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打つ手がなくなったときの家族の対応 Part.2
2018年6月17日に開催された登進研バックアップセミナー102の第1部の内容をまとめました。講師は、下記のおふたりです。経験豊かな2人のカウンセラーのお話を聞くことで、同じようなケースや状況であっても、いろいろな見方、考え方、アプローチの仕方があり、「正解」は決してひとつではない、ということがおわかりいただけると思います。それぞれのご家族に合った「正解」を探っていくための、何らかのヒントをこの講演で見つけていただければ幸いです。
講師:霜村 麦 (臨床心理士)
小栗 貴弘(作新学院大学女子短期大学部准教授)
【Case 4】外出もするし友だちとも会うなど
普通の生活をしているが、学校には行けない
学校に行かない以外は普通の生活。親とも普通に話をするし、買物にも出かける。こんなに元気なのに、なぜ学校に行けないのか…
小栗 |
では、4番目の「外出もするし友だちとも会うなど普通の生活をしているが、学校には行けない」というケースに入ります。このようなご相談はけっこう多いのですが、私はまず、いまその子はどれくらいのことができているのかを確認することから始めます。親御さんは、よく「普通」という言葉を使われますが、「普通」という感覚は人によっていろいろだと思うからです。
実際に親御さんと話していると、「普通」と感じる基準のラインを「人と話ができるかどうか」に置いている方が多いように思います。つまり、友だちが来たときにしゃべれるとか、買物に行って店の人と話ができるとか、そういうことができれば「普通」であると。そして、わが子は「普通」だから、これ以上、何をしたらいいのかわからない、というご相談になるわけです。もちろん、人と話ができるに越したことはないですが、それ以外にもやれることはいろいろあります。 |
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学校に行かないことに付随して起こる問題
小栗 |
私は、不登校のご相談を受けたときに「学校に行っていない以外は普通の生活ができることを目指しましょう」とアドバイスをします。不登校の支援方法はケースバイケースですが、この方針だけはブレないように意識しています。じゃあ、たとえば昼夜逆転はダメだからスパルタ的になおしていこうとするかといえば、そこは無理やりではなく、一歩一歩どうやって生活リズムを取り戻していくか、どうやってかかわっていくかを第一に考えます。
「普通の生活を目指す」とはどういうことかというと、学校に行っていないこと自体は、まあ将来の進路選択という面では多少問題になるかもしれませんが、それよりも学校に行っていないことに付随して起こる、その子の成長発達にかかわる部分のほうが問題になるからです。 たとえば、人とのかかわりが少ないことで、対人緊張が強まる、人と会うとひどく緊張する、人がたくさんいる場に出ていけない。あるいは、勉強が遅れる、運動不足になる、生活リズムが乱れるなど、学校に行かないことに付随して起こる問題がたくさん出てきます。そして、これらのほうがむしろ社会に出てから問題になってくることが多いので、学校に行っていない以外は普通の生活ができるのであれば、それに越したことはない。だから、できるだけそこに近づいていけるようにかかわっていければと思っています。 |
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わが子の生活を見直してみる
小栗 |
一方、本当の意味で「普通」の生活が遅れているのなら、それはその子が学校に適応できないのではなく、学校がその子に合っていないわけです。そういうケースは次のステージ(進学や就職)に進めば適応できる場合がほとんどですから、次の進路を目指して頑張っていこうというかかわりをします。
ただし、先ほど申し上げたように、「普通」の定義が親御さんによって異なるので、かなり細かく確認していきます。たとえば、「(学校に行っているときと同じように)朝7時に起きて、夜は日付が変わらないうちに寝ているか」「昼間はゲームではなく机に向かっているか」「学校の学習に追いついていけているか」「親と会話があるか」「友だちはいるか」「先生が家庭訪問に来たら話せるか」「外出はできるか」「定期的に運動をしているか」…と、ここまでクリアできれば、本当の意味で「普通」の生活といえるでしょう。 ところが、こうして事細かく確認していくと、「友だちとは話せるけれど、昼夜逆転」とか「昼間は勉強していません」「学習は2年分くらい遅れています」などいろいろ出てきます。ですから、「まったく普通の生活だ」「やれることがなくて手詰まりだ」思ったら、下記の表にあげた9つの視点から、わが子の生活を見直していただくといいかなと思います。 ①〜④の視点は、霜村先生がおっしゃった「自己コントロール力」に当たります。自己コントロールができていれば、朝7時とか8時とかに自分で起きることができるし、昼間は机に向かうことができるわけです。 この①〜④の視点から、あらためてお子さんの生活を見直すことで、たとえば、「昼間、学校に行っている時間はゲームはやめようね」「できるだけ机に向かうようにしよう」といったかかわりを通して、自己コントロール力をどう育んでいくか、ということにもつながっていくわけです。 ⑤〜⑨は「人間関係の力」に関するものです。これらをチェックして、たとえば⑦で、「以前は近くのコンビニなら行けたのに、最近はコンビニにも行けない」など、生活空間が急激に狭くなっていることがわかったら、どうしたらコンビニに行けるのか、遠くのコンビニなら行けるのか、あるいは、外出しやすい夜にお父さんと散歩をすることで体力を確保しようとか、いろいろ解消策はあるし、やれることはたくさん見つかります。 上記の視点から「自己コントロール力」と「人間関係の力」をチェックしてみたら、「うちの子、両方ともヤバいわ」となった場合、では、どちらから対応すべきか。全部同時にというのは無理なので、優先順位をつけて一歩一歩進めていくことが大切です。 そのとき、まず優先すべきは「人間関係の力」です。なぜなら、生活空間がすごく狭まったり、心理面で不安が強くなりすぎると、外からのサポートが届かなくなってしまうからです。たとえば、私たち相談員が本人と会って話したいと思っても、人と会うことができなければサポートができません。ですから、最低限「人と会って話すことができる」という部分はできるだけキープしていただきたい。そこを踏まえたうえで、次に生活リズムとかゲームをしない時間を作るなど、生活面を整えていくことができれば、いちばんいいのかなと思います。 |
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勉強の遅れはあまり心配しなくてよい
霜村 |
私から少し補足させていただくと、学校に行かない以外はちゃんとした生活を送っているなんてすごいなと思います。私は、学校や仕事がないと生活がグダグダになってしまうタイプなので、何もペースメーカーになるものがないのに規則正しい生活が送れる力って、ただただすごいとうか…。だから、まずそういう部分から、お子さんをうんとほめてあげるといいと思います。
ただし、なかには「学校なんか行かなくてもいいんじゃないか」「学校に行く意味がわからない」というお子さんもいます。その場合、そこはもう大人の視点で、「これからの長い人生、高校を卒業していないとものすごくマイナスになるよ」「そのためにあなたが受けるデメリットははかり知れないし、いまここでそれを防げる手立てがいくつかあるから、それをあなたと一緒にやっていきたいんだ」ということを率直に話していただければと思います。いかにその子の心をつかんで話ができるかが勝負になりますが、こういうことは、きちんと話をしたほうがいい。 すると、とくに中3の子は進路について焦りの気持ちがあるせいか、話に乗ってきてくれる場合が多いです。私がこれまでかかわった中3の子で、進路を決めなかった子はひとりもいません。やはりみんなどんなにギリギリになっても必ず動き出し、高校につながりたいという希望を示します。 学習に関しては、勉強をそんなに必死になってやらせる必要はありません。本人がやりたいというならやらせてもかまいませんが、基本的に勉強が遅れているから学校に行けないということはなくて、勉強していなくても行くときは行くし、それで苦労しながら通っているうちに追いついていくというケースがほとんどです。ですから、あまり勉強勉強、勉強に遅れると大変!というようなプレッシャーはかけなくても大丈夫かなと思います。 |
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【Case 5】中3なのに進路にまったく興味を示さない
(または進路の話を拒否する)
そろそろ高校のことを考えなければいけないのに焦っているのは親ばかり。
進路の話をしてもスルーされてしまい、勉強もまったくしない。
あるいは、進路の話をするといきなり部屋にこもってしまう、など
霜村 |
5番目の「中3なのに進路にまったく興味を示さない(または進路の話を拒否する)」というケースに入ります。
前のケースとつながりますが、まず中3の子には焦りがあるということ。ここにかかわりの糸口があります。もうひとつは、とりあえず現状維持を目指すということ。先ほど小栗先生が一歩一歩スモールステップで課題を出していくというお話をされましたが、私は「現状維持をしよう」という課題を出すことがあります。どうしても生活を変えられない、なんの変化もないというときに、「じゃあ宿題として、一週間、これ以上悪化させないように現状維持してみて」と話します。 現状維持というと動きとしてまったく変化がないように思われがちですが、たとえば、40度のお風呂のお湯を、追い炊きをせずに40度に維持し続けられるでしょうか。ちょうどよい湯かげんを維持するためには、追い炊きをして常に温度を同じに保つ必要があるわけで、現状維持をしていくということに関してもかなりのエネルギーが必要なんだよ。そういう話を子どもたちにして、そこからステップアップを図っていきます。 |
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「希望」がなければ動けない
霜村 |
この子が、中3なのに進路に興味を示さない理由として、いくつかのことが考えられます。その理由は、主に次の3つです。
③については少しわかりにくいと思うので補足すると、本人はけっこう元気で、状態としてはいろいろ刺激をしてもいい段階になっているのに、面倒なことから逃げるという行動パターンが身についていて、ちょっとでも嫌だ、面倒だと思うとサッと避けてしまう。いままでそういう行動をずーっと続けてきたので、回避することが癖のようになっていて、すぐ出てしまう。その癖がとれないので前に進めない、というような状態です。 そして、①〜③の状態にいる子どもに共通して必要なことは、「希望」がもてること、具体的に「やるべきこと」が明確にあること、この2つです。やるべきことは、「できそうなこと」である必要があります。本人ができなさそうなことを設定して、いくらお尻を叩いてもダメ。「できそう」で「具体的にやれそう」なことが、明確に目の前に提示されるということが必要です。 学校に行っている受験生には、「やるべきこと」がいっぱいあります。高校に行ったらあれやりたい、これやりたいという「希望」もたくさんあります。毎日20問の宿題が出てそれを毎日解く、体調管理をしっかりして欠席しない、受験当日に向けて体のコンディションを整える、部活も一生懸命やって内申点を稼ぐなどなど、やることがたくさんあります。不安に思っているヒマもないほどやることがある。それが学校に行っている中3の子どもたちです。 一方、不登校の子にはやるべきことが何もない。家でだらだら過ごしているだけ。じゃあ、何をすればいいのか。それもわからない。「どうせ自分の進路なんて絶望的なんだ」と思っていたら、やはり動き出せません。 ですから、自分でも行ける高校があるというのは動き出すための大きな「希望」になります。いまは不登校の子どもたちにもたくさんの選択肢がありますので、「行けるところはたくさんあるよ」「やり直せる場があるよ」「その後、大学にも行けるよ」という希望につながる情報をお子さんにしっかりインプットしてあげてください。勉強の遅れについても、そういう不登校に配慮のある高校では中学校の内容からスタートしてくれることが多いので、「心配いらないよ」「入ってから始めればいいんだよ」と伝えましょう。 もうひとつ、すごく有効なのが経験者の話を聞くことです。「自分よりも ずーっと大変そうな状況を切り抜けて、いま活躍している人がいるんだな」ということがわかれば希望がもてるし、大きなプラスの情報になりますので、そういう機会があったらぜひ利用してみてください。 |
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遠くの目標から逆算して、いまの目標を立てる
霜村 |
次に、「やるべきことが明確である」「具体的な段取りが示される」ということについてですが、「いまあなたが具体的にやるべきことは何か」ということを考えるときに私たちがよく使うのは、「遠くの目標」「中くらいの目標」「いまの目標」という感じで考えていきます。
「遠く」といっても何十年も先のことではなく、「いまから2〜3年先、あなたはどんなふうに過ごしていると思う?」「さっきあなたが行きたいと言った高校に入れたらどうしていると思う?」「そこに入りたいんだよね?」と聞いて、「入りたい」と答えたら、「じゃあその前に、どういう状態になっていたらいいかな?」「来年のいまごろ、どうなっていたらいいと思う?」と、中くらいの目標を聞いていきます。 そうすると、たとえば、授業には出られないけど、学校に行って保健室の先生とかカウンセラーの先生、担任の先生とかと話をすれば出席にカウントされるから、「とにかくそうやって出席日数を稼げる状態になっておきたい」という答えが返ってきたりします。「だったら、いまどういう状態になっていたらいいかな?」と、今度はいまの目標を立てる作業に進みます。その結果、「とりあえず制服を着て、学校の前まで行ってみる」という目標ができる。 このように、いまはこれをやろう、2〜3カ月先はこれをしよう、2年後はこれ、というように目標にいくつかの階段を作っていくと、やるべきことが具体的に見えてきやすくなります。 学校に戻るのが難しい場合は、「来年は適応指導教室に顔を出せるようになる」という目標を立てたりします。適応指導教室もそこに通えば出席日数にカウントされますから、学校復帰の一歩手前のステップとして、ひとつの目標になると思います。この場合は、「じゃあ新学期からそこに通うから、それまでに教室の先生に会っておこうか」といった、いまの目標を立てます。 |
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中3は強めのアプローチをするチャンス
霜村 |
学校に行けそうな子であれば、新学期や進級時が登校の「節目」になるので、そこに目標を定めて、「じゃあ、そのタイミングで一回学校に行ってみようか」と、節目にちょっとチャレンジをさせることもよくあります。とくに中3の子には進路が絡んでくるので、わりと強めにアプローチします。
高校進学率が100%に近い現在、子どものほうにもなんとかしなくてはという焦りや不安が必ずあるので、中3の子はそういう強めのアプローチにもけっこうついてきてくれるし頑張ってくれます。少しずつやっていくと自信もついてくるので、そういう流れを作っていければいいのかなと思います。 なお、進路に関する情報提供は、時期を逃すと手遅れになるものがあって、この時期にこれをやっておかないとこの高校には行けなくなるということがあります。たとえば、2学期までに学校に戻っていないといけないとか、そういう取り返しのつかないような情報は、なるべく早めに本人の耳に入れておいてください。状態によってはそういう話は嫌がるかもしれませんが、あとになって、「どうして言ってくれなかったんだ!?」と必ず親御さんが責められます。「あのとき教えてくれれば、こうしたのにああしたのに」となんでもかんでも親御さんのせいになってしまうことがあるので、進路に関する大事な情報は、しっかり丁寧に伝えていく必要があります。 そして、高校選びをどうするかですが、まず、本人に不安がいろいろあるわけです。勉強についていけるのか、友だちはできるか、いじめはないのかなど、たくさんの不安が頭の中に渦巻いているはずです。そういう不安をきちんと理解したうえで進路選びをしていかないと結局うまくいきません。そのあたりの情報をしっかり収集し、本人とよく話し合って決めていただきたいと思います。 親御さんの多くは、普通の高校でそれなりに名前が通っていて、みんなと同じような学校生活が送れるほうが、この子の将来も明るいのではないかということで、通信制や単位制、定時制などを避ける傾向があります。 しかし、中3で不登校状態にあるお子さんが高校に入る、という状況を考えたとき、通信制、単位制、定時制というスタイルのほうが、お子さんがこれから回復していく過程において必要なのではないかと思います。集団が大きくてワイワイガヤガヤと刺激にあふれた学校を選ぶのか、比較的少人数で先生が不登校に関して寛容で配慮のある学校を選ぶのか、それによって高校3年間の本人の精神衛生はまったく違ってきます。そうすると、その後の社会に出ていくときの本人の状態も、回復した状態で出ていくのか悪化した状態で出ていくのかで大きな差が出てくるので、これら不登校に配慮のある学校も候補のひとつとして検討していただきたいと思います。いまは通信制や単位制でも「指定校推薦」の枠を持っていて、大学に進学しやすい高校がたくさんありますから。 |
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回避傾向のある子には「勝ち癖」をつける
霜村 |
回避する行動パターンが身についてしまった子を、どうやって進路の流れに乗せるかですが、いちばんうまくいくのは「勝ち癖」をつけることです。
先ほどお話しした「遠くの目標」「中くらいの目標」「いまの目標」を考えたとき、こういうタイプの子はその目標がちょっと高いだけで嫌がるので、最初はすごーく小さな目標をいっぱい作って、それをクリアするたびにものすごく喜んであげることが大切です。こんなに低い目標で喜んでいていいのかと思うかもしれませんが、そういう小さな第一歩、第二歩を積み上げていく、その延長線上に望ましい行動のゴールがあるわけです。 私たちが目標を作るときも、ずっと先にあるゴールに向けて、その手前に細かな目標をいっぱい設定し、クリアするとまわりから評価されたり、ほめられたり、喜ばれたりという「ごほうび」をたくさん用意しておきます。そうやって本人の意欲が維持できるようにサポートしていくわけです。こうした対応を、ご家庭でも取り入れていただくといいと思います。 先ほど、現状維持をするにもエネルギーが必要だというお話をしましたが、たとえば、お子さんが「あまり変化がない」という状態だとしたら、まずは「変化がない」ことを目標にします。そこからスタートして、次は「週1回、◯○をしよう」とか簡単で本人ができそうな課題を出し、そこを乗り越えたらものすごく評価する。そういうことをたくさんつなげて積み重ねていくと、その子に「勝ち癖」がつき、自信もついてきて、いろいろなことに取り組みやすくなります。そういった工夫が、ひとつ必要になってくると思います。 もうひとつ、これはケース3のゲームのところでお話ししましたが、「例外探し」という方法です。たとえば、いつも昼まで寝ている子が、たまたまその日は早く起きてきてテレビニュースを見たり、朝ご飯を一緒に食べた。こういう例外を見つけて、それを強化していきます。ただし、「わあ、早起きしてえらいわ〜♪」というベタな言い方ではなく、なんとなくうれしそうにしているとか、親御さんが喜んでいることがさりげなく伝わるようにしてください。 これにプラスして「ごほうび作戦」を実施する方法もあります。これは「早起きすると→○○がもらえる」みたいなルールにしてしまうとパターン化してよくないのですが、その子が「自発的に何かをするとちょっといいことがあるな」と感じるような、たとえば朝ご飯のあとに好物のスイーツを出すとか、まあ、いつ早起きするかわからないので日持ちのするものがいいですが(笑)、早く起きてきたら、食後に「ちょっとお茶しない?」とか言ってコーヒーと一緒に出してあげる。そして、一緒に食べたりおしゃべりをするといった、ちょっとゆったりした時間をもつ。そういう本人には気づかれないような「ごほうび」を用意して、それを続けてみるという方法をよくおすすめしています。 この前お話ししたお母さんは、お子さんが大好きなセブンイレブンのチーズケーキを冷蔵庫にストックしているのですが、「早起きできなかったらケーキはどうするんですか?」と聞いたら、「私が代わりに食べるので、おかげで太っちゃいました」と笑っておられました。そういうふうに、たまたま早起きできた、うまくやれたという例外的な出来事のときに、ちょっとしたプラスのものをごほうびとして出して、その行動を評価してあげる、そして、楽しそうに過ごしていただく。そういう作戦を親御さんにお願いしています。とにかく目標は小さく細かく、そして、「勝ち癖」をつけることが有効です。 「何も変化がない」「もう打つ手がない」と思っても、実は戦略はいろいろあるので、そこはやはり知識とテクニックをもっている専門家を見つけて相談していただくのがいちばんかなと思います。 |
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小栗 |
ありがとうございました。霜村先生は比喩がとても上手で、お湯を40度に保つにもエネルギーが必要だというお話がありましたが、現状を維持していくことは非常に大事です。
先ほどもお話ししましたが、人と会ってない状態がずっと続いている子は、人に会ったときにものすごく緊張します。その緊張はずっとそのまま維持されるのではなく増していきます。会っていない期間が長ければ長いほど、緊張も増します。学校に行っていない期間も同じで、3日休んで行くのと10日休んで行くのでは、10日休んだほうが行きにくいわけです。 たとえば、相談室に週1回通えている子がいて、それを「うちの子はずっと週1回しか行けなくて、それがなかなか増えない」と見るのか、「週1回、頑張って通い続けることができている」と考えるのか、視点のもち方ひとつですよね。週1回の現状維持すらままならないケースも多々あるわけで、そう考えると、週1回通い続けているだけでもかなり頑張っているんだ、エネルギーを使っているんだ、ということを知っておいていただきたいと思います。 |
霜村 | その子が感じた不安や緊張が保存されて、さらにそれが上書きされた状態でしばらく人に会っていないと、また敷居が高くなってしまうので、一定期間、いろんな状態を保つということはとても大事だと思います。 |
【まとめ】「打つ手がなくなった」と感じたときにできること
最終的な目的は「学校に行かせること」ではない
小栗 |
最後にまとめとして、まず親御さんが「打つ手がなくなった」と感じたときにどうするかですが、いちばん大事なのは、最終的な目標はどこにあるのかを見据えて、ブレずに根気強くかかわり続けることだと思います。
その最終的な目標とは何かというと、お手元のプログラムに「不登校児童生徒への支援の在り方について」という文部科学省の通知が載っていますが、ここに「『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」とあって、文科省も意外と(笑)いいことを言うな、と。 つまり、最終的な目標は学校に行くことではなく、「社会的な自立」であるということです。もちろん学校に行けるようになればそれに越したことはありませんが、たとえ学校に行っていても、将来就労できなかったり社会に出られなければ意味がないわけです。そう考えると、学校に行ける行けないも大事ですが、それよりもその先にある社会的な自立を目指して、では、いま何が必要かを考える視点をぜひもっていただきたいと思います。 たとえば、自己コントロールについていうと、学校に行っている子どもは毎日時間割に従ってあまりやりたくない勉強もなんとかこなしていくなかで自己コントロールを学んでいくわけですが、不登校の子どもたちにはその機会が失われています。学校に行けないことより、そちらのほうがずっと大きな問題です。それをどこで補うかということで、私は「学校に行っていない以外は普通の生活ができることを目指そう」とアドバイスしているわけで、結果としてそれに再登校がついてくることもありますが、最終的にはその先の社会的自立を目指せればいい。 そういう過程のなかで、ぜひ、私たちカウンセラーに相談をしていただきたいと思っています。毎日お子さんとかかわっていると、かかわりが頻繁だからこそ、目標がブレたりイライラしたりということが起こります。そんなとき、こういうセミナーに出たり、カウンセラーと話をすると、そのブレに気づいたり、再確認できたり、ホッとしたりできると思いますので。 ご相談を受けていていつも思うのは、その子のことをいちばんわかっているのはやはり親御さんなんです。親御さんは「わが子の専門家」です。そして、私たちは不登校の専門家です。私たちの強みは、たくさんの不登校の子どもたちと出会い、サポートしてきた経験と知識です。アイデアもいろいろもっています。ですから、「わが子の専門家」である親御さんと不登校の専門家である私たちがタッグを組めば、いちばん強力なサポーターになれるのではないかと思っています。打つ手がなくなったと感じたら、ものは試しと思って、ぜひ、地域や学校のカウンセラーに相談してみていただければと思います。 |
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「打つ手がない」と感じたときこそ、親自身の心のケアを
霜村 |
「打つ手がない」という状況に関していえば、毎日接しているお母さんにはお子さんの変化が見えない、でも、たまに会う私たちにはだいぶ変わってきたとわかる、ということがよくあります。不登校の期間中、そういった状況が続いていくので、劇的な変化というものはあまりありません。とにかく現状維持をしながらコツコツと小さな変化をくり返していけるよう、私たちもサポートしていきます。
もちろんなかには難しいケースもあって、目指すところと現状があまりにもかけ離れているように見えることもあります。私たちは経験上、そういったケースでも少しずつ変化していくし、出口に向かって進んでいくということを知っていますが、ほとんどの親御さんはわが子の不登校という経験は初めてですから不安でいっぱいだと思います。「参考資料」の57ページに、子どもの小さな変化を集めたアンケート結果が掲載されています。これは、このセミナーに参加されたお母さんお父さんに「最近、お子さんに何か変化はありましたか?」と質問した結果をまとめたものです。学校や勉強に関することよりも、日常生活での変化に着目していただくと、「そういえばうちの子も…」と思い当たることがあるのではないでしょうか。 実は、状況が大変であればあるほどやることはたくさんあります。そこで、「打つ手がない」と思ってしまう要因は、かかわる側のキーパーソンになる方のエネルギーが切れてしまったからです。「これ以上、もう何もできないんじゃないか」「もう無理」とへたり込んでしまうようなしんどい状況では、どうしても「打つ手がない」と思ってしまいやすいのです。 ケース1の解説で、不登校になったお子さんは傷ついて無気力になると言いましたが、親御さんのほうだっていっぱい傷ついています。「自分の育て方がいけなかったのか」と自分を責めたり、「この子の将来どうなっちゃうんだろう」と不安にかられたり…。そういう状況では、楽しいこともうれしいこともなかなか起こりませんから、生活の中で親御さん自身がエネルギーをためようとしても全然たまらないという事態におちいります。 ですから、お子さんに対して「もう打つ手がない」と感じたときこそ、親御さん自身のケアやサポートが必要な状況なのだと思って、まず親御さんの心の修復を図っていただきたい。そのために必要なサポートをしてくれる相談員やカウンセラーがいたら、ぜひご相談いただきたいと思います。いちばん残念なのは、あきらめてしまうこと。あきらめると動きが停止してしまって事態が長引いたり回復が遠のいてしまうので、そんな状況でもできそうなこと、やれそうなことを探して一緒にやっていきましょうとお話しするようにしています。 不登校になるころの子どもというのは、大人の頭で生きていた状態から、自分自身の頭で考えて社会で生きていけるようにシフトしている段階です。不登校の子は「いい子だった」という場合が多いのですが、そういう子はもともと大人の頭と同化して、大人にとっての望ましい子どもをやってきたというか、大人の頭で生きてきた時期が長い子というふうに考えられます。 そして、いまは子どもらしい考え方、自分らしい考え方の練習を何度も何度もくり返しやっている状況です。反抗したり、荒れたり、文句を言ったりしはじめるので、ひとりよがりになった、わがままになったと感じるかもしれませんが、いま必死になって自分の頭で考える練習している最中です。練習を熱心に必死にやっている子ほど、その先に必ず大きな変化や成長があります。 かつて不登校だった若者たちに話を聞くと、「不登校の時期があったから、いまがある」とおっしゃる方が多いのですが、その背景には、その子の必死の練習期間に周囲の大人たちがクタクタヘトヘトになりながらつきあってくれたんだな、支えてくれたんだなと、いつもその背後にいた親御さんのことを思いながら彼らの話を聞いています。 いま渦中にいる親御さんとしては、とうていそこまでたどり着けないような気がするかもしれませんが、日々の小さな小さな変化の階段を少しずつ上がっていって、何も変化がないように思えるときも、そういうときこそ、ご自身の心のケアに目を向けて、できるだけお子さんの練習期間につきあっていただければと思います。長時間、ご清聴ありがとうございました。 |
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小栗 | ありがとうございました。(拍手) |