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不登校なんでも質問箱―ゲーム・ネット依存から進路選択まで
2015年9月6日に開催された登進研バックアップセミナー94の第2部の内容をまとめた抄録です。
Q&Aの回答者は、以下の方々です。
回答者 小澤美代子(元千葉大学大学院教育学研究科教授
・さくら教育研究所所長)
霜村 麦 (臨床心理士)
齊藤真沙美(東京女子体育大学・東京女子体育短期大学講師)
荒井 裕司(登進研代表)
司 会 小栗 貴弘(作新学院大学女子短期大学部准教授)
※取り上げる質問は、事前に参加者のみなさまから寄せられたものです。
※質問内容については、プライバシー保護のため、地域名・学校名など個人が特定されるような情報は一部削除したり、内容等を一部変更している場合があります。
Q1 家で勉強するきっかけをつくるには?
中学3年の女子。不登校になって約1年半になります。いじめもなく、部活(合唱部)もやりたいし、友だちとも話したいと本人が言うのに、行事がないと学校に行けません。
家では勉強はせず、テレビ、YouTube、スマホばかり見ています。勉強するきっかけづくりとしては、どのように接したらよいのでしょうか。A1 行きたい高校のイメージが見えてくると目標も定まる(回答者:齊藤真沙美)
この女の子は合唱部に入っているそうですから、これをひとつのキーワードにして、合唱や音楽関係の部活動ができそうな高校、さらには現在のようにあまり登校できない状況でも入学できそうな高校に関する情報を提供してあげるのもひとつの対応かなと思います。
行事のときは登校しているとのことなので、行事を通じて友だちとの接点もあるかもしれません。その友だちが高校進学に向けて動き出すことは、本人にとっていい意味での登校刺激になる場合があります。たとえば、「◯◯ちゃんは△△高校に行くらしいよ」といった話が出てくれば、進路を考えるきっかけになります。
そうしたやりとりのなかで、どの程度の高校に行きたいと思っていて、今のような登校状況でも入れて、合唱も続けられそうな高校のイメージが見えてくると、明確な目標が定まってきますので、それに合わせてどんな学習が必要かを検討していくとよいでしょう。小論文や面接だけで入れる高校もありますので、その場合は小論文を書く練習をして、先生に添削してもらうとか、面接の練習をしてもらうとか…。
学力は問わず、ゆっくりしたペースで授業を進めてくれる高校を目標にするのであれば、中学校の復習も含めて、高校に入ってからでも必要な学力は取り戻せると考えたらいかがでしょうか。今すぐ中学校3年生の学力を取り戻そうとするよりは、進路に合わせて具体的にできそうなところから学習を進めていくような働きかけをするほうが現実的かと思います。
Q2 優等生といわれた子が、突然、体調不良で不登校に
ストレスに対する耐性、嫌なことから逃げない気持ちを育むにはどうすればいいですか。仮に登校刺激が功を奏して登校できたとしても、今後、生きていくうえで何かストレスや挫折に見舞われたとき、再び逃げてしまうのではないかと心配です。
うちの娘は小6で、学校ではリーダーシップをとり、学習面でもまったく心配のない、いわゆる優等生といわれている子でした。ところが、5年生の2月から体調不良を訴えはじめ、6年の5月から完全に不登校になりました。友人も多く、いじめもありません。
A2 自分のネガティブな感情を表現できるよう手助けを(回答者:霜村 麦)
不登校には、このご質問のように優等生タイプのお子さんが息切れを起こしてしまうケースが多いんです。「もともとどういうお子さんでしたか?」と聞くと、小さい頃から手がかからず、親御さんの顔色をよく見て、大人の言うこともよく聞き、自己主張もあまりしないで、友だちとも仲良くやれて、勉強もよくできました、というお子さんが非常に多いです。
結論から言うと、ストレスに対する耐性、挫折などを乗り越える力には、「我慢する力」と「頑張る力」の2つがありますが、小さい頃に親御さんとの関係のなかで身につけておくべきなのは「我慢する力」です。嫌なこと、悲しいこと、悔しいことがあったときに「ワーッ」と泣いて表現していたものを、泣かずに我慢して抑えられるようになるのが第一歩で、次の段階として、自分で達成感や目標をもって「頑張る力」を育むよう努力することになります。
「我慢する力」は、他者評価によって育まれるものです。たとえば、親御さんが「よく我慢したね」とほめてあげたり、我慢したことを喜んだり、ギュッと抱きしめたり、そういう他者からのかかわりによって我慢する力が育っていきます。一方、「頑張る力」は、他者からの働きかけというよりは、自分で何かをやってみて、うまくいった、嬉しい、楽しい、もっと頑張るぞという気持ちが芽生えるようなメカニズムが生まれたときに伸びていくものです。
以上のことを踏まえて申し上げると、ご質問のお子さんは普段あまり感情表現をせず、たとえば自分が不快な思いをしていても、それは口にせず、我慢して人に合わせる、大人に合わせる、集団に合わせる、ということが多いのかなと思います。まして小学校5〜6年生の女子となれば人間関係も複雑化し、嫌な思いをすることも増えてきます。そのため学校が不快な場になっている可能性がありますが、そうした思いを正直に表現していないのかもしれません。自分の不快な思いを友人や家族に表現して受けとめてもらうことによって「我慢する力」を育むというプロセスを、優等生だったために、逆にスルーしてきてしまったような感じがします。
優等生のお子さんは一時期、自分の思いを別のかたちで表現する段階に戻ることがあります。つまり、これまで出せなかった気持ちを少し出せるようになってくると、赤ちゃん返りのようになって、感情をぶつけてきたり、お母さんに反抗したり、壁をぶち抜いたりといった行動をとるのです。大半は一時的な現象でいずれ元の状態に戻りますが、こうした行動が成長の過程であらわれるので、おそらくこのお子さんもその入口にいるのではないかと思います。
したがって、これから一時期、ご両親にぶつけてくるストレスや不快な感情を受け止めてあげる必要がありますが、そのとき、お子さんが自分の気持ちを表現しやすいように、その子が抱えていると思われる感情を、こちらが言葉にして投げかけてあげることが大切です。
たとえば、「今、何か腹が立っているのかな?」「不安なんだねー」など、出来事ではなく、その子の「感情」に注目して、「今、どんな気持ちなのかな?」「浮かない顔をしているね」といった気持ちを引き出すような言葉かけをしてあげる。そうするとワーッと感情が出てきて、一時期ちょっと悪い子になる可能性もありますが、感情や気持ちを表現できるようになることは、階段を登りかけているときですので、あまり心配なさらないでください。力のあるお子さんなので、きっと乗り越えて、また学校に戻っていくと思います。
Q3 暴力で登校させようとする父親への対応は?
夫が、子どもの不登校の責任は私(母親)にあると言って追及してきます。不登校になりかけの状態なのですが、暴力で登校させようとする夫に対して、どのように見守る姿勢を共有していったらよいのでしょう。
A3 暴力以外のかかわり方を知らないのかも…(回答者:小栗貴弘)
要するに、このお父さんは自信がないのだと思います。だからこそ、お子さんの登校しぶりや学校に行けなくなったことについて、自分のかかわり方が悪かったから、とは認めたくない。今までかかわってこなかったお父さんほど子どもとのかかわり方に自信がもてないでしょうから、いざ問題が起きると、自分のせいではなく、お母さんのせいだというふうになっていくケースが多いのではないかと思います。
暴力で登校させようとするのは、下手をすると“事件”にもなりかねない対応ですが、そもそもお父さんがどうしてそこまで強引な方法で登校させようとするのかを考えると、子どもとのかかわり方について、ほかに選択肢がないのかもしれません。お父さん自身がそうした家庭で育ったとか、ほかの方法で子どもとかかわってうまくいった経験がないとか…。そうなると暴力以外の方法をなかなか思いつかないわけです。
こういうお父さんに対して、どうしたらいいかというと、たとえば、学校で暴力的な子どもに対して「暴力はやめましょう」「暴力はいけません」という働きかけをしてもあまり意味がないんですね。そうではなく、暴力以外のやり方で友だちとかかわる方法があることを教えていかなければならない。
このお父さんに対しても同じで、今、暴力以外の方法で子どもとかかわっている部分を見つけて、そこを広げていくしかないだろうと思います。暴力以外の方法でかかわったという経験を少しずつ増やしていって、それが子どもによい影響を与えたとお父さん自身が感じることができれば、お父さんも変わっていくだろうと思います。
ただし、暴力がかかわってくると家庭内だけで問題を扱うのは危険な部分もあるので、役所の相談窓口や教育相談センターなどに相談されたほうがいいかもしれません。いちばんいいのは、お父さんを相談機関に連れていくことだと思いますが、お父さんはそういう場に出てきてくれないケースが多いんです。ですから、お母さんが相談員の方と、どうやってお父さんを相談の場に連れ出すかというところから相談を始めて、お父さんの子どもへのかかわり方についても一緒に考えていただければ、選択肢が広がっていくと思います。
Q4 自信を失っている子どもへの接し方は?
「勉強はもうやりたくない」「自分にはなんの取り柄もない」と自信を失っている子どもにどう接して声かけすれば、気持ちが前向きになっていくのでしょうか。
A4 まずは好きなことに取り組んで自信をつける(回答者:齊藤真沙美)
これまでの相談経験のなかで、不登校の子どもの多くが自信を失っていることを実感していますが、このお子さんはとくに学習面で「自分はできないんだ」という思いを強くもっているように感じます。そういう子にいきなり勉強に自信をもたせようというのは、ちょっとハードルが高いかもしれません。それよりも、お子さんが興味をもっていることや趣味などをきっかけにして、好きなこと、好きなジャンルを伸ばしていけるような道筋が考えられないでしょうか。
そこで少しでも充実感や自信がもてたり、自分のほうが詳しくて人に教えてあげることができたり、ほめてもらったりすると、それをきっかけに苦手意識の少ない教科の学習に取り組んでいけるかもしれません。さらに自信がついてくると、進路やなりたい職業のイメージを思い描いたりもできるようになるので、そうしたかかわりをしてみたらどうでしょうか。
私がこれまでかかわってきた子どもたちが、学校に復帰する前の段階で取り組んだもののうち学習のイメージに近いものとしては、英検、漢検、数検などの検定を受けたり、アロマテラピーの資格を取った女の子もいました。料理教室に通った子、楽器の演奏が好きでアマチュアのオーケストラに大人と一緒に参加して自信をつけ、学校に復帰していったケースもあります。
学習に限らず、お子さんの得意なことや楽しめることを見つけて、それに没頭できる環境をサポートしてあげることが大切ではないかと思います。
Q5 カウンセリングに行きたがらない女の子
中1の娘がカウンセリングに行きたがらないのですが、有効な声かけはありますか?
学校に行けない理由が親にもわからないので、彼女に自分の気持ちを吐き出せる場をつくってあげたいのですが。
A5 自分の感情を言葉で表現することの重要性(回答者:霜村 麦)
不登校の子どもが、すすんでカウンセリングに行きたいというケースはほとんどありません。まずは親御さんがご相談にみえて、スクールカウンセラーなどから「お子さんをぜひ連れてきてください」と言われ、お母さんと一緒にやってくるということが多いですね。たいていのお子さんは、しぶしぶカウンセリングにやってきます。
そこからはカウンセラーの力量しだいですが、そのお子さんがどんな経験をしてきて、どんな思いをしながらここまで来たのか、そして、その子にとって不登校がどういうサインなのかを解釈しながら関係をつくっていく必要があります。ただし、お子さんとしては、「私が悪いわけではないのに、どうして私がカウンセリングに行かなければいけないの?」「どうして私だけが病人扱いをされなければいけないの?」といった気持ちが強いと思います。
そこでカウンセリング以前の対応として、まずはご家庭でのお子さんに対するかかわり方で、やっていただきたいことがあります。私がよく親御さんにお願いするのは、自分の気持ちを表現することが苦手なお子さんが多いので、できるだけその子の気持ちや感情を引き出すような言葉かけをしてくださいということです。なぜ気持ちを表現できないかというと、気持ちを表現する言葉をもっていないからです。
たとえば、「不安」に対する表現ひとつでも、「お腹のなかがモヤモヤする、胸のあたりが苦しくなるような気持ちが不安なんだよ。すごく不安なんだね」といった声かけをするなかで、その子に「不安」のイメージを覚えてもらい、「不安」という言葉で気持ちを表現できるように導いていくわけです。気持ちを上手に表現できないお子さんは、そうしたプロセスを経ていないことがよくあります。
そういうお子さんは、自分の気持ちを出すことは我慢して抑えて、まわりの子どもたちに合わせることを優先するので、先生や友だちの評価はとても高いと思いますが、反面、自分の気持ちを犠牲にしているわけです。自分の気持ちを表現できるということは、とても重要です。表現することで、その感情を他人にしっかり受けとめてもらうとストレスは自ずと下がっていく。そういう心理的なメカニズムがあるわけです。
子どもの場合はとくに、誰かに「そうだよね。それはつらかったよね。傷ついたよね。腹が立ったでしょう」と言われるとストレスが下がりますので、そうしたかかわりを丁寧に行っていく必要があります。学校でも家庭でも同じような対応が必要になりますが、まずは親御さんにお子さんの気持ちを読み取ってあげてくださいとお願いします。
顔に出ている気持ちとお腹のなかにある気持ちが一致していないお子さんもたくさんいます。できれば、お腹のなかにある気持ちを想像して、声をかけてあげることが大切です。わからないときは、「なんか浮かない顔してるけど、どうしたの?」と聞くことから始めます。そうするとポツリポツリと気持ちが出てくるようになってきます。
感情というものは、いったん出はじめるとワーッと出てきます。そうなると、親御さんはびっくりして、「うちの子、最近とても怒りっぽくなって」とか「ちょっとしたことで泣くようになって」などとおっしゃいます。親として、お子さんが苦しんでいる様子を見るのはつらいかもしれませんが、成長の段階としてとても重要なところです。つまり、少しずつ気持ちを出せるようになって、それを誰かに受けとめてもらうことを学んでいる最中ですので、そのときはなるべくお子さんのそばで背中をさすりながらサポーティブに接していただくことが必要です。
何があったのか、どうしたのかは、本人もわかっていない場合があります。ただ、お腹のなかがモヤモヤするといった気持ちをうまく言葉に乗せて外に出せるようになってくると、だんだんその理由も自覚できるようになってくると思いますので、まずは気持ちを引き出して、それを受けとめてあげる。そして、なるべく穏やかに接してあげることが重要な時期なのかなと思います。
Q6 小6女子、中学校や将来に希望をもたせるには?
小6の女の子で不登校3年目です。小澤先生が提示された状態像チェックリストでいえば、初期と中期をくり返している状態です。週1回は放課後に登校し、友人とも遊びますが、学校や行事の話題はスルーです。中学校生活を含む将来への希望をまったくもっていないようで、昼夜逆転も治りません。中学校や近い将来に関心をもたせるための工夫や話し方、話題についてアドバイスをいただければと思います。
A6 心のエネルギーをためることを優先させる(回答者:小澤美代子)
小学校6年生で不登校3年目ということですが、3年目で初期と中期をくり返しているというのは、ペース的にはちょっとゆっくりなのかなと思います。初期は不安が大きく、高い緊張状態が続いている段階です。中期は不安や緊張は一段落したけれど、そこからあまり状態が変化しない段階です。一般的には中期から初期に逆戻りすることは少ないのですが、その理由を想像すると、中期から初期に戻らざるを得ないような、何かしらの作用やプレッシャーが働いているのかもしれません。
とはいえ日常生活をみてみると、週1回は放課後登校をしているわけで、放課後とはいえ年間30〜40回は学校に行っていることになります。これは学校と本人がかなり結びついていることの表れのひとつです。それなのに、ここから先に進まないのが不思議な感じがしますが、プラスの方向に進んでいるのは確かです。さらに、友人と遊ぶこともできる。友人と遊ぶことは楽しいことも多いわけで、それよりずっとハードルの高い学校や学校行事の話題をスルーするのは当然ともいえます。ここまではOKという状態です。
現在、小学校6年生ですから、あと数カ月もすれば中学生になるわけです。ところが、中学校生活には何の希望ももっていないようで…とありますが、それは本心ではないかもしれません。たとえば、高校進学を目前にしている不登校の子どもは、「高校に行きたい」と言わないケースがけっこうあります。言ったら最後、受験勉強をさせられたり、中学校に登校しないと高校にも行けないとプレッシャーをかけられるからです。だから、内心はすごく高校に行きたいけれど、それを断言できないのでボカし続けることが多いのです。
このお子さんも「中学校に行きたい」と言えば、もう少し登校する日を増やしなさいとか、4〜6年生の復習をして中学校で勉強する準備をしなさいと言われると困るので、中学校について語らないのかもしれません。本当に希望がないのとは、ちょっと違うような気がします。
昼夜逆転についてもご心配のようですが、昼夜逆転が直ったら登校できる、ということはありません。逆にいえば、昼夜逆転だから不登校になるということもありません。学校に行かないのであれば朝起きる必要はないわけですから、起きない。それだけのことです。本人が学校に行こうと思えば、あっという間に直ります。
中学校や近い将来に関心をもたせるための工夫や話し方、話題についてアドバイスを、ということですが、これは今日のテーマ『誰のための登校刺激なのか?』と関係してくる問題です。親の下心というか目論見的な対応というものは、たいてい子どもに見透かされます。「中学校は勉強だけじゃなくて、部活や楽しい行事もあるみたいよ」といった紋切り型の話題を振っても、「ああ、そうやって私を中学校に行かせようとしているんだな」と思われるが関の山です。
では、どうすればいいのかですが、そうした中学校や近い将来の話題で気を引くよりも、まずは初期と中期の往復をくり返してしまう要因を取り除くこと、しばらくは不安要素を与えずに心のエネルギーをためることを優先するほうが大事ではないかと思います。
Q7 8年間不登校の17歳、通信制高校に行きたいが…
小学校3年から学校に行けなくなり、8年経ちました。現在、17歳の男子です。最近になって通信制高校に行きたいと言い出しました。今まで勉強はまったくやっていません。このような状態で高校に行けるものでしょうか。
A7 学力面の問題は心配ありません(回答者:荒井裕司)
私は、9年間ひきこもっていた若者とかかわったことがあります。その間、彼は家族以外の人とほとんど接することはありませんでしたが、精神的にはしっかり成長していました。インターネットなどを使ってさまざまな情報に接し、社会と接点をもっていたからです。
この息子さんも、おそらくインターネットで自分に合う高校の情報を収集し、通信制高校に行きたいと言い出したのではないでしょうか。もしそうだとするなら、とてもすばらしい転機を自分で作り出したといえるのではないでしょうか。
親御さんのご心配は、勉強をまったくしていないのに通信制高校に行けるのかということですが、もちろん大丈夫です。8年間不登校が続いていたわけですから、いきなり毎日登校するのは難しいと思いますが、その点、通信制高校なら自分の状態に合わせて行けるときに行くというかたちでもなんの問題もありません。
ひと口に通信制高校といってもいろいろありますが、たとえば小学校の勉強からやり直す必要があれば、そこまでさかのぼって個別指導をしてくれる学校もたくさんあります。そうして基礎から学び直し学力がついていく喜びや、友だちとふれあうことの楽しさを味わうことにより、自分の好きな領域や得意な分野を伸ばそうとする意欲が芽生えてきます。さらに次の段階として、将来やりたいことを見つける作業についてもフォローしてくれる学校が少なくありません。
その子が不登校状態から脱却し、どのように自立して社会参加をしていくかは、とても重要な問題です。そのためにも、どのような学校を選択し、そこでどのような支援を受けられるのかが大きなポイントになってきます。近年、通信制高校は、不登校の子どもたちの再チャレンジの場として注目されています。今は通学型などさまざまなタイプの通信制高校がありますので、学校の情報を収集したり、学校見学や説明会などもできれば息子さんと一緒に行って、息子さんにとってよりよい学校を検討していただければと思います。
Q8 父親への嫌悪感が強い子へのアプローチは?
父親に対する嫌悪感が強い子に対して、父親からどのような声かけをすればよいでしょうか。学校に行く行かないは自分で決めるので、黙っていてほしいと言われていますが、そのままほうっておいてよいのでしょうか。どのようにアプローチすべきでしょうか。
A8 一緒に出かけるだけでも大きな支援になる(回答者:小栗貴弘)
不登校のご相談を受けていると、お父さんに嫌悪感をもっているお子さんの話はよく出てきます。夜中ずっと起きていて、お父さんが仕事に行く時間になると寝るという子もいます。
なぜ父親が嫌われがちなのかというと、不登校の子どもに共感的にかかわれるのは普段の様子をよく知っている母親であることが多く、一方、父親は、当初、強引に登校させようとするなど強めの刺激を与えてしまうことが多いからではないかと思います。そうなると、子どもは父親を避けるようになり、父親は直接子どもにかかわれない状況が生まれてしまいがちです。かかわれないことによって支援もできず、ますます子どもと遠ざかることになってしまいます。
では、どのように声かけをしていくか、どのように関係を築いていくか、が問題になってきます。関係が築けていないと支援することもできないので、とにかくかかわり続けることが大切です。それが、その後の支援につながっていくわけですから。
それから、お子さんがほうっておいてほしいと言ったとき、本当にほうっておいてよいかというと、それはNOです。ほうっておくことと見守ることは、まったく違います。ほうっておくということは無関心ということですから、それでは子どもは成長していきません。お子さんを受容するということは、「気にしながら待つ」ということだろうと思います。お子さんが何かアクションを起こしたり、気持ちを表現したときに、いつでもスタートが切れるように見守りながら、心の準備をしておくということです。
「どのようにアプローチすべきか」というご質問ですので、登校刺激という点でいえば、お子さんとのかかわりがどの程度できているかにもよりますが、一緒に出かけることができる、食事に行くことができるということも十分、登校刺激になると思います。たとえば、その子が再登校しようとしたときに、その子の生活範囲がすごく狭くなっていると、学校復帰についても選択肢が狭まってしまいますから、その子がお母さんやお父さんと一緒に食事に行ける、買い物に行けるというだけでも、その子の将来にとって大きな支援になるはずです。このように、生活範囲を広く保つという意味で、一緒に出かけることも後方支援や登校刺激につながっていくという見方をしていただくと、かかわり方のアプローチの手がかりになるのかなと思います。
Q9 両親の不仲と不登校は関係があるの?
よく両親の不仲が不登校の原因になると聞きますが、なぜでしょう。
A9 原因はひとつではなく、いろいろな要因が重なって起こる(回答者:齊藤真沙美)
不登校の原因やきっかけ、理由については、親御さんも悩むことがあるかと思います。また、親と子で原因についての思いや考えが食い違うことも多いと思います。ほとんどの場合、不登校になった当初はその原因ははっきりしません。回復して再登校の段階に至っても、本当の原因というものはよくわからない場合がほとんどです。原因がひとつではないことも多く、いろいろな要因が重なって起こると考えていただければいいかなと思います。
ご両親の不仲についてですが、お子さんの不登校への対応をめぐって、ご両親の足並みが揃わないとか、互いに不満をもつといったことがよく起こります。ただ、このご質問では、それ以前からご夫婦の間でなんらかの問題があったということだと思います。
現在、私は公立の相談機関に勤めていますが、この10年ほどの間に、ご夫婦間の問題でDV(ドメスティックバイオレンス)や離婚がらみのケースを扱うことがとても増えており、不登校における家庭要因の部分を見ていくことの重要性、深刻さを痛感しています。
ただ、ご両親が不仲だとしても、学校に嫌なことがまったくなければ、たいていのお子さんは学校に行っていると思います。とはいえ、学校に不快なことがひとつもないということは、おそらくないでしょう。集団生活の面でも学習面でも人間関係でも、たいてい何かしら自分にとって不快な事態が起こり、それにどう対処するかという力を身につけていくわけです。いじわるなクラスメートがいるとか、大嫌いな先輩や先生がいるとか、苦手な教科があるとか、小さいことをあげれば、嫌だなあと思うことはたくさんあるでしょう。なぜ、そうした嫌なことを乗り越えていけるかというと、それ以上に楽しいこと、不快な思いを発散・解消できることがあるからです。それに支えられて、なんとかやっていけるわけです。
一方、家庭内に両親の不仲、嫁姑問題、家族の病気など、なんらかの緊迫した状況があると、ご両親は不安や不満、緊張を抱えて、非常にストレスフルな状況のなかで生活することになります。お子さんは、そういうご両親を毎日見ているわけですから、当然、お子さんのほうも不安や緊張、嫌な気持ちなどを抱えることになります。
このような場合、先ほど霜村先生からお話があったように、子どもは自分の嫌な感情を外に出さないという適応の仕方を学んでいくことがあります。あるいは、自分がお父さんとお母さんをつなぐ役割をしようと思って、一生懸命、気をつかってニコニコしたり…。その時点で、子どもはかなり無理をしている状態ですから、そこに何かちょっと不快なことが加わると、それ以上は持ちこたえられない、という状況になることは当然ありうると思います。
ですから、ご両親の不仲だけが原因で不登校になるわけではありませんが、お子さんがその成長過程で、自分の不快な感情を表現したりコントロールする力を身につけられなかった場合、学校での不快感が強まっていくなかで、学校に行くエネルギーが切れてしまい登校できなくなるということが起きてくるのだろうと思います。
できれば、お近くの教育相談室などにご相談されることをおすすめします。私たち相談員は、お母さんに対して「お父さんとなんとか仲良くなってください」といった説得をすることは決してありません。今の環境のなかで何ができるのか、親御さん自身が不安や不満、緊張を抱えながら、そうした気持ちとつきあいながら、お子さんに対してどんなことができるのか、それを一緒に探っていくことはできると思いますので、ぜひ地域の相談機関などを訪れてみてください。
Q10 白か黒かの完璧思考から抜け出せない子
わが子は、まわりが「大丈夫だよ。完璧でなくてもいいよ」と言っても、「失敗は嫌なんだ。白か黒か完璧にしたいんだ」という思考から抜け出せません。親としてはどう言ってあげたら、その思考から抜け出せるのでしょうか。
A10 自分のダメな部分を笑いに変えられる身近なモデルが必要(回答者:霜村 麦)
白か黒かはっきりさせたいという完璧思考の考え方を、小さい頃からしているお子さんなのか、不登校になってからそうした思考が強まったのかによって、対応は若干異なります。
もともとこだわりの強い考え方をもっているお子さんの場合、この傾向性から抜け出すことはなかなか難しいので、専門的なかかわりのなかでそうした思考のクセを改善していくことが必要です。さまざまな実体験を積んで、「まあいいか」というアバウトな感覚を身につけていくことがポイントになります。
一方、不登校になってからそうした思考が強まっている場合は、情緒の不安定さ(不安の強さ)が、0か100かという考え方に拍車をかけている状態なので、まずその不安を取り除くことが必要です。ただし、不安の原因がわかっている場合は対応できますが、不安がどこからきているのかがつかめず、働きかけ方がわからない場合もあります。
そういう場合は、たとえば、その子にとってもっとも不安な状態を100とした場合、学校に行ったときは100に近いと思いますが、人間は「慣れ」とかパターンをつかむことによって不安の数値が下がるということがわかっています。ですから、学校に行った当初は100でも、そこに長く居続けるとだんだん不安が薄まり、80くらいになって帰ってくるということがあります。
そのときに、「あっ、少し不安が下がったね。ちょっと大丈夫になった感じがするね」と、その感覚を本人に自覚させることが大切です。そうすると、次に登校するときは不安が80くらいからスタートできる感じになります。ところが、学校から100の不安のまま帰ってきた場合は、次もまた100からスタートすることになるので、そのへんの対応が親御さんには少し難しいかなと思います。このようなメカニズムが少しずつわかってきていますので、その知識も含めて、私たちカウンセラーが間に入ってきめ細かく支援していく方法もあります。
もともと不安やこだわりを抱えやすいお子さんの場合は、医療機関に協力してもらって不安を少なくするお薬を飲みながら、学校に行って不安をどのくらい感じるのかを体験して、「ああ、大丈夫だった。慣れてきて不安が下がった」という実体験を重ねて、思考の固さを取り除いていくこともできると思います。
最後に、親御さんがどんな言葉かけをしていくかですが、まず、親御さん自身が自分の弱さをどの程度、お子さんの前で示しているかが非常に大きなポイントになります。たとえば、整理整頓ができないとか、勉強が得意じゃないとか、料理が下手だとか、人に知られたら恥ずかしいような苦手なことをお家のなかで笑って話して、「こんなにできないのもひどいよね〜」などと言えるかどうか。そういう部分が必要かなと思います。
自分の弱い部分やダメな部分を受け入れて、それを笑い話にできる身近なモデルがいることが認知の固さをもったお子さんにはとても重要で、弱さに対して寛容で柔軟なトレーニングをしてくれる大人としても重要です。「私もいろいろできないことが多いんだけど、大人になったよ」といったお話をご家庭でしていただけたらなと思います。
Q11 担任としてどうかかわればよいか?
エネルギーをうまくためられるかどうかが大切という話がありましたが、不登校の中期が長引いている場合の対応について詳しく教えてください。
不登校の児童を担任することが多いのですが、親御さんとの関係は築けても、本人と接触し関係を築くところまでなかなか至りません。私の在りようがそうさせているのだろうと自己評価しています。自分らしく寄り添っていくしかないと思うのですが、学校に戻すことができないことが多く、自分自身のエネルギーも下がってしまいます。
A11 先生の温かい気持ちを伝えることに意味がある(回答者:小澤美代子)
エネルギーをどうためるかですが、自動車にたとえるとガソリンタンクに一滴ずつでも注入していけば、やがてエンジンを動かすことができます。そのガソリンに匹敵するのが、子どもの好きなこと、やって楽しいことなどです。最大のガソリンは親御さんの愛情ですが、愛情を伝えることはなかなか難しい。ですから、好きなこと、楽しいこと、具体的には趣味とか、場合によってはお金もガソリンになります。それは、自分のためにお母さんお父さんがたくさんのお金をかけてくれたという思い、それがその子のガソリンになるという意味です。
不登校の子どもとの関係がなかなか築けないということですが、私たちカウンセラーも子どもと関係をつくるのは難しいですね。子どもは、カウンセラーの下心というかこちらの意図を、「何かさせようとしているんだな」「元気にしたいんだな」と直感的に読んでしまうことが多く、なかなかうまく関係を築くことはできません。それは仕方のないことですから、子どもに対しては、「あなたのことは見捨てないよ」「私にとって大切な存在だからね」といったニュアンスというか温かさを伝えていくしかないと思います。
「学校に戻すことができない」と悩んでおられるようですが、ある中学校の先生の話をしたいと思います。その先生のクラスには不登校の女の子がひとりいました。先生は毎月、その子のところに家庭訪問に行って、お母さんと立ち話をして帰ってくるということをずっと続けていました。でも、結局3年間、彼女は一度も顔を見せず、学校にも来られず、卒業式にも出席できなかったので、先生は卒業証書を彼女の部屋のドアの隙間から入れてあげました。
ところが、その後一年間のブランクを経て、高校に進学したいと思ったとき、真っ先に相談に行ったのはその先生のところだったのです。定時制高校だったのでいろいろ苦労もあったようですが、何かあるごとにその先生のところに相談や報告に行ったそうです。お母さんの話によると高校に入ってから彼女は「あの先生には足を向けて寝られないね」と話していたそうです。
このように、学校復帰はできなくても、先生の温かい気持ちは十分伝わっているということがありますので、誠意を尽くしてかかわってあげるところに意味があると思っています。
Q12 学校のことを話題にすると怒る中3男子。どのように接すればよいか?
中3の男子で5月から不登校。外出せず、一日中オンラインゲームをしています。食事は不規則で、会話も少ししかありません。学校のことを話すと怒るので一切ふれず、高校受験の話も切り出せません。どのように接していけばよいでしょうか。
A12 「登校刺激からいちばん遠い刺激」を与える(回答者:荒井裕司)
現在、このお子さんは不登校の初期の段階にいるようです。つまり、自暴自棄になっていて、かつ、自分でもどうしたらいいのかわからない、あるいは自分を責めている、という状態です。こうした状態のとき、親御さんとしては、まず、今のこのお子さんの状況、不登校という状況を心から受け入れてあげることが大切になります。この時期には学校の話は一切せず、何よりもお子さんが安心できるような状態をつくってあげることが第一です。
私はよく「登校刺激からいちばん遠い刺激を子どもたちにあげてください」と言っています。どういうことかというと、たとえば、その子を家に置いたまま、ほかの家族全員でコンサートに行く、夫婦2人で映画を観に行く、お母さんがヨガ教室とか習い事に行く、といったことです。すると、おそらくお子さんは、「なんだよ、僕が不登校になっているのに、ほったらかして遊びに行っちゃうのかよ」と感じることでしょう。でも、その一方で緊張がゆるむ。自分の不登校のことで、お母さんお父さんが深刻な顔をしていたり、泣いたり怒鳴ったり、無理やり学校に行かせようとするよりも、よっぽど安心するわけです。これがつまり、「登校刺激からいちばん遠い刺激」ということです。
こういう刺激をちょこちょこ与えていくうちに、お母さんお父さんは自分を責めたりしないし、無理やり学校に行かせようともしないとわかってくると、その子のなかに安心感や信頼感が生まれてきます。そのあたりで、学校の話ではなく、たとえばサッカーが好きならテレビのサッカー中継を見ながら、「○○選手ってカッコいいねー」などと話しかけてみる。「よし、話すぞ!」と力むのではなく、軽〜い感じで話題を振り、少しずつその子の心に入り込んでいくというかたちをとるとスムーズに行きやすいかなと思います。
そうして状態が落ち着いてきたら、そこから先は家族だけでなんとかしようとするよりも、できれば第三者(家庭訪問をしてくれるカウンセラーやメンタルフレンドなどの不登校支援者)がニュートラルな立場で介入するのがいちばんよい方法だと私は思っています。ですから、回復の兆しが見えてきたら、外部からの支援を検討してみるのもいいのではないかと思います。
現在中3で、すでに9月になっていますから受験まで時間があまりありません。ただし、焦りは禁物です。2〜3月になってもなんとかなりますし、通信制の高校なら4月半ばまで大丈夫です。焦らず丁寧にお子さんと向き合って、本人の気持ちを大切にしながら進路選択を進めていただきたいと思います。
Q13 朝起こそうとすると、別人のようになっている子
夜には「明日、学校に行く」とはりきっているのですが、朝になると起きられず、登校できないことが多々あります。朝起こそうとしても別人のようで、曖昧な返事ばかりで、目を開けても頭は寝ているような感じです。このようなケースにどんな刺激を与えたらよいでしょうか。睡眠導入剤を試すのはどうかと思っています。
A13 一度、医療機関を受診してみては(回答者:小栗貴弘)
最初に感じたのは真面目なお子さんなのかなということです。前日に「明日は学校に行く」と宣言する子はあまりいませんから、そう宣言することで、自分で自分にプレッシャーをかけているのかなと思います。
ちょっと気になるのは「朝は別人のようで、曖昧な返事ばかりで」というところです。昼夜逆転になっているかどうかはわかりませんが、睡眠の質はどうなのか、一度、医療機関で検査をしてもらったらどうかなと思います。そこでとくに問題がなければ、ほかの選択肢を考えていくことになります。
私がかかわったお子さんが、医師に「起立性調節障害」と診断されたことがあります。お子さんが起立性調節障害と診断されている方はこの会場にもいらっしゃるかと思いますが、微妙な病気(診断名)ですよね。このお子さんは、ほかの医療機関を受診したところ、「起立性調節障害という病気は存在しません」と言われたようで、お医者さんのなかでも考え方が分かれているようですが、「睡眠外来」という専門の診療科がある医療機関を受診されるといいかもしれません。注意してほしいのは、呼吸器科内科が一緒になっている病院の場合、睡眠時無呼吸症候群などが専門になってくるので、それよりは心療内科や精神科が一緒になっていて睡眠障害も対象にしている病院を受診したほうがいいでしょう。
睡眠導入剤については、病院を受診してから考えたらどうかなと思います。子どもへの睡眠導入剤の処方はかなり難しいようで、体重が軽いために、ちょっとした処方量の違いが大きく影響してきます。薬をのみはじめたらよけいに起きられなくなった子を何人も見てきました。別の病院を受診したら「この体重でこの処方量は多すぎる」と言われたケースもあります。
専門の病院が少なく、大きな病院で予約を入れるかたちになるかもしれませんが、一度、「別に問題はありません」ということを確認するためにも受診してみたらいかがでしょうか。
Q14 2年間いっさい会話のない高3男子
高校1年のとき前の学校で不登校になり、高1の6月に転校しましたが、思うように登校できない高3の男子です。
高校生に対する登校刺激のあり方について教えてください。本人の性格にもよると思いますが、この2年間、いっさい会話はなく、家族全員を避けている状態です。自ら出向くことはしませんが、自宅に来てくれる市の指導員や先生とは会い、会話もします。
A14 留年の基準や卒業後の進路情報を提供するだけでも十分な登校刺激になる(回答者:齊藤真沙美)
高1の6月に転校して、現在高3ということですから、進級はできているのかなと思います。家族は避けている状態のようですが、市の指導員や先生とは会っているとのことですので、自室に閉じこもっているわけではなさそうです。家族のかかわり方に関しては、小さな日常的なことに関して答えが返ってこなくても、「おはよう」「いい天気だね」といったあいさつをするなどの投げかけをして、反応をみてみたらいかがでしょうか。
登校刺激についても、高校生だからといってほかの年代の子どもたちと変える必要はないので同じように考えていただいてかまいませんが、小中学生と異なるのは義務教育ではないという点です。出席日数の不足により単位が取得できなければ、留年や退学といったペナルティーがついてきます。したがって客観的な情報として、たとえば1年間の登校日の3分の1以上欠席すれば卒業できない(留年になる)という基準などについては、きちんと伝える必要がありますし、それだけで十分な登校刺激になると思います。なお、留年の基準は学校によって異なりますので、その点も学校側に確認する必要があるでしょう。
なお、そうした情報は十分にわかっていても動き出せないこともありますので、そこでさらに背中を押すかどうかは、あくまでお子さんの状態とタイミングに合わせる必要があります。
現在高3ですから、もし卒業の見込みがあるのなら、この学校でどうしていくかというよりも、卒業後にどうするかという進路を念頭に置いてかかわっていけば、打開策が見つかるかもしれません。大学進学などのはっきりした目標が定まっていないのであれば、まずはアルバイトでも自分の趣味領域を広げることでもいいですし、そのなかで今後の進路が明確になっていく場合もあると思います。幸い、指導員や先生とは会って、話をすることもできるということですから、本人が進みたい方向に関する情報などを収集・提供していくこともひとつのきっかけになるかもしれません。
Q15 学力が下がるのを恐れてテストを受けようとしない子
学力が下がることへの不安から不登校になっており、テストに恐怖感を抱いています。0か100かの二択でものを考えるタイプで、いい成績をとれないならテストを受けないという方法をとり、現在に至っています。学校に頼んで、家で受けてみてもよいのでしょうか(できなかったら提出しないでよいと伝えて)。
A15 「うまくできた」「大丈夫だった」という体験を重ねていくことがいちばんの特効薬に(回答者:霜村 麦)
もともと「お勉強ができる」という体験をもっているお子さんにとって、学力が下がるということは非常に不安であり、マイナス要因と感じてしまうだろうとは思います。ただし、学力面でいえば、もともとできるお子さんの場合、勉強していない期間がかなり長くても、3カ月くらい頑張れば追いついてしまうようなところがあります。
私がかかわったケースでも、小学校も中学校も一日も行っていないとか、中学校にまったく行かなかったというお子さんであっても、そこから通学型の通信制高校やサポート校を経て、4年制大学を受験するまで、あっという間に学力をつけていった例を何人も見ています。ですから、しばらく勉強をしていないとか学力が下がってしまった現在の状態を、あまり嘆く必要はないということを、ひとつ申し上げておきたいと思います。
お子さんにも、今は勉強しようとしても手につかないから、それよりも自分の考え方のクセや不安が強いところを少しゆるめていくことをまず考えようね、自分の考え方が少しつかめて気持ちが安定してきたら、そのあとで勉強はいくらでも取り戻せるよ、というかたちでお話をするとよいと思います。
ご相談に、テストが受けられないので「家でテストを受けてみてもよいのでしょうか」とありますが、それは、お子さんの学力への不安に拍車をかけてしまう方向になってしまいます。このお子さんのように中学生までであれば、あまりテストを受けられないことやテストの結果にこだわらなくてもよいのではないかと感じます。
一方、高校生の場合は、テストを受けないと単位を落として留年→退学となる可能性があるので、学校も親御さんも「なんとかテストだけは受けよう」というかたちでかかわらざるを得ないところがあります。もちろん、それでもダメな場合もありますが、支援する側としては、「どうせ受けてもダメだから」といった感じでチャンスを奪わないこと、チャンスだけはきちんと与えてあげることが大切です。本人も「やるだけやった」という思いがないと、「あのときちゃんとテストを受けていれば学校をやめずに済んだのに、どうしてもっと後押ししてくれなかったんだ」と、あとで親御さんや学校のせいにすることもありますので、本人が学校に残りたいのであれば、できるだけテストを受けることを勧めてあげたほうがいいでしょう。
ちなみに、家でテストを受けると評価が0点になってしまう学校も多いと思います。その場合、学校の保健室や別室で受ければ8割評価とか、教室で後日受ければ何割とか、学校によって評価の仕方もいろいろなので、そのあたりも学校と相談しながら、お子さんの状況をみて、本人が受けたいというのであれば、学校にその意思を伝え、テストの日に向けて気持ちを整えていくということになります。それでも、当日やはり受けるのが怖くなったり、保健室に行けなかったということもあると思いますが、そのときは、やるだけやってダメだったのだから、気持ちを切り替えていこうねというかたちでかかわっていくしかないのかなと思います。
なお、学校のテストが怖くて受けられないのであれば、それに変わるものとして、個別対応の学習塾や家庭教師の方に学校と同じようなペーパーテストをくり返しやってもらって、そこで十分に点が取れるという経験を積むことで不安を解消していく、そういう方法がいちばんの特効薬になります。実体験によって、「うまくできた」「大丈夫だった」、あるいは「ま、いっか」と思えるような体験をいかに上手に重ねていくかが、この子を苦しめている思考のクセみたいなものを取り除いていくカギになります。
そのあたりを上手に進めていくために、相談機関なども活用しながら、このお子さんの苦手な部分や考え方のかたよりにつきあっていく必要があるのかなと思います。