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いま、子どもは回復途上のどこにいて、親は何をすればいいのか? Part.2
登進研バックアップセミナー124 第1部講演抄録(2026年5月17日開催)
講師 海野千細(八王子市教育指導課心理相談員)
安定・充足期《フェーズ6》における子どもの状態
ここからは、最後の段階である「安定・充足期」の説明に入ります。
この時期、子どもはお母さんお父さんから責められなくなって家で安心して過ごせるようになり、少しずつ「自分は受け入れられている」と感じられるようになっていきます。
●外の世界に関心が出てきたときに子どもに起こる変化
この時期には、当初の我を張って自己防衛していた時期(消耗・防衛期)にはみられなかった外の世界への関心がようやく出てきます。同時に、これまで閉じていた心のシャッターが開いて、外からの刺激も受け入れられるようになるという、両面の変化が起こります。
それを象徴するのが、《フェーズ6》の「美容院(床屋)や歯医者に行けるようになった」という項目です。美容院や歯医者では自分の体を他人にあずけるかたちになりますから、相手を信用していないと任せられません。それができるようになったということは、メンタル面が安定してきて、人を信頼できるようになってきたことのあらわれと考えられます。
同じく《フェーズ6》の「髪型を気にするようになった」という項目も、外の世界や人の目を気にするようになったあかしです。ネットやテレビで目にする同世代の若者たちの服装や髪型にも関心が出てきて、自分もあんな格好をしてみたいと思うようになったりするわけです。

●不登校の子どもたちのためのさまざまな居場所
《フェーズ6》における学校関連の変化としては、教育支援センター(適応指導教室)やフリースクールに通いはじめたり、保健室登校や校内別室登校をするようになったりします。
実際にそこに足を運んだり、通えるようになるということは、その子の心にたまったストレスが軽減されてきて、自分である程度ストレスコントロールができるようになってきたあらわれといえます。
ここで大事なのは、フリースクールも、教育支援センターも、別室登校も、毎日通うことが前提になっていないということです。つまり、自分の状態に合わせて、休みながら登校するやり方をそこで体験できるわけです。
その体験が、今後、教室に戻る段階になったとき、「疲れたら無理をしないで休む」「休み休み通う」という登校の仕方の絶好のシミュレーション(予行練習)になります。そういう《お疲れ休み》を上手にとれるようになれば、いずれ訪れる「再登校」「学校復帰」というハードルも少し越えやすくなるように思います。
現在、教室にはいられないけれど、学校には行ける子どもたちのための居場所づくりが、学校ごとにさまざまなかたちで展開されています。
たとえば、HSC(Highly Sensitive Child=ひといちばい敏感な子ども)傾向のある子どもが、教室内のガヤガヤが苦手で教室に入れない場合、「校内別室登校」というかたちでその子が落ち着いて学べる環境を用意できれば、休まずに登校できる場合もあります。その場合、子どもは「不安・緊張期」から「消耗・防衛期」を経ないで、「不安・緊張期」を抱えつつ「安定・充足期」に移行できるケースも出てきます。
また、《フェーズ6》の最後に「特別支援教室(通級学級)の時間には登校できるようになった」という項目がありますが、発達障害等により特別支援教室(通級学級)を利用している子どもたちのなかには、通常学級には行けないけれど、週1日、特別支援教室の時間には行けるという子もいます。
こんなふうに不登校であってもずっと家にいるのではなく、週1日でも通える場所が見つかると、親も子も少し心に余裕がもてるような気がします。
●「自分というものがない」ことで苦しんでいる子どもたち
こうした通常の教室以外の場所に通うときに大事なのは、親の思いよりも、本人にとって無理のない登校ペースを尊重することです。
たとえば、週1〜2日のペースで通いはじめたとして、それが2〜3カ月も続くと、たいがいの親は「もう少し登校する日を増やせないものか」と考えます。そんなとき、子どもは「やっぱりね」と思い、ちょっとため息をつくかもしれません。子どもは、「自分が一日でも多く学校に通えたら、もっといえば、毎日通えるようになったら、親はうれしいんだろうな」とわかっているからです。
子どもたちの多くは、自分のしたいこと、やりたいことよりも、お母さんお父さんが望むことを優先して行動しています。その結果、自分は本当は何がしたいのかさえわからなくなっている子もいます。
何がしたいのかわからなくなった子に、親はいろいろアドバイスをするわけですが、ここでもまた「そのアドバイスどおりにやったほうがいいんだろうな」と親の意向を汲んでしまう子がいます。不登校の子どもたちは、こんなふうに「自分というものがない」ことで苦しんでいる場合がけっこう多いんです。
《フェーズ7》いよいよ再登校!
不登校の子どもたちは、お母さんお父さんに嫌われたくないと思っています。「親に好かれたいなんて贅沢なことは言わない。せめて嫌われたくないんだ」と話してくれた子もいます。
「家族に迷惑をかけている」と思っている子も多いので、「少しでも親が喜ぶようなことをしなければ…」「自分の思いは二の次にしてでも、親の喜ぶことをしよう」という気持ちが強くなりがちで、その思いがますますその子を苦しめます
●登校ペースは子どもが決める
《フェーズ7》の段階に入って、いよいよ再登校!となったときにも、子どもは「親を喜ばせたい」「がっかりさせたくない」と思っています。再登校をするときの登校ペースも「親の思いを汲みとって、頑張って登校ペースを上げていく」というやり方になりやすいのですが、それではまた同じことのくり返しです。
「不登校からの回復」とはどういう状態を指すのかを考えるとき、それは「学校に毎日通えるようになる」ことではありません。その子が、これまでのようにただ親の意向に沿うのではなく、「自分は本当は何がしたいのか」「自分はどのように生きていきたいのか」を自分の頭で考えられるようになること。それが本質的な意味での「回復」ではないかと私は思っています。
登校ペースにしても、まずは自分で学校に通ってみて、自分で体験し、自分で考え、このままのペースだと保たないなと思ったらペースダウンする。逆に、もう少しペースアップできそうだと思ったらトライしてみる。
そうして自分の心身の調子をみながら、自分で自分をコントロールできるようになったら、それこそが子どもが自分の力でつかみとった本当の自信につながります。それは、その子が将来生きていくうえでの大きな財産になるでしょう。
●再登校する日が近づいてくると機嫌が悪くなるのはなぜ?
不登校の子どもたちは、再登校のタイミングとして「新学期」や「夏休み明け」「学年の変わり目」など、なんらかの節目を利用して「ここからやり直そう」とすることがよくあります。小学校卒業を機に「中学校からは頑張ろう」と決意する子も少なくありません。
そんなとき、たとえば始業式の1週間前あたりから機嫌が悪くなる子がけっこういます。表情や態度も怒っているような、イライラしているような感じになりますから、家族は「ああ、また今度も行けないかもしれないな」と思いやすいのですが、実際はその逆で、本気で行こうと思っているから機嫌が悪くなるんですね。
本気で行こうと思っているからこそ、頭の中で「登校したときにどんなことが起こるか」をシミュレーションして、「クラスメイトからどんなことを聞かれるか」「座席は変わってないか」「隣の席は誰か」「授業についていけるか」……等々、あれこれ考えすぎて不安になり、そのストレスから不機嫌になり、家族に当たったりするわけです。なかには、頭痛や腹痛などで具合が悪くなる子もいます。
反対に、始業式の1週間前になってものんきにしているような子は、「とりあえず、この節目を利用して再登校するつもりはないんだろうな」と思ったほうがいいかもしれません。
●《お疲れ休み》について事前に子どもと話し合っておく
《お疲れ休み》については、再登校をスタートする前に親子で「疲れたら、ときどき休みながら通えばいいよね」という話し合いをしておくとよいでしょう。
ただし、「ときどき休む」ことがクラスの中で受け入れてもらえるのかという問題は残ります。クラスメイトの評価を気にしない子もいますが、大半の子は「おまえ、また休んだのかよ〜」とか「体育のある日は必ず休むよね」などと言われることをすごく嫌がっています。
その場合は「疲れた日も休むんじゃなくて一応登校して、早退すればいいんじゃない?」と提案してみたらどうでしょう。
不登校の子どもは「再登校したら一日も休んではいけない」「無遅刻、無欠席じゃないといけない」と思い込んでいることが多いので、「疲れたら休んでいい」「それが難しいなら早退すればいい」「そうやって自分の疲れ具合に合わせて登校するやり方もあるんだ」と気づかせてくれる貴重な体験になるはずです。
●「進路希望調査票」は、子どもが現実と向き合うためのチャンス
中3になると、卒業後の進路をどうするかが大きなテーマになってきます。
学校から2学期頃までに「進路希望調査票」という書類が3回くらい送られてきますので、それに記入して提出します。
その後、三者面談があって具体的な進路先を決めていくわけですが、そのとき、不登校の子をもつ親御さんはどうすればいいかわからず困ってしまいます。わが子はだいぶ前から学校に行っておらず、勉強も遅れているし、ろくに口もきかないから、どの高校に行きたいのか、行ける学校があるのかもわからないからです。
ただ、この「進路希望調査」が、不登校の子どもが、いま自分の置かれている現実と向き合うためのいいチャンスになることは確かです。
子どもは、親から「進路どうするの?」と言われるよりも、「学校からこういう書類が来ているよ」と言われたほうが受け入れやすい面がありますから、これを機に親子で、「じゃあ、進路をどうしようか」という話し合いができれば理想的です。
話し合いは一度だけではまとまらないはずですから、そのときは「未定」と記入すれば大丈夫です。そのうえで、多くの場合、本人不在のまま「三者面談」に入るわけですが、そこで親御さんから学校側に実情を説明し、こんな状況でも入学できる高校があるかどうかを確認することもできるでしょう。
あるいは、事前に親御さんが学校の情報を集めておき、本人が進路を気にしはじめたところで、タイミングを見計らって学校の情報を見せ、親子で話し合うこともできるかもしれません。その結果をふまえて、2回目、3回目の「進路希望調査票」に記入していくといった流れになると思います。
本人が「自分で選んだ道だ」と思えるようなサポートを
子どもの不登校について、「いつになったら治るんだろう」と考えたことのある親御さんは多いと思います。
不登校とは、その子が「いま自分は苦しいんだ、つらいんだ」ということを周囲にわかってもらうためのサインであり、そのために不登校になっている(本人が自覚しているか否かにかかわらず)わけですから、そうしたつらさ、苦しさが軽減すれば、その子は不登校でいる必要がなくなります。
つまり、不登校が「治る」というよりも、不登校である「必要がなくなる」ということです。
しかし、元気になってまた学校に通うようになっても、再び不登校になる可能性はいくらでもあります。それは、自分が苦しい状況になったとき、学校を休むことで自分を守ってきた経験がある子は、次に苦しくなったときも、やはり学校を休むことで自分を守ろうとしがちだからです。
では、再び不登校にならないためにはどうしたらよいのでしょうか。
そもそも不登校の問題について「もう絶対に不登校にならないようにしよう」を目標にすることは、現実的ではありません。なぜなら、人間は生きているかぎり、必ずつらいことやうまくいかないことにぶつかるからです。
ですから、そうなったときに「不登校にならないように」ではなく、それを受けとめられる力をどうつけていくか。目標とすべきはそちらのほうではないかと思います。
子どもが不登校になったとき、なんとかして登校させたいと思うのは親として当然のことです。
しかし、不登校というトンネルの「出口」として、再登校を選ばない子もいます。要するに、学校に戻る以外の道を選ぶわけです。
あるいは、再登校という「出口」を選んだとしても、進路先の選択において親と子の希望が一致しない場合も決してめずらしくありません。
そうなったとき、親は子どもをどうサポートしていくか。
先ほど、子どもが自分で体験して、自分で考えて、自分で選べるようになることがいちばん大事だとお話ししましたが、そのとき、最終的に子ども自身が「この道は、ほかの誰でもない自分が選んだ道だ」と思えるようなサポートをしてあげることが、親にできる最高のプレゼントではないかと思っています。








