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人はなんのために不登校になるのか?
登進研バックアップセミナー123 in 仙台(2025年9月21日開催) 第1部抄録
| 講師 |
海野 千細(八王子市教育委員会教育指導課心理相談員) 齊藤真沙美(東京女子体育大学・東京女子体育短期大学准教授) 奥野 誠一(立正大学心理学部准教授) 田中 雄一(登進研副代表) |
※講師の肩書きはセミナー開催時のものです。
1. 口をきいてくれない子にどう接したらいい?
声をかけても返事もしない。たまに口を開けば、「べつに」「うざい」「ほっといてよ!」。
コミュニケーションがまったくとれない子への望ましい関わり方は?
子どもの行動の意味を理解し、あきらめずに声をかけつづける(講師:奥野誠一)
子どもとの会話が少なくなったり、話しかけても返事がなかったりすると、多くの親御さんは心配になったり、不安が高まったり、寂しい気持ちになったり、怒りがこみあげてきたりします。しかし、子どもが口をきかなかったり、口数が少なくなったりするのは、その子なりに意味のあることだと思っています。
その意味についてはのちほど述べますが、私たち大人にできるのは、そうした子どもの行動の意味を理解して見守る姿勢を保ちながら、あきらめずに声をかけつづけ(返事は期待しない)、「わたしにとって、あなたは大切な存在だよ」というメッセージを発していくことだろうと思います。
そして、その子のよさや価値を認めてあげること、必要なときに支えてあげられる存在になることも重要です。最初に結論的なことにふれてしまいましたが、子どもの口数が少なくなったとき、そこに込められた意味や理由について、いくつかあげてみたいと思います。
■ 自分を守るための防衛反応
不登校であるか否かにかかわらず、どこの家庭でも子どもの成長過程で親子間のコミュニケーションが難しくなる時期があります。とりわけ思春期を迎え、子どもに自分なりの考えや価値観が芽生えてくると、親の考えとぶつかる場面が多くなってきます。
自立したい気持ちと親に甘えたい気持ちのはざまで葛藤が生まれ、「もう大人だ」「自分にかまうな」と親の手を払いのけたいのに、まだ親の助けがほしいときもあり、自分でもどうしたらよいかわからない、混乱と戸惑いの渦中にある状態です。そのぐちゃぐちゃになった自分の気持ちをなんとか保つために口をきかなかったり、沈黙していると考えてみたらどうでしょう。
学校に行っていない子どもの場合は、さらに複雑な心境におちいりがちです。
まず、ほとんどの子どもは、学校に行けないことに強い罪悪感や自己否定感を抱いています。口には出さないけれど、「どうして学校に行けないのか」「家族にも迷惑をかけている」「自分はダメな人間だ」と自分を責め、苦しんでいます。
このような状況にある子どもが「口をきかない」のは、自分の心と体を守るための防衛反応と考えられます。これは本人の意思でやっていることではなく、神経系の機能で起こる本能的な自己保護のしくみでもあります。親と話をすることで、「責められるかもしれない」「傷つくかもしれない」ことを恐れて、身を守ろうとしている側面もあるでしょう。
■ 今、子どもは心のなかで闘っている
もうひとつは、「一日も早く学校に行けるようになってほしい」とか「将来のことを考えて〇〇しないといけない」とか、両親やまわりの大人たちがその子ために働きかけてきたことが、本人にとっては非常にしんどいことだったという場合です。
子どものなかに自分の考えが芽生えてくると、まわりの大人との間で物事のとらえ方や価値観に違いが生じて、親にとっては大切なことが子どもにとっては必ずしもそうではないということがしばしば起こります。
こうした考え方の違いが「お母さんは何もわかっちゃいない」「お父さんは僕の話をぜんぜん聞いてくれない」といった思いにつながり、結果的に口をきかなくなることもあります。また、親の価値観に違和感を覚えても、まだ幼い子どもの場合は、自分の考えをうまく言葉で表現できないために口を閉ざすことがあります。
もうひとつ別の側面からみると、子どもが外からの刺激をシャットアウトして、自分ひとりで考えようとしているという見方もできます。つまり、誰とも口をきかず、自分の内面と向き合う時間を必要としているのかもしれないということです。大人でも何か悩みがあると、ひとりになってじっくり考えたいときがありますよね。それは子どもも同じではないでしょうか。
以上、思いつくままに子どもが口をきかない理由をあげてみましたが、実際にはこれらの理由が複雑に絡みあって渦巻いているのだろうと思います。親の目からは一日中ごろごろダラダラしているように見えるけれど、今、子どものなかではいろいろなことが起こっていて、じつは、見た目以上に心のなかで闘っている状態なんだと理解してあげることが重要だろうと思います。
■ 日常生活を通して「あなたは大切な存在だよ」というメッセージを届ける
これらを踏まえて、親としてどのような働きかけができるかですが、先に述べたとおり、日常的には「返事を期待せず、やるべきことを淡々と継続する」ことが大切です。
コミュニケーションの手段は会話だけではありません。子どもが口をきかなくても返事がなくても、食事の準備をする、心地よい生活環境を整える、体調を気づかうなど、日常生活を通して「あなたは大切な存在なんだよ」というメッセージは伝わります。
「おはよう」「いい天気だね」「ごはんができたよ」という声かけひとつでも、わが子の存在を大切に思っているお母さんの気持ちは届きます。それに対して子どもの反応はなくても、じつは伝わっていることが多いのです。その後、自分のことを話せるようになると、そのときのお母さんの声かけが支えになっていたと話す子どもをたくさん見てきました。
さらに一歩進んで、「今日は少し元気そうだね」とか、見てわかる子どもの変化、ちょっとした変化を言葉として伝えることもやっていただきたいと思います。こうした声かけは「その子の存在を認めている」というメッセージになります。
もうひとつ、子どもの気持ちを代弁するような声かけができるともっといいですね。たとえば、「うれしそうだね」「イライラしているね」「しんどそうだね」など、子どもの表情から気持ちを推測して言葉をかけてみてください。これも、今の子どもの状況や気持ちを理解していることを伝えるメッセージになります。
2. 子どもを受け入れられないときはどうしたらいいのか?
行きたくない理由を聞いても、「なんとなく」みたいないいかげんな返事をするだけ。
毎日、好きなことだけやって、勉強はまったくせず、ろくに口もきかないし、食事も一緒にとらない。
こんな子どもを受け入れるなんて無理!
「消極的受容」という関わり方がヒントに(講師:齊藤真沙美)
今日ここに参加されたみなさんのなかには、このような講演会で専門家の話を聞いたり、相談機関に通っていらっしゃる方も多いと思いますが、そのたびに、「子どもを受け入れることが大切」と耳にタコができるほど聞かされているのではないでしょうか。
とはいえ、わが子は相変わらず学校に行けないし、勉強もぜんぜんしないし、深夜までゲームをやったりしているわけで、そんな姿を毎日見ていると、「子どもを受け入れるなんてとてもできない」と感じることも多いと思います。感情というものは自然にわいてくるものですから、いくら「受け入れることが大切なんだ」と思っても受け入れられるものではありませんし、「それでも受け入れなければ」と頑張りすぎるとどこかに必ず無理がきます。
では、どうすればよいかですが、ここで大事なのは、先ほど奥野先生も話しておられたように「子どもの行動の意味を理解する」という視点です。子どもの行動の意味が少しずつわかってくると、「だからこういうことをやっているのか」と腑に落ちるというか、自分のなかに理解の落としどころができてくるように思います。
不登校に関することだけでなく、日々の生活のなかでこうしたことはけっこうたくさんあります。たとえば、「どうしてここに変な物を置いているんだろう?」「なぜ、これを片づけないの?」といったことでイラッとすることがあると思いますが、子どもがそこに置いている意味がわかると「あっ! なるほどね」と納得がいき、ネガティブな気持ちが解消されたりします。
■ なぜゲームばかりやっているのか?
その延長線上に、不登校に関する悩みやイライラ、「わが子が理解できない」という気持ちの落としどころがあるように思います。
たとえば、一日中ゲームをやっていたり、動画ばかり観ているのはなぜなのか。「ゲームが好きだからでしょ」とか「動画が面白いから観てるに決まってるじゃない」と思うかもしれませんが、じつは「好きだから」「やりたいから」やっている子はほとんどいません。
多くの子どもたちは、不安な気持ちをまぎらわすためだったり、ほかにやることがないので時間つぶしにやっていたりします。このセミナーで不登校体験を語ってくれた若者たちからも、「ゲームでもやってないと、学校であった嫌な出来事を思い出して眠れなくなる」という話をたびたび聞きました。
つまり、子どもたちは好きこのんでゲーム漬けの生活を選択しているわけではなく、それ以外の選択肢が見つからない状態だということです。嫌なことを思い出したり、将来のことを考えて不安になったら、一般的には友だちに話したり、気晴らしに外出したりするわけですが、不登校の子どもたちには、その選択肢がほとんどありません。
ですから、不安や恐怖などネガティブな感情におそわれたら、それを忘れるためにゲームに没頭する。それが「ゲームばかりやっている」子どもの行動の背景にある意味なのです。子どもたちがこうした状況にあることを、彼らに関わる大人たちが知っておくことはとても重要なことだと思います。
■ 小さな変化を見逃さない
それでも、深夜までゲームをやったり動画を観ている生活は健康によくないし、ちゃんとした生活を送ってほしいと思う親御さんの気持ちは当然です。そんなときは「消極的受容」という関わり方がヒントになるかもしれません。
「消極的受容」とは、今の子どもの生活を積極的に受け入れているわけではないけれど、いくら言っても直らないし、当面は昼夜逆転だったり、好き勝手なことをやっていてもしかたないか、としぶしぶ受け入れるような関わり方のことをいいます。これができれば親として十分に合格点ではないかと思います。
「子どもを全面的に受け入れなければ」と思うから苦しいのであって、今、子どもがどんな気持ちでいるかを理解し共感して、その気持ちに寄り添いながら、しばらくは静観しようと思えれば、ずいぶん楽になるのではないでしょうか。
こうした「消極的受容」ができるようになると、子どもへのプレッシャーがおのずと弱まってくるので、少しずつですが子どもの言動に変化が起こってきます。
変化といっても、再登校するとか勉強に励むといった大きな変化ではありません。そのためつい見落としがちですが、たとえば、起きる時間が少し早くなったとか、自分の部屋の片づけを始めたとか、これまで一日中パジャマ姿だったのにときどき着替えるようになったとか、そんな小さな変化です。
親御さんがこういうちょっとした変化に気づけるようになると、「学校に行けない状態は変わらないけど、前に進んでいるんだな」とか「少しずつだけど元気になっているんだな」と思えて、今まで納得がいかなかった子どものいろいろな言動も受けとめやすくなります。すると、子どもへの接し方もよりやわらかになり、また新たな変化が子どもに起こり……というように好循環が生まれてきます。
ただし、親御さんが子どもの行動を受けとめたり、受け入れたりすることは、自分自身の気持ちに余裕がないとなかなかできません。ですから、自分が好きなこと、楽しいことをする時間を意識的につくって、気持ちをリフレッシュすることがとても重要です。日常生活のなかで短時間でもかまわないので、ぜひ、そうした時間を見つけてほしいと思います。
お風呂の時間をいつもより長めにするとか、寝る前に好きな音楽を聴きながらストレッチをするとか、たまには自分へのごほうびとして美味しいツイーツを食べに行くとか、リラックスできる時間を設けて、自分をいたわりながらお子さんと関わっていただければと思います。
3. 再登校すれば解決なのか?
ゴールは「学校に行く」ことなのか。不登校から回復するとは、どういう状態を指すのか。
不登校が解決するとは、「一日も休まず通えるようになる」こと?(講師:海野千細)
この夏休み明けから再登校しはじめたお子さんもいらっしゃるかと思いますが、じつは子どもが再登校をしようとするときは、夏休み明けや新学期、学期の始めなど、なんらかの《節目》を利用することが多いんです。
ところが、そうして再登校しはじめると、親のほうは「やっと行ったか」とホッとするというよりは、行ったら行ったで、「いつかまた休みだすんじゃないか」と不安でハラハラする気持ちのほうが大きかったりします。
■ 再登校後、一日も休まず頑張りつづけた女の子
小学5年の2学期から不登校になった女の子がいました。その子は小学校卒業まで不登校状態が続いたのですが、卒業を機にご両親と話し合いをして、中学校は小学校のときの知り合いがいない別の学区の学校に入学して、新規まき直しを図ろうということになりました。
中1の1学期は、無遅刻・無欠席で頑張りました。ところが、2学期の始業式の最中に貧血を起こして倒れ、その後3年間、まったく行けなくなってしまったのです。
「不登校が解決する」とは、どういう状態を指すのでしょうか。「一日も休まず通えるようになる」ことでしょうか。でも、この女の子は1学期のあいだ一日も休まず登校して、その結果、また行けなくなってしまいました。そうなると、「解決」のイメージをあらためて考え直す必要があるかもしれません。
逆説的な言い方になりますが、不登校が解決するとは、「具合の悪いときや調子が悪いときに休めるようになる」ことだと私は思っています。
「休んではいけない」「遅刻したらいけない」という思いにがんじがらめに縛られている状態は、決して「不登校が解決した」状態とはいえません。「休んではいけない」という思いは、「またいつか休んでしまうかもしれない」という不安や恐怖から生まれてくるわけで、いまだ心が「不登校」に縛られているということです。
それよりも、「今日は調子が悪いから休もう」と思える状態のほうが、逆に「不登校」という状態から脱け出しつつあるように思います。
とはいえ、再登校後の子どもたちは「休むこと」に非常に神経質になっていますから、実際はなかなか休めないかもしれませんが、それでも「今日はちょっと具合が悪いなあ」「休もうかなあ」と弱音を吐いたりできるほうが、解決(回復)のイメージに近いのではないでしょうか。
■ 「なんでも自分でやらないといけない」「他人に迷惑をかけてはいけない」という思いが、その子を追いつめる
子どもによっては、「自分が困ったときにまわりに助けを求めてはいけない」と思い込んでいる場合もあります。そういう子に話を聞くと、「なんでも自分でやらないといけない」「他人に迷惑をかけてはいけない」という思いがとても強いんですね。
だから、具合が悪いときでも「学校を休んだら誰かに迷惑をかけてしまう」「クラスの誰かに悪口を言われるかもしれない」などと考えて、まわりに弱音を吐けない、助けを求められないということになってしまうのです。
その子たちの背景をさらに掘り下げてみると、「自立」というイメージがその子の意識や気持ちを縛りつけている場合があります。
自立を「人に迷惑をかけずになんでも自分でやれること」と考えている子は、自立というものを、ややもすると「他人との関係を断ち切って、自分だけで生きていかなければいけない」というような《孤立》のイメージでとらえてしまいがちです。
そうなると、自分がいくら困っても、一人ではできないことがあっても、まわりに助けを求められず、どんどん自分を追い込んでしまうことになります。この子はそういう状況のなかで苦しんでいたのかもしれないと考えると、わが子の気持ちも理解しやすくなるのではないでしょうか。
4. 通信制高校で再び不登校になったとき、どんな対応をしてくれるのか?
通信制高校は出席が前提ではないものの、「通学型」に入学したからには、少しでも通えるようになってほしいと思うのが親心。
でも、また行けなくなったとき、不登校経験のある生徒が多く通う学校はどんな配慮をしてくれるのか。
大事なのは「一人ではない」という安心感を届けること(講師:田中雄一)
通信制高校は、もともとは中学卒業後、社会に出て働いている青少年が働きながら学ぶための高校としてスタートしました。したがって、その学び方も家庭での「自学自習」が基本となっており、出席を前提としない教育システムです。これが全日制高校との大きな違いです。
たとえば、全日制高校で不登校になって欠席日数が規定の日数を超えると「留年」、つまり、次の学年に進級できなくなります。こうした事態を避けるため、現在、全日制高校で不登校になった生徒の多くが、進級が危うくなってきたとき、通信制高校への転入を検討するようになってきました。以下のグラフに示したとおり、いまや通信制高校に在籍する生徒は全国で約30万人にのぼりますが、その1〜2割は全日制からの転入組が占めています。
■ なぜ「通学型」の通信制高校が増えているのか
こうした状況を受け、近年、とくに私立では「通学型」の通信制高校が急増しており、「出席を前提としない」高校ではあるものの、実際の学校生活はほぼ「全日制」のような、毎日登校して、部活も学校行事もあるといった通信制高校も多くなってきています。
なぜ、「通学型」が増えているかというと、ひとつは、中学校で不登校を経験したわが子に集団のなかで生き抜く力やコミュニケーション力をつけてほしい、将来のためにも社会性を身につけてほしいと願う親御さんが多いこと。もうひとつは、子どものほうも「友だちがほしい」「楽しい学校生活を経験してみたい」など、不登校によって経験できなかったことを取り戻したいという思いがあるからです。
通学型のなかには、「週1日コース」「週3日コース」「週5日コース」というように、本人の希望や回復の度合いに合わせて登校の頻度を選べるようになっていたり、「美術コース」「マンガ・アニメコース」「声優コース」など、興味・関心のあるものを専門的に学べるコースを設けるなど、それぞれの学校でいろいろな特徴があります。
ですから、通信制高校を選ぶ際には、お子さんの興味・関心のあるコースや部活があるかどうかなども考慮に入れて、親子で話し合いながら決定してほしいと思います。
■ 高校に入学できたからといって、すぐに毎日元気に登校できるとはかぎらない
前置きが長くなりましたが、ここからは本題の「通信制高校で再び不登校になったとき、どんな対応をしてくれるのか」についてお話ししたいと思います。
中学校時代に不登校を経験した子どもたちが、高校入学に際してもっとも心配しているのが、「授業についていけるのか」「友だちができるか」、そして、「高校でまた不登校になったらどうしよう」ということです。
そうした不安を抱えて入学してくる子どもたちに対して、学校は何ができるのか。学習面や友だちづくりについては、また別の機会に詳しくお話ししたいと思いますが、まずは、学習の遅れや友だちづくりが心配な生徒にどれだけきめ細かなサポートができるかが、「また不登校になったら…」という不安を払拭する大きな力になると考えています。
中学校時代に不登校だった子どもたちは、高校に入学できたからといって、すぐに毎日元気に登校できるようになるわけではありません。骨折して長期間ベッドで過ごしていた子が、ギプスが取れたからといっていきなり全力疾走できないのと同じで、「通学する」ことについても、ある程度のリハビリ期間が必要になる場合がほとんどです。
入学式には出席したけれど、翌日から何カ月も登校できない生徒や、最初の3カ月は頑張って通ったけれど、その後、息切れ状態になって通えなくなる生徒もいます。そのとき、学校はどんな対応をしてくれるのか、気になるのは当然のことでしょう。そこで、ひとつの例として、私が校長を務める通信制高校(通学型)の対応についてご説明したいと思います。
■ 再び不登校になった生徒へのメンタル面・学習面のサポートの一例
まず、入学後、生徒に再び不登校の傾向がみられた場合は、本人の心身の状況を把握することから始めます。無理に登校を促すのではなく、電話やメール、あるいは家庭訪問など、柔軟な方法でつながりを保ち、生徒の気持ちに寄り添った関わりを大事にしています。
また、保護者とも連絡をとり合い、生活リズムや家庭環境について情報を共有しながら、今後の支援方法を一緒に考えていきます。また、メンタル面のケアについては当校と連携するカウンセリングセンターにおいて、生徒だけでなく、保護者の相談にも随時応じられるようになっています。
学習面では、在宅でも自分で取り組めるようにすべての授業をライブ配信したり、放課後などを利用して個別の学習指導を行ったりしています。また、直接会うことはできないがオンライン上なら顔を合わせることができるという場合は、ZoomやGoogle Meetを使って相談を受けたり、コミュニケーションを図っています。
大事なのは、「一人ではない」という安心感を生徒に届けることだと考えています。そうして登校への焦りを与えず、小さな成功体験を積み重ねながら再び学校とつながるきっかけを探していきます。
ちなみに、通信制高校において「通学する」というのは、全日制に比べるとかなりゆるい感じになっています。まず、始業時間はラッシュアワーが苦手な生徒に配慮して少し遅めの9時半。ただし、通学型とはいえ通信制ですから出席を前提としておらず、当然、「遅刻」という概念もありません。したがって、9時半から登校してくる生徒もいますが、午後からとか、夕方からとか、それぞれが自分のペースで登校してくるのが日常風景になっています。
それでも通ってこれない生徒が約1割おり、そうした生徒には、いま申し上げたような関わりや学習面のフォローを行っているわけです。通信制の単位取得に必要なレポート提出も、登校して紙ベースのレポートを提出する必要はなく、「ロイロノート・スクール」というアプリを活用して、自宅からでも提出することができるようになっています。
なお、これはあくまでひとつの例であり、学校によって対応はさまざま、千差万別です。したがって、学校説明会や学校見学会、面談の際などに、具体的にどのような対応をしてくれるのかを必ず確認するようにしましょう。
5. 発達障害の子どもの進路選択で気をつけることは?
発達障害のある子が全日制の普通高校に行けるとなると喜ぶ親御さんも多いが、彼らには合理的配慮(その子の特性に合わせた配慮)が必要になるので、そこが悩ましいところ。
では、どんな学校を選べばよいのか?
何を優先すべきか、学校に求めているものを親子で整理してみる(講師:齊藤真沙美)
発達障害についてはみなさまご存じかと思いますが、脳の機能のかたよりによって物事のとらえ方や行動のパターンに特性があり、そのために日常生活に支障が起こる障害です。代表的なものとして、自閉スペクトラム症、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)などがあげられます。
もちろん発達障害があっても学校や集団に適応して生活していくことができないわけではありませんが、学校というものは定型発達の子どもたちを基準にしているシステムが多いため、発達障害のある児童生徒にとってやりにくい面が多々あることは否めません。
ここで重要なことは、発達障害のある子どもたちが「二次障害」を引き起こさないような学校環境をどう整えるかですが、人的な問題、予算的な問題等々から、それがなかなか叶わないのが現状です。
■ 「二次障害」を避けるためにも学校選びは重要
「二次障害」とは、発達障害そのものにより生じる障害ではなく、周囲の環境とのミスマッチ、失敗体験、障害への周囲の無理解から生じる不適切な対応等の積み重ねによって二次的に起こる心身の症状をいいます。
発達障害の子どもたちはいろいろと苦手なことが多いために、学校生活のなかで失敗体験をくり返すことになりがちです。それをクラスメートや先生から注意されたり、叱責されることも少なくありません。その結果、自信を失ったり、自尊心が傷つけられることも多く、「二次障害」が生じる可能性が高くなります。
具体的には、「対人恐怖」「対人不安」「無気力」などの症状があらわれたり、それによって不登校状態になったり、無気力が高じて抑うつ状態におちいることもあります。また、お腹が痛い、頭が痛い、気持ちが悪いなどの身体症状が強く出る場合もあります。
このような状態を避けるためには、本人の特性に合った学校を選ぶことが非常に重要になってきます。できればみんなと同じ全日制の高校に進学したいという子もいますが、先々のことを考えると、「入学できるかどうか」よりも、「入学後に通いつづけられるか」、さらには「社会に出てから必要になるスキルを身につけられるか」という視点が大事になってくると思います。
そして、社会に出ることを目標にするならば、そのためには高校の段階でどのような学びが必要か、それが学べる学校はどこかという視点で学校選びをする必要があるでしょう。
■ 学校選びのチェックポイント
●学校の規模
学校選びのポイントのひとつは学校の規模。1クラスの人数や1学年のクラス数など、どれくらいの規模の学校で生活するのが、本人にとって安心できるのか。1クラス40人程度を基準とした学校もあれば、少人数・習熟度別指導を特徴にしている学校もあります。
●学習面のフォロー体制
学習面のフォローがどの程度期待できるのかも大切です。発達障害の子どもたちは、教科による得手不得手の差が大きかったり、能力的にアンバランスな部分があることに加えて、小中学校で不登校だった場合には、おおむね学習の積み残しがあります。その抜け落ちている部分をフォローしてもらえる学習体制が整っているかどうかが大きなポイントになるでしょう。
●登校できなくなったときのサポート体制
登校が難しくなったときや悩みを抱えたときに気軽に相談できるカウンセリング体制や教職員のサポート体制があるかどうかも大事なポイントです。また、不登校との関係でいうと、全日制高校のように出席を前提とするカリキュラムを組んでいる学校では、年間3分の2以上の出席が求められます。それをクリアしないと留年になったり、卒業できない可能性も出てきます。
中学時代に不登校だった場合、年間3分の2以上の出席をクリアすることがかなり高いハードルになったり、それがプレッシャーになることも少なくありません。したがって、まずは進級や卒業に必要な出席の条件(何をもって出席とするか、遅刻・早退も含めた許容範囲等)を確認する必要があるでしょう。一方、出席を前提としない通信制高校であれば、その点についてはなんら心配する必要はなくなります。
●ソーシャルスキルトレーニング等の実施
社会に出ていくための力として、社会性(ソーシャルスキル、対人コミュニケーションスキルなど)を身につける実践的なトレーニングが行われているかどうかも、学校選びの基準としてチェックしておく必要があるでしょう。
■ 「合理的配慮」とは?
今、公立・私立の別なく全国すべての学校に対して、障害のある児童生徒に「合理的配慮」を提供することが義務づけられています。それは、たとえば発達障害のある生徒が、授業中に先生の板書をノートに書き写すことが難しいので、「事前に板書の内容をプリントにして渡してほしい」とか「デジカメで板書を撮影させてほしい」など、なんらかの助けを求める意思の表明があった場合には、必要な「配慮」をすべきというものです。
ただし、これには学校にとって「過度な負担になりすぎない範囲で」という断り書きが付いており、たとえば自閉スペクトラム症の児童の保護者から、ときどき精神的に不安になりパニックを起こすことがあるので、そのときにクールダウンできる部屋(場所)を用意してほしいという要望があったとしても、提供できる空き教室等がなく、増設する予算もないという場合、そうした配慮はできないことになります。
また、学習面のサポートとして個別指導の要望を出しても、「そもそも教員の数が足りないので個別指導はできません」ということも起こりうるわけです。
ですから、「合理的配慮」をどの程度まで行ってくれるのか、具体的にどのような「配慮」の実績があるのかを確認しておく必要があるでしょう。なお、この「合理的配慮」をはじめ、教職員の発達障害への知識・理解、対応のノウハウや経験がどの程度あるのかも、教育環境としてはとても重要な要素になります。
そのほか学習面の配慮としては、たとえば、レポートの提出期限の延長、文字を書くことが困難な場合にはタブレットやパソコンの利用を認める、その子の苦手さに合わせて課題の分量を調整する、試験の際は集中できるよう別室を用意したり、適宜、試験の時間を延長するなどの配慮が考えられます。
これらの配慮は何も特別なことではなく、近視の人がメガネを使用して視力を補うことと同じです。こうした配慮ができる学校かどうかも選択基準のひとつとして検討していただければと思います。
■ 実際にどんな学校を選べばよいか
ここからは、実際にどんな学校を選べばよいか、校種別の特徴、それぞれの留意点などについてご説明したいと思います。
●公立高校における通級指導教室の利用
公立高校には「通級指導学級」の制度が導入されています。「通級指導」とは、大部分の授業を通常の学級で受けながら、ソーシャルスキル・トレーニングなど、障害に応じた特別な指導を「通級指導学級」で受ける指導形態のことです。対象となるのは、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、学習障害、注意欠如・多動症、肢体不自由、病弱・身体虚弱などの生徒で、障害による学習上・生活上の困難を改善するための指導が行われます。
2023年度現在、通級指導を受けている高校生は全国で2327人(文科省調べ)。自治体や学校によって差があり、残念ながら、どの高校でも通級指導を受けられるわけではありません。通級指導が利用できる高校についての情報については、各自治体の総合教育センターなどにお問い合わせください。
●定時制高校
定時制高校というと夜間に通うと思われがちですが、今では朝と昼の時間帯に授業を行う「昼間二部定時制」や、朝・昼・夜の時間帯に授業を行う「三部制」の学校も増えています。
一日の授業時間が短く(4時間程度)、自分のライフスタイルに合わせて通学時間帯を選べるため、仕事や家庭の事情で全日制に通えない人、不登校経験者など、多様な学びのニーズに応えています。全日制と同様、高校卒業資格も取得できます。不登校経験者のなかには朝から登校するのが難しい子どもたちも多いので、昼間に通えたり、登校時間がゆるく設定されているところもあり、通いやすいのではないでしょうか。
なお、宮城県では、2027年度から定時制と通信制の機能をあわせもつ新しいタイプの全日制・単位制高校「アイデアスクール」が開校されます(予定)。学校生活や学習に困難を抱える子どもたちが増えている状況や、興味・関心、進路希望の多様化に対応するため、学級を設けず、生徒自身が時間割を作るなど、柔軟なカリキュラムを特徴としています。不登校を経験した子どもたちに対して、どの程度配慮してくれるかはわかりませんが、従来の全日制高校にはない教育環境が整備された高校として注目したいと思います。
●特別支援学校
知的障害を伴う発達障害の子どもたちにとっては、「特別支援学校」もひとつの選択肢になると思います。社会に出ていくための力を身につけるため、食品製造、福祉、流通サービス、保育など、就職に結びつく専門教科を設けているところもあります。
ただし、かつて特別支援学校は発達障害の子どもたちを柔軟に受け入れていましたが、近年、入学希望者が増えていることもあり、知的障害を伴う場合(IQ70を下回る場合)を除けば、入学はかなり厳しくなっているのが現状です。
●通信制高校
不登校を経験した子どもたちにとって、出席を前提としない通信制高校は魅力的な選択肢のひとつです。しかし、公立の通信制高校は「自学自習」を基本としており、定期的なレポート提出に向けた計画性・継続性のある学習習慣や自己管理能力が大切になってきます。自宅学習が身についていない場合はそこが難しく、入学後すぐにやめてしまう場合も少なくありません。
一方、私立の通信制高校では「通学型」コースを設けているところが多く、全日制と同じように通学して授業を受けながら学習面のサポートを受けることもできます。学校行事やクラブ活動が行われている学校もたくさんあります。学校によってカリキュラムや教育活動の内容に違いがあり、その点の確認が必要になりますが、自宅でひとりで勉強することに不安があったり、中学時代にできなかった学校生活を経験してみたいといった希望がある場合は、私立の「通学型」の通信制高校のなかから自分の希望に合った学校を選ぶこともできます。
通学型の通信制高校は、前身が「サポート校」(通信制高校の学習面や学校生活をサポートする民間の教育機関)であることが多いため、他の高校に比べると不登校対応の面では一日の長があり、発達障害の生徒も学びやすい教育環境が期待できます。
以上、発達障害の子どもたちに合った高校、教育サービスについて紹介してきましたが、いずにせよ、「その子の特性に合った学校」を選ぶことが何よりも重要になってきます。そのためには、実際に学校に足を運んで、親子で一緒に学校見学をしたり、学校説明会に参加して、自分の目で在校生の様子、教員の対応、学校の雰囲気、校風などを確認することが大切です。
できれば、お子さんの得手不得手を表にまとめるなどして、そこをフォローしてくれる学校はどこなのか、○×△方式で評価をしたり、それぞれの学校のサービスの特徴を比較検討しながら、何を優先して学校選びをすればよいのか、親子で検討していただければと思います。
6. 人はなんのために不登校になるのか?
多くの親は「なぜ不登校になったのか」(原因)を知りたがるけれど、結局、犯人探しになってしまい、問題解決にはつながらないことが多い。
「なんのために」(目的)という視点をもつと見えてくるものがある。
どんなに苦しくてもまわりに助けを求められなかった子が
不登校というかたちで助けを求めている
(講師:海野千細)
今日のように不登校の講演会に参加したり、関連する本を読んだりすると、「不登校はSOSのサイン」という言葉に出合うことが多いかと思います。しかし、多くの親御さんはこの言葉に違和感を覚えるのではないでしょうか。
なにしろ当のわが子は、毎日好きな時間に起き、好きな時間に好きなものを食べ、四六時中、ゲームはやるわ動画は見るわという生活ですから、とても悩んでいるとは思えない。こんな状態を「SOSのサイン」と言われてもねえ…と納得のいかない思いを抱くのは当然のことでしょう。
しかし、相談の現場で子どもたちと話をしていると、口には出さないけれど、その様子から「苦しい」「助けて」という声が聞こえてくるような気がします。もし彼らが、苦しいとき、つらいとき、その思いを正直に誰かに伝えることができたら、そして、その思いをきちんと受けとめてくれる人が身近にいたら、彼らは不登校というかたちでSOSを出さなくてもなんとかやっていけたのかもしれません。
ところが、先ほど『3. 再登校すれば解決なのか?』でも少しふれましたが、不登校の子どもたちの多くが「助けを求めてはいけない」と思っているのではないかと感じることがよくあります。どんなに苦しくても、つらくても、誰にも助けを求められず、不登校にもなれなかったら、その子たちはどうなっていたのでしょうか。もっと追いつめられて心の病気になったり、もしかしたら自分の命を絶たざるをえない状況におちいっていたかもしれません。
■ 「休みたいけど休めない」という葛藤
ある精神科医から「『不登校になる』ということは、カウンセラーに相談したり、医療機関を受診するなど、専門家に助けを求めるための《切符》を手に入れたということ」といった趣旨のお話を伺ったことがあります。
不登校というとマイナス面にばかり目が行きがちですが、その意味では、これまで助けを求められなかった子が、どうしようもなくなって不登校になり、そのおかげで「まわりに助けを求められるようになった」という、そこが重要なポイントになるような気がします。今日のメインテーマ「なんのために不登校になるのか?」に寄せて言えば、「まわりに助けを求めるため」ということになります。
もちろん子どもたちは、そのために意図的に不登校になったわけではありません。彼らの多くは不登校に至るギリギリのところまで、「自分でなんとかしなければ」と踏ん張りつづけ、「ここで休んだら二度と学校に行けなくなってしまうんじゃないか」という不安にかられ、「休みたいけど休めない」という葛藤と闘いつづけています。
そして、踏ん張っても踏ん張ってもどうしようもなくなって、休まざるをえなくなった。これが実情であり、その背景にあるのは「助けてほしい」という思いなのだと思います。
とはいえ、「不登校」というSOS信号はとくに親御さんにとってはわかりにくく、助けてもらいたいはずの親から、逆に「わがまま」「甘え」と受けとられ、責められることになりがちです。親にしてみれば、そもそもわが子の不登校の理由がわからないわけですから、そういう対応にならざるをえないのも確かでしょう。
そんなとき、「この子は、私たち親に『苦しい』『助けてほしい』と伝えるために不登校になったのかもしれない」という視点に立ってみると、子どもの見方もだいぶ変わってくるように思います。
■ まず、親のほうから子どもに助けを求めてみる
こうしてようやく不登校というかたちで「助けて!」というメッセージを出せるようになったわが子に対して、親のほうも「助けを求めていいんだよ」というメッセージを伝えられるようになると、子どもははじめて「自分が許された」と感じ、安心感が生まれてきます。
しかし、親にしてみれば、まったく悩んでいないように見えるわが子に向けて「苦しかったら助けを求めていいんだよ」「苦しいと言ってもいいんだよ」というメッセージを送るのは非常に難しいわけです。
そんなことを言って、このままズルズル休みつづけたらどうしようという不安もあるでしょう。子どものほうだって、これまでずっと学校に行かないことで責められてきたのに、急に「助けを求めていいんだよ」と言われても、どうしたらいいのか戸惑ってしまうかもしれません。そんなとき、どうしたらいいのか。
たとえば、お母さんが出かける前に、子どもに「雨が降ってきたら、洗濯物を取り込んでおいてね」と頼む。そして、やってくれたら「ありがとう」と伝える。つまり、日常のちょっとしたやりとりのなかで、「お母さんは〇〇ができないから助けてね」と伝えることで、「あなたも困ったり苦しいときは助けてと言っていいんだよ」というメッセージを届けるわけです。
■ これまでとは違う子どもの姿が見えてくる
「なんでも自分でやらないといけない」「人に頼ってはダメだ」と思い込んでいる子どもには、こんなふうに、まず親のほうから子どもに助けを求めるやり方のほうがやりやすいし、うまくいきやすいかもしれません。「人に頼る」「みんなで助け合う」「お互いさま」ということを言葉で伝えるよりも、日々の暮らしのなかで、家族、夫婦、親子の間で、くり返し実践していく。そんなことから始めてみるといいのかなと思います。
実際に行動に移すのはなかなか難しいかもしれません。でも、試しにやってみると、そのうち頼まなくても洗濯物を取り込んでくれるようになったり、「ほかにやることない?」「僕にできることあったらやっておくよ」と言いだしたりと、小さな変化があらわれてきます。
すると親御さんのほうも「この子、好き勝手にしているだけじゃないのかも…」と、これまでとは違う子どもの姿が見えてくるようになったりします。そういう視点を大事にして日々を過ごしていただけたらと思います。








