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Q&A 学校をかえて良いとき、悪いとき ~パート1~

2008年6月15日に開催された登進研バックアップセミナー62の第2部「Q&A 学校をかえて良いとき、悪いとき」の内容をまとめました。

Q&A 学校をかえて良いとき、悪いとき ~パート1~
講師および司会は、以下のとおりです。
講師 齊藤真沙美 (世田谷区教育相談室心理教育相談員)
池亀 良一(代々木カウンセリングセンター所長)
荒井 裕司(登校拒否の子どもたちの進路を考える研究会代表)
司会 佐藤 有里(横浜市東部地域療育センター診療部 臨床心理士)

1.学校をかわるときに気をつけたいこと(講師:池亀良一)

・子どもの気持ちを大切に
転編入に際して、子どもの意思を大切にしましょうとよくいわれます。これはもちろん当然のことですが、それ以前の問題として、親が子どもの意思を確認できるかどうか、つまり、親子のコミュニケーションが成り立っているかどうかということは、とても重要な問題です。
子どもと意思の疎通ができない状況で、親が話を進めてしまうのは非常にまずいし、子どもの意思が確認できないのに、親の望みで突っ走ってしまうようなことも避けなければなりません。

もしかしたら、子どものほうは、「いまは行けないけれど、この学校で頑張りたい」と思っているかもしれません。逆に、「もう、この学校では無理」と感じているかもしれません。まず、本人の気持ちをきちんと確認しましょう。

・心のエネルギーはたまっているか?
もうひとつ大事なことは、心のエネルギーがちゃんとたまっているかということ。学校をかえて新たな環境でやり直すには、非常にエネルギーがいります。まだまだエネルギー不足なのに学校をかえたりすると、また行けなくなってしまい、子どもは二重に傷ついてしまいます。

学校をかえてやり直すためのエネルギーがたまっているかどうかのチェックポイントとしては、たとえば、「食事、睡眠、入浴など、日常生活がある程度コントロールできているか」「家では安定し、落ち着いていられるか」「環境をかえてやってみようという意欲があるか」などが、ひとつの目安になるでしょう。

・子どもにその気がないときは……
子どもに学校をかわる気がないときは、親からみて、いくらいい学校であっても、無理に話を進めるのはやめましょう。親御さんがあせる気持ちもわかりますが、無理にあせって決めても結果はよくないことが多いのです。

その結果、通えなくなると、子どもは「親が勝手に決めたせいだ」「強くすすめられたからしかたなく行った」などと親のせいにして、親子関係まで悪くなってしまうことも少なくありません。やはり本人がその気になるまで待つのが基本です。

2.学校をかわることに対する子どもの不安な気持ちをどう支えるか (講師:齊藤真沙美)

・不安なのは、現実と向き合える力がついてきたから
不登校だった子どもが、別の学校に通うことになったとき、さまざまな不安におそわれます。
「学校をかわっても、また同じことの繰り返しではないか」「友だちはできるか」「勉強についていけるか」……などなど、子どもたちは小さな胸にたくさんの不安をかかえています。

でも、考えてみれば、これらの不安は、いままで不登校だった子どもにとっては当然の不安です。逆にいえば、こうした不安が出てきているかどうかが、その子が「新しい学校に行く」ことについて本気で考えているかどうかのひとつの基準になるかと思います。つまり、学校に行くことをそれだけ現実的にとらえているということであり、だからこそ現実的な不安が出ているわけです。

実際に私がご相談を受けているケースでも、学校に復帰する段階で、子ども自身が「何も心配してない」「大丈夫」「平気だよ」とはっきり言う場合は、逆にちょっと心配になります。
つまり、その子にとって学校に行くことは、まだ現実のものとしてとらえられていない、現実と正面から向き合える状況になってない可能性があるからです。もしくは、不安を感じてはいても、その不安をきちんと表現できるほどには回復していないとも考えられます。

・不安をなくそうとするより、どうコントロールするか
そもそも「不安」や「恐怖」というものは、人間が生きていくうえでなくてはならない感情です。そういう感情があるからこそ、危険から逃れることができたり、不安を解消するために頑張ろうという気持ちが出てきたりするのです。ですから、「不安」は、ないほうがいいというものではありません。

となると、「不安」をなくそうとするのではなく、「不安」をどうコントロールするか、どううまくつきあっていくかが重要になってきます。そして、その子が「自分は不安なんだ」ということをきちんと自覚できて、その不安な気持ちを親御さんに伝えることができるのなら、その子には不安をコントロールできる力が身についてきていると考えてよいでしょう。

不安な気持ちは、それを誰かに表現することによって軽減することができます。また、不安な気持ちを伝えてもらえれば、まわりの人間もサポートすることができます。
ですから、その子が自分の不安をきちんと言語化できているのであれば、それが転校してやっていけるかどうかのひとつの目安にもなると思います。

・親が先に立って手をひっぱらない
子どもが不安をかかえていると、親も不安になります。
不安になった親は、子どもの先に立って手をひっぱったり、頑張りなさいと励ましたくなります。でも、いつ動き出すか、どの方向に動き出すかは、子ども自身が決めることです。頑張らなくちゃいけないということは、子ども自身がいちばんよくわかっているのです。

親として必要なことは、手を引いたり、背中を押すことではなく、ただそばにいてあげること。そして、子どもが助けを求めたときだけ、手を差し出してあげればいい。子どもは「お母さんお父さんがいつでもそばにいてくれる」「いざというときは助けてくれる」と思うことによって、自分ひとりで外の世界に出ていく勇気がわいてくるのです。

親としては、むしろ子どもを後ろにひっぱるくらいの感じで、「そんなに無理しなくてもいいんじゃないの」「そんなに頑張らなくてもいいと思うよ」と引きとめるような気持ちで接すると、逆に、子どものエネルギーをためることにつながるのではないかと思います。

・子どもの不安を否定せず、不安でいいんだと伝えてあげる
親にできる現実的なサポートとしては、転校が決まると、相手先の学校と面談することができるので、そのとき、子どもが感じている不安(毎日通えるか、勉強についていけるか等々)を伝え、それについて学校でどんな対応ができそうか相談してみることをおすすめします。

たとえば、別室登校はできるのか、スクールカウンセラーや養護教諭はどんなサポートをしてくれるのかなどいろいろ聞いてみて、こちらの希望を伝え、学校との間でできるだけ折り合いをつけてもらうようにするとよいでしょう。

ただし、どんなに配慮してもらっても、子どもの不安はゼロにはなりません。ですから、子どもに対して、「不安に思っちゃダメ」とか「絶対大丈夫だから」と言うのではなく、不安になるのは当たり前で、それでいいんだと伝えてあげて、その不安をうまくコントロールしながら、やっていけるようになればいいのかなと思います。

3.公立小中学校の転校に必要な手続きと注意点(講師:齊藤真沙美)

・「学区制」か「自由選択制」かで、手続きも違う
公立の小中学校の転校の手続きなどについては自治体によって異なりますので、詳しいことは、それぞれの自治体に問い合わせていただく必要がありますが、ここでは一般的な転校の手続きや注意点などについてお話しします。

転校の手続きは、教育委員会の「学事課」もしくは「学務課」というところで担当していることが多いので、まず、そちらに問い合わせて、実際の手続きを進めていくことになります。
東京都の場合は、学区の「自由選択制」をとっている市区町村が多くなってきました。その場合は、学区の違う学校への転校も、特別な手続きなどは必要なくスムーズに進められるだろうと思います。

・学区を越えて転校するときは……
お住まいの自治体が「学区制」をとっている場合は、学区の違うところに転校するとなると、少し手続きが面倒になります。

具体的には、学区外の転校が認められるには条件があって、その条件は自治体によって多少異なりますが、たとえば、近々引越す予定があるとか、身体的な障害があるとか、きょうだいがその学校に通っているとか……それらの条件に合えば、学区外でも比較的すんなり転校が認められます。
そのほかの条件として、「友人関係」とか「その他の特別な事情」といった項目が設けられており、不登校状態による転校の場合は、このあたりの項目に該当すると思います。

お住まいの自治体のホームページなどを見ると、こうした条件が掲載されていますので、どのような条件が設けられているのかを確認したうえで、できるだけその条件にそったかたちで、教育委員会の「学事課」や「学務課」に問い合わせ、話を進めるとよいでしょう。

・面談には、親だけでなく本人も一緒に行く
さらに学区を越えて転校するとなると、教育委員会に出向いて面談をする必要が出てきます。そのとき、できれば本人も一緒に面談に行ったほうがいいでしょう。

転校にかかわる手続きなどに本人を同席させることで、現実にこうやって話が進んでいることを実感してもらうことが大切ですし、教育委員会のほうも、本人が自分の意思で転校を望んでいるのかどうかということを重視するので、本人の口から「転校したい」と言ってもらったほうが話がスムーズに進みやすいと思います。

なお、こうした面談は誰が担当するかわかりません。たいていは指導主事の先生か、学事課や学務課の担当者などで、基本的には本人の気持ちに十分配慮してくれると思いますが、ときには直接本人に転校の理由などを聞いてくる場合もあります。
そのとき本人のなかで、自分はどうして転校したいのか、転校してどんなふうにやっていきたのかということが整理されていないと、そこでまた傷ついてしまう場合もあるので、そのへんの子どもの状態を把握しておくことも必要になってくるでしょう。

これまでスクールカウンセラーに相談していたり、地域の相談室などに相談している場合は、スクールカウンセラーや相談員の方から、教育委員会に連絡を入れてもらい、「その子の状態からみて、転校することは望ましい選択であると思う」といったことを伝えてもらうこともできます。
カウンセラーの助言があったからといって、必ず学区外の転校が認められるとはかぎりませんが、客観的な情報として伝えてもらうことはできるので、頼んでみてはどうでしょうか。

・私立小中から公立へ転校するときは……
私立の小中学校から公立に転校するとき、地元の学区内の小中学校に転校するのなら、いま籍のある私立の在学証明書を提出すれば、あとは事務的な手続きだけで転校できます。

しかし、地元の公立中学には行きたくない、家から離れた地域(学区外)の学校に行きたいという場合は、やはり面談が必要になります。
その際は先にお話ししたとおり、できれば本人も一緒に行って、本人の口から「こういう理由でこの学校に移りたい」と伝える必要があるかと思います。

4.高校の転入・編入に必要な手続きと注意点(講師:荒井裕司)

・転入、編入はどう違うのか

転入 転入学のこと。「高校に在籍している生徒が他の高校に移る」ことで、同じ学年で学習を続けることができます。
編入 編入学のこと。「高校を中退するなど除籍になった者が、あらためて他の高校に入り直す」こと。この場合、前籍校で修得した単位を活かすことはできますが、中退時の学年の単位は修得し終えていないため、もう一度その学年からやり直すことになります。


・転入・編入に必要な手続き
転編入の手続きに必要な書類や、応募資格などは、以下のとおりです。

①応募に必要な書類
転入……在学証明書、単位修得証明書、在籍校の転学照会書
編入……在籍証明書、単位修得証明書

②応募資格
私立高校の場合

応募資格 条件
転勤・転居による一家転住者
海外帰国子女
条件なし

※③の条件なしの受入校は少ない

公立高校(都立)の場合

区分 条件
区分1 保護者の転勤等による都外からの一家転住者
または、入学までに都内在住が確実な者
区分2 区分1以外で都内在住者

神奈川県、千葉県、埼玉県の場合
各県により状況は異なりますが、基本的には、ほぼ同様と考えてよいでしょう。
希望する高校がある場合は、直接学校にお問い合わせください。

③転入・編入の注意点
修得単位があるかどうか
在籍していても修得単位がない(あるいは非常に少ない)場合は、原則として転入できません。ただし、私立高校などは配慮するところもあります。また、通信制高校の場合は、単位が少なくても、在籍さえしていれば柔軟に対応できます(例:2単位あれば1年から2年に転入可など)。

転入試験の実施時期
原則として、転入試験は7月、12月、3月の各学期末を中心に、年3回実施されますが、すべての高校で実施されるわけではありません(定員に空きがない場合などは募集しない)。なお、全日制高校の場合、不登校を理由とする転編入試験の倍率は非常に高いのが現状です。


転入試験の実施日程  ※詳しくは、各学校にお問い合わせください
東京……【受付選抜日】1学期:3月中下旬、2学期:8月中下旬、3学期:12月中下旬
神奈川…【全日制】3/20、4/10、8/16、12/20
【定時制・通信制】上記の前後で校長が決める
千葉……学校ごとに異なる。実施校のほとんどが、各学期末・学年の始め(新1年対象)に実施。
随時実施する学校も多少ある
埼玉……【全日制】各月1回以上または随時実施
【定時制】学校ごとに異なる

不合格の場合はどうなるか
編入試験……編入試験に不合格の場合は、再度編入試験を受けるか、高校卒業程度認定試験(旧大検)を受けるという方法もあります。
転入試験…… 転入試験に不合格の場合、元の学校にそのまま在籍できるか除籍になるかは非常に大事な問題です。除籍になれば、どこにも籍のない状態になり、再度転入試験を受けることもできなくなります(除籍になった場合は編入試験を受ける)。一般的には残念ながら除籍になることが多いようですが、元の学校が公立か私立かによっても対応が異なりますので、転入試験を受ける前にその点を在籍校にしっかり確認しておきましょう。
なお、1年次に中退(除籍)になった場合は、転入試験や編入試験ではなく、再受験として一般入試を受けることになります。

④全日制高校と通信制高校(サポート校)の受け入れ方の違い
転入生、編入生の受け入れ状況については、全日制高校の場合、私立・公立ともに厳しい状況にあります。これは、ほとんどの学校が「学年制」をとっているために、学期ごとの受け入れしかできないことも原因のひとつです。

その点、通信制高校(サポート校など)はほとんどが「単位制」であり、また、出席を前提にしていないので、いつでも入学できます。そのため生徒の状況に合わせて入学することができるので、あせって在籍校をやめてしまわないことがポイントです。

最後になりますが、学校をかえることは、子どもにとってものすごくエネルギーのいることです。それでも、「学校をかわりたい」と思うのは、それだけ大変な思いやつらい経験があったのだろうと思います。まず、そこをしっかり理解してあげることが大切です。

もしかすると学校をかえることが最良の選択ではないかもしれません。でも、学校をかえようかどうしようか悩んだり苦しんだりしたことは、その子にとって大事な財産になるはずですし、そうやって、その子が考えに考えて決めた結論なら、それを前向きにとらえて応援してあげることが大事ではないでしょうか。

5.事例で考える「学校をかえて良いとき、悪いとき」(講師:齊藤真沙美)

・クラス替えのあと不登校になった小学校高学年の女の子
学校に行けなくなって転校を考えたけれど、その子の状態を考慮して転校を思いとどまったケースをご紹介します。

その子は公立小学校の高学年の女の子で、不登校のきっかけはクラス替えをして担任が変わった結果、クラスが荒れてしまったことでした。いじめやショックな出来事などはとくにないようですが、非常に賢くて敏感なお子さんだったので、友だち関係がギスギスしたり、授業も落ち着いて受けられない状況のなかで、ストレスをためこんで、ついに学校に行けなくなってしまったのです。

・学校や人に対する恐怖心があるうちは、転校しても通えない
お母さんは別の学校に転校させたいと考えていましたが、私は相談員として、転校はおすすめしませんでした。なぜなら、その子は下痢や嘔吐など、いろいろな身体症状が出ていましたし、学校が怖い、人が怖いという段階で、とても教室に戻れるような状態ではなかったからです。

お母さんにもそう話をして、とりあえず現在の学校にとどまるかたちで相談を進めていきました。そのなかで、その子はしだいに、「いやだ」とか「私はこうしたい」といった自分の意思を表現できるようになっていきました。まわりを気にせず、自分の意思を主張するようなことは、おそらくその子にとって初めてのことだったと思います。

それまでその子は、なんでもきちんとこなす優等生で、お母さんの期待どおりに行動するような子どもでした。クラスが荒れてストレスがたまったときも、それを言うとお母さんが心配するからと、ずっと我慢して学校に行き続けました。その結果、身体症状まで出てきて、とうとう学校に行けなくなったのです。

お母さんの様子も少しずつ変化してきました。いままでは、その子がどうしたいかも聞かずに、ああしなさい、こうしなさいと指示を出していたのですが、だんだんそういうことが少なくなり、その子がどう思っているかをちゃんと聞こうという姿勢に変わってきました。

その結果、女の子は相談室登校ができるようになりました。はじめは他の子どもたちがいない放課後に行っていましたが、いまでは普通の授業時間中に相談室でスクールカウンセラーとおしゃべりしたりしています。
今後、相談室から出て、みんなのいる教室に戻っていけるのか、それともやっぱり別の学校に転校することになるのか、現時点ではまったくわかりませんが、いずれにしても、その子自身が自分の意思で決めていくことになると思います。

・転校は「ダメもと」くらいの気持ちで
最初のころ、お母さんはとにかく学校をかえたいという思いでいっぱいでしたが、もしその時点で転校したとしても、クラスメイトの輪のなかに入っていくこともできず、結局は通えなくなっていたでしょう。

荒井先生や池亀先生のお話にもありましたが、学校をかえるということは大変なエネルギーが必要です。子どもの状態、子どもの意思、子どもに合った学校かどうかを慎重に検討して転校したとしても、じゃあ実際に通えるようになるかというと、正直やってみなければわかりません。

でも、いったん転校したら、その学校に通い続ける以外に選択肢がないわけではありません。転校してみたけど、この学校は自分には合わないと思ったら、また別の学校にかわればいいのです。
ご相談を受けていてよく感じることですが、転校して子どもが学校に通えるようになったら“成功”で、通えなかったら“失敗”というふうに思いつめてしまうと、その先で行きづまってしまうことが多いように思います。

ですから、親としては、「試しにやってみるか」「ダメだったら、ほかの方法を考えればいいさ」というような気持ちでいたほうがいいかなと思います。また、子どもに対しても、「その学校が合うかどうか、とりあえず行ってみようか」「その結果によって、またどうするか一緒に考えようよ」という感じで進めていけると、結果としてうまくいくケースが多いような気がします。
転校を最後の手段(ここでダメなら後がない)と考えるのではなく、ひとつの通過点としてとらえることができればいいなと思います。

続いて、会場からの質問に答える時間になりました。内容はこちらで

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