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Q&Aでわかる父親のための不登校理解講座

2016年1月24日に開催された登進研バックアップセミナー96の第2部の内容をまとめました。

講師  小澤美代子(さくら教育研究所所長)
聞き手 小栗 貴弘(跡見学園女子大学心理学部准教授)

※講師、聞き手の肩書きはセミナー開催時のものです。

小栗  このセミナーのアンケートに、次のような書き込みをしてくださったお母さんがいます。「母親の気持ちを安定させるにはどうすればよいのでしょうか。気持ちを聞いてくれるところがなかなか見つからず、ストレスがたまる一方です。夫は私の話を聞くどころか責めたりするので、さらに傷つくこともあります。夫婦仲を見直して一緒に子どもの不登校問題を解決するためのよい方法があったら教えてください」。

 こうした思いを抱えているお母さんは、決して少なくありません。わが子の不登校という同じ課題に向かっているのに、なぜお母さんとお父さんの思いはすれ違ってしまうのでしょうか。今日は講師の小澤先生にお話を伺いながら、家庭における父親の役割やよりよい家族のあり方をみなさまと一緒に考えてみたいと思います。
小澤  わが子の不登校という問題が起こったとき、もちろんお父さんも心配しているのだけれど、具体的にどうしたらいいのかわからない、というのが正直なところだと思います。その結果、お手上げ状態になって、子どもと関わることから手を引いてしまうケースが少なくありません。しかし、お母さんだけでは抱えきれない状況がありますから、お父さんの協力を期待しているお母さんは多いと思います。

 お父さんは、日頃、子どもと一緒にいる時間が少ないので、とんちんかんな話題を子どもに振って無視されたり、それで傷ついたお父さんが「あいつとは二度と口をききたくない」と言い出したり、歯車がかみ合わないことが多いんです。一方、お母さんと子どもの関係を見てみると、ぶつかり合いながらもキャッチボールができていることが多いわけで、お父さんはますます蚊帳の外に置かれている感じになり、投げやりになって子どもに関わらなくなることがあります。

 それはある意味、子どもにとっても同じで、めったに家にいないお父さんとどう関わったらいいのかわからない。たまにお父さんが気をつかって投げてくれたボールも上手く捕球できずに、スルーしてしまったり…。

 お母さんが専業主婦か共働きかでも状況は少し異なってきます。専業主婦の場合は、お父さんが「子どもの問題はおまえの分担だろう」と任せっきりになり、お母さんの負担が大きくなりがちです。不登校に限らず、お母さんが家庭の問題をお父さんにグチるときは、具体的なアドバイスや協力を求めているというよりも、自分が困っている、悩んでいるその気持ちをわかってほしいということだと思います。「そうだったんだ、大変だったね」と言ってもらえればかなり気が楽になるし、さらに、「時間がなくて何も手伝えないけど、お母さんがよくやってくれているのはわかっているよ」と言ってくれれば、素敵なプレゼントになるでしょう。そんなに大上段に構えないで、5分でもいいのでお母さんのグチに耳を傾けてください。

 ご両親が共働きの場合は、ある意味フィフティフィフティですが、それでもお母さんのほうが家事全般を担っているご家庭が多いのではないでしょうか。若い世代では多少状況が変わってきているようですが、こと不登校問題については、専業主婦の状況と大きく変わらないのではないかと思います。

 いずれにせよ、まず、お父さんがお母さんの気持ちをしっかり受けとめて、そのうえで、少しでもいいから協力すること。子どもが学校に行かないという状況は、やはり家族にとってピンチなので、お母さんと同等の関わりをすることは難しくても、気持ちの面で二人で支えていこうという姿勢を示すこと。まずはそこからスタートしてほしいと感じています。
小栗  ありがとうございました。ここから先は、小澤先生にこのセミナーのアンケート等で寄せられた父親の関わり方に関する質問に答えていただきます。

Q1 息子の不登校について、夫に自分の問題として関わってもらうには?


 不登校の子ども(13歳男子)が当たりちらすのは母親、甘えるのも母親。夫は「結局は母親なんだよ」と言い、母親にしかこの子をなんとかすることはできない、父親である自分にはどうしようもないと考えている。どこへ行っても、「お母さんさえ笑顔でいれば大丈夫」と言われるが、笑顔ももう限界です。
 夫が自分の問題として積極的に関わってくれるようになるには、どうしたらよいでしょうか。

A1 男の子と父親の関係はどうあるべきか?

 お父さんの「結局は母親なんだよ」という言葉には、いろいろな思いが含まれている気がします。どう関わればいいのかわからないことから来る諦めや、「息子は母親のほうばかり向いている」という、ひがみっぽい感情もあるでしょう。そこから一歩抜け出せればいいのですが、多くのお父さんは逆に気持ちを閉じてしまって、子どもの面倒をすべてお母さんに委ねてしまうケースが多いんです。仕事の関係もあり、物理的にお母さんと同じ役割を担うことは難しいと思いますが、接する時間が少ないぶん、お父さんはお母さん以上に深く関わるくらいの気持ちを念頭に置いてほしいと思います。

 不登校は家庭にとってある種の緊急事態ですから、お母さんお父さんの長所も短所も表面化してきます。不登校が長引くにつれ、互いを非難したり傷つけ合うことも増えてくるでしょう。お父さんは、仕事に出かければ、ほぼ一日子どもを見ないで済みますが、お母さんは専業主婦であれば一日中子どもと顔を突き合わせているうえ、どこに行っても「お母さんさえ笑顔でいれば大丈夫」などと言われてしまう。お母さんからすれば、「あなたはいいわね。大変なところを見てなくて」と嫌味のひとつも言いたくなります。これに対してお父さんは、「子どものことはおまえに任せると言っただろう!」「おまえが甘いから不登校になるんだ!」とお母さんを責める、怒る、というのがよくあるパターンです。

 ご質問にある「夫が自分の問題として積極的に関わってくれるようになる」というのは、実はかなり難易度の高い注文です。子どもの問題、つまり、その子の性格、学力、対人関係、コミュニケーション能力等々の問題をすべて引き受け、的確に関わっていくのは大変な作業ですし、そこでは親の人間としての成熟度が試されます。子どもの不登校に対して、父親は怒りの感情をもちやすいのですが(対してお母さんは、悲しみの感情をもちやすい)、その怒りは、自分のプライドを守るためや責任回避のため、あるいは不利な立場から逃げるための方便だったりすることも少なくありません。要するに、お父さんも目の前の思いどおりにならない事態に戸惑っているのです。

 もちろんお母さんだって笑顔ばかりではいられないし、不登校はお母さんが笑顔でいれば解決するほど単純な問題ではありません。だからこそ、「お父さんも半分担ってよ」という気持ちが強くなるのでしょう。おふたりのお子さんですから、背負うものもフィフティフィフティ。結婚してから現在に至るまで、お父さんにも半分の責任はあるわけです。ふたりで子どもの不登校を背負っていくんだという覚悟をもってはじめて、両親のチームワークがつくられていくのだと思います。

Q2 男の子と父親の関係はどうあるべきか?


・男の子には、父親が対応するほうがよいでしょうか。そのとき、どのように関わればよいのでしょうか。
・父親と男の子との関係はどうあるべきでしょうか。わが家の場合、夫は息子に対して、どうしても頭ごなしに否定してしまいがちです。

A2 男の子にとって、父親は同性のモデル

 お子さんの年齢にもよりますが、思春期以前の男の子の場合は、特に父親が対応しなくても大丈夫でしょう。一方、思春期以降になると、男の子にとって父親は同性のモデルとなります。面と向かって「男はこうあるべき」と語らなくても、日頃の働き方や仕事に対する考え方、母親との接し方、趣味や世の中の見方などについて、日常的な関わりを通して父親の背中を見ながら学んでいきます。子どもからすれば父親をモデルにしているという意識は低いと思いますが、逆に父親としては、思春期にさしかかった息子を自分がひっぱっていくんだという意識をどこかで持っていたほうがいいかもしれません。

 同時に父親と息子は同性のライバルのような関係にもなっていきますが、そうなると父親は、息子が自分を追い抜いていくことをなかなか受容できません。「お父さんは偉いんだ」「おまえたちのために一所懸命働いているんだ」「まだまだ息子には負けない」といった意識が強くて、父子でせめぎ合いが続く時期があります。
 かつて私は高校の教師をしていて、三者面談でたくさんの親御さんから相談を受けましたが、そのなかにこんなお母さんの相談がありました。「最近、息子が父親とケンカをして、この3カ月間、父親と口をきかない」というのです。ケンカの原因は、お父さんが、いつまでも息子さんに対して「俺のほうが上だ」「黙って言うことを聞け」などと上から押さえつけるようなものの言い方をすること。それで取っ組み合いのケンカになり、結果、お父さんが息子さんに押さえつけられてしまったとか。以来、立場が逆転し、父親の言うことをまったく聞かなくなったそうです。

 思春期の子育てで大事なのは、「上手に親の役割から降りる」ことです。とくに父親は、自分より体が大きくなった息子に組み敷かれる前に、さっさと降りてしまうこと。「おまえもずいぶん立派になったなあ」「お父さんはもうかなわないよ」「この重い荷物を持ってくれよ」といった感じで、自分から気分よく降りたほうが、それ以降の親子関係がスムーズにいきます。
 親が「保護する人」から「保護される人」になることによって、子どもも成長します。ずっと親に押さえつけられていたのが、逆に頼りにされるようになる。それが成長のスプリングボードになるわけです。

 不登校の時期は、まるで時間が止まったようで、何も変わらないように見えるかもしれませんが、子どもは心も体も確実に成長しています。父親より背が高くなり、力も強くなってくると、両親の面倒を見なければいけないといった気持ちが芽生え、それが不登校からの脱出の手がかりになることもあります。
 逆にいえば、子どもがまだ小さくて親に反抗できない時期に頭ごなしに押さえつけると、その反動で思春期になってからのリアクションが激しくなることもあります。また、そうした体験が不登校の子どもの不自由さに関わっている可能性もありますから、上手に“政権交代”するためにも、頭ごなしに否定するのではなく、子どもの成長を認めてあげるような関わり方が必要だろうと思います。

Q3 子どもと関わる機会の少ない父親にできることは?


 単身赴任のため、日頃、息子と関わる機会が少なく、息子に関する情報も乏しい状況にありますが、進路や生き方について、父親としてどんなメッセージを伝えればよいのでしょうか。

A3 SNSを活用してつながりつづける

 ひと昔前なら、遠く離れた息子さんへのコミュニケーション手段は、電話か手紙くらいでしたが、世はIT時代ですから、メールやラインなどを有効に活用すべきではないかと思います。それにしても、単身赴任というのは家庭にとって本当に酷いシステムです。本来なら一緒にいるはずの家族が、何年もバラバラに過ごさなければいけないわけですから。とくに学齢期の中高生がいらっしゃる場合は、家族で引っ越すか単身赴任で凌ぐかという問題に直面するわけです。

 電話だと、お父さんが赴任先から電話しようとしても、残業があったり、飲み会があったりで、思うように電話できない日もあると思いますし、息子さんの都合やコンディションもあるでしょう。相手の機嫌が悪かったりすると、黙ったまま何も言わなかったりして、埒が明かないこともあるはずです。でも、メールやラインなどのSNSを使えば、いつでもどこでも空いた時間に送信でき、相手も自分の都合のよいときに見ることができます。ほんの1〜2行のメールで十分ですから、スマホから送ってみたらどうでしょうか。「今日はまだ残業中だけど、こちらは大雪で、今度の日曜日は雪下ろしをしなければダメかもしれない。風邪をひかないようにお互い注意しよう」といった感じでいいと思います。

 返信は戻ってこないかもしれませんが、メールやラインのやりとりのなかで、お父さんという存在を伝えていくことはとても大切です。お母さんも、そんなお父さんを応援してあげてください。ラインが来たら、「お父さん、大雪で大変そうだね。元気でいるのかな?」とか言って、お父さんが息子さんを心配してラインを送ってくれたことを、何倍にも高く評価するような工夫をしてあげましょう。それが息子さんの元気につながっていきますから。

 父親は、子どもに対して、「何か立派なことを言わなければ」と思いがちで、だいたいそれで失敗します。偉そうなことを言うよりも、こうした日常的な会話を交わすこと、そのくり返しが大切です。また、それに対する返事は期待しないこと。お母さんは、そのサポート役として、事前にお子さんの近況や「今日の出来事」(お母さんと一緒に買い物に出かけた等)をお父さんに伝えておくのもひとつの手です。それを受けて、「お母さんが買い物を手伝ってくれて助かったと言ってたよ」などとラインでひと言送るだけで、自己肯定感を高めることにつながります。

 何も伝えなければ、親子関係はどんどん希薄になり、父親の存在はますます遠くなってしまいます。細いつながりの糸であっても、それを何度もくり返しかけつづけていけば、いつしか太い糸になっていきます。それがたとえば進路選択など、ここぞというときに力を発揮します。単身赴任という不利を逆手にとって、SNSを活用してメッセージを発信しつづけていくことが親子のコミュニケーションの的確な方法だと思います。

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