えていない状態だったり、やる気をなくした状態のときに、あせって進路情報を与えても聞く耳をもたないでしょう。
少し進路のことを考え始めたかなーと思えるときに、「実はこんなセミナーに行ってきたんだけど、こんな学校もあるみたいよ。よかったらパンフレットでも見てみたら?」などと、話してみてはいかがでしょうか。
その後、少し興味がありそうだったら、「お母さん、説明聞いてきたから、わからないことがあったら私に聞いてもいいわよ」と、子どもの状態を見ながら、そして、子どもの不安やあせりなどを受けとめながら、タイミングよく少しずつ進路に関する情報を提供していくことが大切かなと思います。