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登進研バックアップセミナー80・講演内容

 

不登校ー心の中で何が起こっているのか?

2012年1月29日に開催された登進研バックアップセミナー80の第1部「不登校―心の中で何が起こっているのか?」の内容をまとめました。

 

講師

小澤美代子(さくら教育研究所所長)

海野 千細(八王子市教育委員会学校教育部学事課長)
司会

霜村 麦 (臨床心理士)

 

1.なぜ安心できる居場所が必要なのか

     

霜村

 今日は「不登校ー心の中で何が起こっているのか?」をテーマに、多くの親御さんが感じている4つの疑問(①なぜ、安心できる居場所が必要なのか、②親が距離をとると、なぜ子どもは動き出すのか、③なぜ、原因を言わないのか、④いつまで続くのかという不安とどうつきあうか)を取り上げ、小澤先生、海野先生のおふたりにお話を伺います。この4つの疑問は、子どもとかかわるうえでも、子どもを理解するうえでも重要なポイントとなるものです。
 では、1つ目の疑問「なぜ、安心できる居場所が必要なのか」に入ります。

 不登校の子どもをもつ親御さんは、カウンセラーから「お子さんには安心できる居場所が必要です」といわれることがあると思います。でも、親としては、「安心させてばかりでいいのか」「好き勝手にさせていると、どんどんわがままになって、いつまでも不登校を続けるのではないか」という不安もあるのではないでしょうか。そのあたりのことについて、まず、小澤先生にお話を伺いたいと思います。
小澤

 まず、「安心」や「安全」というものは、不登校の子どもに限らず、私たち人間が元気に生活していくために非常に大切なものだということを申し上げておきたいと思います。とくに不登校のお子さんは、日常生活がうまくいかない一種の不適応を起こしているわけですから、この不適応状態から抜け出し、日常的な生活に戻るためには、かなりのエネルギーが必要になります。
 不登校という状態を説明するとき、私はよく車にたとえて話をします。いろいろ大変なことがあって、どんどんエネルギーを使ってしまい、ガソリンがなくなって、ついに動かなくなってしまった車。これが不登校のイメージです。そこから脱出するには、なんとかガソリンを増やしてエンジンを始動させ、日常に戻らないといけない。
 では、どうしたらガソリンが増えるのか。あるいは、どうしたらガソリンが減ってしまうのか。たとえば、毎日毎日「今日は行くの? 行かないの!」「先生になんて言ったらいいの!」「お母さん、もうどうしたらいいかわからない」といった刺激を与え続けたらどうなるか。子どもは安心して休めないどころか、親の刺激から自分を守ることにばかりエネルギーを費やしてしまい、ガソリンはますます減っていきます。
 逆に、ここは安心・安全だと感じられれば、子どもの中から自然にエネルギーがわいてきます。ただし、エネルギーがわいてきても、それをどんどん使ってしまったら、なかなかガソリンはたまりません。ためるためには、エネルギーがプラスになる状況(安心できる状況)を増やして、マイナスになる状況を減らす。実にシンプルなことなんです。

霜村  海野先生、そうやって安心できる居場所ができると、子どもにどんな変化が起きるのでしょうか。
海野

 お子さんによって、大きく分けて2つの変化があらわれます。
 ひとつはプラスの変化で、表情や物腰がおだやかになったり、笑顔が出てきたり、朝起きてくると「おはよう」と言うようになったり、いわゆる普通の感じが戻ってきたような変化が出てくる場合があります。
 もうひとつはマイナスにみえる変化で、生活がますます乱れてくる場合があります。それまで朝10時くらいに起きていたのに、昼過ぎとか夕方にならないと起きてこない。起きたら起きたで、以前はちゃんと着替えていたのに、一日中パジャマのままで過ごすようになる。好きなときに起きて、好きなときに寝て、食べたいときに食べるというように、いわゆるふしだらな生活がどんどんひどくなるような変化がみられることもあります。
 さらに、生活がふしだらになっていくタイプの子がもう少し元気になってくると、たいてい親御さんがやってほしくないと思っていることをやり始めます。ほとんどは一日中、ただテレビをボーッと見ている。しかも、アニメとかお笑いとかバラエティとか、親からみればくだらないものばかり見ていたりします。そのほかギターをやり始めたり、バイクに興味をもったり、要するに遊びや趣味のようなものに関心が行くことが多い。親御さんが期待するような、勉強や進路に関する興味・関心は、実はいちばん最後に出てくる変化なんです。

霜村

 生活がますます乱れてくるとしたら、親御さんは心配ですよね。

海野

 こういう時期はけっこう長く続くし、親御さんがよく言う「学校のこと以外は、ほんとに元気なんです」みたいな感じになりますから、よけいに腹が立ちます。毎日毎日グータラしていて、「こんなことで本当に立ち直るのか」と思うような状態が続くわけですから。
 しかし、こうしたマイナスの変化もプラスの変化も、とにかくなんらかの変化が起きているときは、基本的には親御さんのなさっていることが子どもに届いていると考えていい。それまで「学校に行きなさい!」とガンガン言っていたのをやめて、「まあ、しょうがないのかな」という感じで接し始めたとか、そういう対応の変化が、子どもの心にヒットしているときに変化が起こるわけです。
 逆にいえば、親御さんが対応を変えてもまったく変化がみられないときは、子どもの心にあまり響いていないと考えたほうがいいでしょう。

 

「受容」と「甘やかし」の違いは?

 

霜村

 子どもを安心させること、自由にさせることは、「甘やかし」にならないのかと気になさっている親御さんも多いと思いますが。

海野

 親御さんがお子さんを受け入れて、好きにさせてあげようという対応になってくると、子どもが「○○買って」「○○に行きたい」など、いろいろな要求を出してくることがよくあります。
 昔、私が担当していた男の子はバスケットが大好きで、バスケのボールを20個くらい買わせたり、NBA30チームのシューズをすべて揃えさせたりしました。お母さんが要求を拒もうとすると、「お前は、俺が大事なのか! 金が大事なのか!」と怒鳴ったりするので、泣く泣く買わざるを得ないような状態でした。

霜村
 それでも、その子の要求に応えてあげるのが「受け入れる」ということなのでしょうか。
海野

 こういうとき、「受け入れる」ということには、「要求を受け入れる」という部分と、「気持ちを受け入れる」という部分の2つがあります。子どもが「○○が欲しい」と言ったとき、「そうか、あなたは○○が欲しいのね」とその気持ちを受けとめてあげるか、モノそのものを与えるか。

 これは、どちらがいいとかいう話ではなく、子どもの年齢が低ければ低いほど、モノを与えてあげることが必要になってくる場合があります。
 たとえば、小学校1〜2年の子が「アイスが欲しい」と言ったとき、「ああそう、あなたはアイスが欲しいのね」では済まないわけです。ところが、カウンセリングの心得がある人ほど、「買ってよ!」「そうか、買ってほしいのね」「買ってってば!」「ああ、すごく買ってほしいのね」(笑)といった対応をしてしまい、子どもがすごく怒るというケースがけっこうあるんです。このような場合、子どもはアイスを買ってもらって初めて受け入れられたと感じ、気持ちが満たされる。そうしないと本当の意味で受け入れてもらえたと感じにくい子もいるということです。

霜村
 そうすると、子どもの要求がどんどんエスカレートしませんか?
海野

 確かに、だんだん要求がひどくなってくることがあります。
 親御さんとしては、「言われるままに要求に応じていていいのだろうか」と不安になることもあると思いますが、そのとき、親御さんが「じゃあ、学校へ行くなら、○○を買ってあげてもいいよ」と交換条件をつけると、これは「受容」ではなく、「甘やかし」になります。
 受容とは、子どもが欲しがるものを無条件に与えることです。そこに交換条件をつけると、子どもは「自分の要求を認めてもらえた」というよりも、「親の要求を聞き入れないと認めてもらえないんだ」と感じやすい。そうなると、今度はその理屈を、逆に子どもが使うようになったりします。
 たとえば、「お母さん、来週から学校行くから○○買って」と言うので買ってあげると、月曜日だけ登校して、翌日からまた行かない。「何よ! 行くって言ったじゃない!」と叱ると、「だから一日行っただろ!」。こういうことのくり返しになったりします。
 要するに、交換条件をつけて子どもの要求を受け入れようとすると、その要求はエスカレートするばかりで、子どもは本当の意味で受け入れられたと感じる体験になりにくい。このことを親御さんは心にとめておいたほうがいいのではないかと思います。

 

安心できる居場所を提供するだけでいいのか

 

霜村

 子どものエネルギーがある程度たまってくると、親としては、そろそろ次のステップに向けて、なんらかの登校刺激が必要ではないかと感じる場合も多いと思います。いつまでも、ただ安心できる居場所を提供しているだけでいいのでしょうか。

小澤

 親御さんは、つねに先へ先へと考えすぎて不安になっているような気がします。こうしたらこうなる、ああしたらああなる、好きなようにさせたらわがままになるんじゃないかというように、踏み切る前に先々のことを考えて混乱してしまい、結局、何もしないということがよくあるのではないでしょうか。
 不登校の期間は数カ月から数年まで、すごく個人差があって、私がかかわったいちばん長いケースでは8年というお子さんもいましたが、いずれにせよ数日で終わることはまずありません。ですから、いろいろな機会にある程度働きかけないと、なかなか変化は起こりません。ところが、働きかけるときに親御さんが、こうしたらこうなるんじゃないか、そうなったら大変だというような一種の予期不安にかられて、結局やらない。となると当然、変化も起きにくいわけです。
 そんなとき、私がよく提案するのは、「順番をつけましょう」ということです。多くの親御さんは、1番目にやるべきことと10番目にやることがごっちゃになって、ここで安心させたらわがままになってますます学校に行かなくなるんじゃないかとか、現在のこととずっと先のことを一緒くたにして悩んでおられることが多いからです。

霜村
 やるべきことに順番をつけるわけですね。
小澤

 とくに危機的状況でどうしたらいいかわからないときは、まず、緊急性の高いもの、必要性の高いものから3〜5番目くらいまで順番をつけてみることをおすすめします。
 たとえば、親御さんから毎日のように「行くの? 行かないの!」と言われて安心できないので、ちょっと元気が出てもそのエネルギーをすぐ使い果たしてしまい、いつまでたってもエネルギーがたまらないという状態であれば、まずは先ほど申し上げたマイナスの刺激をやめてみる。「ずっーと休んでもいいよ」という言い方は、私はあまり賢明ではないと思いますが、「あまりうるさく言わないからね」といった意思表示をして、まずこれをやってみましょう。

霜村

 まず、やってみることが大事、と。

小澤
 その結果、変化が出てくるのは3〜6カ月くらいのスパンだと思いますので、とりあえず3カ月は言いたいことも半分にして、子どもの安心・安全を第一に考える。やってみて、その結果、わがままがとんでもなくエスカレートしたり、昼も夜もないような生活になるなど、マイナス面ばかりが出てくるようなら、そこで仕切り直しをすればいいわけです。
霜村
 仕切り直しとは?
小澤

 たとえば、「今まであなたが元気になればと思って、言いたいこともあまり言わないようにしてきたけど、この3カ月、あなたを見ていると、ちょっとまずいんじゃないの。このままだと将来自立してやっていくのは難しくなっちゃうから、それを考えると、今までのように好きなように過ごせばいいよとは言えないんだよね」といったことを伝える。小学校高学年以降であれば、ちょっと言葉を選べば意図は伝わると思います。
 そして、ここまではいいけれど、これはダメという線引きを具体的に示す。たとえば、「昼過ぎに起きるのはどう考えても健康によくないから、10時になったら声をかけるよ。それでダメなら、11時にもう一度声をかけるからね。少なくとも午前中に起きたほうがいいよ」とか。

霜村
 うまくいかなかったら、やり直せばいい?
小澤

 そうです。まず順番をつけて、いちばん必要と思われることをやってみる。それでいい方向に向かっているようなら、今のかかわりでいいわけですから、それを次の段階に進むまで続けていく。
 逆に、やってみて、どんどんわがままになったり、生活が乱れていくようなら、「○時には起きてほしい」「夕ごはんはみんなと一緒に食べてほしい」など、これだけはちゃんとしてほしいということを具体的に提案していくというのが、ひとつの方策かなと思います。
 まあ、本人は聞く耳をもたないかもしれないけれど、部屋の外からでもいいので伝える。そのときは、くどくど言わずに、できるだけ手短に伝えるようにするとよいでしょう。
 とにかく「順番づける」ことが大事。最初にやるべきことと最後のことを一緒くたにして、こうなったらどうしよう、ああなったらどうしようと不安になっているようでは、どう考えてもうまくいきません。といったことを、私は相談の中でよくお話ししています。



2.親が距離をとると、なぜ子どもは動き出すのか

 

霜村 

 2つ目の疑問は「親が距離をとると、なぜ子どもは動き出すのか」です。以前、このセミナーで、2年間、部屋にひきこもっていた青年が当時を振り返って話をしてくれたことがあります。今は公務員としてしっかり自立し、大勢の参加者を前に落ち着いてユーモアたっぷりに話をされていて、こんなに変わるんだなあと感動しました。

 その青年は、「親と顔を合わせれば、学校の話になるのがわかっているので、部屋に閉じこもっていた」と言っていました。食事もドアの前に置いてもらって、食べ終わったら外に出すというように、完全なひきこもり生活を続けていたそうです。
 そんな彼が部屋の外に出るきっかけとなったのが、お母さんがパートに出るようになり、昼間、家でひとりで過ごせるようになったことでした。こうした例はめずらしいことではなく、親が距離をとることでうまくいくようになったという話はよく聞きます。このような子どもの気持ちについて、まず海野先生からお話を聞かせてください。

海野

 子どもたちは、親御さんとの関係の中で安心を取り戻して気持ちが楽になると、いろいろと動きたくなるわけですが、そのときに親の感覚と子どもの感覚にズレがあることが多いんですね。親のほうは「もう少しそばにいたほうがいいんじゃないか」と思っても、子どもは、それが「面倒くさい」「監視されている」「つねに期待されている」という感じがして重荷になり、逆に動けなくなってしまう場合があります。
 昔、あるお母さんが、子どもが学校に行けるようにと、毎朝4時頃から近くの神社にお百度参りをしていたという話を聞いたことがあります。子どもは当時中学生でしたが、それが重くて重くて本当に嫌だったと、ずいぶんあとになってからお母さんに話したそうです。
 ですから、親がどういう思いでいるかということと、その思いで何かをすることと、それを子どもがどう感じるかということは、けっこうズレていることが多いと思っておいたほうがいい。もしかするとお子さんは、お母さんがいつもそばに張りついていて、何かあったらパッと駆け寄るという必要はなくなっているのかもしれません。
 そのへんのズレが心配だったり、仕事に出ようか迷っていたり、逆に、フルタイムで働いていたお母さんが仕事を辞めようと考えているなら、「お母さん、お勤めしようかと思っているんだけど、どうかな?」「仕事、辞めようかと思ってるんだけど、どう思う?」と、直接お子さんに聞いてみるといいです。そういう話題をふったりしながら、子どもの感じていることと、お母さんお父さんの感じていることが、うまくマッチングしているかどうかを確かめてみてはどうでしょう。

霜村
 小澤先生、子どもと距離をとることにはどんなメリットがあるのでしょうか?
小澤

 大半の親御さんは、子どもとの距離が近すぎるというか、心配で心配で気になって仕方がないという傾向があるのかなと思います。それを前提としてお話ししますが、まず、子どもには基本的に「自分のことを見てほしい」「見捨ててほしくない」という気持ちがあります。しかし、見ていてほしいと思う一方で、それがあまり近すぎて濃厚であると、「うざい」「息苦しい」「窮屈」という気持ちになります。親の愛情、子どもへの関心は絶対に必要なものですが、それが子どもの状態にどんな影響を及ぼすのかは、ときどき振り返ってみなくてはいけないと思います。
 そもそも不登校の子どもにとっては、親の存在そのものがひとつの登校刺激であり、プレッシャーとなっています。だから子どもは、親の視線を敏感に察知します。遅い時間に起きてきたときの自分を見る視線。「今日は行くのかしら」とか「まったくこんな時間に起きてきて…」とか、口には出さないけれど、目でそう言っている。視線以外にも、親のまとう空気のようなものがプレッシャーになることもあります。あるお子さんは、親がため息をついたことを「絶対に許せない」と言っていました。
 このように親という存在は支えや守りであると同時にプレッシャーでもあるので、子どもと距離をとることでそのプレッシャーが減っていけば、子どもの安心・安全も守られてくるわけです。

霜村

 安心・安全が守られれば、やがて子どもは動き出す?

小澤

 お母さんがパートに出れば子どもが動き出すというような単純な話ではないんですが、先ほど海野先生もおっしゃっていたように、親御さん自身が行き詰まって、ちょっと距離をとったほうがいいのか、逆に仕事を辞めたほうがいいのかと悩んだときは、その気持ちや迷いを子どもに伝えてあげることが大事です。
 子どもに一切言わないで、ある日突然、「お母さん、パートに行くから」とか「仕事を辞めて家にいるから」と言われると、子どもは、自分が何か悪いことをしたのか、自分のせいでこうなったのかなどと思いがちですし、急な変化を受け入れられず、よけい安心・安全がおびやかされ、無駄なエネルギーを消費してしまうことにもなりかねません。
 子どもの年齢に合わせて言葉を選びながら、「お母さんと一日中顔をつきあわせていると、あなたも気づまりだろうし、お母さん自身も外に出て働いてみたいから、来月からパートに出ようと思うんだけど、どう思う?」といった感じで聞いてみてください。
 子どもは返事をしないかもしれないけれど、必ずなんらかの反応があります。表情が「ふ〜ん」という感じだったら、まあ大丈夫かなというところ。泣いたり、何かリアクションがあったら、それに応じて、「やっぱりパートに出るのはやめたほうがいいかなあ」とか「お母さんも迷っているから、あなたも考えといて。また今度、考えを聞かせてね」と伝えて、1週間くらいしたらまた聞いてみる。
 このように子どもの気持ちを尊重して相談をもちかけてあげるというのも、ひとつのいいきっかけになるのではないかと思います。

海野

 お母さん自身がどういう状態で、どんなことを考え、どうしたいと思っているのかを、お子さんにオープンにすることは非常に大事です。
 とくに、親御さんが今までとは違う接し方をしようと思ったときほど、なぜそうしようと思ったのか、その理由をきちんと伝えてください。急に親の対応が変わったとき、子どもはなぜだろうと疑問を抱きます。そして、だいたい子どもは「自分のせいで親がこうなった」という感じ方をしやすいのです。そうした子どもの気持ちを理解したうえで、きちんと説明することが大事になってくるわけです。



距離をとることで、見えなかったものが見えてくる

 

霜村
 小澤先生、子どもと距離をとることで、親御さん自身にはどんな変化が起こるのでしょうか?
小澤

 子どもと距離をとれていないということは、巻き込まれているということです。子どもの不登校という渦の中に、親も一緒に巻き込まれて、にっちもさっちもいかなくなっているという状態です。
 距離をとるということは、親がその渦巻きからちょっと逃れて、渦の中にいる子どもの状態をある種クールに眺めるということです。すると、一緒に巻き込まれていたときには見えなかったものが見えてくることがあります。それが距離をとることの大きな利点のひとつです。
 そして、くり返しになりますが、距離をとるときには、事前にその理由や親の思いを伝えてあげることが大切です。親としてはさんざん考えてパートに出ることにしたわけですが、子どもにとっては突然のことで、その理由もわからない。これでは混乱するばかりです。

霜村
 子どもに事前に伝えることが大事なんですね。
小澤

 たとえば、ちょっと背中を押そうかなと思ったときも、ちゃんと事前に伝える。「これから朝は○時には起こすよ」と予告するとか。
 何も言わず、いきなりやってもうまくいくわけがないのに、突然やって失敗して、「こんなに心配してあげているのに、全然それに応えようとしない」と親が怒ってしまうというパターンが多いのですが、子どもが応えてくれないのは当たり前のことです。
 ずーっと思っていたのは親ばかりで、子どもにとっては突然なんです。そこをよく想像して、突然、「こうだからこうするわよ!」と頭ごなしに押しつけるのではなく、事前に「こうしたほうがいいと思うけど、どう?」「こう思っているんだけど、どう?」と本人に提示することが大事。そして、そのときの子どもの反応をみながら出したり引っ込めたりを続けていくことが、結果的にいい方向に働くのではないかと思います。

 


3.なぜ、原因を言わないのか

 

霜村

 次は3つ目の疑問「なぜ、原因を言わないのか」です。
 多くの親御さんは、「なぜ不登校になったのか」「原因は何か」を知ろうとします。しかし、本人に聞いてもよくわからない。理由を言わない。そのため、「原因がわかれば解決できるのに」「原因がわからないと、どう対処したらいいかわからない」と悩んでいる親御さんも少なくありません。なぜ、子どもは原因を言おうとしないのでしょうか。

小澤

 なぜ原因をいわないのか。理由は大きく分けて2つ。ひとつは、「うまく言えない」「よくわからない」ということ。これは、小学校4年生以下の子どもによくみられる傾向です。うまく言えない背景には、まだ知的な発達が未熟なために、自分の身に何が起こったのかをうまく意識化できない、うまく言語化できないということがあります。
 もうひとつは、中高生に多いのですが、「言いたくない」。理由ははっきりわかっていても、言わない、言いたくない。その背景には、本人のプライド、意地、恥などの自我意識があります。

霜村
 となると、本人に理由を聞かないほうがいいですか?
小澤

 そんなことはありません。「なぜ?」「何があったの?」と聞いてもいいんです。ただ、聞いたからといって、正しい答え、本当の答えが得られると思わないほうがいい。また、原因さえわかれば解決するとか、わからないと解決しないなどと思い込まないほうがいい。そうでないと、どんどん本人を追いつめてしまうことになりかねません。
 まわりの大人は「何か原因があって、それを取り除けば学校に行ける」と思うわけですが、不登校の場合、小さなことがいくつも積み重なって、あるとき限界を超えてしまうというケースが多い。だから、何かひとつの原因を見つけて、それが解決したからといって、なかなか不登校が解消しないということが、残念ながら非常に多いです。インフルエンザのような病気であれば、ウイルスを特定してそれを退治すれば治りますが、不登校についていえば、ほとんどの場合、そのやり方は当てはまらないというのが前提としてあります。

霜村

 親としては、それでも原因を知りたいと思うわけで、不登校になった当初は「なぜ?」「どうして?」と問いつめることが多いかと…。

小澤

 小学校低学年くらいの子どもは、「何かあったんでしょ?」「わからないなんて、そんなわけないでしょ」「隠さないで言いなさい」と問いつめていくと、苦しまぎれに、なかったことまで言い出します。
 よくあるのは、「○○くんが、いじわるした」というもので、それを聞いた親御さんが、学校に「○○くんが、いじわるしたそうです。なんとかしてください」と抗議すると、濡れ衣を着せられた子は面白くないから、「○○ちゃんは嘘つきだ」とみんなに言いふらしたりする。そうなると、本人はますます学校に戻りにくくなるということが起こります。

霜村

 理由はわかっているけど「言いたくない」という子も多い?

小澤
 かなり多いです。中学に入学して数週間で学校に行けなくなった女の子を担当したことがありますが、この子は、最後の最後まで決して理由を言いませんでした。クラスのあるグループからひどくプライドを傷つけられることを言われたのがきっかけであり、そのことは学校側も私たち相談機関の人間も把握していましたが、本人の口から語られることは一切ありませんでした。1年経ち、2年経ち、私とかなり親しくなっても、不登校の原因に話が及ぶと、さっと顔色が変わり、口を閉ざしてしまいます。中学3年になって進路が決まり、私とさよならするまで、結局、一度も理由を言ってくれませんでした。それを口にすれば、自分が傷つく。だから言えなかったんだと思います。
霜村

 子どもなりのいろいろな思いがあるわけですね。

小澤
 このように原因を聞き出すのは非常に難しいし、本当の原因かどうかも難しいし、原因を言わせようとして本人を追い込むことも望ましいことではありません。最初から原因には一切ふれず、そっとしておくというのはもっとよくないと思いますが、子どもには子どもなりの言えない状況、言いたくない状況があるということを理解してあげてほしいと思います。


原因が解決しても登校できるとはかぎらない

 

霜村

 海野先生は、原因を言わない子どもの気持ちについてどのようにお考えですか?

海野

 子どもが原因を言わない理由については、今の小澤先生の説明で、みなさんよくおわかりになったのではないかと思いますので、ちょっと別の視点から、お話しします。
 そもそも不登校の「原因」といいますが、長年、相談に携わってきた経験からいうと、「きっかけ」になった出来事と、その出来事がきっかけになるような「背景」にあたるもの、その両方のかけ合わせで不登校が起きてくるのを感じます。

霜村

 「きっかけ」と「背景」のかけ合わせで不登校が起こる?

海野

 たとえば、先生に怒られたことが「きっかけ」で不登校になったという場合、一方で、いくら先生に怒られても毎日学校に行く子もいるわけです。となると、怒られたことが原因というよりも、それによってその子が強く傷つくような「背景」があったということだと考えられます。
 私たちは、つい「原因」という言葉に引きずられますが、なぜこんなささいなことで学校に行けなくなったのかと考えると、その子がそれまでずっと抱えていた「背景」が見えてくることがあります。

霜村
 いじめがあって学校に行けなくなった場合などは、ある意味、原因がはっきりしているわけですが…。
海野

 きっかけがいじめだった場合、それを先生に話すと、先生がいじめにかかわった子を全員集めて、その子に謝らせたりすることがよくあります。そうすると、学校側はいじめの指導はした、その問題は解決したと思いがちなんですが、じゃあ、その子は翌日から学校に行けるかというと、そうではありません。
 「自分が先生に言いつけたと思われる」「みんな、本当に悪いと思って謝ったわけじゃない」「今度、学校に行ったらもっといじめられる」と不安になって、ますます行きにくくなるということになりかねない。
 ですから、きっかけがわかったからといって、そして、それが一見解決したかのようにみえても、その子が学校に行けるようになるわけではありません。気持ちが前向きになるためには、さらにいくつかの段階を踏んでいくことが必要になってくるのです。

 

4.いつまで続くのかという不安とどうつきあうか

 

霜村
 4つ目の疑問「いつまで続くのかという不安とどうつきあうか」に移ります。不登校が長引いてくると、多くの親御さんは「この状態はいつまで続くのか」「このままずっと登校できなかったらどうしよう」といった不安にさいなまれます。そうした不安とのつきあい方について、まず、海野先生に伺いたいと思います。
海野

 先が見えなくて、出口がどこにあるかもわからない状態で、数カ月あるいは数年という長い時間を過ごすことは、本当に不安だと思います。そうした状況の中で、親御さんが自分を支えるために頭に置いておくといいかなと思うことが3つあります。
 1つ目は、現在、お子さんがどのあたりにいるのかを把握すること。不登校から再登校に至る一連の道筋の中で、今、わが子がどのあたりにいるのかがわかると、気持ちが少し楽になります。これについては、のちほど小澤先生から詳しいお話があると思いますので、そちらに譲ります。
 2つ目は、子どもの小さな変化をキャッチできる目をもつこと。毎日なんの変化もない、こんなにいろいろやっているのに何ひとつ変わらないと思うと、やりきれない気持ちになりますよね。しかし、子どもは家の中にいても成長し、変化し、親に対していろいろなメッセージを出しています。それをうまくキャッチできると親自身の不安も和らぐし、お子さんへの対応もおのずと変わってきます。

霜村
 どうしたら子どもの変化をキャッチできるのでしょう?
海野

 「なんとか学校に行かせよう」とだけ思っているうちは、「学校に行く行かない」しか頭にありませんから、何か変化があっても見えません。
 不登校の子どもが再登校するのは、進級・進学・学期の変わり目などの“節目”の時期がほとんどです。だいたい9割以上の子どもがそうだと思います。学期が変わったり、クラスが変わったり、学校が変わったりする節目を利用して、心機一転やり直そうとするわけです。たとえば、5月の連休明けから不登校になった場合、再登校のきっかけになりそうな最初の節目は2学期のあたま、次が3学期のあたま、そして翌年の4月のあたまということになります。

霜村

 その節目の時期に背中を押してあげるといい?

海野

 というよりも、親としては、この節目までは、「今日はどうするの? 行くの! 行かないの!」とうるさく言うのをやめて、「次の節目まではゆっくりさせてあげよう」と思っていたほうがいい。そうすると逆に、子どもの小さな変化が見えてきます。

霜村
 小さな変化とは、たとえば?
海野
 それまでは、ただボーッとテレビを見ていた子が、番組を選ぶようになったり、新聞を読むようになる。これは少し元気が出てきて、外の世界に関心が向くようになったあらわれと理解できます。
 ゲームなども、親御さんからすれば悩みのタネかもしれませんが、本当に元気のないときはゲームすらできません。ゲームはルールがかなりややこしいので、ある意味、前向きにちゃんと取り組まないとできないんです。それから、ずっと親に対してバリアを張っていた子が、落ち着いてくると表情が和らいだり、お父さんと顔を合わせても平気になったりする子も多いですね。
霜村
 不安と上手につきあうための3つ目の方法は?
海野

 3つ目は、行動の意味を考えること。たとえば、不登校の子はなぜあんなにゲームばかりしているのか。好きでやっているように見えますが、ほとんどの場合、そうではありません。「こんなの好きでやってるわけないじゃん」と言われて、私もびっくりしたことがあるんですが、「じゃあ、どうしてやるの?」と聞くと、その子は「こんなことでもやらないと、嫌なことを思い出して耐えられないから」と答えました。
 何カ月も行かなかった床屋さんや歯医者さんに行けるようになるというのも特徴的な変化です。これにどんな意味があるかというと、床屋や歯医者というのは自分の体を他人にゆだねるわけですから、他人に対する信頼感・安心感が戻ってきた証と考えられます。
 これら3つのことを頭に置いて子どもを見てみると、今まで見えなかったものが見えてくるかもしれません。それが、ひいてはお母さんお父さんの不安を和らげることにつながるのかなと思います。

 

学校に行かなくても子どもは成長する

 

霜村
 小澤先生は「いつまで続くのか」という親御さんの不安について、どのようにお考えでしょうか?
小澤

 子どもが1週間休んだだけでも親は心配でたまらないのに、数カ月、さらに年を越えても続けば、この先どうなるのだろうと不安にかられるのも当然です。私自身、相談にみえたお母さんから「先生、いつまででしょうか?」と聞かれたことが何度もあります。そんなとき、私はよく2つのことをお伝えしていました。
 ひとつは、学校に行っても行かなくても子どもは成長するということ。かつて人間は学校制度がなくてもちゃんと成長し、子どもから大人になって仕事をし、親になりました。今は学校に行くか行かないかが大きな課題になっていますが、家にいても子どもは確実に成長します。

 よりよく成長するためには、今日、最初にお話しした「安心できる居場所」が大切になりますが、そういう居場所があれば、子どもはテレビ、新聞、ゲーム、マンガなどからもさまざまな知識、感動、達成感、喜怒哀楽などを吸収し、成長していきます。学校に行っていない期間は成長が止まっているとか、何も得るもののない空白期間であると考える必要はありません
霜村
 家にいる時間も、決して無駄ではないと
小澤

 そうです。もうひとつは、語弊があるかもしれませんが、小中の義務教育さえ修了してしまえば、あとはどういう人生を歩もうと自由ということ。その先にはいろいろな進路があり、いろいろな生き方があっていいわけで、学校に行くか行かないかで悩まされるのも中3で終わり。とくに中2、中3ともなれば出口は近いわけで、そこから先はいろいろな道が開けていると考えたほうが、親御さんも気が楽になるのではないかと思います。
 とりあえず義務教育期間は、親は子どもに教育を受けさせる責務があるわけですが、それさえ終わってしまえば、「行かなくちゃ」「行かせなくちゃ」というプレッシャーに苦しめられる必要もない。そういうふうにポジティブに考えることが、いつまで続くのかという不安とつきあうひとつの方法かなと感じています。

海野

 ひとりで考えていると、だいたい考えが悪いほうへ悪いほうへと向かっていきます。そして、自分が悲劇の主人公というか、自分だけがとりたてて不幸な目にあっているような気持ちになりやすい。
 そんなとき、このようなセミナーに参加したり、「親の会」などで他の親御さんたちと話をすると、悩んでいるのは自分だけじゃないんだと感じて、ちょっと気が楽になったりします。みんなで話したりするのが苦手な方は、個別相談を受けるという方法もあります。地域にある公の相談機関を利用するのもいいし、民間のカウンセリングルームに行ってもいいでしょう。
 いずれにせよひとりで抱え込まないで、カウンセラーや同じ立場の方々と悩みを共有できる機会をもつこともひとつの方法かなと思います。

 

初期・中期・後期の特徴とかかわり方のコツ

 

霜村
 いつまで続くのかという不安は、現在、お子さんがどのあたりにいるのか、つまり、不登校から再登校に至る過程の中でどのへんにいるのかということが把握できると、だいぶ軽減されるのではないかと思います。
 そこで、小澤先生が開発された「状態像チェックリスト」(『〈タイプ別・段階別〉続 上手な登校刺激の与え方』小澤美代子編著、ほんの森出版)をご紹介しながら、お話を伺いたいと思います。
小澤

 短ければ数カ月、長ければ数年という不登校の年月の中で、今、わが子はこのへんにいて、次はこうなりそうだということがおぼろげにわかるだけでも、ずいぶん気持ちが楽になるし、希望がみえてくるものです。
 私は相談機関に16年いて、たくさんの相談を受けてきましたが、その中で、不登校が始まってから元気になるまでに、いくつかの段階があることが見えてきました。それを初期・中期・後期の3段階に分けて、その目安を作ったのが「状態像チェックリスト」です。それにもとづいて各段階の特徴について説明したいと思います。

霜村
 まず、初期の特徴を教えてください。
小澤

 初期は、おなかが痛い、頭が痛い、熱が出るなどの「身体症状」と、物や人に当たりちらす、感情のコントロールができないなどの「不安症状」が強いのが特徴です。初期は、一般的に休み始めて数週間からせいぜい数カ月くらいですが、この時期に強制的に学校に行かせようとしたり、本人への非難・叱責をくり返すなど、まわりがあまり突っつくと、1年半たってもまだ初期の段階にとどまっているようなケースも出てきます。この時期は、何よりも休むこと、安心して過ごせることを第一に考え、刺激や干渉をひかえることが大切です。

霜村

 中期はどんな感じですか?

小澤

 中期は、少しずつエネルギーがたまってきて落ち着いてくる時期です。気持ちが外に向いてくる、家事の手伝いをするようになる、部屋の掃除や髪をカットするなど、チェックリストにある10項目のうち半分くらい該当するようなら、中期に入ったと考えていいと思います。中期の期間も非常に個人差があり、早ければ数カ月、長くかかる子は3年くらいここでぐるぐる回っている場合もあります。

 中期になると、親からみれば将来の役には立たないような趣味や遊びに関心をもち始めることがよくあります。しかし、この時期は楽しいことをやってエネルギーをためる時期ですので、あまり口うるさくしてエネルギーを減らさないように気をつけましょう。そうして上手にエネルギーを増やしていくと、次の後期に移っていきます。
霜村
 後期になると、どんな変化が起こりますか??
小澤
 後期は、少し勉強をやり始めたり、進路のことを気にするなど、親としてちょっとホッとする時期です。そして、最終的には“節目”を活かして動き出すわけですが、もっともよく動くのは学校の変わり目。小学校から中学校へ、中学校から高校へ進学するときです。2番目が学年の変わり目。クラスが変わったり、担任が変わったりする時期です。3番目が学期の変わり目。これは不登校の期間が短い場合がほとんどで、5月から休んでいた子が9月から行くといったケースが多いです。
 あとは、行事のあるとき。とくに好きな行事、楽しい行事のときは行きやすいと思います。それとテストのとき。とくに中高生くらいになると、「テストだけはちゃんと受けなきゃ」と思っている子が多いので、義務感から頑張って登校することがよくあります。これらの機会をどう上手に利用するかがひとつのポイントになると思います。

 

子どもの状況を客観的にみる

 

霜村
 今、お子さんがどのあたりにいるのかが見えたら、それをどう活用すればいいですか?
小澤

  お子さんがどのへんにいるのかが見えてくると、「中期の後ろのほうに来ているみたいだから、もうちょっとかな」とか「1年半もたっているのに初期ということは、うるさく言いすぎて、安心して休めていないのかな」とか、いろいろなことがわかってきます。
 ある程度の年齢のお子さんであれば、そのことを本人に話してみてもいいかもしれません。「おなかが痛いとか眠れないとかよく言ってるけど、家にいても安心して過ごせてないのかな?」といったことをさりげなくつぶやいてみるのも、ひとつの方策かもしれません。
 自分の中だけで抱え込んでいると、考えが袋小路におちいりがちです。こういったチェックリストなどを活用して、お子さんの状況を客観的にみることで、もう少し頑張って見守っていこうという気持ちになれるかなと思っています。

霜村
 たとえば、もう2年もたっているのにチェックリストをみると「初期」だったという場合、親御さんはかなり落胆されるのではないかと思います。そういう親御さんに対して、アドバイスをいただけますか?
小澤

 たとえば初期に特徴的な身体症状、おなかが痛い、頭が痛い、熱が出るといった症状は、本当に痛いし熱が出るんですね。このような症状が長く続くときは、医療機関を受診して薬の力で症状を緩和することで、だいぶ楽になる場合があります。おなかや頭が痛かったら、それだけで消耗しますから、エネルギーが頑張る力のほうに回っていかない。医療的な力も借りながら、今の状態を改善してあげるのもひとつの方法です。
 もうひとつは、ずっと初期にとどまっているお子さんは、なかなか不安から抜けられない場合が多いんですね。ですから、その子の抱えている不安材料を取り除いてあげることが重要になります。たとえば、一度、無理やり車に押し込まれて学校に連れて行かれたことがあって、またそういうことがあったらどうしようという不安から、おなかが痛くなるというお子さんがいます。そういう場合は、「もう絶対あんなことしないから」と伝えて安心させてあげる。初期はとにかく安心させることが大切です。
 初期が長いから、その後も長いとは限らないので、まずは安心させること。そして、場合によっては医療的なサポートも利用しながら、次の段階に向けて、お子さんの回復を援助していただけたらと思います。

霜村

 ありがとうございました。
 今日のセミナーで参加者のみなさまの不安が少しでも解消され、「ああ、こういうことだったのか」「こういうかかわり方でよかったんだ」とホッとするものが、ひとつでもあったらいいなと思います。
 学校に行けなくなった子どもたちは、いろいろな不安の連鎖を抱えて、がんじがらめになって動けない場合が多いのですが、いちばん大きい不安の連鎖は、親と子のあいだで増幅されます。
 そんなとき、お母さんお父さんの表情が明るくなったり元気になったりすると、お子さんの不安の鎖がひとつとれて、動きやすい状態に一歩近づきます。今日のお話の中で、お母さんお父さんが元気になれるようなヒントをひとつでも持ち帰って、いつもよりちょっと明るい表情でお子さんに接することができたら、とてもうれしいです。
 小澤先生、海野先生、ありがとうございました(拍手)

 

 

 

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