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登進研バックアップセミナー69・講演内容

父親のための不登校理解講座 Part4

本講座は、事前に参加者のみなさまから募集した質問に、不登校経験者と3人の回答者が答えるQ&A形式の構成になっています。

回答者:不登校経験者(A子さん、17歳)
回答者:小澤美代子(さくら教育研究所所長)
回答者:池亀 良一(元・代々木カウンセリングセンター所長)
回答者:荒井 裕司(登進研代表)
司 会:齊藤真沙美(世田谷区教育相談室心理教育相談員)

Q1 子どもとうまく話ができない

●父親が娘に話しかけるには、どんなことを糸口にすればいいのか?(お父さんからのご質問)

●娘が一緒に食事をしない。父親と話をしたがらない。娘と父親とは、そうした時期もあるようですが、そんなとき父親としてどう理解し、どう対応したらいいのか?(お父さんからのご質問)

●男性は女性よりも共感することが苦手だといわれますが、夫を見ていても、子どもとのコミュニケーションのとり方が下手だと感じます。頭ごなしに言ったり、嫌みを言ったり、もっと聴く力を学んでほしいと思います。父親として、子どもと上手にコミュニケーションをとるにはどうしたらいいのでしょうか?(お母さんからのご質問)

A1 回答者:小澤美代子

①大事なのは「普通の会話」

 まず、大事なのは「普通の会話」です。食事時なら「この唐揚げおいしいな」とか、テレビを見ながら「この俳優さんいいね」というような普通の話を、さりげなく断片的にボソボソッと言うのが基本じゃないかと思います。何を言うべきかなどと考えすぎると、たいていうまくいきません。

②返事を期待しない

 不登校状態にある子どもの多くは、何か言われても気安く答えられる状況ではありません。ですから、こちらが話しかけても、基本的に答えは返ってこないと思ったほうがいい。つまり、自分が言ったこと、やったことに対して、成果を期待しないということ。これが案外難しい。
 「自分が声をかけたんだから、子どももちゃんと答えるべきだ」という考えが頭にあると、だいたいうまくいきません。腹が立って、「返事くらいしろ!」となり、そこからお説教が始まってしまう。これは、いちばんよくないパターンです。
 まず、日常的に普通の話をして、それに対して反応はないだろうとほぼあきらめて、それでもこちらから話しかけていく。それもひとつのコミュニケーションだと考えてほしいと思います。

③不愉快な返答にいちいち反応しない

 ときには、「うるせー」「しらねーよ」といった不快な返事が返ってくることもありますが、それにいちいち反応しない。「その言い方はなんだ!」と突っかかったりしないで聞き流す。お父さんは、どうもそのあたりが苦手なようです。
 その背景には、不登校という状態に対して、お父さんたちがお手上げ状態になっていることがあるのではないか。お母さんもどうしたらいいかわからないのだけれど、お父さんはもっとわからない。「学校に行かない」「行けない」ということに対して、まったく理解不能という場合が多い。だから、子どもの日常のいろいろなことがカンにさわり、とがめ立てすることにつながっていくように思います。

④子どもに関心をもつ

 子どもとコミュニケーションをとろうとするなら、まずは子どもに関心をもってあげることが大事。
 ちゃんと学校に行って勉強も頑張っているときは、いろいろ関心をもって話を聞こうとするけれど、頑張っていない状態の子どもに対しては、見ないふりをして、その存在を視野から消してしまうということが起こりがちです。
 しかし、どんな状態にあっても子どものことを気にかけて、「調子はどうだ?」とか、好きな芸人さんがいたら「この前テレビで見たけど、あいつ面白いなあ」というように、その子に関心をもってあげることから会話も生まれてくるのではないかと思います。

⑤お母さんに橋渡し役になってもらう

 以上のポイントを頭に置いて、お父さんに努力してもらいつつ、お母さんがお父さんの通訳をするような感じで、子どもとのコミュニケーションの橋渡しをしてあげるといいかなと思います。  お母さんだって、お父さんに言いたいことが山ほどあるでしょうが(笑)、そこはグッとこらえて、「お父さんはあんなふうに言ったけど、ほんとはあなたのことを心配しているのよ」「言い方は悪いけど、きっとこういう意味で言ったんだと思うよ」というように、子どもがお父さんを嫌いにならないように、お父さんを助けてあげることも大事ではないかと思います。

   

     

齊藤

 ここで不登校を経験したA子さんにお話を聞いてみたいと思います。今回は父親講座ということで、A子さんとお父さんとのかかわりを中心にお話を伺いますが、まずご本人から自己紹介をお願いします。

A子

 こんにちは。A子です。とても緊張しているので、うまく伝えられるか不安ですが、よろしくお願いします。
 私は現在サポート校の3年生で、両親と大学生の兄との4人家族です。  不登校になったきっかけは友人関係がうまく築けなかったこともありますが、今でも明確な理由はよくわかっていません。不登校の期間は、中2の1学期の途中から卒業までで、その間一度も学校に行っていません。
 不登校中は、兄との関係がいちばん悪くなった時期で、兄が学校の友だちに「お前の妹、学校に行ってないんだって?」とかいろいろ言われて嫌な思いをしたらしく、それから2年間くらい話をすることは一切なくなりました。今では普通に話をしたり、一緒に出かけたりしています。

齊藤

 不登校中、お父さんとは話をされましたか?

A子

 はい。私は昔から父と2人とか、兄と3人とかで出かけることが多かったので、不登校になったからといって話をしないということはありませんでした。父のほうも、私が学校に行っている時期も行かない時期も何も変わらずに普段どおり接してくれたので、私も普通に話すことができました。

齊藤

 どういう時間帯に、どんな話をしていましたか?

A子

 平日は仕事があるので夜しか会えませんが、飼っている犬や猫について「今日、お手ができたよ」とか話をしていました。休日は、父が「○○に行こうよ」と誘ってくれて、2人でよく出かけていました。

齊藤

 第1部の講演で、小澤先生が「子どもの好きなことに一緒に向き合おう」という話をされていましたが、A子さんの好きなことをお父さんと一緒にやったことはありますか?

A子

 私はだいぶ前からSMAPの大ファンで、一度コンサートに行きたいと思っていたんですが、チケットがなかなか取れなくて…。それで、私がずっと行きたい行きたいと言っていたら、父が内緒でいろんな人にあたってくれたみたいで、誕生日プレゼントとしてチケットを取ってくれて、一緒に東京へコンサートに連れて行ってもらいました。

齊藤

 お父さんと2人でSMAPのコンサートって、楽しそうですね。

A子

 それが…、チケットが1枚しか取れなかったので私だけ入場して、コンサートの間、父はどこかでヒマをつぶしてたみたいです(笑)。

齊藤

 ほかに一緒にやったことはありますか?

A子

 私は長野出身で、今は家族と離れて東京の寮で暮らしていますが、長野では一緒に釣りとか山によく遊びに行きました。お金をかけなくても楽しめることってたくさんあると思うし、自分の好きなことや好きな食べ物を覚えていてくれたり、理解してくれることはすごくうれしかった。

齊藤

 お父さんと接するなかで、いちばんうれしかったことは? 逆に、これは嫌だったということがあったら、それも教えてください。

A子

 先ほどのくり返しになりますが、不登校になったからといって急に態度を変えたりせず、普段どおり「今日は何してたの?」と聞いてくれたりしたことが、いちばんうれしかったです。
 嫌なことはパッと思いつかないんですが、もし、不登校になったとき、「学校に行きなさい」と怒ったり、逆に、急にやさしくなったりしたら、嫌だったろうなと思います。

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Q2 子どもに自信をもたせるには?

 子どもは自分に自信をもてない状態にあるような気がします。父親として、子どもに自信をもたせることができるようなアプローチ方法があれば、紹介してほしい。(お父さんからのご質問)

A2 回答者:池亀良一

 思うようにいかないことや失敗、挫折などの体験が重なると、人は自信を失い、「自分はダメな人間だ」「何をやってもダメだ」と思ってしまいがちです。
 そんなとき、お父さんとしては何か声をかけてやりたいと思うわけですが、自信をなくしている子に「自信をもて」「大丈夫だ」と言っても、なかなか子どもの心には響きません。では、どうしたらいいのでしょうか。

①「今できていること」を認めてあげる

 まず、「今できていること」を見つけて、それを認めてあげることが大切です。
 「毎日ちゃんと犬の散歩に行ってくれているよね」「いつも弟にやさしくして、えらいな」「よくお母さんの手伝いをしているね」など、どんな小さなことでもいいから、できていることを認めてあげる。
 今、おそらく本人は自分のダメなところしか見えていません。そして、お父さんお母さんも、その子が不登校になってからは、ダメな部分しか目に入らなくなっているのではないでしょうか。
 そんなときこそ、少しでも「いい面」や「できていること」を見つけて、認めて、「○○ができているじゃないか」「ちゃんとやってるじゃないか」と指摘してあげる。これが自信を回復させるためのひとつの方法です。

②安心させる言葉かけを

 自信がなくなると、失敗が怖くて動けなくなったり、やる気を失ってしまうことも多いものです。
 そんなとき、親御さんから、「失敗したっていいんだよ」「いくらでもやり直しはきくんだから」「ダメだったら、そのときまた考えよう」といった言葉かけがあると、子どもは安心して足を一歩前に踏み出す勇気がわいてきます。
 叱咤激励したり、無理に背中を押すよりも、こうした言葉かけで子どもを安心させることがより有効かなと思います。

   

     

齊藤

「自信をもたせるにはどうしたらいいか」というお父さんからのご質問ですが、A子さんの場合、お父さんが言ってくれた言葉やしてくれたことが自信につながったという経験はありますか?

A子

 この質問を読んだとき、「自信」ってなんだろうと考えてしまったんですが、家族に何か言われたからって、自信なんてそう簡単にもてるものではないのかなと思います。現に、今でも私は自分に自信がありません。
 でも、父が「自分も学生時代はこんな失敗をしたんだよ」と話してくれたときは、「あ、私だけじゃないんだ」と思えて、とてもうれしかったです。
 父は「学校に行きなさい」とうるさく言うことはなくて、黙って見守ってくれました。だから、私自身のなかで、今後どうして行こうかと考える余裕をもつことができました。こういうことは簡単に結論が出ることではないので、長期間、考える時間をもてたことは大きかったと思います。
 自分のなかで考えていることはいろいろあるんですが、それを整理して結論を出したり、実際に行動に移すまでには時間がかかる。その途中で「ああしなさい」「こうしなさい」と言われたら、すごく重荷になったと思います。
 黙って見守ってくれたおかげで、いろんな考えをもつことができ、「自分はこうして行こう」という結論を出すことができました。

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Q3 母親を支えてほしい

 子どもの受け皿になっている母親を支えるのが、父親の役割だと思います。父親が母親をサポートするにはどうしたらいいのでしょうか。(お母さんからのご質問)

A3 回答者:小澤美代子

 一般的にいうと、お母さんは四六時中子どもとかかわっていて、一方、お父さんは仕事に追われて家族とかかわる時間がもてないという状況だと思います。
 そうした状況を前提として、そのなかでお父さんにできそうなことは、まず、「お母さんをねぎらう」ことです。

 「オレだって仕事で苦労しているんだ」と言われればそれまでですが、お父さんだって「お疲れさま」「遅くまで大変ね」と言われたら気分がいいし、逆に「働いて当たり前」みたいな顔をされたら腹が立つでしょう?
 子どもの不登校という大変な状況のなかで頑張っているお母さんに対して、「大変だね」「お母さんのおかげだよ」といったねぎらいの言葉をかけることは、お母さんを支えるためにとても大事なことです。

 子どもや妻と長時間かかわったり、実際に何か手助けをすることはできなくても、こうした「リップサービス」ならできますよね。リップサービスというと言葉は悪いかもしれませんが、お母さんへの感謝やねぎらいの気持ちを、実際に言葉にして伝えることがいかに大切か。
 男の人はシャイというか、妻への感謝や愛情を口にすることに抵抗を感じる人が多いんですが、家族の危機を夫婦で乗り越えなければいけないときに、「言わなくてもわかるはず」とか「口下手だから」とか言ってる場合じゃないと思います。

 「お母さんを支える」ということは、「お母さんが元気になるようにする」ことですから、リップサービスもそのへんをポイントにするといいでしょう。たとえば、お父さんお母さんは、同時に男と女であるわけで、いつも「お母さん役」ばかりやっている妻に対して、女性として「愛しているよ」と伝えたり、お花やプレゼントを贈ったり…。今さらそんなこと恥ずかしくてできるかと言わずに、ぜひやってみてください。
 子どもの問題を直接解決しなくても、そういう愛情の示し方が、お母さんをすごく元気にしてくれるんじゃないかなと感じています。

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Q4 不登校のことにふれない夫

 夫は子どもが学校に行っていないことに関して、ほとんどふれることがなく、子どもとはゲームや野球の話しかしていないようです。少しは将来の話とかしてもらいたいのですが、父親の役割とはどんなものでしょうか。(お母さんからのご質問)

A4 回答者:荒井裕司

 ご質問にお答えする前に、まず、「子どもにとって父親とは何か」ということについて、少しお話ししたいと思います。
 思春期から大人へと移行する時期には、誰しも親のことが嫌いになります。親の嫌な部分、アラばかりが見えてきて、親に対する拒否反応、親を否定する感情が出てきます。それまでいい子だった子ほど、そうした感情が強く出てきて、とくに父親に対する拒否反応が強いように思います。

 お父さんからみれば、理由もわからず嫌われ、否定され、「なぜなんだ!?」と言いたくもなりますが、これは成長過程で必然的に起こることであり、やむを得ないことだといえます。
 また、男性は理詰めでものを考えがちですから、中学校に行かない→高校進学もできない→大学にも行けない→就職もできない…と考えて、「どうするつもりなんだ!」と子どもを責めてますます嫌われたりすることも多いようです。

 こんなときに大切なのは、子どもをこれまでとは別の角度から見てみることです。親としての視点をちょっと変えると、今までとは違うものが見えてくることも少なくありません。
 「人生は長いんだから、1〜2年ゆっくりしたっていい」「みんなと同じ道を歩かないといけないわけじゃない」「あの子なりにいろいろ考えているんだろうから、黙って見守ろう」…親がそんなふうに考えはじめると、子どももそれを感じとって、少しずついい関係ができてくるものです。

 子どもを変えようとするのではなく、父親が変わろうとする。それを段階を踏んでやっていくといい。たとえば、先ほど小澤先生が話されたように、母親を支える。お母さんと一緒に映画を見に行ったり、スポーツをするのもいいでしょう。それを見て、子どもは「お父さんとお母さん、楽しそうだな」と感じる。それは子どもにとってもいい環境です。

 次の段階では、子どもと一緒に何かをする。ゲームが好きなら、2人でゲームをやるのもいい。だから、このご質問のお父さんは、けっこういいところまで来ているんじゃないかと私は思います。このような関係をさらに深めていけば、もっといろいろな話ができるようになるでしょう。

 ご質問にある、将来の話、進路の話などは、状況やタイミングをみて小出しにしていくことが大切です。あわてて話し合いに持ち込もうとしても、決していい結果は出ません。あわてず焦らず待っていれば、必ずその時期は訪れます。それからでも決して遅くはないと思います。



A4 回答者:小澤美代子

 荒井先生の回答とは少し切り口を変えてお話ししたいと思います。
 父親ならではの役割というものも確かにありますが、場合によっては、もっと柔軟に考えてもいいのではないでしょうか。

 高校生の息子さんが不登校になったケースで、こんな例があります。実際のケースなので多少内容を変えてお話ししますが、このご家庭では、お母さんが非常に忙しくて責任のある仕事に就いていて、最初はご両親で相談にみえていたのですが、途中からはお父さんがひとりで定期的に通って来られました。

 このお父さんは、最初の頃は毎日のように息子と取っ組み合いのケンカをしているような状況で、ご相談も「子どもとなんの話をしたらいいんでしょう?」みたいな質問から始まったんです。その後、とても努力されて、非常にきめ細かく息子さんを見守っていました。よく見ているけれど決して口出しはせず、叱ったり、詰問することもほとんどなく、一年くらいずっとそんな感じでかかわっておられました。

 その後、息子さんは一年半ほどして学校に行きはじめ、無事高校も卒業できました。お父さんのやったことが直接的にお子さんを動かしたわけではないけれど、このお父さんの“お母さん的な”サポートによって、家で安心して過ごせ、エネルギーを充電できたことが再登校につながったのだと思います。

 ですから、父親と母親の役割分担をはっきりさせるのもいいけれど、そこにあまりこだわらず、お父さんお母さんが、それぞれの得意分野でできることをやっていくという柔軟な考え方でいいのかなと思います。

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Q5 夫に相談すると、かえって落ち込む

 夫は自分の意見は言わず、私(妻)の考えに対して「ふ〜ん、わかった」くらいしか言いません。ところが、よい結果が出ると、自分がそう考えたかのような言い方をして、失敗に終わると「それみろ!」みたいな言い方で人をバカにします。会話をしたり、相談したりすると、傷つき、落ち込むので、なるべく口をききたくないのです。私はたったひとりで、すべてを負わなければなりません。(お母さんからのご質問)

A5 回答者:小澤美代子

 ご質問を読んでいると、不登校の問題というよりも、ご夫婦の問題かなという気もしますが、実はこの質問とそっくりのご相談を、私はこれまで何十人ものお母さん方から聞きました。

 まず、どうしてお父さんがこのような会話になってしまうのかと考えると、このお父さんは、おそらく子どもの不登校についてお手上げ状態で、この先どうなるのかがまったく見えない。だから、こんな取りつく島もないような、相談するのが嫌になるような対応になってしまうのだと思います。
 ただ、これで決裂してしまうとお母さんが大変なので、できればお父さんに歩み寄ってほしいわけですが、この状況では難しいでしょう。

 大事なのは、お父さんの心を開かせること。人の心というものは、やはりプラスのところでないと開かないような気がします。自分の不得意なことや、見通しの立たないことを言われると、だいたい回路が閉まってしまう。だから、お父さんの好きな趣味の話とか得意な分野の話をして、その延長線上でちょっとお子さんのことを相談する。できるだけ自分が嫌な思いをしないで伝えるべきことを伝えるためには、このような流れで話をするのもひとつの方法かなと思います。

 もうひとつ、お父さんとお母さんだけでは煮詰まってしまうので、第三者をはさんで伝えてもらうという方法もあります。お母さんが、いくら「私はひとりで大変なんだ」と言い立てても聞く耳をもたないお父さんが、第三者から「奥さんが、子どものことが心配で心配で、最近よく眠れないみたいだよ」と伝えてもらうと、けっこう素直に聞いたりするものです。

 第三者的なものを利用するという意味では、夫婦でこのようなセミナーに行ったり、相談機関に行くのもいい方法です。お母さんが直接言うと耳を閉ざしてしまうけれど、講師の話やカウンセラーの話なら聞いてもらえることが多いですから。
 とにかく、ひとりで背負うような状況にならないように、セミナーや相談機関を利用するのはもちろん、グチの聞き役になってくれる人を見つけたり、ストレス解消法を探したりすることも大事かなと思います。

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Q6 子どもに何かしてやると、見返りを求めて責め立てる

父親がどうしても子どもの不登校を理解できないようです。「甘え」だと言ったり、気分転換と称して子どもの喜ぶところに連れていったり、何か買い与えたりするが、結果的に見返りを要求して責め立ててしまう。
 その問題点を指摘すると、「わかった」「もう何も言わない」と言うが、結局、同じことを繰り返すだけで、根本的なところで理解していないのだと思う。(お母さんからのご質問)

A6 回答者:齊藤真沙美

 私が勤務する相談機関でも、よくお母さんからこのような話を聞きます。一朝一夕には解決できない難しい問題ですが、いくつか考えられることをお話ししたいと思います。

①理論的に説明する

 まず、女性に比べて男性は、物事を感覚ではなく、理論でとらえたほうが理解しやすい傾向があります。私たち相談員が説明するときも、相手がお父さんの場合は心理学の理論などを援用して話をすると納得してもらいやすい気がします。
 ですから、たとえば、お父さんと一緒に相談機関に行ってカウンセラーに説明をしてもらうとか、お母さんがお父さんに説明をするときも、次のように、ちょっと理論的な言い方をするといいかもしれません。

 【例1】このお父さんが見返りを求めて子どもに何かをしてやるということは、子どもをモノなどの報酬で釣って自分の思うように動かそうとしているだけであって、子どもを受容することになっていません。こういうやり方で子どもが動いたとしても、それは報酬に釣られただけであり(心理学ではこれを「外発的な動機づけ」という)、逆に、その報酬がなければ動かなくなってしまう可能性も十分に考えられます。
 大事なのは、子ども自身が自分の意思(知的好奇心、意欲、向上心など)で動くことであり(これを「内発的な動機づけ」という)、本人が「自分でやろう」と思わなければ、まわりがいくら動かそうとしても難しいことが、さまざまな事例を見ても明らかです。

 【例2】お父さんが不登校を「甘え」と言っているというお話が出てきますが、「甘えている」とか「耐性(耐える力、我慢する力)がない」という言い方をするお父さんはとても多いんです。
 しかし、その子に「耐性」があるかないかは、不登校前にその子がどうだったかを考える必要があります。不登校になる前にその子が頑張れていたとしたら、耐性がないわけではありません。頑張り屋の子でも、かぜで熱を出したら頑張れません。それと同じように、不登校の子は、今、一時的にエネルギーが低下しているので頑張れない、耐性を発揮できない状態になっているのです。

 【例3】そもそも耐性を身につけさせるために、やりたくないことを無理やりやらせるというのはあまり上手な方法ではありません。まずは、その子の「学校に行きたくない」「行くのがつらい」という感情を理解し、認めてあげること。次に、今できていることを評価してあげること。こうした対応を段階的にやっていくことで、耐性がついてくるわけです。嫌がる子どもに何かを無理強いするような対応では、かえって耐性が育たなくなります。

②悪い対応を指摘するだけでなく、よい対応を評価する

 いくら「こういう対応はダメ」と言っても、では、どういう対応ならいいのか、お父さんにはわからないのかもしれません。ですから、「夕飯のときはお説教しないで」とか「ここは私がやるので、お父さんは進路の相談にのってやって」など、してほしいことを具体的に伝えるといいかもしれません。
 さらに、ダメな対応を指摘するだけでなく、「この前の対応よかったわ」「海に連れていってくれて、すごく喜んでいたよ」など、よかった対応を評価することも重要です。

 また、お父さん自身が、小さい頃から頑張って頑張ってここまで来たような場合、頑張っていないわが子を見ると、頭ではわかっていても、感情的に許せない、イライラするということもあるかと思います。このような場合は、先ほどご紹介した理論的な説明をしてもうまくいきません。
 そんなときは、「こんなにしてあげてるのに、本人があんなふうじゃ腹も立つわよね」など、お父さんの感情を共有してあげることも必要です。そうすればイライラも多少は治まって、子どもを責め立てることも少なくなるかもしれません。

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Q7 息子の不登校を認められない

 父親はプライドが高いのか、息子の今の状況を認めたくないらしく、息子にも優しくはしません。どうしたらいいのでしょうか。もっと同性として、先輩として、息子に助言をしてもらいたいのですが…。(お母さんからのご質問)

A7 回答者:池亀良一

 子どもが不登校になってダラダラした生活を送っていると、その状況を認められない親御さんは少なくありません。とくにお父さんは、「こんな状態では、将来、社会で生きていけない」「まともな社会人になれない」というふうに考えてしまい、「こんな状態を認めたら、このままひきこもりになってしまうのではないか」「一生、社会に出られなくなるのではないか」と恐れて、それを認めたくないという心境になることが多いようです。

 お母さんとしては、今こそ男親としてのアドバイスを…と思うのでしょうが、こんなとき、お父さんの口から出てくるのは、たいてい「学校も行かないで、将来どうするつもりなんだ!」「世の中そんなに甘くない!」といった正論であり、お説教です。しかし、子どもだって、そんなことは十分にわかっています。わかっているけどできない、だから悩んでいるわけで、そんな子どもに正論を吐いてもなんの助けにもならないどころか、親子の関係がますます悪くなりかねません。

 それよりは、先ほど荒井先生も話しておられたように、子どもと一緒にゲームを楽しむとか、サッカーや野球の話をするなど、まずは普通のコミュニケーションがとれる関係をつくっていくことが重要です。学校のこと、進路のこと、将来のことを話し合うのは、その先の話。
 遠回りのようですが、そうした関係ができていないのに、急に説得しようとしても、あるいはいくら立派なことを言っても、立派なことであればあるほど、子どもの心には届かないということを覚えておいてください。

 不登校を経験した若者たちに、「親の対応でどんなことがうれしかった?」と聞くと、「自分を支えてくれていると感じたとき」「失敗しても責めずに励ましてくれたとき」、そして、多くの若者たちが「自分のことをわかってくれていると感じたとき」と答えています。自分の今の苦しさやつらさを、お父さんお母さんがわかってくれている、理解してくれていると感じることが、子どもたちにとっていちばんの支えなのです。また、お父さんが遅くまで仕事をしている姿をみると、「自分も頑張らないといけないなと思う」とも言っています。

 口うるさく言わなくても、子どもたちは親が一生懸命に生きるその背中を見て、さまざまなことを感じています。性急に結果を求めるのではなく、まずは日常の親と子の関係づくりから始めてみてください。



A7 回答者:小澤美代子

 プライドが高くて、子どもの不登校を認められないお父さんはけっこう多くて、そういうお父さんに話を聞くと、「自分はものすごく頑張って苦労してここまで上りつめた。それなのに息子は…」と嘆く、というのがよくあるパターンです。

 このようなお父さんに対して、私はご相談が一段落したあとなどに、よくこう問いかけました。
 「お父さんがそういうふうに育ってこられたのは幸いでしたね。お父さんは、お父さんのご両親からそのように育ててもらって、本当によかったですね。ところで、息子さんはお父さんたちが育てられたんですよね?」

 親は子どもにとって、遺伝という面でも、環境という面でも、色濃い影響をあたえます。不登校になった子どもをふがいないと思うお父さんの気持ちもわからないではないけれど、そこには自分もかかわっているんだという認識をもっていただければ、子どもに対しても少しはやさしくなれるかなと思います。

   

     

齊藤

 A子さんのお父さんの接し方はどんなふうでしたか?

A子

 先ほどからお話ししているように、父は普段と変わらない態度で接してくれました。
 父とはよく一緒に釣りに行きましたが、そのときも上から「釣りに連れて行ってやる」的な言い方をするのではなく、「一緒に行かない?」とか「一緒に出かけたいんだけど…」とか下から遠慮がちな感じで誘ってくれたので、私も「それなら行ってもいいかな」と思えました。もし上から「あまり外に出てないから連れてってやる」みたいに言われたら、「お前が不登校だから」と言われているような気分になって嫌だったろうなと思います。
 あと、これはあとで聞いた話なんですが、父は、私が不登校になってからずっと会社のカウンセラーの方に相談をしていたそうです。
 私も一度、母から「カウンセリングに行ってみない?」とすすめられたことがありますが、当時はカウンセリングについてよくわかっていなかったし、「他人に何を話せばいいのか」「話したところで何か変わるのか」「結局決めるのは自分ではないのか」などと考えて、行きたくないと答えました。
 とくに強制されることはなく、「行きたくないならそれでいいよ」と言われましたが、その後も父と母はカウンセラーの方に相談していたようです。

齊藤

 不登校になった最初の頃は、子どものほうも気持ちが不安定になりがちですし、親のほうも焦ってしまうことが多いのですが、その頃もお父さんの接し方は普段と変わらない感じだったんですか?

A子

 父の接し方が変わったなと思ったことは一度もありません。私の見ていないところで、父と母が2人でどう対応していくのかを話し合っていたみたいで、母からはやさしくされるけど、父からは口うるさく言われるというように、両親が違った対応をすることもありませんでした。2人が同じ対応をしてくれたので安心感がありました。

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Q8 高校進学に向けて

 高校進学が迫っているなかで、父親として進路情報の収集や、進路の検討をしてあげようかと思っているが、どんなことに注意したらいいのか。(お父さんからのご質問)

A8 回答者:荒井裕司

 進路とは子どもの自立につながるものであり、最終的には自分に合った職業に就いて自分らしく生き生きと暮らすことを目指すものです。どこの高校に入るかとか、偏差値がどうこうといった目先のことではなく、将来を見据えた視点をもって進路を考えていただきたいと思います。

 不登校を経験した子どもたちは、学習の遅れ、対人不安、集団不適応などいろいろなことにずーっと不安を持ち続けています。視野が狭いために自分を追いつめてしまうこともよくあります。高校に入ったからといって、毎日休まず通えるかどうかもわかりません。
 そういう子どもたちが安心して学べる場所かどうか。学習面のフォロー体制はしっかりしているか。対人関係の苦手な子への配慮はあるか。そして、将来に希望を抱けるような進路であるかどうか。そうした点を重視してほしいと思います。

 また、一般の全日制高校や定時制・単位制高校の場合は、年間の出席日数が決められていますから、欠席がかさむと留年になったり、退学せざるを得なくなります。その点、出席日数のしばりがない通信制高校やサポート校などは、不登校を経験した子どもたちには通いやすいかもしれません。どちらも一長一短がありますから、参考資料「中学卒業後の不登校の子どもたちのための進路情報」をよくご覧いただいて、わが子にはどちらが合うのかを含めて検討されるといいでしょう。

   

     

齊藤

 A子さんは、現在、サポート校の3年生ということですが、今の学校に行こうと思ったきっかけはなんですか?

A子

 今の学校は、自分で探しました。ある日、母が新聞の切り抜きを持ってきて、「こういう学校があるんだよ」と教えてくれたんです。長野にあるサポート校の紹介記事でした。それを読んで、インターネットでいろいろ調べていたら、東京にある今の学校を見つけたんです。
 私は長野出身で、今は東京に来てサポート校に通っていますが、なぜ東京に来たかというと、中学校に行かなかった2年間というのは自分のなかでも大きくて、このままじゃダメだという思いがあったからです。それで、知り合いが誰もいない所なら頑張っていけるかなと。

齊藤

 東京に行くと聞いて、お父さんお母さんもびっくりしたでしょう?

A子

 自分の気持ちを、まず母に話して、母から父に伝わったんですが、2人とも東京に行くことについて反対はしませんでした。「自分で決めたことなら、自分で頑張りなさい」と言われて、今まではずーっと両親に支えられてきたので、東京に行ったらひとりで頑張らないと、と思いました。

齊藤

 A子さん自身は、不安はなかったの?

A子

 2年近く学校に行ってなかったので学力面はもちろんのこと、慣れない東京にひとりで出てくるということで、不安はいっぱいありました。でも、父と母が「無理だったらいつでも戻っておいで」と逃げ道をつくってくれ、「大丈夫だから行っておいで」と背中を押してくれたので、今ここでこうして話すことができているんじゃないかなと思っています.

齊藤

 今のサポート校に行こうと思った決め手はなんですか?

A子

 私が通っていた中学校は市内でもいちばん大きい学校で、一学年で生徒が300人近くいたので、先生も一人ひとりの生徒に対応するなんてまったくできない状況でした。わたしが不登校になっても、最初の頃こそ家に来てくれたものの、後半になると何もしてくれなくなりました。
 今の学校の説明会に来たとき、先生と生徒との距離がとても近くて、一人ひとり親身になって相談にのってくれたり、勉強もわからないところを一から教えてくれるという話を聞いて、この学校を選びました。

齊藤

今後の進路とか、何かやりたいことがあったら教えてください。

A子

 私の家では、犬や猫、ウサギとかいろんな動物を飼っていて、昔から犬や猫とかかわることが大好きでした。それで、小さい頃からトリマーという、最近需要が増えてきている犬の美容師になりたいと思っていました。
 3年生になって、進路を真剣に考えるようになったとき、大学に行くべきか、小さい頃からの夢を叶えるために専門学校へ行くべきか、悩みました。母に相談したところ、「専門学校に進んでトリマーになる道が、あなたには向いているんじゃないか」と言われ、その道を選びました。現在、入学する学校もすでに決まっている状況です。

齊藤

 最後に、今日ここに来てくださったお父さん方にA子さんからメッセージをお願いします。

A子

 私は父と仲がよかったので、私が言うことが役に立つのかはわかりませんが、私が父や母にしてもらったことでうれしかったのは、両親の私への対応が一緒だったということです。
 もし、そうではなくて、母はやさしいけど、父はガミガミ言うような状況だったら、どちらを信じていいのかわからなくなってしまう。父と母が、子どもにどう接していくかを話し合って方向性をひとつに決めることで、私は安心できたので、それは大事なことかなと思います。
 私は、よく友だちからしっかりしていると言われるんですが、自分ではそんなにしっかりしているとは思っていません。でも、こうやってたくさんの方々を前にして話をするという勇気をもてるようになったのは、陰で支えてくれた両親のおかげだと思っています。
 私も、両親に反抗していた時期が多少ありました。口では「うるさい!」とか「あっち行って!」とか言っているんですが、感謝している部分はいつもあったし、背中を押してくれたことで、いろんな考えを知ることができたし、それを自分でまとめることもできました。
 もし、みなさんのお子さんが「うるさい!」とか言っていたとしても、お父さんやお母さんの思いはきっと伝わっている。と思います。

齊藤

 ありがとうございました。A子さんは、今日とても緊張しながらも、この壇上に上がってお話をしてくださいました。ぜひ、みなさんから温かい拍手をお願いします。(拍手)

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