

第26回 第34回 第39回 第40回
第44回 第53回 第54回
第55回(第1部)
第55回(第2部)
第57回 第58回 第59回 第61回
第62回 第63回(第1部) 第63回(第2部)

2025年度 2024年度 2023年度 2022年度 2021年度 2020年度 2019年度 2018年度 2017年度 2016年度 2015年度 2014年度 2013年度 2012年度 2011年度 2010年度 2009年度 2008年度 2007年度 2006年度 2005年度 2004年度 2003年度 2002年度 2001年度 2000年度 1999年度 1998年度 1997年度 1996年度 1995年度 2019年度 2018年度 2017年度 2016年度 2015年度 2014年度 2013年度 2012年度 2011年度 2010年度 2009年度 2008年度 2007年度 2006年度 2005年度 2004年度 2003年度 2002年度 2001年度 2000年度 1999年度 1998年度 1997年度 1996年度 1995年度
不登校は「新しい歩き方」を見つけるための転機
登進研バックアップセミナー122(2025年9月7日開催) 第1部抄録
| 講師 |
小林 正幸(東京学芸大学名誉教授) 海野 千細(八王子市教育委員会教育指導課心理相談員) 齊藤真沙美(東京女子体育大学・東京女子体育短期大学准教授) 奥野 誠一(立正大学心理学部准教授) |
※講師の肩書きはセミナー開催時のものです。
1.「人に会いたくない」「人が怖い」という気持ちをやわらげるには?
人に会うのが嫌と言って、近所のコンビニも、親戚の法事も、修学旅行にも行けない。
たまに友人から誘われても、行くか行かないか悩んだあげく、結局行けなかったり…。
人と安心して関われるようになるにはどうすればよいのか。
人への怖さは、人にしか癒すことができない(講師:小林正幸)

人に対する怖さは、人との関わりのなかでやわらいでいきます。人への怖さは、人にしか癒すことができません。その回復に必要なのは、不快な感情を正面から受け容れてもらえる体験を数多く味わうことです。
自分に関わる人たち(保護者、教師や支援者)とのやりとりのなかで、日常的にその体験を味わい、不快な感情を受け容れてもらえる人に、不快感から回復するまでつきあってもらうこと。この体験が、自分の周囲の環境、とくに人的環境を「安全」だと感じることにつながります。
さらに、不快な感情の背後には、周囲にいる人への強い要求(願い)がありますから、その不快感の背後にある子どもの要求(願い)を理解すること、そして、理解していることを子どもに伝えることが重要です。なお、その要求(願い)が実現できないものである場合は、要求を100%満たしてあげる必要はありません。ただし、子どもと対話するなかで、その願いを少しでも満たしてあげられるような妥協点を探す必要があります。こうした関わりをくり返すことで、ゆっくりですが、他者への不快感がしだいに減っていきます。
子どもが快適に感じる体験を一緒に味わうことも有用です。子どもが好きなこと、得意なこと、夢中になっていることを否定せずに認め、余裕があるときは、それがどんなものかを教えてもらったり、一緒にやってみて、ともに楽しい時間を過ごすなど、本人が快適に感じる体験を重ねることが、その場の「安心感」を培っていきます。
そのために必要なのは、まず関わる大人たちが安心感と安全感をもって、どっしり構えること。どっしり構えられないときがあってもよいのですが、それに気づいたときに、自身の揺れる心を元の安定した状態に戻すように意識できること。
これらが周囲にいる大人たちの関わりの基本になります。つまり、子どもの感情を受け容れ、その背後にある要求を受けとめるようにしながら、子どもと一緒に過ごす時間を大切にし、日常生活を重ねていくわけです。
2. せめて家できちんとした生活をしてほしいと思うのは間違い?
昼夜逆転で、食事も1日1食か2食、深夜までゲームやYouTube。「おはよう」と声をかけても返事もしないし、「ごちそうさま」も言わず、食べたお皿を流しに下げることもしない。
学校に行けないのはしかたないけど、せめて家で規則正しい生活を送り、夕飯は一緒に食べるとか、朝昼晩のあいさつとか、最低限の家庭内ルールを守ってほしいのだけど…。
「このままでいい」と思っている子はいない(講師:奥野誠一)

不登校の子どもに対して、「せめて家できちんとした生活をしてほしい」と思うことは間違いではありません。規則正しい生活リズムや家族とのコミュニケーションは、学校に通っているか否かにかかわらず、心身の健康を保つために大切なことだからです。
しかし実は、子ども自身がいちばんそういう生活を送りたいと願っています。私は、長年、不登校の子どもたちと面談をしてきましたが、「このままでいい」と思っている子には会ったことがありません。
■ 自分を守るために「防衛モード」に入った子どもたち
私たち人間や動物は、自分が今いる環境が「安全か/危険か」を常に判断しながら生活しています。それは、危険感知センサーのような仕組みで、一瞬のうちに判断しているのです。
まわりの環境が「安全」と判断した場合には、神経回路がリラックスモードになり、逆に「危険」と判断した場合には、交感神経にスイッチが入り、反射的に体に力が入ります。この状態を私は「防衛モード」と呼んでいます。防衛モードに入ると、そこから「逃げる」か、「闘う」(攻撃的に反応する)か、「固まって動けなくなる」か、のいずれかになります。
学校を休むようになった子どもにとって、学校という危険な場所に対して、家が安全な場所としての機能を果たしているわけですが、たとえば家で生活リズムの乱れなどがある場合は、その子が家の中でもまだ脅威を感じる状況(学校に行かないことを責められるなど)にあり、防衛反応を起こしていると考えられます。
その代表的な行動が昼夜逆転です。日中は多くの人が活動し刺激が強くなるので、その刺激を少なくしたいという思いから、夜中に一人で食事をとったり、家族との接触を避けたりするわけです。こうした行動は、親からすれば意図的な反抗・抵抗のように見えてしまいますが、ただ危険から身を守ろうとしているだけなのです。
■ まずは安心感・安全感の回復を第一に
そんな状態の子どもに対しては、何よりも安心感・安全感の回復を第一に考え、「この家は安全だよ」「家族と一緒にいると安心だよ」というメッセージを、手を替え品を替えて伝えつづけ、体で感じてもらえるような環境をつくっていくことが大切です。
「一人でいるほうが安心できる」という子もいますが、人間関係の中で安心できることが非常に重要です。家の中が安全と感じられ、気持ちが安心・安定してくると、外に出てみようとか、何かにチャレンジしてみようというエネルギーもわいてくるので、まずは「安心・安全」が出発点になります。
具体的には、「おはよう」「おやすみ」「行ってきます」といった日常のあいさつを欠かさないこと(子どもからの返事は期待しない)。また、「顔が見られてうれしい」「お母さんが作ったごはんを食べてくれてありがとう」などの声かけも効果的です。親子間の会話がある程度成立しているなら、「いろいろやろうとしているのに、思うようにできなくてつらいよね」など共感するような言葉かけをして、子どもの思いを共有するのもよいでしょう。
そのとき重要なのが、親の気持ちの安定です。何かを伝えようとするときに、伝える側がオドオドしていたら、いくら「安全だよ」と言っても信じてもらえません。それどころか、「この人は気持ちが不安定っぽいから、一緒にいても安心できない」と避けられるのが関の山です。
まずは親自身が焦らずあわてず、安心感・安全感をもって子どもに接すること。そして、自分の心のメンテナンスも忘れずに、自分のための時間をつくったり、定期的にスクールカウンセラーなどにグチや悩みを聞いてもらうとよいでしょう。
3.「学校にしばられない時間」に親子で何ができるのか?
「家では勉強なんてぜんぜんやらなかった」と多くの不登校経験者は言います。学校でつらい思いをした子が、学校を思い起こさせるような「勉強」をしたがらないのは当然かもしれません。
それよりも「学校にしばられない時間」や「学校を忘れる時間」をつくることが、その子のエネルギーになるような気がします。
親子でタッグを組んで「新しい関係」をつくる(講師:海野千細)

不登校の子どもたちは、学校は休んでいるけど、心はぜんぜん休めていません。「なぜ自分はみんなと同じように学校に行けないんだろう」「学校に行けない自分はダメな子だ」「こんなに休んでたらまずいよな」「この状態が続いたらどうなるんだろう」等々、学校は休んでいても心は常に学校のことを考えていて、いわば「学校にしばられている」状態にあります。
そのつらい気持ちをまぎらわすために、あるいは自分を守るために、刺激の強いゲームに没頭したり、家族が寝静まった夜中に音楽を聴いたりして、自分ひとりの世界に入り込み、ようやくリラックスした気持ちになれるのです。
「学校にしばられている」のは、親も同じです。ほかの子はみんな学校に行っているのに、わが子はずっと家にいるわけですから、学校のことを考えない日はないといっても過言ではないでしょう。
つまり、この問いのテーマである「学校にしばられない時間」というのは言葉の綾であり、学校を休んでいるから物理的にはしばられていないけれど、実際は子も親も常に「心は学校にしばられている」というのが不登校の実情なのだと思います。
とはいえ、学校を休んでいる間、いつも鬱々としていたら精神的にもちません。そこで、現在の状況のなかで少しでも子どもが元気になるためのアイデアをいくつか紹介したいと思います。ただし、このアイデアは、親子で会話ができたり、親子のコミュニケーションが成立していることが前提になります。
■ とりあえず今は、学校に行かせようとするのをやめる
まず、不登校状態が一定期間続いて、あれこれ手を尽くしたけれど、今のところ学校に行かせようとするのは無理かなと感じたら、当面は「学校に行かせようとするのはやめよう」と決めてください。親なら誰しも「チャンスがあればいつでも学校に行ってほしい」と願うのは当然ですが、とりあえず今は学校に行かせようとするのはやめる。これが第一のポイントです。
次は、親子でタッグを組んで「新しい関係」をつくってみようということです。つまり、今、子どもが興味をもって取り組んでいることに、親も一緒になって取り組んでみるのです。子どもがゲームに熱中しているなら、どんなゲームをやっているのか、そのゲームでどんなふうに遊んでいるのか、どんなことが楽しいのかを一緒に体験してみるわけです。
ところが、親がこういうことをやろうとすると、たいていうまくいきません。中学生、高校生くらいになると、自分の部屋に親が入ってきただけで、「何しに来たんだよ! 出て行けよ!!」と怒鳴られたりします。ですから、親子でどうにかコミュニケーションがとれていることが大前提になるわけです。
ほかにも「推し活」をやっている子、アイドルグループのファンクラブに入っている子などいろいろですが、まずはその子が興味をもってやっていることに親御さんも一緒に取り組んでみたらどうかなと思います。
■ 親子でタッグを組むコツは「期間限定」と「非日常」
こんなことは親も今までやろうと思ったことはないでしょうし、正直、「なんで子どもとゲームをしなきゃならないの?」という気持ちもあるでしょう。また、子どものほうも楽しみを邪魔される感じになりますから、そもそもうまくいくはずがないんです。
ただし、これをうまくやるための秘訣が2つあります。ひとつは「期間限定」だと思ってやること。たとえば、子どもが熱中しているゲームを「1分だけ見させて」とか「3分だけ一緒に見てもいい?」といった感じで試してみると、互いに無理なくできるかもしれません。
もうひとつのポイントは「非日常」です。こういうことを日常生活のなかでやろうとすると、親も仕事や家事で日々忙しくしていますから、できるチャンスはなかなかありません。だったら、たとえばお休みの日に子どもと一緒にゲームセンターに行ってみるのはどうでしょう。そこで子どもの好きなゲームを一緒にやってみたら、また新しい親子関係が生まれるかもしれません。
アニメが好きな子なら、自宅でDVDを一緒に観るよりは、映画館で観るほうが非日常的なので、親のほうも気が楽だし、子どもも迫力のある大画面で観られて満足でしょう。推し活に熱心な子なら、コンサートに一緒に出かけたり…。これくらいなら親御さんも負担なくできるかもしれません。
こうした試みを、最初は1分から始めて、しだいに3分になり、10分になり…という具合に継続していくためには、子も親も「ちょっと楽しかった」「案外嫌じゃなかった」という体験になるように工夫することが大事です。くれぐれも無理をせず、互いに機嫌のよいときをねらうなど状況設定をよく考えて、ゲームのあとに「あ〜、疲れた」「もう、うんざり」とならないようにすることがポイントです。
■ 不登校の子どもが利用できる施設いろいろ
次の段階として、こうして実際に親子でタッグを組めるようになり、子どもの興味・関心がいろいろ広がってきたときに利用できる施設がたくさんあります。10〜20年前と比べると、不登校の子どもたちが利用できる場所も機会もどんどん広がっています。ご参考までにいくつか紹介しましょう。
【不登校の子どもが利用できる施設】
・パン教室、スイミングスクール、ドライビングスクール等
・スポーツ関係(サッカー、野球、eスポーツ、トランポリン、ボルダリング、ダンス等)
・塾、フリースクール、フリースペース、放課後デイサービス、ガイドヘルパー
・大学や自治体(図書館、児童館、ユースセンター等)、民間団体等が企画・運営する講座や催し物
・推し活、趣味や習い事のサークル、町会・自治会等のクラブ活動
・親戚や近所のおじさんおばさん、子ども食堂、給食センター
・アルバイト、ボランティア
・相談機関、教育支援センター(適応指導教室)
・医療機関のデイケア活動等
冒頭のパン教室、スイミングスクール、ドライビングスクールは、私が実際に関わった女の子が利用していた場所ですが、スイミングスクールは意外にねらい目です。午前中のスイミングスクールはお年寄りのサロンみたいになっているところも多く、孫のような年齢の子どもが入ってくるとすごく可愛がって大事にしてくれます。水泳を習いたいとは思わない子も、そこで周囲の大人たちに可愛がられる経験をするととても明るくなったりするんですね。スポーツ関係では、民間が運営しているスポーツクラブなどはあまり厳しくなく、楽しめるところが多いのではないかと思います。
最近の塾は、学校が授業をやっている時間帯に教えてくれたり個別指導をしてくれるところもあり、その時間帯だと顔見知りの子もいないので行きやすい面があります。また、大学で地域の子どもたちを集めていろいろな活動をしていたり、自治体でも不登校の子どもたちの居場所につながるようなさまざまなイベントを実施しています。
意外なところでは、「給食センター」を利用している子もいます。たとえば私の勤務する八王子市では、不登校支援のひとつとして給食センターを開放し、子どもたちに給食(有料ですが、400円程度と安価)を提供しています。みんなと一緒に昼食を食べたり、そこで顔なじみになった人たちと話をするなど、居場所としての機能も果たしています。
高校生くらいになると、アルバイトやボランティア活動などを通じて、学校以外の場所で社会体験をすることが自信を取り戻すきっかけになることも少なくありません。
このように実際に子どもと一緒にタッグを組んで何かができる親子関係が構築されていれば、いろいろな場が活用できる環境が整ってきています。家の近くにそういう場がないかどうか、ぜひ探してみてください。
4. 再登校するとき、親はどんなことに気をつければよいのか?
いよいよ再登校となったとき、親も子も期待と不安・緊張でいっぱいいっぱいの状態になりやすい。
そんなときに、ついやってしまいがちな親の対応や気をつけたいこと、親として、どんな気持ちで応援とフォローをすればよいのか知りたい。
「ダメモト」と「試しに行ってみる」の心がまえが大切 (講師:齊藤真沙美)

子どもが再登校するとなったとき、親はうれしい気持ちが抑えられず、つい「頑張れ!」と励ましたくなるものです。ところが、子どものほうは、親も担任の先生も自分が学校に行くことを期待しているのがよくわかっているので、「ここで失敗はできない」というプレッシャーがどんどん強まっていきます。子どもによっては、「ここで失敗したらこの世の終わり」ぐらいの気持ちになっている場合もあります。
ですから、この時期の親の対応としては、子どもの背中を押すというよりは、「あまり無理をしなくてもいいんじゃない?」「焦らなくてもいいと思うよ」と少し後ろにひっぱる感じのほうがうまくいくような気がします。
それでも子どもが自分で「行く」と決めて一歩を踏み出そうとする。それが再登校の望ましいイメージではないかと思います。
■ 親のほうに不安や焦りがあると…
そうはいっても、親のほうに「学校に行ってほしい」という思いが強い場合は、その気持ちを抑えて、「あまり無理をしなくてもいいんじゃない?」なんて言うのは、かなり難しいことだと思います。逆にいえば、子どもが再登校しようとするときに、親が「焦らなくてもいいと思うよ」と言えるような余裕のある状態にあるかどうかが重要になってくるわけです。
親のほうに不安や焦りがあると、どうしても背中を強く押したくなります。そこで焦って無理やり押し出したりプレッシャーをかけると、また行けなくなってしまい、その子が失敗体験を重ねることになり、「学校に行こうと思うと → 不安になる → ますます学校に行きにくくなる」という悪循環が生じる可能性もあります。
ですから、親御さん自身ができるだけ不安の少ない状態でいるために、身近な友人、スクールカウンセラー、相談機関など、自分の気持ちを聞いてもらえる人、迷ったときに相談できる場所、親御さんと一緒に子どもを支えてくれる場所を見つけられるといいなと思います。
■ 負担の少ない登校の仕方を考える
実際に再登校するとなったとき、もちろん「朝から行く」「全授業に出る」というやり方もありますが、それではハードルが高いので、まずはその子にとってどんな登校の仕方ならストレスが少ないのか、どんなかたちなら登校しやすいのかを考えることが大切です。
たとえば、「朝から行ってお昼を食べ終わったら帰る」「お昼から行って午後の授業に出る」とか。あるいは保健室登校、相談室登校など「別室登校」なら行けそうだとか。最近では校内に「教育支援センター(適応指導教室)」を設けている学校も増えていますので、そういういろいろな選択肢を活用しながら、その子が通いやすいやり方を探していけるといいなと思います。
登校するときも、お母さんが学校まで一緒に付き添ってあげると行ける、仲のよい友だちに家まで迎えにきてもらうと通えるなど、どんな人・どんな時間・どんな場所なら負担が少なく登校できるのか、いろいろな選択肢を検討してみるとよいでしょう。
先ほども申し上げましたが、再登校する際は、子ども自身が「ここで失敗したらもう後がない」「一日も休んではいけない」と思いつめていることが多く、つい無理をして頑張りすぎてしまい、また行けなくなるということがよく起こります。ですから、まず本人が自分の心身の状態を把握できるようになることが大事です。
たとえば、「疲れて頭がぼーっとしてきたので、ちょっと横になりたい」とか「今すごく不安になっているから、別室で一人になりたい」「今日は体がつらいから早退したい」というように、自分で自分の体の疲れや不安などを把握できて、それを先生に伝えることができる。それができれば、遠からず自分のペースに合った、無理のない登校の仕方を自分で選択できるようになっていくでしょう。
■ 何度やり直してもいい
最後に、再登校に関して私がよく子どもたちに伝えているのは、「とりあえず試しに行ってみたら?」と「ダメモトでいいじゃん」です。その結果、もし行けなかったとしても試してみること自体が重要ですし、学校に「行く/行かない」という結果だけにとらわれないようにすることも大切です。
「行く/行かない」というモノサシだけで物事を見ていると、行こうとして頑張ったけど行けなかった場合は「ダメだった」「失敗した」という評価になり、「行こうとして頑張った」ことはまったく評価されません。「不安で怖かったけど行こうとした」こと自体がすごいことだし、行ってみたら、「今はまだ登校するのが難しかった」とわかったこともとても重要です。今回の結果をもとに、「じゃあ次はどんな方法、どんな作戦を立てればいいか」「どんな状況なら大丈夫そうか」を考えることができるからです。
再登校は一生に一回きりのチャンスではありません。何度でもやり直せるし、何度やり直してもいい。親も子も「絶対に失敗しちゃいけない」と緊張でガチガチになっていることが多いのですが、そんなふうに肩に力が入っているときは、朝になると「やっぱり行けない…」となることが少なくありません。反対に、「たぶん明日は無理だと思う…」と自信なさげにしているときほど、朝起きたら「あれ? 行けちゃった!?」と拍子抜けするくらいすんなり登校できたりします。
ですから、無理せず焦らず、親は余裕をもって子どもを少し後ろにひっぱりながら接していく。そして、それでも子どもが自分で「行く」と決めて踏み出した一歩は、必ずその先の道につながっていくと感じています。
5. 不登校を「新しい歩き方」を見つける転機にするためには何が必要か
不登校の経験が「これまでの自分」から「新しい自分」に変わる転機になる場合があります。
不登校という時間は、心の傷を癒したり、気持ちをリセットするだけでなく、「バージョンアップ」「変身」のための時間にもなりうる。そのために親はどんなサポートをすればよいのでしょうか。
まずは家庭を「居心地のよい場」にすることから (講師:小林正幸)
子どもたちの心の回復には、冒頭の1の問いで述べた「子どもの不快な感情を受け容れる」関わりが効果的ですが、不登校がその子の「転機」となるためには、これらの関わりに加え、右上の表の①〜④を心がけることが重要です。
フリースクールに通う不登校の小中学生約500人の意識の変化を追跡した東京都の調査によれば、一定期間内に、教師から私がこれまで述べたような関わりを体験した子どもと、体験しなかった子どもを比べると、体験した子どもほど「学校の居心地感」が上昇したことが明らかになっています(右のスライド参照)。そして、この「学校の居心地感」が高いほど、その後、学校に登校する日数が増えることが、過去の大規模調査でも証明されています。
①子どもが過ごす日常的な環境(保護者なら家庭、教師なら学校、支援者なら支援する場)を「居心地のよい場」にするよう心がける。
②どんなに小さなことでも、以前と比べて(誰かと比べない)、伸びたこと、伸びようと努力していること、気持ちの上で努力したいと思っていることに気づいたら、保護者なら喜び(保護者の場合は、ほめるより喜ぶことが大事)、教師なら承認し、ほめてもよい。
③いちばん重要なのは、「主体性の育成」。何かをする/しないの2択ではなく、複数の選択肢を示して自分で選ぶようにさせ、どんな選択をしても「それでいい」と認める。
こうした関わりによって、子どもが「したいからする」「したくないことはしない」という“健康な心のあり方”で自分の行動を評価できるようになることを手助けする。
また、「無理な要求は断る」「相手に自分の要求を伝える」といったアサーション(自分も相手も尊重しながら自己表現・自己主張をすること)が無理なくできるように手伝う。
④「自尊感情を培う」関わりとしては、まず、子どもが「できない」「わからない」と言うことを“伸びしろ”ととらえて、「それでよい」と認める。「あなたはあなたのままでいい」というメッセージが伝わることで、「自分の価値と『できること』や『わかること』は無関係だ」と思えるようになる。
つまり、子どもに関わることができる大人(保護者、教師、支援者)が、これまで述べてきたような関わりを重ね、子どもを大きく広く包み込むことをある程度長く続けることで、子どもに「転機」の準備が整っていくわけです。
そして、最終的に子どもの人生を変える「転機」が、ある瞬間に、劇的に、一気に、訪れます。その転機は、ただ単に「登校できる」というレベルをはるかに上まわる「転機」として結実することも少なくありません。








