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登進研バックアップセミナー72・講演内容
不登校なんでも相談室 Part4「学校をやめたいと言われたとき」
2010年6月13日に開催された登進研バックアップセミナー72の第2部「不登校なんでも相談室 Part4―学校をやめたいと言われたとき」の内容をまとめた抄録です。
子どもたちが「学校をやめたい」「今の学校が合わない」と口にしたとき、親としてどんなことに配慮し、どんな対応をしたらよいのか。参加者のみなさまから寄せられたご質問を取り上げ、以下の4人の回答者がアドバイスを行いました。
齊藤真沙美(世田谷区教育相談室心理教育相談員)
池亀 良一(代々木カウンセリングセンター所長)
荒井 裕司(登進研代表)
Q&Aでわかる「学校をやめたいと言われたとき」の対応
Q1 「もう学校には行かない」という中学2年の男の子
現在、中2の男の子ですが、中1の夏休み明けから不登校になり、最近「学校をやめたい」と言い出しました。「ほかの学校へ転校したいの?」と聞くと、そうではなく、「もう学校には行かない」と言います。
「中学校も出ないでどうするつもり?」と聞くと、「今の世の中、学歴なんか関係ない」「有名大学を出ても就職できない人が大勢いる」などと生意気なことを言い、「職人になる」「お笑い芸人になる」とか、夢のようなことばかり言っています。
確かに学歴だけが大事なわけではないし、両親とも学歴主義ではありません。職人でもお笑い芸人でも、本気で考えているなら応援してあげたいと思っています。しかし、息子は話が具体的になると、何の職人になりたいのかも考えていないし、お笑い芸人もただの思いつきで言っているとしか思えません(それまで、とくにお笑い番組を熱心に見ていたこともありません)。ただ、現実から逃げているだけのように思えます。
小中学校のように義務教育の場合は、不登校で欠席日数が多くても、ほとんど卒業できると聞きますが、卒業さえできればいいとは思えません。今の学校がいやなら、ほかの学校に転校して、きちんと勉強をしてほしいのですが、こういう子どもに進路のことを考えさせるにはどうしたらいいでしょうか。
A1 回答:荒井裕司
不登校の子どもたちは、「学校には行かない」と言うのが普通ですが、この中学2年の男の子の場合は、「学校をやめたい」と言っているのが特徴的です。「学校をやめたい」という言葉自体は、一般的には「学校には通えない」「学校が嫌いだ」といったことと同じ意味に使われることが多いのですが、この質問にある「学校をやめたい」という言葉には、もっと強い拒否感がこめられているようです。つまり、「今の学校と決別したい」「二度と行かないよ」という強い意思が感じられます。
さらに、この男の子はお母さんに対して、「自分はもう学校に行かないけど、そんな自分でもなんとか面倒をみてほしい」というメッセージを送っているような気がします。
ところが、お母さんは「中学もまともに卒業しないで、どうするつもりなの?」という不安ばかりを強調して伝えているようで、この男の子の「学校をやめる」という言葉の裏側にある、「学校をやめたいくらいつらいんだ」という思いに気づいていないような感じがします。
この男の子は、そのつらい気持ちを受けとめてほしいのに、親からは将来の不安ばかりあおり立てられ、親子の間に気持ちのすれ違いが生じているように思えてなりません。
まずは、「学校をやめたい」という言葉の背後にある、「とてもつらい」「苦しくてたまらない」「不安でいっぱい」といった気持ちを受けとめることからスタートしてほしい。不安な気持ちを受けとめてあげることで、お子さんの気持ちのなかに安心感が生まれると、今後のことを話し合えるチャンスが生まれてくるような気がします。
Q2 元の学校には戻りたくないが、転校しても「まだ通える自信がない」
という小学校5年の女の子
4年生の10月から学校に行けなくなりました。
とくに原因はなく(本人もそう言います)、仲のよい友だちもいたし、いじめにあったわけでもなく、成績も中の上くらいで、明るく活発な子でした。不登校になった当初は、ほとんど口をきいてくれず、親のほうもショックで混乱しましたが、最近ようやくいろいろ話ができるようになりました。
今年、5年生になる進級時に、これからどうしたいのかを聞いたところ、「今の学校には戻りたくない」とのこと。「じゃあ、ほかの学校を探そうか?」と言うと、「まだ自信がない」「もう少し家にいていい?」と言われました。
じゃあ、もう少し休もうかと言って現在に至っています。このごろはとても元気になり、買い物にも一人で出かけ、両親ともよく話をします。学校に行っていない以外は、普通の生活を送っています。ただ、このままズルズルと休み続けていいのかと不安です。
現在の学校に戻りたくないという意思は、はっきりしているようなので、転校先を探そうかとも思いますが、親が先走って決めるのはよくないと思い、判断がつかずに悩んでいます。そろそろ転校を考えたほうがいいのか、もう少し休ませたほうがいいのか、そのへんの見極めのポイントのようなものがあれば教えてください。
A2 回答:齊藤真沙美
そろそろ転校を考えたほうがいいのか、もう少し休ませたほうがいいのか。その見極めは難しいところですが、お子さんの状態や気持ちをくみとっていく必要があると思います。
たとえば、まだ人が怖いとか、自信をもって人とコミュニケーションがとれない場合には、転校したとしても、転校先で人間関係がうまくつくれないかもしれません。もともと人とのコミュニケーションをとることが苦手だったり、緊張度の高いお子さんもいらっしゃるでしょう。また、人間関係でトラブルがあったり、いじめられた経験に対して、強い不安を感じているお子さんもいます。
そのため転校を考える前提条件としては、自信をもって人間関係を築いていける状態に回復している必要があるし、また、もともと人間関係を築くことが苦手なお子さんは、どのように対人関係を築いていけばいいのかについて、少し自分なりに学んでから考えたいところです。
ご質問の小学5年生の女の子は、不登校になる前は友だちもいて、成績も中の上くらいで、明るく活発な子だったようです。そこから考えると、五月雨登校を続けるなかで不登校になったというより、ギリギリまで頑張ってきて、突然エネルギー切れになり、不登校になった印象を受けました。
これまで順調にやってきただけに、親御さんは相当ショックだったと思います。おそらく、いじめなどはなかったとしても、学校生活のなかで少しずつ嫌な思いを抱え込んできた可能性が高いのかなと思います。その嫌な思いを発散させたり、吐き出したりすることもなく頑張ってきて、学校を休むという結果になったのではないかと思います。
その後の経過として、自宅の中ではお話ができるようになり、「自信がない」とか「もう少し家にいたい」といった自分の気持ちや弱い部分について表現できるようになったことは、とてもいい兆候です。こうしたことが学校でもできるようになると、嫌なことがあっても安心できるよという話をして、それによって少し気分が楽になって、まわりから助けてもらえるなら、たまにはお休みをして、休養をとりながら学校生活を続けられるようになると思います。つまり、お子さんの嫌な気持ちをきちんと表現できる環境がまわりにあることが、学校復帰に向けて重要なことではないかと思います。
もちろん、そのことと並行して転校先を探すことは進めてもいいでしょう。教育委員会の学事課や学務課に相談したり、最近では学校公開日と称して地域の人々に公開している日が多くなっているので、気軽に学校の日常の様子を見学することも大切です。実際に行って見て情報を集めて、「こういうこともできるらしいよ」といった情報を知らせておいて、本人が回復して転校しようと思える時期を待つのが理想的だと思います。
いきなり大きな集団の人間関係の中に入り込むのはハードルが高いなら、転校の前段階として、適応指導教室、フリースクール、メンタルフレンドなどを有効活用することも必要かもしれません。
Q3 「レベルの低い学校には行きたくない」という高校2年の男の子
私立の中高一貫校に通っていましたが、高校1年の秋ごろから不登校になり(主な原因は学力不振)、本人と話し合った結果、今年の4月に地元から少し離れたところにある公立高校に転入しました。ところが、今年の4月半ばくらいから、また行かなくなってしまいました。
前の学校を休んでいる間も塾には通っていたので、現在の高校の授業は問題なくこなせますが、転校以来、何かというと前の高校と比べて、「レベルが低い」「こんなじゃ、ロクな大学に行けない」と不満を言っていました。そんなふうなので友だちもできず、クラスでも孤立していたと、あとで知りました。
現在、受け入れてくれそうな学校を探していますが、定時制や通信制は「絶対嫌だ」と言い、普通高校も「偏差値が低い」「大学進学率が低い」などと話になりません。最近では、このままニートになってしまうのではないかと心配でたまりません。
小さいころから、父親が「いい学校に行かないと社会に出てから不利だ」と言い続けてきたことがよくなかったのでしょうか。今は父親も後悔し、一緒に学校探しを手伝ってくれていますが、息子は「ここはダメ」「こっちもイヤ」とばかり言っているので、どうしたらいいか頭を抱えています。こういう息子にどんな学校を探してあげたらいいのでしょうか。
A3 回答:池亀良一
以前、ご相談を受けたケースで、不登校のために転校し、転校先で中3を迎えたのですが、その学校にも行けなかったお子さんがいました。転校先でも行けなくなると、親御さんはショックを受け、本人も大きな挫折感を味わいます。環境を変えて、心機一転やり直そうとした矢先に、また不登校になったわけですから。
このような場合、親御さんに必要なのは、自分の期待を裏切られたと嘆くより、転校先でも行けなくなり、再び挫折感を味わっているお子さんの気持ちを受けとめる姿勢です。このお子さんは「二度と学校に行きたくない。どうせ、高校に入っても通えるとは思えない」と話していました。つまり、自信をなくし、落ち込んでいる状態を理解してあげる人が必要なのです。
そんな自分を守るには「レベルの低い学校には行きたくない」とプライドを高く保ち、自分の最後の砦を守るしかありません。今はダメな自分だけど、頑張れば高いレベルの学校にも行けるというプライドだけは譲れないわけです。そこまで追い詰められた気持ちを受けとめてあげることが大切です。
「自信がない」「うまく人間関係をつくることができない」といった本心を言えるようになると、気持ちも楽になると思います。そうした状態まで元気になることよりも、新しい転校先を選ぶことばかりに気をとられていると、また行けなくなってしまう可能性が高いと思います。
親御さんは、ニートになってしまうのではという心配があるようですが、その不安をお子さんにぶつけてしまうと、お子さん自身も不安でいっぱいになり、精神的に揺れてしまいがちです。親御さんとしては、どっしりと構えて、「なんとかなるわよ」という態度で向き合ってほしいと思います。
このお子さんは私立中高一貫校の高校2年生ですが、この先の進路として「高校に通うこと」にこだわる必要はないような気もします。大学に行きたい強い気持ちがある一方、定時制高校や通信制高校は嫌だ、可能性のある普通高校もレベルが低いと嫌っています。思い切って大学からリセットすることを前提に、高校卒業程度認定試験を受けて、大学受験の資格だけは取得して、高校生活はパスするのもひとつの手かなと思います。
A3 回答:荒井裕司
頑張って合格した私立中高一貫校で不登校になったお子さんは、挫折感でいっぱいだと思います。ふがいない自分に対する苛立ちと同時に、親の期待に応えられずに申し訳ないという気持ちもあるでしょう。親御さんに行けないことを責められることは、とてもつらいと思います。それよりも「大丈夫よ、高校にこだわらないで、その先のステップを考えれば、いろんな生き方があるんだから」とアドバイスをしてあげたいところです。
親御さんには、足を棒にしてでもいろんな高校を見学して、お子さんに合う学校を一緒になって探す時間をつくってほしいと思います。結果的には、本人が嫌っている通信制高校になるかもしれませんし、高校卒業程度認定試験を受けることになるかもしれませんが、本人が深くしゃがみ込めば込むこむほど、ジャンプする力は強くなるわけですから、その力を信じて、親御さんもトコトンつき合う気持ちで次のステップを探してあげてほしいと思います。そのプロセスで見えてくるものがあるはずです。
Q4 発達障害のある子に合った高校は?
現在、高校1年の息子は小さいときから友人関係のトラブルが多く、小学校時代は友だちを叩いたり泣かせたりして、よく親が学校に呼び出されました。成績は上位で、口も達者なので、「同級生が子どもっぽく見えて、イライラするのかもしれませんね」と、かばってくれる担任の先生もいて、トラブルがあっても大事にはならず、息子は楽しそうに学校に通っていました。
ところが中学に入って、2年生の夏休み前くらいから、朝になると腹痛や頭痛を訴えて学校を休みがちになり、9月からは完全に行けなくなりました。
その後、担任の先生や児童相談所の方から発達障害の疑いがあると言われ、児童精神科を受診したところ、アスペルガー症候群と診断されました。小さいときからのトラブルは障害のせいだったのかと初めて知り、そのたびに叱りつけてきたことを思うと、息子に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
幸い担任の先生がいい方で、きめ細かな心づかいをしてくださったので、その年の12月から再登校できるようになり、中学校は無事卒業できました。
しかし今年、公立高校に入学して1カ月足らずで再び不登校になりました。高校でもトラブル続きで、担任から「もう、うちの学校では面倒をみきれません」とまで言われました。息子も「あの学校には行きたくない」と言うので、現在、転校を考えていますが、このような子どもに合う学校があれば教えてください。ちなみに息子はIQ110で、学習面での問題は、まったくありません。
A4 回答:霜村 麦
発達障害のお子さんは、知的障害のあるお子さんと比べて、能力は高いのですが、発達にかたよりがあったり、こだわりが強かったり、それに付随して、ちょっと変わった行動をとったりするため、集団のなかで適切な評価を受けにくい側面があります。
こうしたお子さんが小学校や中学校に入学すると、対人関係でトラブルが絶えなかったり、もっと学力があるはずなのにテストになると全然できなかったりということが起こります。そこで、先生方や親御さんが発達障害に気づくことが多いと思います。
一般的に発達障害のお子さんにみられる特徴は、多動性、落ち着きのなさ、衝動性などですが、それらの行動も15歳前後には治まってきます。しかし、本人がもともともっている認知能力のかたよりは残っているので、特定の事物への強いこだわりや、多動のひとつとして、よくおしゃべりをするお子さんもいます。そうしたことから、友だちとのかかわりを通して学ぶべき対人関係の上手なつくり方(ソーシャルスキル)を身につけることなく、高校受験を迎えてしまうことがよくあります。
この質問のご両親は、児童精神科の診断を受け、大変な思いで診断結果を受けとめられたと思いますが、お子さんの特徴を正しく認識されているからこそ、お子さんに合った学校に入れてあげたいという気持ちが強いのでしょう。しかし、なかにはご両親もお子さんの発達障害に気づかないまま、高校受験を迎える場合も少なくありません。
不登校のお子さんにも言えることですが、とりわけ発達障害のお子さんは何度も失敗の経験をしており、そのことが被害意識を高め、自尊心が傷つき、自信喪失につながることが多いのです。そのため、いろんな人が集まる場所や話し合いの場などに出にくくなったり、積極的に行動しようと思わなくなる「二次障害」が起こりがちです。「二次障害」とは、もともともっている発達障害から派生し、さらに本人の自尊心を低めてしまうような障害のことをいいます。二次障害は、中学生や高校生のころに起こる確率が高いので、二次障害からいかに回復させるかが大切になってきます。
ゴールは高校進学ではなく、社会に出ること
発達障害のお子さんのなかには、公立や私立の普通科高校に入学し、うまく学校生活になじんで卒業できるケースもありますが、そういうお子さんは失敗経験がそれほどなく、二次障害が少ないケースです。あるいは、マンガ、アニメ、鉄道など、自分と同じジャンルに興味をもっている友だちとの出会いによって居場所が見つかり、自己イメージを回復することができ、うまく高校3年間を過ごせる場合もあります。
ただし、そのような望ましい環境や条件が必ず整うとは限りませんから、それを期待して高校受験をさせることは危険を伴います。しかも、高校では、中学校のように親身な対応はしてくれませんし、かかわってくれる先生方の数もかなり少なくなります。
まず、高校はゴールではなく、本当のゴールは社会に出ることだということを頭に入れていただきたいと思います。社会に出れば、高校よりさらに接してくれる大人の数は少なくなり、複雑な状況のなかで、いろいろなことに対処していかなければいけません。障害が軽いお子さんの場合も、逆に周囲から「頑張ればできるだろう」といった誤解をされがちで、社会に出たときにまわりのサポートが受けにくいという状況があります。背中を押してあげれば積極的に参加できるケースもあるので、手厚くフォローしていただきたいと思いますが、現状としてはサポートが受けにくいと思います。
発達障害の子どもたちに適した学校選びの基準
では、どこで社会的なスキルを身につけるかですが、現在いくつかのサポート校では、校内研修を行ったり、スキルを身につけたスタッフを揃え、発達障害の子どもたちを積極的に受け入れています。
また、公立では特別支援学校(かつての養護学校)が発達障害の子どもたちを受け入れています。最近、「都立南大沢学園」が発達障害の子どもたちの受け入れ先として話題になりましたが、同学園は基本的に知的障害のある子どもを対象にしており、「愛の手帳(障害者手帳)」を持っていることが入学の前提となりますので、知的障害のない発達障害のお子さんは入学できません。
特別支援学校は、障害のある子どもたちが将来的に企業に就職することを目指し、自立のための訓練や、社会的なスキルを身につけることに力を入れている学校ですが、近年、とみにその需要が高まっており、入学倍率も非常に高く、なかなか入学できない状況にあります。
そのため、こうした専門の訓練やスキルを習得できる学校に入れない場合は、学校選びの基準として以下のことが考えられます。
①大集団よりも、小集団(個別学習も含めて)による学習スタイルをとっている学校を選ぶ
②発達障害に理解があり、指導のノウハウをもっていること
③学力だけでなく、社会性のトレーニングや就労を見通した指導をしていること
④出欠席に寛容であること(不登校を併発している発達障がいの子どもの場合、継続して通い続けることが難しいため、出欠席に寛容であることは重要な要素。義務教育とは異なり、高校からは遅刻や欠席、トラブルなどによって在籍できなくなる可能性もあることを考慮しておく必要がある)
こうして考えてみると、公立の普通高校は単位数が取得できないと留年や退学になるなど厳しい条件があるので、入学先としては難しいかと思います。この質問のお子さんは、ほかの高校に転入を希望しているようですから、お子さんへの的確な支援を考えると、この時期に門戸を開いているのは、通信制高校と併習するサポート校ではないかと思います。ただし、ひと口にサポート校といってもさまざまですから、発達障害の生徒への対応に力を入れているサポート校の学校説明会などに実際に出向いて、詳しい情報を収集することをおすすめします。
なお、自治体の教育相談室や適応指導教室のカウンセラー、指導員の方々は、発達障害や不登校のお子さんの進路について詳しい情報を収集しています。いろいろなケースに対応し、さまざまな情報とノウハウをもっているので、相談されたらいかがでしょうか。
ワンポイント豆知識「転校のメリット、デメリット」
解説:齊藤真沙美
●メリット…新しい環境の中でゼロからやり直せる
転校のメリットは、心機一転、新しい環境のなかで学校生活を送れることです。人間関係がすべて新しくなるので、不登校になる前のトラブルやきっかけも、不登校だったことについても、同級生も先生も誰も知りません。不登校だったことを知られたくない、ふれられたくないという子どもにとって、転校は大きなプラスになるかもしれません。
たとえば、いじめがきっかけで不登校になった場合、いじめた人間がいる環境に戻れというのは酷なことです。そうした場合はとくに、環境を変えて新しい人間関係のなかでやり直すことが大きなメリットになります。
転校先を選ぶ場合には、教育相談(心のケア)に力を入れていて、不登校経験のある子どもたちをサポートする体制が整っており、安心して新しい環境に入っていけるような学校が望ましいでしょう。
なお、公立小中学校における転校の手続きは自治体によって異なりますが、教育委員会の学務課や学事課などが窓口になっていますので、そこにご相談ください。
●デメリット…誰も知らない環境でやり直すことへの不安
転校のデメリットとしては、まったく新しい環境になるため不安が大きく、精神的に緊張状態が続くことがあげられます。
不登校の子どもは、感受性が強く、敏感で繊細なケースが多く、そうした子どもにとって、誰も自分のことを知らない環境に入っていくことは非常に勇気のいることであり、慣れるまでかなり時間がかかる場合もあります。
不登校になった学校には戻りたくないという気持ちがある反面、自分を知っている人がいて、自分を支えてくれる友だちや先生がいることが安心につながる場合も少なくありません。転校によって、そうした支えがまったくない環境に置かれることはデメリットになる可能性もあります。
また、「転校しても、また行けなくなったらどうしよう」という不安もあるでしょう。転校に際しては、本人も親御さんも「今度は行けるかも…」という期待をもっているわけですから、もし転校先でもうまくいかなかった場合、自信を失ったり、さらに傷ついてしまうこともあるかもしれません。
転校に際しては以上のようなメリット・デメリットを検討する必要があり、さらにいえば、十分に検討し準備したうえで転校したとしても、実際に通ってみないとわからないことは多々あります。行ってみてダメだったら、また、そこで考えよう、というくらいのスタンスで望むことが大事かなと思います。
転校を考えている親御さんが注意してほしい3つのこと
解説:池亀良一
①親主導になっていませんか?
親主導で進めてしまうと、転校先で再び不登校になったりしたときに、「僕は乗り気じゃなかったのに、お母さんが言ったから転校したんだ!」という話になりがちです。大切なのは、本人がどうしたいのか、その気持ちをきちんと受けとめることです。
最終的には、お子さん自身が自分で決めた転校だと思えることがポイントです。そうしたプロセスをたどれば、もし転校先の学校でうまくいかなくなったとしても、自分の責任ということで納得することができるでしょう。
②学校をやめたあとの方向性は決まっていますか?
転校先の情報をしっかり集めることはもちろん、高校を中退したり、転入・編入を考えている場合は、次の進路の方向性を決めてから最終的な決定をしましょう。
転校先の情報を調べることは、親御さんにしかできない側面もあるかと思いますので、事前に情報を集めておき、お子さんが関心を示したときにその情報を提示して、親子で話し合う機会をもてればいいと思います。お子さんと一緒に学校説明会や学校見学に行ったり、できれば転校先の先生と面談してみることも大切です。
高校生の場合、転入先が決まらないうちに中退することは避けたいものです。たとえば、高2の途中で中退すると、他の学校に移っても、また4月から2年生をやり直さなければなりません。まず、転入先を決めてから、中退の手続きをとることがポイントです。
③転校して新しい学校に通学するには、かなりのエネルギーが必要です
ある程度、心のエネルギーが充電されていないと、新しい学校で再スタートを切るのは難しいものです。新しい学校で新しい人間関係をつくり、新しい環境で生活していくには、それ相当のエネルギーが必要です。お子さんの状態を見ながら、新しい環境でやっていくには不十分な状態かなと思ったら無理をしないこと。無理をして転校しても、また行けなくなってしまいがちです。転校は、その子にとって大きな転機であり、岐路であるわけですから、親御さんも一緒になって考えてあげる姿勢を見せることが重要です。
【事例紹介】転校で状況が好転したケースとそのポイント
解説:齊藤真沙美
●事例1…自分の気持ちを表現できて、意思を伝えられるようになった女の子
小学校高学年の女の子の事例です。賢くて繊細な女の子でした。クラスが荒れていて、一応、授業はやってはいるものの、かなり騒がしい状況だったようです。それでも毎日、真面目に登校し、まわりがどんなにうるさくても黙々と授業を受けていました。
親御さんもクラスの状況を知っていたようですが、お子さんが毎日、学校に通っているうちは、そんなに心配していない感じでした。ところがある日、パタッと学校に行けなくなってしまいます。最初のころは、おなかをこわしたり、頭痛がしたり、体調を崩すなどの身体症状として出ている感じでした。それまで学校を休むことがまったくないお子さんだったので、親御さんはとても心配していました。
回復してきたころに、「騒がしい落ち着かないクラスのなかで一生懸命やってきたが、このクラスにいるのがとてもつらかった」とポツリポツリと話し出すようになりました。親御さんも、まさかこんなに我慢していたとは知らなかったようです。
最初は家から出られない状況でしたが、自分の気持ちを話せるようになってきたころから外に出られるようになり、親御さんと一緒にカウンセラーに会うこともできるようになりました。やがて、本人から「また勉強したい」と言い出すようになってきましたが、「あのクラスには戻りたくない」という気持ちが強かったのです。
このケースでは、本人が自分の気持ちをしっかりと表現できて、「もっと落ち着いたところで勉強したい」という意思が明確だったので、学区外の学校に転校することになり、その後は順調に力を発揮して、問題なく通学しています。
●事例2…転校を機に、頑張り屋さんが自分のペースを取り戻した
私立中高一貫校に受験して入学した中学生の女の子の事例です。小学校高学年のころに登校しぶりがみられ、不登校になった時期もありましたが、学校のサポートもあり、小学校6年生の最後のほうは教室で授業を受けられる状況になっていたようです。
不登校ぎみのなかで塾に通いながら、私立中高一貫校を受験して合格したわけですが、入学した中学校が進学コースを設置していて、毎日7時間も授業があり、6年計画で有名な大学に合格することを実現しようとしている学校でした。
その子は頑張り屋さんで、ちょっと体調が悪くて帰宅してグッタリしていても出された宿題は必ずやるといった生活を続けていました。その結果、1年生の6〜7月ころに不登校になってしまいました。
そこで私どもの相談室とつながりができたのですが、「すごく頑張りすぎたことで疲れてしまったんでしょう」と話しながら、他人に合わせるのではなく、自分のペースで勉強したり、生活をすることはとても大切で、そのリズムを自分で見つけて、うまくコントロールしながらやっていく必要があることをアドバイスしました。
不登校になって最初のころは、せっかく受験して入学した学校だったので、なかなか転校する決心はつかなかったのですが、しばらくしてから、「自分のペースでやっていける学校に転校したい」と言うようになりました。その時点で、公立中学校に転校する手続きをとり、事前に本人とお母さんが面談に行き、それまでの経緯を伝えたところ、その中学校では保健室登校や相談室登校もできるので、初めのうちは無理をしないで1〜2時間来るだけでもかまわないと言ってくれました。
その中学校のサポートもあり、その後は公立高校に入学できて、そこでも自分のペースで通うことができたようです。それでも、試験前などはつい無理をしてしまうこともあるので、自分は疲れやすい面があることを意識しながら、上手に登校できるようになってきたとのことです。
発達障害の子どもが転校・進学するときに、親として考えておきたいこと
解説:霜村 麦
身近な目標、中間目標、そして遠い目標を決める
私はいまメガネをかけていますが、メガネがないと日常生活にさまざまな支障が出てきます。ただ、メガネは簡単に手に入るので、視力が弱くても不自由なく生きていけます。
一方、発達障害の子どもたちは、このメガネに相当するサポートがほとんどない状態にあります。認知にかたよりがあったり、能力にバラつきがあるけれど、いい面もたくさんあるのに、それを活かしきれず、失敗ばかりが多くなり、傷つき、生きにくさを感じている子どもたち。こうした子どもたちには、勉強よりも何よりも、日常の人間関係づくりのスキルや生きるための処世術を身につけることが重要になってきます。
高い理想をもち、高校、大学を経て、いい企業に就職する希望をもっているお子さんもたくさんいます。理想をもつのはいいことですが、現実の自分とのギャップが大きすぎて動けなくなってしまうことも多いのです。
そんなときは、まず、「遠い目標」があり、「中間の目標」があり、「いちばん手前にどんな目標があるか」を図式化してあげると理解しやすいと思います。たとえば、こんな会社に入って、こんな役職に就きたいという目標があるとすると、そのためには大学に行きたい→大学に行くためには高校に行かなければいけない→今の学力では行ける高校の選択肢は狭いが、高校で頑張ればいい大学に行けるかもしれない→だから自分が頑張れる高校を探すことから始めよう、というように遠い目標からさかのぼって身近な目標について説明するわけです。
たとえ二次的な障害などにより自尊心が傷ついていても、こうした作業のなかで歯車が好転しはじめると、遠い目標がかけ離れたものではなく、自分に合った目標を選び出す力が身についてきます。まずは、現状のなかで具体的な一歩としてできる身近な目標を決め→中間目標→遠い目標という流れで考えていくと、動きやすくなるかと思います。
その際、具体的な一歩として親御さんの頭の中に入れておいていただきたいのは、発達障害の子どもたちの特徴に合わせてコミュニケーションのとり方を工夫してくれる先生、傷ついている自尊心を育んでくれる先生、人間関係づくりのコツをきちんと教えてくれる先生が見守ってくれることが大事だということです。そうした先生がいることを条件にして、学校選びをされたらいかがでしょうか。