第26回 第34回 第39回 第40回
第44回 第53回 第54回
第55回(第1部)
第55回(第2部)
第57回 第58回 第59回 第61回
第62回 第63回(第1部) 第63回(第2部)
2023年度 2022年度 2021年度 2020年度 2019年度 2018年度 2017年度 2016年度 2015年度 2014年度 2013年度 2012年度 2011年度 2010年度 2009年度 2008年度 2007年度 2006年度 2005年度 2004年度 2003年度 2002年度 2001年度 2000年度 1999年度 1998年度 1997年度 1996年度 1995年度 2019年度 2018年度 2017年度 2016年度 2015年度 2014年度 2013年度 2012年度 2011年度 2010年度 2009年度 2008年度 2007年度 2006年度 2005年度 2004年度 2003年度 2002年度 2001年度 2000年度 1999年度 1998年度 1997年度 1996年度 1995年度
1問2答 「学校をえらぶ」「学校をかえる」ときの前知識
2022年9月11に開催された登進研バックアップセミナー113の第2部の内容をまとめました。
回答者 |
齊藤真沙美(東京女子体育大学・東京女子体育短期大学准教授) 小栗 貴弘(跡見学園女子大学心理学部准教授) 奥野 誠一(立正大学心理学部准教授) 荒井 裕司(登進研代表) |
Q1 勉強もせず、具体的な志望校も言わない中3男子
いじめをきっかけに中2の3月から休みがちになり、中3の5月から完全に行かなくなりました。小5から自分で行きたいと言って通いはじめた塾も中2の4月にやめ、まったく勉強をせず、ゲーム漬け、昼夜逆転の生活です。
現在はいじめなど友だち関係のことよりも、中3の5月から勉強もせず、テストも受けていないので、学業不振による不安がいちばん強そうで、もともとの志望校もあきらめたようです。以前、高校の種類や方向性などを提示したところ、「全日制」に行くと言いましたが、登校せず、勉強もせず、具体的な志望校も言わずで、どう導けばいいのかわかりません。
家での精神状態は比較的安定してきて、リビングにいて朝から寝るまでゲームをしています。先日やっと家庭教師を受け入れ、11月から来てくれる予定ですが、通信制高校を受け入れそうにない息子にどう進路を提案してよいか悩んでいます。
A1 子どもの不安な気持ちを理解することから(講師:小栗貴弘)
まず、この子は現在、「まったく勉強をせず」とありますが、逆の見方をすれば、中3の5月以前まではなんとか学校に通っていたわけですから、そこまでの学力はついていると言えます。また、これまで学校生活を送っていたということは、勉強だけでなく、毎日学校に通うといった生活習慣などもちゃんと身についているということです。これはこの子の「強み」としてとても大事な部分です。
さらに、「先日やっと家庭教師を受け入れ、11月から来てくれる予定」とありますが、家庭教師を受け入れたということは、この子の中に勉強しようという気持ちが出てきたと推測できます。
進路情報の不足が不安をまねく
いま親御さんがいちばん悩んでいるのは、親としては通信制高校に行くのがよいと思うが、子どもが通信制を受け入れてくれない。今後、進路の話をどう進めていけばよいか、ということだと思いますが、ここでまず考えておきたいのは、中3の子どもにとって、通信制高校は「未知」の部分が非常に大きいということです。
ですから、この子は「通信制って普通の高校とどう違うんだろう」「どんなことをするんだろう」「通信制に進学したら、その先はどうなるんだろう」とか、わからないことだらけで不安になっているのだと思います。この子が通信制高校を受け入れられない背景には、こうした情報の不足による不安がけっこう大きいのではないでしょうか。
親からすれば、「情報が不足しているなら、学校見学に行くとか、ホームページを見るとか、志望校の情報を探すとか、前向きに動けばいいじゃないか」と思うわけですが、進路選択というのは自分と向き合う作業でもあるので、そこまで心の準備ができていない、あるいは、そこまで自信がない、という部分もあるのではないかと思います。
だから、進路問題に向き合おうとせずゲームに逃げ込んだり、具体的な志望校を言わないのです。いったん「〇〇高校に行きたい」と口にしてしまったら、ちゃんと受験勉強をしなくちゃいけなくなる。勉強をしなければ、「あなたが行きたいって言ったんじゃないの!」と言われてしまう。だから怖くて具体的な志望校が言えないのでしょう。
こうした状況下で、親御さんは「どう進路を提案したらよいか」と悩んでいるわけですが、私が担当した子どもたち(その中には通信制に進んだ子もいますが)を見ていると、学校見学や説明会などに行って、「自分の目でその学校を見る」という経験は非常に大事だなと感じます。とくに通信制高校など、不登校の子どもたちを積極的に受け入れている学校では、不登校生へのサポート体制がきちんとしているので、実際に学校に行ってみると子どもにもそれがわかるし、安心するんですね。
いかにして学校見学につなげるか
ですから、この男の子をどうやって学校見学につなげるかがポイントになってきます。つなげるにあたっては、親御さんが事前に情報を収集しておく必要がありますし、タイミングも重要です。タイミングについては、本人も進路選択の時期が迫っていることは十分わかっていますし、「そろそろ決めないとまずい」という焦りや不安も抱えています。それに乗じて、というと言葉は悪いですが、そこへ救いの手を差し伸べる感じで、学校見学の話をもちかけるとスムーズに進みやすいかもしれません。
学校に通っている子どもたちよりも、動き出す時期は遅くなると思いますが、そのときにあたふたしないためにも、親御さんが事前の情報収集をしっかりやっておくことが重要になってくるでしょう。
A1 本人の希望を大切にして、臆せずチャレンジ(講師:荒井裕司)
ご相談を読ませていただくと、「家での精神状態は比較的安定してきて、リビングにいて朝から寝るまでゲームをしています」とありますが、私はここが大事だと思います。
自分の部屋ではなく、「リビングで」ゲームをするということは、「自分はもう不登校を脱出するよ」というサインのようなものです。リビングでは、家族の目もあるし、話もするし、一緒にテレビを見たり食事もする。あえてそういうリビングにいるということは、「自分も家族の一員として認めてよ」「仲間に入れてよ」という思いのあらわれと考えられます。ですから、この時点で、この子はさまざまなことを前向きに考えられるようになっているはずです。
具体的には、「もうすぐ不登校から脱け出すよ」「最初の志望校はあきらめたけど、やっぱり全日制の高校に行きたいんだ」と言っているのだと思います。
こんなふうに言っている子どもに対して、「全日制で行ける高校なんかないよ」と切り捨ててしまうのはよくありません。不登校で内申点がほぼゼロでも、受け入れてくれる高校はいろいろあります。そういう高校の情報を調べて、実際に学校見学に行って話を聞いたり、資料をもらったりして、行きたいと思った学校を受験すればいいんです。
お母さんは通信制がいいと思っているようですし、もちろん通信制も選択肢のひとつではありますが、まずはこの子が行きたいという全日制にチャレンジしてみて、ダメだったら通信制を検討すればいい。通信制は、4月の始めまで生徒を受け入れていますから焦る必要はありません。
家庭教師がキーパーソンになるかも
家庭教師の方も来てくださるとのことですから、これから頑張って勉強して受験してみてはいかがでしょうか。家庭教師は、勉強だけでなく、世の中のいろいろな情報を家庭に運んできてくれるメッセンジャーの役割も果たしてくれますし、閉塞した家庭内に新しい風を吹き込んでくれる窓のような存在でもあります。子どもと年齢が近ければ、お兄さんやお姉さんみたいな感じで子どもも気兼ねなく接することができ、家にひきこもりがちな子どもたちを外に連れ出してくれるキーパーソンになる場合も少なくありません。
ぜひ、家庭教師と協力して受験にチャレンジしてほしいと思います。
きめこまかな対応ができる通信制高校
通信制高校については、すべり止めというか保険をかけるつもりで、「ついでにこっちも見学する?」と誘ってみるのもいいかもしれません。そんな感じで気軽に覗いてみたら、すごく気に入って、結局、通信制高校に入ったという子どもたちも少なくありません。
通信制といっても、いまは通学型の通信制もありますし、きめこまかな個別対応ができるという通信制のよさは、不登校を脱出して間もない子どもたちの不安定な心や学校生活をサポートしていくには最適の環境ではないかと思います。
いずれにせよ、本人の希望を大切にして、臆せずチャレンジしていただきたいと思います。
Q2 節目ごとに再登校するものの、またパタッと行けなくなる中3女子
以前からときどき休んだりしていましたが、小5での転校をきっかけに本格的に不登校になりました。中学校入学を機にリセットできればと再登校にチャレンジしたものの、1〜2カ月行って、また行けなくなりました。その後も学期のスタートごとにチャレンジを試みていますが、同様に1〜2カ月程度、登校(部分登校も含め)すると、またパタッと行けなくなるという状態をくりかえしています。学校が好きではないようですが、全日制高校への進学を希望しています。趣味は漫画。
娘の進路をどう考えたらよいのか、この子に合った学校はあるのか、アドバイスをお願いします。
A2 学校で疲れがたまるような過ごし方をしていないか(講師:齊藤真沙美)
「節目」とは、進級、進学、学期の始まりなど、物事の区切りとなる時期を指しますが、このお子さんは、そういう「節目」を活用して何度もめげずに再登校にチャンレンジしています。「小5での転校をきっかけに」本格的に不登校になったとのことですが、実際、転校を機に学校に行きづらくなるケースは少なくありません。環境の変化が与える影響は思いのほか大きく、とくに転居をともなう場合は、家族全員が新しい環境に適応しようとして無理をしがちですから、非常にストレスフルな状況になります。
この女の子の場合も、転校をきっかけに新しい学校になじもうとしてものすごくエネルギーを使ったでしょうし、それで疲れきって学校に行きづらくなったのでしょう。でも、いったん学校を休むことで緊張から解放され、家で安心して過ごすなかでエネルギーも回復し、再び登校にチャレンジすることができるのだと思います。
なぜ、再登校してはまた行けなくなるのか
ここで大事なのは、この子を「学校に行けるようにする」とか「進路をどうするか」ということよりも、なぜ、この子が再登校後1〜2カ月もするとまた行けなくなってしまうのかを考えることです。
再登校してしばらくすると行けなくなり、節目にまた登校して…という状態をくりかえしているのは、つまり、この子がずーっと「学校で疲れがたまるような過ごし方をしている」からではないでしょうか。
逆にいえば、学校でリラックスして、あまりストレスがたまらないような状態で過ごせていたり、あるいはストレスがたまってもそれをうまく解消できていれば、「1〜2カ月もするとパタッと行けなくなる」という事態にはならないように思うからです。
学校で心地よく過ごせる方法を本人と一緒に考える
たとえば、友だち関係で相手にすごく気をつかっていて、それで疲れて学校を休んでしまう。家で休んでいるあいだにエネルギーを補給しても、再登校すればまたすごく気をつかう。これを延々とくりかえしているのではないか。
ですから、まずは、この子が学校生活のどんなところで不安や緊張を感じ、疲れてしまうのか。どんな環境なら過ごしやすいのか、過ごしにくいのか。対人関係でやりにくいこと、無理をしていることはないか等々、学校の先生も含めてじっくり話し合ってみてはいかがでしょうか。
そして、この子が長く続けられるような学校での過ごし方を一緒に考えていけるといいなと思います。ストレスがたまるのなら、それをどう上手に解消するか。友だち関係でも、なぜそんなに気をつかうのか。どうしたらもっと気安くつきあえるのか。
それがうまくできるようになると、「学校に行く」「学校で過ごす」ことがもっと継続しやすくなるでしょうし、学校生活を心地よく過ごせるようになるのではないかと思います。
進路選択についても、そのあたりを踏まえて考えていくべきだと考えています。
A2「入れる」学校より、「通いつづけられる」学校を(講師:小栗貴弘)
では、私のほうは、齊藤先生とちょっと違う視点から考えてみたいと思います。
ご相談を読んでいて、「この子は、よく何度も何度もチャレンジができるなあ」とすごく感心しました。これまでたくさんの不登校の子どもたちと出会ってきましたが、ここまで何度もくりかえしチャレンジ登校ができる子はなかなかいません。
頑張って再登校したけれど1〜2カ月で行けなくなってしまったとなると、子どもはかなり傷つきます。「失敗した」「頑張ってもダメだった」「負け戦だった」ということで、自信もプライドもボロボロ。そうなると、「もうチャレンジしたくない」「する気力もない」という気持ちになっても不思議はありません。ところが、この子は次の機会が来ると相変わらずチャレンジする。これはすごくいいことだと思います。
長続きしなくても、登校チャレンジには意味がある
私は、たとえ長続きしなくても、本人にチャレンジする気があるのなら登校にチャレンジしたほうがいいと考えています。なぜなら、登校すると、よくも悪くも「不測の事態」が起こる可能性があるからです。
一般に再登校の際は、その子の心を脅かさない、安心・安全が保たれる環境で無理をさせないように、といわれます。だから、保健室登校、相談室登校、別室登校というかたちをとることも多く、そうやって刺激の少ない環境で徐々に学校に慣れてもらおうとするわけです。しかし、それでもアクシデントが起こったりするんですね。保健室に誰か知らない生徒が入ってきたり、トイレで友だちと鉢合わせしたり…。
そのせいで翌日から登校できなくなる子もいますが、反対にそれが教室に入るきっかけになったりする場合もあります。人とかかわること、集団の中に入っていくことは、いわばアクシデントの連続ですから、アクシデントに対する耐性をつけるためにも、チャレンジできるならやってみたほうがいいと、私は思っているわけです。
「通いつづけられるかどうか」という視点の重要性
最後に進路についてですが、本人は全日制高校を希望し、親御さんのほうは、不登校と再登校をくりかえしているわが子を見て、この子に合う学校はあるのかと悩んでいるわけです。こんなときに私がいつも申し上げているのは、「入れる」高校よりも、「通いつづけられる」高校、という視点です。
この視点はとても大事で、これまでかかわってきた不登校の子どもたちを見ていても、たいていは、受かった高校の中でいちばん“いい高校”を選ぶということになりがちなんです。しかし、そこでいったん立ち止まって、じゃあ、その高校に入って「卒業までこぎつけられそうか」「最後まで通いつづけられそうか」と考えると、ちょっと疑問が出てきたりします。
「通いつづけられるか」という視点で見てみると、高校の立地なども大きく関係してきます。高校というのは、家の近くにあることは少なくて、ほとんどの場合、電車に乗って通学します。となると、それまで不登校だった子が、いきなりラッシュアワーの満員電車に乗って毎日通えるか。けっこうハードルが高いですよね。そう考えると、乗る電車が上りなのか下りなのかも大きな要素になってきます。
また、全日制の場合、欠席日数が増えると「留年か、退学か」を迫られるケースも出てきます。ところが、子どもたちは、高校になったら「留年」や「退学」があるということを実感として理解していないことが多いんです。そのうえ、全日制以外の選択肢がたくさんあることもほとんど知らないので、あまり深く考えずに、「全日制がいい」と言っているだけだったりします。
一方、親御さんのほうは「留年になったら…」「卒業できなかったら…」と先々のことまで考えているからこそ不安になるわけで、そこにギャップが生じるわけです。
だからといって、親が無理やり説得して子どもの意に沿わない高校に行かせようとしても、果たして子どもは納得できるか。親から見ていくらいい学校、その子が通いやすい学校であっても、本人が納得しないまま3年間通いつづけられるかは難しいところです。
本人が納得できるプロセスを示す
では、どうやって納得してもらうかですが、この子の場合、節目々々に登校チャレンジができるので、次の登校チャレンジのときに、「今学期中、休まずに通えたら、全日制に行けそうだね」といった話をつけておくこと。これは私もよくやるんですが、本人とのあいだでそういう話をしておくことは非常に大事です。
それで、休まず通えたら全日制に行って頑張ればいいし、ダメだったら「この状態だと全日制は難しいかもしれないから、ほかの高校も検討してみようよ」と話をする。要は、本人が納得できるようなプロセスを、きちんと段取りを踏んで示してあげること。そのうえで、他の選択肢を示して、本人が自分の意思で選ぶという流れが非常に重要です。
Q3 教育支援センターに通う「明るい不登校」の小6女子
現在小6の娘は、今年2月から五月雨登校になり、5月中旬から完全に不登校になりました。2月からずっと体の不調(吐き気、頭痛、腹痛)を訴えていましたが、完全に不登校になってからは症状があまり出なくなりました。不登校になった理由は、娘いわく「疲れた」。これは小5の9月から通いはじめた塾に「疲れた」ということのようです。
いわゆる「明るい不登校」で、放課後、友だちと遊んだり出かけたりもします。心療内科にも2〜3回通いましたが、娘は「いろいろ質問されるのが嫌」と通院を拒否。現在は教育支援センターに通っています(ここに通うのは積極的です)。
学校の成績は、体育以外はほぼ二重丸で、塾でも中の上の成績でした。現在は、学校や勉強の話をすると顔が曇り不機嫌になるため様子を見ながら登校刺激をしています。学校の先生も協力的です。今後、どのような対応をしていけばよいのか、学校に行くことはあるのか、行かないなら、どうやって学習意欲を芽生えさせることができるのか、不安が尽きません。
A3 いまは学校復帰や勉強のことにこだわらず、興味・関心のあることに取り組んでみる(講師:齊藤真沙美)
いろいろな力がいっぱいある子
このお子さんは、いろんな力がいっぱいあるなあと感心しました。
まず、自分が疲れていることをしっかり把握し、かつ、それを言語化してお母さんに伝えることができる。休みはじめのころにあった身体症状が、完全に不登校になってからあまり出なくなったとのことですが、おそらく、自分の苦しい胸のうちを「疲れた」と言葉に出すことができたことで、身体症状がおさまっていった側面もあるのではないかと思います(心の苦しさを言葉にできないと、体の苦しさとしてあらわれることが多い)。
そして、「明るい不登校」というのもこの子の特徴のひとつです。かつては、「学校に行っていないんだから、外を出歩くなどもってのほか」というような風潮もあったかと思いますが、学校に行かないことで人とのつきあいが狭まってしまうのは、その子の今後を考えたときにデメリットとなる可能性もあるので、安全さえ確保できれば、行けるところには行けばいいし、やれることはやればいいと思います。学校を休んでいる状態でも、友だち関係が継続しているのは素晴らしいことですし、友だちとのつきあいの中で、この子が学んでいることもたくさんあるはずです。
加えて、この子は自分のニーズがはっきりしていて、しかも、それをちゃんと表明できる。そういうところも素晴らしいなと思います。
心療内科についても「嫌だ」とちゃんと拒否しています。あれこれ詮索されたり、学校のことや自分の状態を聞かれて、それに答えなければいけないという状況を苦痛に感じ、それをしっかり伝えている。一方、教育支援センター(適応指導教室)には積極的に通っています。おそらく教育支援センターには、彼女が自分のペースで過ごせるような環境が整っているのでしょう。その中で彼女は、自分がやりたいことを自分で選んで、積極的に楽しく過ごしているのではないかと思います。
こんなふうにいろいろ力のあるお子さんなので、今後、自分の状態に応じて動き出すだろうと思います。また、学業のほうも体育は苦手だそうですが、それ以外の成績は良好なようですから、基礎的な学力は十分身についていると考えられます。不登校のお子さんについて学力面を心配される親御さんが多いのですが、一般的には小4程度の基礎学力があれば、不登校による空白期間があっても、本人がやる気になれば取り返せるといわれています。
やりたいことが見つかれば、学校の勉強にもつながっていく
今後の対応について、まず頭に入れておいてほしいのは、不登校の子どもが少し元気になったときにやりはじめることは、ほとんどの場合、大人が望むような学校や勉強に関連することではないということです。だいたいは、ゲーム、YouTube、漫画、アニメ、アイドルの追っかけなど、およそ学校や勉強とはかけ離れたことから始まり、それに熱中するなかで、活動範囲や行動範囲が広がっていきます。
この子は、まだ学校や勉強に向き合える状態には達していないようですし、学校や勉強の話をするとわかりやすく不機嫌になってくれるので、今後もそういう話を振って嫌な顔をされたら、「ああ、嫌だったのね。ごめん」というように、拒まれたらひっこめるというかかわりをしていただけたらと思います。話を振ること自体は悪いことではありませんので、お母さんの言うように「様子を見ながら登校刺激をする」ということでよいと思います。
現在、この子は勉強以外ではけっこう活動的なので、今後、自分は何がやりたいのか、何が好きなのか、何をしていると楽しいのかという、自分の興味・関心をもっと広げていけるといいですね。人間、やりたいことが見つかると、そのために必要な勉強はけっこうやるものなんです。それがゆくゆくは学校の勉強にもつながっていきますので、「学校復帰」や「学習」にこだわらず、本人の興味・関心にしたがっていろいろなことに取り組んでいけば、おのずと先につながっていくのではないかと思います。
なお、このお子さんは小6ですので、中学進学についてちょっとお話しします。中学に入っても、このまま教育支援センターに通うという選択肢もあるでしょうから、そのあたりはセンターの方とご相談いただければと思います。
ただ、小学校卒業・中学校入学というのは大きな節目でもあるので、もし本人の心の準備が整うのであれば、学校復帰も視野に入ってくるかもしれません。その場合は、担任の先生等とも相談しながら、このまま今の学区の中学校に進むのがいいのか、それとも別の中学校に行ったほうがいいのかを検討されるとよいでしょう。
学区外の中学校に行く場合は、自治体によって制度がいろいろ違いますので、教育委員会の学事課あるいは学務課にお問い合わせください。そういう準備を進めるなかで、本人に選択肢を示しながら、この子の進路を一緒に考えていけるといいのかなと思います。
Q4 外出を嫌がる通信制高校3年男子。大学に行っても通えるのか…
中高一貫校で中1の秋から不登校になり、結局、その高校には進学できず、本人が「通信制に行く」というので、親が学校見学をしてパンフレットを見せて説明し、現在の通信制高校に入学しました。
1年目は主に自宅学習でしたが、家ではあまり勉強をせず。2年目は先生のすすめで「通学コース」に変更。1週間は頑張って通ったものの、その後はほぼ通えず、単位修得に必要なものだけ出席。3年目は「進学コース」を選択しましたがやはり難しかったようで、昨年と同様ほぼ通えず。「勉強は嫌い」だが、大学に行かないと就職が厳しいと思っているようです。1〜2年の間に漢検準2級、時事検定3級をとりました。
今は昼前には起き、食事は家族でします。散髪、病院、コンビニ以外は外出せず、パソコンゲームばかり。「やりたいことがない」と言いますが、ゲームの話をするときは楽しそうです。家では落ち着いていて、よく話し笑うので、それだけでいいかなとも思いますが、高校卒業後の展望が開けません。外出を嫌がるので、働くどころか進学できても通えるかどうか…。
A4 目標が見えてくれば動き出す(講師:齊藤真沙美)
まず、きっかけにあたるところですが、中高一貫校に入学後、中1の秋から不登校になった、とあります。中学受験をするにあたり、おそらく小学生のときから頑張って塾に通い、ご家族も一所懸命サポートして、やっと入学できたというところでの不登校ですから、本人のショック、親への申し訳なさ、葛藤や傷つきもさぞかし大きかっただろうと推測できます。
自分で決めたことはきちんとやる力がある
次に、この男の子の「強み」を見ていくと、自分のことについては、ほとんど自分で主体的に決めていますよね。そして、決めたことはちゃんとやる。
たとえば、自分から「通信制に行く」と言い出し、親御さんが集めてくれたパンフレットを見て、自分でどこに行くか決めています。通信制の2年では「通学コース」を選んで1週間通い、その後はほぼ通えなかったけれど、単位修得に必要な授業にはきちんと出席しています。こういうところも、やはりすごいなと思います。
あわせて、「勉強は嫌い」と言いながら、2年間で漢検準2級、時事検定3級の資格を取っています。検定取得のための勉強をして受検にチャレンジし、実際に合格しているところもすごいなと感じます。ちなみに、学校の勉強はしないけれど、漢検や英検などの検定を受けて資格を取ったりする不登校の子はけっこういます。
こうした流れを見ていくと、「自分はこんなふうにしようと思う」とか「こんなふうにしたい」ということが具体的に出てくると、それに向けて主体的に動くことができる力がある、そういうお子さんなのかなという感じがします。
現実的にはなかなか外出が難しいということですが、以前から、散髪、病院、コンビニなど必要にかられれば外出しているわけですから、やりたいことやなんらかの目標が見えてくればおのずと動けるのではないでしょうか。
ゲームが好きで、ご家族もそれをよく理解しているなど、家庭内でいいコミュニケーションがとれているところも強みだと思います。
では、ここからどう社会につなげていくかですが、まず、「外出を嫌がる」というのがどの程度のことなのかも関係してくるでしょう。中高一貫校での人間関係で何か傷つき体験があったのか。それによって対人関係全般に苦手さを抱え、外に出られないのか。もしそういう問題があるとしたら、それを解消するためにどんなことができるのか、高校のスクールカウンセラーの先生などに相談してみてはいかがでしょうか
A4 好きなこと、関心のあることを軸に考えていく(講師:奥野誠一)
まず、「『勉強は嫌い』だが、大学に行かないと就職が厳しいと思っているようです」とありますが、こういう思いというか危機感があるからこそ、単位修得に欠かせない授業には出るなど、必要なものには対応できているのかなと感じました。
「やりたいことがない」と言っているそうですが、まず、「好きなこと」「関心のあること」を軸に考えていくのが基本かなと思います。
「やりたいこと」というと、一般的には、夢、目標、こんな勉強をしたい、こんな仕事に就きたいとか、そういうイメージになるかと思いますが、そのレベルで考えると、学校に行っている子でも、「やりたいこと」が見つかってない子のほうが多いんじゃないかと思うんです。やりたいことがあって、それに向けて努力できれば、それはそれでいいんですが、世の中には実にいろいろな仕事があって、その中から、将来やりたい仕事を見つけるとか、そのために努力するというのはなかなか難しいんじゃないかと思います。
一方、「好きなこと」とか「関心のあること」なら、それをやりながら、誰もが普通に努力や工夫をしているんです。たとえばゲームが好きで、対戦ゲームで負けたとすると、なぜ負けたのか、勝つためにはどうすればいいのかなど、いろいろ考えて工夫をします。私は皿洗いが趣味なんですが、どうやったら早くきれいに洗えるか、洗剤のつけ方やすすぎの仕方を変えてみたり、やっぱりいろいろ工夫するんですね。
そういうちょっとした工夫とか、それがうまくいったときの達成感が、ひいてはやりたいことにつながっていくんじゃないか。夢とか目標とか職業とか大きなレベルで考えるよりも、身近で小さなことに楽しく取り組んでいくなかで、自然と、ああしたらどうか、こうしたらどうか、こうしてみようとか、そういう思いが生まれてくるのではないかと思います。
ゲーム関連で外出できないかを考える
この男の子は「ゲームの話をするときは楽しそう」ということなので、これがひとつのポイントになると思います。まあ、必要最低限の外出でもいいんですが、もう少し外に出られれば選択肢も増えると思うので、ゲーム関連で外出できないかを考えてみるといいかもしれません。
あまりお金がかからないもので、たとえばゲーム関連のイベントに参加する、グッズを買いに行く、ゲームの舞台になった聖地を訪ねるなど、ゲームとのかかわりのなかで現実世界との接点を見つけるような演出ができるといいのではないでしょうか。
また、ゲーム好きということで、ある程度パソコンにも詳しいのではないかと思いますので、パソコンの操作や設定を教えてもらって、「ありがとう。助かったわ」みたいなやりとりもできるかなと思います。
食事は家族一緒にとっているし、学校関連の話もできているようですから、家族のコミュニケーションはよくとれているのかなと思います。このことは不登校の回復にとっても非常に重要です。いろいろ話ができているようですから、あとは、本人の現在の気持ちを聞いてみて、「ああ、あなたはそう思っているんだね」などと言いながら、そこでワンクッション置いて親御さんの思いを伝える、というようなことをしてもいいんじゃないかと思います。
「よく話し笑う」とありますが、これもすごくいいことで、笑うと神経回路の回復や成長のスイッチが入ってより回復の方向に向かいやすいので、「よく笑う」機会がさらに増えていくといいのかなと思います。
Q5 起立性調節障害で発達障害の中3男子。私立高校を希望しているが…
部活でいじめられ(無視)、クラスでも部活の子から無視されるようになったのがきっかけで、中2の3学期から休みがちになり、中3から完全に行けなくなりました。起立性調節障害もあり、小児科で内服治療を行っています。心療内科では自閉スペクトラム症と診断され、治療を続けています。最近は、強い不安感や不眠は改善してきました。
本人は私立高校に進学したいと言っていますが、まったく勉強をしておらず、親(父親)としては通信制高校しかないと思っています。妻もストレスで疲れ果て、「1カ月マンションを借りて一人暮らしをしたい」と本気で言っており、どうしたらよいかわからず、仕事も手につきません。
A5 まずはご両親の心のリフレッシュから(講師:奥野誠一)
進路情報を収集し、さりげなく提示する
まず、このお父さんは「通信制高校しかない」と思っているようですが、お父さん自身が通信制高校に対してどういうイメージをもっているのか、そこが気になりました。いまは通信制高校といってもさまざまで、従来のように家庭での学習を基本にして、月2回程度スクーリングに行くというスタイルの学校だけでなく、全日制のように週5日通学したり、週1〜4回通うなど、さまざまな通学スタイルの学校があります。ですから、このお父さんがどの程度の情報をもって、「通信制しかない」と判断されているのかがちょっと気になります。
本人は「私立高校に進学したい」と言っているとのことですが、私立であれば、発達障害の子どもたちや心に傷を負った子どもたちへのケアに力を入れている学校もありますので、そのへんも調べてみたらいかがでしょうか。
もしかしたら、お子さん自身がそういうことを調べたうえで「私立に行きたい」と言っているのかなという気もしますので、本人に直接聞いてみてもいいですし、中学校の先生も情報をもっているはずですから相談してみるのも手かなと思います。往々にして保護者のほうが情報をもっていたりする場合も少なくないんですが…。
その結果、得られた情報やお父さん自身がもっている情報があれば、「この学校がいいよ」と押しつけるのではなく、「こういう学校もあるらしいよ」という感じで、淡々とニュートラルなかたちで情報を提供してあげたらどうかなと思います。
ストレス解消をはかってエネルギー補給を
気がかりなのは、このお父さんが仕事も手につかない状態に追い込まれていること、そして、お母さんも疲れ果てていることです。ですから、「そんなゆとりはないよ」と言われるかもしれませんが、まずはご両親が自分自身をリフレッシュすることが大事ではないかと感じています。
お手元にある参考資料に、これまでの参加者の方々のアンケート結果をまとめた「わたしのストレス解消法」がありますが、「散歩」「友人とランチ」「好きな音楽を聴く」「カラオケで大声で歌う」「お皿を割る」などいろいろなストレス解消法があります。
このお父さんやお母さんにも、それぞれご自身のストレス解消法があるかと思います。お子さんのことで精一杯でしばらく遠ざかっていた趣味を復活させるとか、そういう身近なこと、自分にできそうなことから心身のリフレッシュをはかってエネルギーを補給し、お子さんにかかわっていくことが、いま、いちばん大事なことなのかなと思っています。
A5 不登校の子どもたちの3〜4割にみられる起立性調節障害(講師:小栗貴弘)
このケースでひとつのポイントになっているのが「起立性調節障害」です。起立性調節障害は、不登校の子どもたちの3〜4割にみられるともいわれていますが、不登校の場合にいちばん問題になってくる症状は、「朝、起きられない」ということだと思います。「起きられない」というよりは、「立ち上がれな」「動けない」という状態の子もいます。
朝の起き上がり方も大事で、それがうまくいかないと一日中ふらふらしたり、だるかったり、体調がすぐれないことも少なくありません。起きるときのコツは、まず、ゆっくり起き上がる、手や足を動かして血のめぐりをよくしながら起き上がる、頭を上げていると貧血状態になってしまうので、動くときは頭を下げて四つん這いになって動くといったことがあげられます。いきなり起き上がったり、立った状態で長くいると、体調がなかなか回復せず、その日は一日学校に行けないという状態になりがちです。
こうした状態を改善するためには、医療機関を受診して症状に合った対応をすることはもちろん、カウンセリングを受けるなど心理的なサポートも必要です。そして、何よりも重要なのは疾患や症状に対する理解です。つまり、朝起きられないことを怠けや根性のなさとみるのではなく、身体疾患であることを子ども本人と家族、学校側も含めた周囲の人々がきちんと理解する必要があります。
思春期が過ぎると自然に改善されることも
起立性調節障害の難しいところは、症状がなかなか改善せず、数年間かかるケースもあることです。起立性調節障害は思春期によくみられる自律神経機能不全のひとつで、骨の成長に筋肉の成長が追いつかない感じをイメージするとわかりやすいかもしれません。ですから、筋肉の成長が追いついてくると、具体的には高校生の終わりくらいから大学生くらいになると、症状が落ち着いてきて自然に改善されることも多いかと思いますので、そこまでをどう過ごすかが大事になってきます。
このお子さんは、自閉スペクトラム症(発達障害)の診断も受けています。自閉スペクトラム症は、コミュニケーションの苦手さと物事へのこだわりの強さが特徴ですが、「私立高校に進学したい」というのも、何かそこにこだわりがあるのかもしれません。だとしたら、私立高校へのこだわりはどこから来ているのか、そこを解きほぐしていく必要があるのではないかと感じています。
通信制、定時制なども選択肢のひとつ
一方、お父さんは「通信制高校しかない」と考えておられるようで、確かに通信制高校も大きな選択肢のひとつだと思います。また、定時制高校の夜間も、朝早く起きなくて済むという点でこのお子さんには通いやすいかもしれません。定時制高校には、現在、3年制と4年制がありますが、3年制を選択すると1日の授業時間が5~6時限になるので、このお子さんにはちょっと厳しいかもしれません。となると、卒業まで4年かかってしまうわけですが、自分のペースでゆっくり学ぶのもいいのかなと思います。ただし、発達障害のお子さんへの対応について、定時制高校はそれほど手厚いわけではありませんので、そのへんはじっくり検討する必要があるでしょう。
Q6 転入のタイミングにとまどう高1男子
中3の4月から受験モードに入り、成績も上がったので、夏休みに見学した私立高校の進学コースの受験を決めました。10月頃から様子がおかしいなと感じていましたが、そのまま、受験し合格。入試後の1月末から「学校を休みたい」と言ったので、「卒業式まで少しだから、自分で調整して休みなさい」と伝えました。
高校1年になり、5月から少しずつ休み始め、6月中旬からはずっと欠席です。「一緒にいる友だちがいないし、昼食も一人で食べている」「みんな明るいキャラクターでついていけない」「授業がつまらない」「実技科目の意味がわからない」などが理由です。「今の高校にはもう行きたくない」「高卒資格はほしい」「同学年の子と同じ時期に卒業したい」と言い、通信制高校の資料を見たいと言うので取り寄せましたが、学校見学や説明会には行きません。
最近、今の高校を休学か退学する話になり、「通信制に転入する前に今の高校を退学すると、みんなと同じ時期に卒業できないみたいだよ」と伝えたら、「一年遅れても大学は受けられるの?」と聞いてきたので、「受けられるよ」と話しました。いったん退学して休んでから、次の道を決めるのがいいのか、次の道が決まらないなら、退学、休学せずにいたほうがいいのか、どうすれば元気が取り戻せるのでしょうか。
A6 周囲がサポートしながら、最終的には本人が決断を(講師:奥野誠一)
まず、お子さん自身が「通信制高校の資料を見たい」と言っていて、これがひとつのポイントかなと思います。その資料を本人が見たか見ていないかは書かれていませんが、もし見ているのであれば、「ここに行きたい」とか「ここは嫌だ」とかいろいろ思うところがあるのだろうと思います。そして、見た結果、「やっぱり通信制は自分には合わないかも…」と感じたから学校見学に行かないのかもしれません。
親子の会話はけっこうできているようですから、可能ならそんなことも含めて、親御さんから尋ねてみてはどうでしょうか。親御さんでなくても、そういう話ができる人がひとりでもいるといいですね。
そもそも本人が「通信制高校の資料を見たい」と言い出したわけですから、進路に関心はあるはずです。ですから、周囲ができることとしては、今後も淡々と進路情報の提供を続けていくことかなと思います。
退学するにしても、どこかに居場所があるほうが安心
親御さんがいちばん知りたいのは、最後にある「いったん退学して休んでから、次の道を決めるのがいいのか、次の道が決まらないなら、退学、休学せずにいたほうがいいのか」ということだと思いますが、これは本当に難しい判断です。
どちらも選択の余地がありますから、いろいろな可能性を考えたうえで、最終的にはお子さんが決めるという流れが望ましいと思います。ただ、人によっては、たとえ登校できなくても、「どこかに所属している」「自分の居場所がある」ということが安心感につながる側面もありますので、退学するにしても、フリースクールや塾など、なんらかの居場所を確保しておいたほうがいいかもしれません。
転入先を決めてから退学という選択肢もありますが、学校を変わってもやはり通えない場合もあるわけです。また、転入先が決まるまで休学するという選択もありますが、休学中の期間は在籍期間に含まれないため、原則的には休学すると留年になります。留年になると、自分より1学年下の生徒と同じ学年になりますから、それについて本人がどう感じるかですね。いろいろ考えたすえに留年を受け入れるか、留年は嫌だからとにかく転入先を見つけるか。なお、転入先が見つからないうちに退学すると、新しい高校に入るにしてもその学年を4月からやり直さなければならないので、これも1年下の子たちと学ぶことになります。
それぞれの選択肢のメリット・デメリットを検討したうえで、最終的には本人の判断になりますが、ひとりで決めるのは難しいでしょうから、親御さんや学校の先生、スクールカウンセラーなど、周囲の人たちが情報提供をしたりサポートしてあげるとよいでしょう。
最後に「どうすれば元気を取り戻せるのでしょうか」ということですが、これまでくりかえし申し上げてきたとおり、本人の「好きなこと」「関心のあること」を広げたりふくらませる方向で働きかけること。もし本人が何もやろうとしない、動こうとしない状態であれば、「どんなことが好きなの?」と話を振ったりして好きなことに関するやりとりを増やし、コミュニケーションを促進していってほしいと思います。
A6 いまの高校にきっぱり見切りをつけて新しい学校で新しいスタートを (講師:荒井裕司)
高校、とりわけ私立高校では、いろいろな中学校からいろいろな生徒がやってくるので、気の合う子も合わない子もいるでしょうし、多少のトラブルもあるでしょう。それでもたいていはなんとかやっていくわけですが、この子は現在の学校に対して、何ひとつ面白いことがないと言っているように感じます。
断定はできませんが、私は背後にいじめがあるような気がしてなりません。いじめはないにしても、これだけいまの学校が嫌だと言っているわけですから、ここはきっぱりと見切りをつけて転校する。そうすればすっきり解決します。できるだけ早く転校先を見つけて手続きをするようおすすめします。
「転入」と「編入」の違いは?
転校について、私はこれまで何度も口をすっぱくして言ってきましたが、どんな状況であっても、転校先が決まらないうちに退学するのはダメです。それだけはどんなことがあっても避けていただきたい。
現在の学校に在籍したまま転校先を見つけてその学校に移ることを「転入」といい、現在の学校をいったん退学してから別の学校に入り直すことを「編入」といいますが、「転入」の場合は、たとえば1年生の9月に転校したら、転校先でも1年生の9月から学習を続けることができます。
一方、「編入」の場合は、もう一度、1年生の最初(4月)からやり直すことになりますので、1年遅れで、1学年下の生徒たちと一緒に学ぶことになります。不登校を経験して、まだその回復過程にある子どもたちが、1学年下の子たちとうまくやっていくのは非常に難しく、マイナス要素しか見当たりません。
ですから、現在の学校をギリギリまでやめずに、新しい学校を探すのがいちばんいい道だと思います。
転校するというのは、何もかも変えることです。新しい学校、新しい環境の中で、いちから出直すわけですから、ものすごい勇気がいります。私の経験からいうと、転校してきた生徒たちはその学校のリーダーになってくれるような子が多いんです。つまり、覚悟をもって来ているからです。転校する覚悟というのはすごいものがありますから、そういう子たちは自分をしっかりもって、新しい学校で活躍し、新しい自分を作っていきます。
ですから、転校というのはすごくいい選択であり、新しい成長につながるきっかけになると思います。そして、新しい学校で必ず元気になります。
Q7 まったく会話ができない中3女子。進路の話し合いをどうするか
中高一貫校の中2から学業不振になり、今年の1月、冬休みの宿題が終わらないので学校に行けないと泣いて休んで以来、休みがちになりました。昨年から下痢などの身体症状があり、起立性調節障害の診断も受けています。今年2月からは完全に行けなくなり、部屋にひきこもったまま半年以上、いっさい声を発することなく、姿も見ておりません。ドア越しに話しかけても返答がなく、昼夜逆転、外出もしません(4月に2回少し出る)。
思えば、娘が不登校ぎみになっても母親の私は叱咤激励するばかりでした。娘はまじめで感受性が強いため何かと不安になりやすく、私が何か言ったり何かをしたらもっと状態が悪くなるのではないかと心配で対応方法もわからず、娘の苦しさにも気づかず、関係をこじらせたのではないかと思っています。親子の信頼関係を回復するためにはどうすればよいのか、また、このような会話もできない状態で、来年の進路をどう考えていけばよいのか悩んでいます。
A7 進路の話よりも、まず親子関係の修復を(講師:齊藤真沙美)
Q4で私がお答えしたご質問と同様、このお子さんも中高一貫校に入学して、中2から学業不振になり、冬休みの宿題が終わらないと泣いて休んで…ということで、入学以降、おそらく相当頑張ってどうにかついて行こう、なんとかこの学校でやっていけるようにしようと苦労していたのではないかと思います。そのなかで身体症状も出てきて、起立性調節障害の診断も受け、部屋にひきこもるような状態に至ったようです。
昼夜逆転で外出もしないとのことですが、「4月に2回少し出る」とあり、ポイントになりそうな出来事なので気になります。この子は、どんな事柄で、どんな状況であれば、外に出られるのか。ふだんひきこもっている子が例外的に外に出たという場合、また同じ状況を設定すれば出られるかもしれないし、その子の気持ちを知るためのヒントになる可能性もあるので、そのへんを少しふりかえって考えてみるといいのかなと思います。
お母さんのほうは、つらい状況にある娘さんを叱咤激励しつづけたことで、自分を責めたり、後悔していて、何か働きかけをしたらもっと状態が悪くなるのではないかと心配で、びくびく対応しているようです。そんなふうにお母さんが腫れ物に触るように接してくることに対して、娘さんは不安や不快感を感じているところがあるのかもしれません。
ゆくゆく娘さんとコミュニケーションがとれるようになったら、こうしたお母さんの思いを正直にお話しされたらどうかなと思います。
ポイントは「いい距離感」
進路の話し合いについては、基本的に、不登校の子どもにとって進路関係の話題は「耳の痛い話」だということを頭に入れておいてください。子どもにしてみれば、できればその話題は避けたいわけで、それなのに「どうするつもりなの?! 」「早く志望校を決めないと間に合わないわよ!」「勉強もぜんぜんしてないじゃない!」という感じでわーっと言われたら、耳を閉ざし、口を閉ざし、心を閉ざして拒否するしかありません。
ですから現状は、進路の話よりもまずコミュニケーションのとれる親子関係の修復を最優先し、本人にとって心地よいかかわりを提供することが大事です。心地よいかかわりのポイントは「いい距離感」です。口うるさく干渉したり、何かとかまってくれば、子どもは当然、嫌がりますが、かといって、何をしようがほったらかしというのも寂しいものです。
意外に役立つ、会話以外のコミュニケーション手段
半年以上、声を聞いたこともなければ、姿を見たこともないとのことですが、このような場合、適度な距離のとり方として、「メモのやりとり」が功を奏することが多いと感じています。メモというのは、読みたくなければ読まないでいいし、その場で返事を求められるわけでもないので、子どもにとってすごく楽なコミュニケーション手段なんだと思います。
たとえば、お母さんがご飯を用意したときに、その脇にメモを添える。内容は、「今日はいいお天気だね!」とか「体調はどう?」「今夜はあなたの大好きな唐揚げだよ」といった、日常のたわいもないものがいいと思います。ほとんどの場合、返事はありませんが、実は子どもはこのメモをけっこう読んでいるんです。そして、返事を期待せずにメモを書き続けていると、それが糸口になってポジティブなやりとりにつながっていったりします。
ある男の子は、中1で学校に行かなくなり、自分の部屋にバリケードを築いて閉じこもっていましたが、「母親がパートに出るようになってから、昼ごはんなどにメモをつけてくれるのがうれしかった」と言っていました。お母さんによれば、当時、この男の子からはなんの反応もなかったそうですが、あとで聞くと「うれしかった」とのことで、「親が見捨てていないということが、そのメモから伝わったのかもしれません」と話してくれました。
いまは、ラインのやりとりをするという話もけっこう聞きます。直接話はしないけど、ラインでの会話はする。顔を合わせない、電話など声のやりとりでもないという、微妙な距離感がいいのかもしれません。お母さんからは「今日は○時に帰るよ」「雨降りそうだから洗濯物取り込んでおいて」など、子どもからは「帰りに〇〇買ってきて」などが多いらしく、たまに、直接顔を合わせると言いにくいのか、「さっきはごめん」などもあるとか。
とにかくメモでもラインでも、子どもから反応があろうがなかろうが、親御さんが心配していること(体調はどう?とか、眠れてる?とか)や本人が好きそうな話題を投げかけてみることが大事です。そういうかかわりを続けていくなかで、少しずつよいコミュニケーションがとれるようになればいいなと思います。
また、距離のとり方という意味でいうと、お母さんがずっと家にいるよりも、趣味の習い事に出かけたり、仕事に出たりして、子どもとちょっと距離をとるようになると、状況がよい方向に動き出すことがあります。それまでずっとひきこもっていた子が日中部屋から出てくるようになったり、食器を片づけたり、なかには夕飯を作ってくれるようになった子もいます。このように、いい距離感は心地よいコミュニケーションにつながり、ひいては親と子の関係修復につながっていくということです。