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不登校―人とかかわることで何が変わるのか Part.2

 2015年6月13日に開催された登進研バックアップセミナー93「不登校―人とかかわることで何が変わるのか」の内容をまとめました。

講 師 海野千細(八王子市教育委員会教育支援課相談担当主任) 齊藤 真沙美
聞き手:齊藤真沙美さん
聞き手 齊藤真沙美(臨床心理士)
テーマ4 人(とくに他人)とかかわることで何が変わるのか?
人とかかわることは、自信や意欲の回復とどうつながるのか?
海野  一般的に人とはかかわったほうがいいといわれますが、ここで大切なのは、どのようにかかわれたのかだと思います。人とかかわって、ああ大丈夫なんだと思えるような体験を積み重ねてもらえたらなあと思います。人とかかわることによって、人っていいもんだなあとか、人って捨てたもんじゃないよなあという体験を重ねていくと、自分のなかでできることをやろうという気持ちが広がってきますから、次の体験への意欲につながっていくのです。

苦しくなったら第三者の力を借りて余裕を取り戻そう

海野  ちょっと話は変わりますが、たとえば、ご近所に不登校のお子さんがいたら、「いろいろ大変だったね」と優しく接してあげることができるんじゃないでしょうか。それは、他人の子どもだからなんですよ。これがわが子だったらどうですか。そんなのん気なことを言っていられないですよね。さらに、カウンセラーの先生が辛抱強く子どもにかかわってくれているのを見たりすると、あのように冷静にかかわれたらいいんだけど、話を聞いているときは少し気持ちがラクになるんだけど、家に帰ったらあれこれ言いたくなってしまうということがあるのではないでしょうか。
 それは、ひとつはわが子だからです。もうひとつは、ずーっとつきあわなければいけないと思うからです。カウンセラーなんて気楽なもので、その場だけつきあえばいいわけですから、いい顔をしていられる。お母さんのようにずーっと日常のなかでつきあうということは、生半可なことではありません。紺屋の白袴ではありませんが、学校の先生やカウンセラーは、人様のお子さんのことは支えることができるんですが、実は自分の子どものことで苦労しているケースがけっこう多い。わが子のことになると思ったことがなかなかできなくて、わかっちゃいるけどやめられないといった対応をしてしまいがちなんです。ですから、親御さんが余裕がないとき、苦しいときには、一時期でもいいので第三者に間に入ってもらって、その間に少し余裕を取り戻す時間をもつことも必要だと思います。
テーマ5 人づきあいやコミュニケーションが苦手な子が、
それを克服するためにはどうしたらいいか?
海野  人づきあいやコミュニケーションが苦手な子という言い方をよくしますが、人づきあいが苦手とか、コミュニケーションが苦手というのは人によって幅があります。それを前提としてお話ししますが、苦手ということのなかには2つあると思います。
 ひとつは、もともと人とのコミュニケーションが難しいケース。それはもって生まれた資質的なもので、自分の気持ちや感情を表現することが苦手な子、あるいは、まわりの人の表情や様子を見て相手が何を言いたいのかを理解したり、推測することが苦手な子もいます。そうした資質や発達のかたよりにかかわる部分ということです。
 もうひとつは、経験的に人とのコミュニケーションがうまくいかなかったことが重なって人とかかわることを避けてしまうケース。人とかかわると、またうまくいかないんじゃないかと怖くなり、なんとなく尻込みするかたちで人とかかわらない道を選んでしまうわけです。その結果、人づきあいやコミュニケーションが苦手になって、さらに人とのつきあい方のスキルが身につかなくなってしまうのです。

苦手なままでいいんだよと思える経験を

海野  とくに後者のケースで、もともと人づきあいが苦手な要素をもっているお子さんは、さらに二次症状として人とのかかわりがうまくいかない経験を重ねやすいので、人とつきあうことがだんだん億劫になりがちです。そういうときには、苦手な部分をなんとかしようとするよりも、二次症状として人とかかわってイヤな体験を重ねてきたところを和らげることがまわりの人としてできることだと思います。つまり、苦手なままでいいんだよという感覚を少しでもその子に味わってもらうことが大切です。
 かつて私がかかわった小学校2年生の男の子は、家ではよくしゃべるんですが、学校ではまったくしゃべらない子でした。学校の前に川があり、その上に架かった橋を渡ると一切しゃべらなくなる。相談室に来たときもまったく無表情で半年間くらい何もしゃべらなかったのですが、あるとき、その子とキャッチボールをしていて、私が投げたボールを捕りそこねて薮の中に入ってしまい、必死に探してやっとボールを見つけたとき、その子が「あった!」と叫んだのです。それを境にその子は相談室でも話すようになり、それと並行して学校でも表情が和らいだり、クラスのなかでも話せるようになっていきました。
 そのとき、その子に何か話させようと思ってかかわっていたら、おそらく、その子は話せなかっただろうと思います。その子の話せない状態を認めたうえで、何が一緒にできるかという感覚を大切にしたほうがいい。つまり、基本的にそのままでいいんだよという部分を大事にするということです。先ほど申し上げた人のよさというものをその子が体験して、守っていた自分を少しずつ開いてもいいんだという気持ちに近づけていくイメージでお考えいただいたらどうかなと思います。
 「治す」ということに非常に敏感な子たちですから、わかろうとする姿勢で接することがポイントになるかと思います。それが相談などで使われる「受容」という概念です。受容というのは、何かを治すんじゃなく、そのまま、まるごと受け入れようとすることです。

興味・関心のあることを通して人間関係が広がっていく

齊藤  先ほどお話があった、もともと対人面の苦手さをもっているお子さんに対しても、いま不登校状態であるとすると、マイナスの経験や心の傷からきている二次症状としての苦手さという側面もあるかと思いますが、まずはそちらを優先して考えていくべきでしょうか。
海野  そうですね。東京都の場合、通級指導学級ということで情緒障害学級が各地に置かれていると思います。そこは少人数でコミュニケーションを中心に指導をしてくれますから、ある場面を想定して、たとえば電車の切符をなくしたときにどうすればいいかなど、ソーシャルスキルを身につけるための学習をしたりします。そうした教育機関を利用することによって、人間関係をつくっていく力をつけるためのトレーニングを受けることができると思います。
齊藤  まずは、その子がその子なりのコミュニケーションをとれるようなスキルを身につけられる環境を整えていくことが必要になるということだと思いますが、海野先生のご経験から、その延長線上として社会との接点などの面で、どんな可能性の広がりが考えられるでしょうか。
海野  お子さんが自分を守らなくても済むようになってくると、その子の興味・関心やエネルギーが広がっていき、そこから人とのつながりができてくるという、ちょっと大きい流れの話をしました。それは当然、身近なところでも起きてきて、たとえば、あそこの家は自由にゲームをやらせてくれるからということで、子どもたちのたまり場になったりすることがありますよね。実際はその家の子どもとかかわるというよりは、ゲームをやることを目的に集まってきているということもありますが、最初はそれでもいいんじゃないかと私は思います。そのうちに、ゲームだけの目的で遊びに来ているんじゃない友だちが見つかればいいと思います。
 ですから、コミュニケーションをうまくとれない部分を直そうとするよりは、そのことを受け入れたなかでつきあえる人との関係を見つけていく。それが結果的には、自分が興味のあるものを共有する人が増えてくるというかたちで人間関係が広がっていくのではないかと思います。あるいは、興味・関心のある領域を通してコミュニケーションが整っていく。場合によっては、通級指導学級のようなトレーニング的な環境のなかでコミュニケーションスキルを身につけていくといった展開が考えられると思います。
齊藤  ありがとうございました。それでは最後のテーマに進みたいと思います。
テーマ6 子どもが人とかかわり、社会とつながっていくために
親にできることは?
海野  親御さんができることは、まずは家庭のなかでやれることですよね。それが広がっていくという意味で言うと、その広がりをつないでいるのがその子のもっている興味・関心のあることだと考えるとわかりやすいかなと思います。子どもが自分を守らなくてもいい状態になってきたときに最初に興味をもつのは、親御さんがいちばんイヤだなと思うことだったりします。たとえば、ゲームもそうだし、まったく社会ともつながらないようなものだったりします。勉強や学校と関係のある変化は、多くの場合、いちばん最後に出てきたりするわけです。

子どもの興味・関心が実現できるように後押しする

海野  そうすると、子どもの興味・関心に寄り添っていくこと自体が親御さんにとっては気の長い遠い道のりのように感じることがあるかもしれません。ただ、そこで子どもを見届けることができると、不思議なことに子どものほうから広がりを求めていくことがあります。親が子を見守っていくうえで支えになることのひとつは、自分が子どもに対してやっていることについて、「ああ、子どものささいな言動には、こういう意味があるんだ」ということが見えてくることです。それが見えてくると、これまでサポートしてきた甲斐があったということになるかと思います。
 親にしてみれば、どうしても学校に行く行かないという問題になりがちですが、そのときに、学校には行けない状態なんだけど「どうもこの子は前に進んでいるみたいだ」と実感できることがあると、少し気持ちがラクになったりします。
 私がかかわった中1から不登校になった女の子は、中2の6月頃からだったと思いますが、お母さんと夜の散歩に出られるようになったんです。そのとき、ちょうど店頭をライトアップしている靴屋さんがあって、ふと見たら夏用の可愛いサンダルが並べてあった。そこで二人でお店に入って、その気に入ったサンダルを買ってもらったそうです。
 その翌週にお母さんが相談に来られたとき、「あの子がサンダルに興味をもつなんてどういうことなんだろう」と考えたら、少し気持ちが温かくなったんですと話してくれました。さらに、人目は気にするし、とにかく外に出られない子がようやく夜の散歩に出られるようになった程度だったけど、履くものに興味をもつということは、自分で外に遊びに出ようと思っているんじゃないかと言っていました。
 「そうかもしれないなあ」と思っているうちに、その子が夏休みの間にいろいろなところにサンダルを履いて出かけるようになり、そのあとスニーカーも買ってもらって、最後にはスポーツシューズまで買って、結果的に登校はできませんでしたが、中3のときに通信制サポート校に入学して、お気に入りのシューズを履いて、自分の足で元気に出かけるようになったということです。
 彼女がサンダルやスニーカーを欲しがったことをお母さんがひとつの変化としてとらえられたことが、そのあとの大きな支えになったのではないかと思いました。お母さんがひとりで頭の中で考えたりするだけでは、ちょっと苦しいかもしれませんが、誰か一緒に考えてくれる人がいると、子どもがいろいろと動き出してきたときに、客観的にその意味が見えてくることがあるかと思います。そのことが、また一歩先に進もうとする力になるような気がします。
 どちらかというと、親御さんがお子さんをひっぱって社会につないでいくイメージよりは、お子さんの気持ちをサポートしながら、興味・関心が出てきたときに、それを実現できるように導いてあげると、お子さんが社会につながる大きな後押しになるかと思います。先ほどお話ししたスイミングスクールに通った女の子やパン教室に通った女の子は、興味・関心についてお母さんと話ができる子だったのです。
 たとえば、お子さんが進路に興味を示し、その高校のパンフレットや資料が欲しいと言ってきたときは、ひとつの大きなチャンスです。本人がそうした希望をもっているとしたら、それを実現できるように手伝ってあげることは、子どもが求めていることですから自然な流れだと思いますし、子どももスムーズに受け入れやすいと思います。

相談機関に行くときは、子どもにオープンに

齊藤  家族以外の他人とのかかわりにつないでいく話がたびたび出ていますが、たとえば、スクールカウンセラーや相談機関のカウンセラー、メンタルフレンドなどに会うことが他人とのかかわりにつながると考える親御さんも多いと思います。しかし、本人がカウンセラーに会えるほど機が熟していない場合、親御さんだけが相談に行くことについてはどうなんでしょうか。また、親御さんが相談に行くことによって、お子さんも相談に行くことにつながる可能性についてお聞きしたいと思います。
海野  親御さん自身の気持ちがアップアップしてきて、どうしたらいいんだろうと困ったときに、話を聞いてもらう場として相談機関を利用することはとても大事なことだと思います。
 ただし、ひとつコツがあって、このセミナーの冒頭で総合司会が「ここに来ることをお子さんに伝えましたか?」という質問をしたと思いますが、実は親御さんがお子さんに対してどういうことをしようとしているかについては、お子さんから見えていたほうがいいんです。
 だから、「今度、こういうセミナーがあるからお父さんと一緒に行ってくるよ」とか「相談しに行ってくるよ」というように、基本的にオープンにしておいたほうがいい。なぜなら、あとで本人に一緒に相談に行ってみようとか、はたらきかけなければいけなくなったときに言い出せなくなってしまうことがあるからです。また、何かお母さんが見えない感じがする、何か隠している感じがするということで、子どもが警戒してしまうこともあるので、まずはオープンにしたほうがいいです。
 そうすると、「相談に行くな」と言う子がいます。自分のダメなところを他人に言いつけている感じがしてイヤだというのです。そんなときは、「あなたのことを言いつけに行っているわけではないんだよ。お母さんがどういうふうにしたらいいのかを一緒に考えてもらうために行ってるんだよ」と説明すると、ほとんどの子どもは渋々「ふーん」と言います。それでも「行ってはダメ」と言う場合は、「行かないとお母さんもだんだん煮詰まってきて苦しくなってくるから行かせて」と言ってもいい。ただし、そのときも「行ってくるよ」と伝えてから出てくるのがポイントです。
 もうひとつ、お母さんが相談に通うようになったら子どもにとってイヤなお母さんになった、となると、子どもはお母さんが相談に行くことを毛嫌いするようになります。逆に、相談に行くようになったらお母さんが自分のことをわかってくれるようになったり、自分の考えや気持ちを大事にしてくれるようになったと思えると、相談に行くことに対してマイナスイメージがどんどん薄らいでいきます。そうなると、逆に子どものほうから「今日は相談に行く日じゃなかった?」と言ってきたりします。
 そういう話をカウンセラーに話すと、「じゃあ今度、一緒に来るように誘ってみたらどうですか?」と言われて、「今度、一緒においでと言ってたよ」と子どもに伝えると、「じゃあ、行ってみようかな」という展開になることもあります。
 ポイントは、お母さんが援助を求めていることをオープンにしておくことと、それはあなたを学校に行かせるために行っているのではなく、お母さんが家の中でどのようにあなたとかかわったらいいのかを勉強するために行っているんだということを説明することです。
齊藤  つまり、帰ってくるとお母さんはニコニコしているし、相談機関というところは、「いいところらしいぞ」とお子さんに間接的に思ってもらうことがポイントということでしょうか。すると、お子さんも相談機関につながっていくことがあるということですね。ところで、思春期以降のお子さんの場合、相談機関からアドバイスを受けて親御さんの対応が変わったりすると敏感に反応することもあるのでしょうか。
海野  それはありますね。本人にプラスに感じるような親御さんの変化があったとしても、どうしてそうなったのかがわからないと不安になるようです。たとえば、今日のセミナーでこういうことを聞いてきたから試してみようと思ったときに、ちょっとやってみるからねとお子さんに伝えてからやれば、子どもは「なにバカなことやってんだ?」と思うかもしれませんが、理由や経緯がわかっているので安心できる。ところが、親御さんが急にいい人になってしまって、「なんだか人が違っちゃったみたいだ」と感じると、何か下心があるんじゃないかと疑ってかかりますから、うまくいかないことがままあるかと思います。

親に対して怒ることもコミュニケーションのトレーニング

齊藤  そういう意味でも、そこがクリアになっているほうが、お子さんにとっても安心して受け入れられるということなんでしょうね。
 ご家庭のなかでお子さんが元気になっていけるような環境を整えていくなかで、本人が関心のあるもの、好きなものに向かっていこうとするときには、それが親御さんにとって好ましいとは思えないものであっても、それをサポートすることがポイントということでしょうか。
海野  親という立場だと難しい問題もありますよね。とくに興味・関心をひかれるものに関してお金がかかってくるということになると、果たして子どもの要求をのんでもいいものかと不安になることもあるでしょう。先ほど「受容」という概念は、その子をそのまままるごと受け入れることだと説明しましたが、日常生活のなかでそれをやろうとすると親御さんがパンクしやすい状況になり、交換条件をつけたり、駆け引きで対応してしまいがちです。たとえば、新しいゲームが発売されて、買ってよと言われたときなど、「夏休みに入る前の7月から学校に行くなら買ってあげてもいい」といった対応になりがちです。大切なのは、ゲームを買ってあげるかどうかは別として、子どもの要求は要求として聞いてあげることです。
 先ほどお話しした高校のパンフレットや資料を取り寄せるということに関しても、子どもが言い出す前に親御さんが事前に取り寄せておいて、机の上にそっと上げておくというやり方もあるかと思います。すると、他人に操作されることことでイヤな体験をしている子が多いので、おまえらの思いどおりにはならないぞ、とすごく反発したりします。
 でも、そこで子どもが親に対して怒れるというのは、親子関係がいい証拠なんです。そこで失敗したとしても、あとで「ごめん」とフォローができれば、子どものほうもまた親子関係の距離がより近く感じられると思いますので、そうしたアプローチについては、うまくいってもいかなくても、別に大きな違いはありません。いろいろ試してみてダメだったら、「ごめんね」と謝って、また別のやり方を考えればいい。それぞれの親子関係のなかで、必要なことが起こると考えていただければいいかと思います。
齊藤  親の対応に対して子どもが怒りを表出できるということも、そこで家族とのやり取りが生まれるということも、子どもが自分の興味のあることに対して気持ちが出てきたからこそ起こってくることで、それも人づきあいのトレーニングになるわけですよね。
海野  家の中でも外でも人に対して怒ったことがないという子もいます。怒りの出し方は学んでいく必要がありますが、そんな子が親御さんに対して自分の気持ちをガーッと出せるということは、そのあと家族以外の集団生活のなかで出しても大丈夫なんだという体験につながっていくと思いますので、その子にとって貴重なものだと思います。怒ればそれだけ精神衛生がよくなっているんだと思ってもいいと思います。
齊藤  そのときどきでお子さんが出してくる課題は、それに親御さんがきちんと対応することで、それもお子さんにとってはコミュニケーションのやりとりの機会だと思っていただいてよいのではないでしょうか。
海野  おっしゃるとおりで、うまくいくことだけがいいことじゃないんだということです。うまくいかないことも意義のあることなんだと思ったらどうかなと思います。
齊藤  ありがとうございました。(拍手)

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